糸井重里社長の”ほぼ日”は謎だらけ


世の中の動きにいち早く気付き、
簡潔な表現で表現するのが糸井重里さんのすごいところです。
糸井さんが立ち上げたのがウェブ情報誌「ほぼ日刊イトイ新聞」。
一日100万以上のPVを稼ぐ大人気サイトです。
10月1日放送のがっちりマンデーで特集されました。

今年、「ほぼ日刊イトイ新聞」が上場するというニュースを聞いたとき、
ビジネスモードの会社になってしまうのかとかなり驚きました。手の届かないところにいってしまうのかと思ったのです。しかしそれは誤りでした。
インターネットを開くと、いつもと変わらない”ゆるい繋がりのような誌面”が、
来訪者を温かく迎えてくれます。

創業はインターネット草創期

「ほぼ日刊イトイ新聞」がスタートしたのは1998年。
当時は携帯を持つ人は少なく、
ダイヤルアップでつながったユーザー(ほとんどがパソコン関係者)が
細々と通信にチャレンジする時代でした。
回線も遅く料金も高いこの時代に、
糸井さんは広告の世界からからネット世界に居場所を変える決断をしました。はじめたのは誰でもタダで読むことができるホームページの運営。
技術のことはほとんどわからないけど、面白そうだから触ってみる。
クリエィターの本能が起業本音だったのかもしれません。
当時の高揚感を感じることができる本があります。

「インターネット的」糸井重里著(PHP研究所)を読むと、
当時糸井さんが抱いたような高揚感を感じることが出来ます。
「インターネットそのものが偉いわけではなく、
インターネットは人と人をつなげるわけですから、
豊かになっていくかどうかは、それを使う人が
何をどう思っているのかによるのだとぼくは考えています」

今から16年前の本には「シェア」という言葉が出てきたり、
生産者から消費者への主導権の移動がはじまったり、
新しいつながり方、豊かさ、あるいは新しい価値観が生まれたりと、
今読んでも古くないネット社会の動きが書かれています。
読み返すたびに、先見性と視点の新しさを感じてなりません。

3万人入った野球場

糸井さんは19年前に なぜインターネットで「ほぼ日刊イトイ新聞」を始めたのでしょうか?

糸井さんは「うまく行くかどうかの基準は3万人が集まった野球場」といいます。
野球場は真剣にプレーを見る時間は短く、案外退屈な空間なのです。
合間の時間を使って人々はお喋りしたり、飲食したりして時間をつぶしている。
そんな観客が喜ぶようなサービスを提供すればいい。
3万人が集まれば何でもできると思ったのだそうです。

着たくて作ったTシャツの販売

創業の原点は「客が欲しいものを売る」という単純な原理でした。
「自分たちが本当に『欲しい!』と思うものだけを売ろう!」
3万人のハードルは案外超えることが出来ました。
しかしそこから先の商売とするには難しかったそうです。
自分達が着るために作った“ほぼ日Tシャツ”が商品第1号。
試しに販売してみると3000枚が売れました。
読み物で人を引きつけることと、商品を発明して喜ばれることは同じだと感じたといいます。

大勢の人が喜ぶとは限らない

「大多数が好むだろう、という商品が並ぶのを見ると、
買い物客としての「面白くない」という気持ちを感じます」
糸井さんの視線は作り手側ではなく、買い手側にあります。
たくさんの人が好む 同じものばかりが並ぶことへの反発心を感じるといいます。

働く現場

青山の店舗や時折開催されるイベントに行けばわかりますが、
普通の読者には「イトイ新聞」の実像はウェブを通じてしか見ることできません。
テレビカメラが伝える貴重な映像に「伝える側」の知恵や努力を垣間見ることができました。
事務所の入り口のからして象徴的です。
インターホンは昔風の壁掛け電話機。
正末期から昭和初期にかけて使われていたこの電話は、レバーを回して使います。
交換手を呼び出して相手にかけてもらうという、今時なにという、テンポのゆるさです。
ビジネスに来たはずの企業戦士も一瞬の内に遊園地気分になってしまうところに、
巧妙な罠が隠されています。

中に入るとさらに驚きの風景が待っていました。
打ち合わせの小机は木製のログハウス。
コンセプトはまさに大人の幼稚園。

社長をフィギュア模型にしてしまう会社ってないでしょ。

社長室は応接室のような作りになっています。
ここで「イトイ新聞」の名物企画のインタビューが収録されます。
しかし、社長室にしては社長の机がありません。
隠し扉のような引き戸をあけるとそこに社長机がありました。
机上には漫画や書籍、左手には野球ボールなどが子ども部屋みたいにちらかっています。

社員の数は74名。
「ほぼ日刊イトイ新聞」で扱う記事は各界の著名人と糸井さんとの対談特集を始め、
ファッション、グルメ、くらしの情報などの企画を量産しています。
まるで女性向け雑誌のようなラインナップです。

人気の秘密は字数制限

イトイ新聞に人気が集まる秘密は記事の読みやすさにあります。
一行あたりの最大文字数が27文字以内になっているのです。
これはほぼ日刊イトイ新聞がスタートした1998年からずっと続く社内ルールです。
糸井さんは「いろいろ試した結果、これがぎりぎり目を大きく横に動かす必要がなく、
読みやすい字数であることがわかった」と語りました。

「ああ」「はいはい」「うん」にも意味がある

「ほぼ日刊イトイ新聞」では記事の書き方にもこだわりがあります。
記事を読むと気付くのが「ああ」「はいはい」「うん」などのことば。

普通は削られることの多い相づちが入っています。
「読むリズムを出したり、現場の雰囲気を出すためわざと残したり入れたりするのです」
もう一つ、編集者が一番気をつけているのは正直に書くことです。
“大ヒット”や“バカ売れ”などの大げさな表現はNG。

商品を取り扱う記事では特に気を使うといいます。本当にそうおもったことしか描いてはいけません。糸井さんが禁止するのが売り手側の気持ちが露骨に入った言葉なのです。

まとめ

“パッと見て読みやすい”つくりはコピーライターの糸井重里さんならでは。
「相手にしてくれない人を振り向かせる為の工夫なので、
広告をやっていなければこういう風には作らなかった」。
コピーライター糸井重里だからこそできる「読まない人を振り向かせる工夫」が
ユニークなインターネット情報誌を支えています。