【秀作】心に響く ヴァイオレット・エヴァーガーデンの世界

テレビ愛好家のAちゃんです。

現実を切り取るのがテレビ(ドキュメンタリー)だとしたら、

素材を積み重ねるのがアニメーションの仕事だと思います。

世界をゼロから作り上げるアニメ制作者に敬意を感じています。

友人のプロデューサーが「これはすごい作品だ」と

連絡してくれたアニメがあります。それがテレビシリーズ

「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」

第五回京都アニメーション大賞を受賞した小説を

勧進元の京都アニメーションがテレビ化した作品です。

目に触れることもなく放送が始まりましたが、

「深夜の時間帯で放送するには惜しい作品」など、次第に反響が聞かれるようになりました。

頼んで録画を借りて見ました。

一話をみて感じたのはすごい作品であることです。

印象的なのは隅々まで作り込まれた動画の見せる丁寧な質感です。

登場人物の立居振る舞いや説明も、十分な間を置いて描写されています。

これは、テレビというより劇場版に匹敵する作品だと言ってもいいかもしれません。

例えば、タイトルバックにある

描きかけの手紙が風で飛ばされてしまい空中を舞うカット。

具体的な説明がないので見逃してしまいましたが、

主人公の回復に深く結びついた隠喩なのだということがあとになってわかります。

作品を見てから、このイメージに託された意味を思い返すと、感情がこみ上げてきました。

制作者冥利に尽きる脚本なのだろうと想像しました。

作家の意図を盛り込むのは作品の半分までで、残りは観客の創造力に任せるべきだといいますが、

まさに王道を行くつくりを感じます。

さらに作品を決定づける脚本は心に響くセリフも散りばめられた骨太な構成です。

『“愛してる”を…知りたいのです』

『少佐は最後の命令の後に…その言葉を私に仰いました。少佐から…その言葉が出たのは初めてでした』

「ギルベルトの命令に…ただ従っていた彼女が初めて自分の意志を主張した。心を持たない、道具と言われた彼女が…“愛してる”を知りたいと言った」

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「…言葉には裏と表があるの。口に出したことが全てじゃないのよ」

「人の弱いところね…相手を試すことで自分の存在を確認するの。裏腹よね」

私も含め疎外感を感じながら生きる人々にとって、心に刺さるような物語です。

ということで画面から離れられなくなりました。

ヴァイオレット・エヴァーガーデンとは

20世紀初頭の欧州を思わせる世界が物語の舞台。

主人公は幼い頃から兵士として戦火をくぐり抜けてきた少女です。

戦争が終わり平和が訪れても、戦うための兵器として育てられた彼女は心を閉ざしたままです。

閉ざされた彼女の存在をかろうじて繋いでいるのは、戦場で深手を負って行方不明となった上官の「少佐」が遺した言葉だけです。

代書屋として第二の人生を歩みだした彼女が、手紙を書くという行為を通じて人間の心を取り戻していく姿が描かれます。

京都アニメーション

制作は京都アニメーション。

吹奏楽にかける青春群像を描いた「響けユーフォニアム」シリーズや、

耳の聞えない高校生の出会いを描いた「聲の形」などで知られるプロダクションです。

どちらかというと学園ものをテーマとした作品が多いように感じてました。

ところが今回は少し異なる世界を描いています。

監督は、石立太一(『劇場版 境界の彼方 -I’LL BE HERE-』)、シリーズ構成は吉田玲子(『けいおん!』『ガールズ&パンツァー』)。

キャラクターデザイン・総作画監督は、原作小説のイラストを手掛けた高瀬亜貴子。

原作は暁 佳奈。暁さんは北海道在住の作家で、受賞後のインタビューで乾燥を述べています。

投稿作は言わば恋文です。恋文は相手と、自分の書かずにはいられない気持ちがあってこそ。京アニ大賞さんはそういう「好き」を汲み取って下さる所です。

もともと京都アニメーションは品質が高いのが魅力なのですが、さらにアニメーションの持つ可能性を広げてくれそうな予感がします。

「京都アニメーション作品らしい、観る者の心を締めつけ、そして優しい気持ちにさせるストーリー」

「劇場版かと見紛うほどに美麗な作画と壮麗なBGMで、あっという間に世界観に引き込まれる」

「自身の少佐に対する感情の正体を知ったとき、彼女が何を想い、どうやって乗り越えてゆくのか」

「鬼気迫ると表現して良いような、制作への凄まじい熱意をひしひしと感じる」

エンターティンメントと作品性を両立させる新たな挑戦が「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」なのかもしれません。

まとめ

大々的な宣伝で話題作りをする作品もありますが、むしろ宣伝に頼らず内容で勝負する作品は応援したくなります。

代筆の経験を積むにつれ人びとの感情を学んでいき、徐々に自分の中の感情にも目覚めていくヴァイオレット。

目に見える出来事だけでなく、その奥にある深い物語や人間の本質まで描こうとする作品のように思えます。

彼女は少佐が最期に告げた言葉の意味を知ることができるのでしょうか。