ネコメンタリー 猫も、杓子(しゃくし)も。「吉田修一と金ちゃん銀ちゃん」

ネコメンタリー 猫も、杓子(しゃくし)も。「吉田修一と金ちゃん銀ちゃん」

空前の猫ブームの中、作家は愛猫に何を見る?
「悪人」など数々の話題作がある作家の吉田修一さんと同居するのはベンガルの「金太郎」とスコティッシュフォールドの「銀太郎」、通称・金ちゃん、銀ちゃん。
見た目も性格も正反対の凸凹コンビは、吉田さんにとって昼寝仲間。仕事場兼自宅では、二匹は片時も吉田さんのそばを離れない。
猫を飼うのは初めてという吉田さん、彼らとの生活でそれまで知らなかった思いが生まれたというが…

ネコメンタリー
猫も、杓子(しゃくし)も。
「吉田修一と金ちゃん銀ちゃん」

放送:2017年10月2日

もの書く人々のかたわらには、いつも、猫がいた。

愛猫家の作家たちは今も昔も数知れず。もの書く人々はなにゆえに猫を愛する?






作家・吉田修一さん。ともに暮らすのは二匹の猫。

黄金色のベンガル。金太郎と、

スコティッシュ・フォールドの銀太郎。

通称、金ちゃん銀ちゃん。
吉田さんにとってはじめての猫たちです。

金ちゃん銀ちゃんは見た目も性格も正反対。好奇心旺盛で活動的な金ちゃん。


パトロールが日課です。



おっとりした性格の銀ちゃん。

いつも寝ています。

「最近、バスタブの中でおしっこするのがブームなんです。銀ちゃん」

「これからしますよ。という顔はする」
(怒らないのですか)
「イタズラくらいしかすることないでしょ」






そんな二匹の関係はと言うと。

吉田さんはほとんど彼らに話しかけません。

「ちょっと離れたところにいるんですよ。ちょうどギリギリ届かないところにいるんですよ」

一人と二匹の同居生活。




現在、芥川賞選考委員も務める吉田さん。
事件や犯罪を題材に話題作を次々に発表。

人間の業や悲しみを言葉にする日々です。

「書いてる最中はその世界に住んでいるんですよ。
不思議なもので。
自分を取っ払ってしまうと、わりといろんなものが見えてくるというか」

「登場人物たちってちゃんといるんですよね・・・

 

自分がこうしたくても・・抗う」

いつも言葉を探している。

「仕事終わってから、夜寝る前にドライブ行って一時間位どこでもいいんですけど。
クールダウンしないと眠れないんですよ」



拝啓。金ちゃん銀ちゃん。

まず銀ちゃんが我が家にやってきた。

銀色だから銀ちゃんではなく、

銀座から来たから銀ちゃんだった。

はじめてうちに来た日。銀ちゃんは

ソファーで寝ていた私の腹の上に這い上がってくると、

そこですやすやと寝息をたてた。




まだ本当に小さくて、手のひらに乗るくらいで、

そしてとても安心していた。

世の中のなにもかも信じ切っているような寝顔だった。

二週間後。こんどは金ちゃんがやってきた。

金色だから金ちゃんなのだが、

実は錦糸町からきた猫でもある。

はじめて来た日。

金ちゃんは一晩中泣き続けた。

抱こうとしても暴れ。

餌も食べずに水も飲まず、ベッドの下から出てこなかった。

とにかく一晩中悲しげな声で泣き続け、

世の中の何もかも信じるものかと、

その小さな体で必死に訴えていた。

それでも君たちといる暮らしというものが

当たり前になるのに、そう時間はかからなかった。

だけど、

君たちのことをわかったふりをすることは辞めておこうと思う。

お互いに分かり合えないまま一生をともにするなんて、

なんだか分かり合えている間柄よりかっこいい。