「ちょっとおいしくちょっと豊かに~東京・ 金属製品 ~」イッピン 見逃し

「ちょっとおいしくちょっと豊かに~東京・ 金属製品 ~」イッピン 見逃し

東京・下町は江戸時代から、金属加工の手仕事がさかん。銅製のおろし金は、水気たっぷりの大根おろしができる。すりつぶすのではなく、切る感覚だ。職人がタガネを打ち込んで鋭い刃をつけている。また、銀で作ったアイススプーンは、アイスクリームをおいしく食べることができる。銀は熱伝導率が高く、指で持つとすぐに熱を帯び、アイスを溶かすのだ。小さな柄の部分には、江戸時代以来の伝統の文様がつけられる。超絶技巧の 金属製品 だ。

【リポーター】安田美沙子,【語り】平野義和

放送日 2021年11月4日、2018年10月2日

イッピン これまでのエピソード | 風流

イッピン「ちょっとおいしくちょっと豊かに~東京・金属製品~」

鋭く切り立った歯
これ何だかわかりますか
そう大根おろしに使うおろし金です
素材は銅
一流の料理人がこぞって愛用すると言います

とにかくふわっとして大根がちゃんと見えるでしょう。改めて銅の切れ味っていうのが感じます

東京下町
金属を加工する職人たちが伝統の技を伝えてきました

新しいアイテムも
こちらは銀のアイススプーン
アイスクリームがおいしく食べられると評判なんです
そこには職人の最高度の技が注ぎ込まれています
東京で作られる金属製品の魅力に迫ります

今日の一品リサーチャーは料理が大好きという安田美沙子さん
まずはあのおろし金の凄さを教わります

こんにちはよろしくお願いします

土井善晴さん。テレビでもおなじみの料理研究家です

おろし金って言ったら手で触って痛いっていうようなものがやっぱりいいんですよ
擦ったら切れるでしょうその切るっていうこと切るんじゃなくて潰すんすよ刃物と同じ
このおろし金がいいからもう水の出方がいいです

大根おろしをたっぷり添えたさんまの塩焼き

美味しいおろしと一緒に
たまに機械でおろしとか作るんですけどもう食感感じたことはあんまりなかったんですけど
みずみずしっていうよりもふわっとしてます
さんまの美味しさももちろんあるけどおろしの美味しさも両方感じてますね

なぜ美味しい大根おろしがこのおろし金でできるのか
職人の手作り、というところに秘密があるんです

東京葛飾区
ここにおろし金の工房があります
手仕事でおろし金を作る職人も少なくなってきたということですが

こんにちは安田ですよろしくお願いします

五十年以上のキャリアを持つ勅使河原隆さん

重たいですね
よそに負けない丈夫な味もするどい歯

まず熱した銅板に鈴を塗っていきます
これで変色や錆を防止します
何十年も末永く使ってもらうためです
ただ時間をかけると鈴が焦げてしまうため素早く伸ばさなければなりません
そして目立ての作業
硬い鉄でできた鏨を銅の板に打ち込み目を立てていきます
リズムよくたがねが撃ち込まれます

何に一番気を付けていらっしゃいますか
やっぱりあのー目の鋭さそれから高さそれやっぱり一番気を使いますね

ハイスピードカメラで見てみましょう
たがねが食い込むたびに目がぐんぐんと立ち上がるのが分かります
この高く鋭い目が銅おろし金の特徴
これなら大根も間違いなくスパッと切れるはずです
すり潰すのではなく切る
だから水気を含んだおいしい大根おろしになるんです
作業で肝心なのはたがねを持つ左手だと言います
刃先を銅板にしっかり食い込ませるためブレないよう左手の指先に力を入れるのです

最初の頃は吊っちゃいます指が
押さえてる間に
安田さんも挑戦です
いや全然力入らないですねいや力仕事ですよ
これ思った以上にこんなになってしまいました

こんなになってしまいました
左手でたがねをしっかり固定できなかったんです
さて勅使河原さんの作業の続き
逆向きの目を立てていきます
やはりリズムを変えず一気に立てていきます

きれい横から見た歯がかっこいいですけど高さが同じ

高さはほぼ同じ
でも目の並びが少し不揃いです
実はこのことが大切なんです
機械で大量生産したおろし金と比べてみます
機械の方は目を結ぶ直線になります
一方勅使河原さんのおろし金はジグザグになります
目が直線だと大根をおろす時同じところしか目に当たりません
やがて溝ができ力を込めなければ下ろせません
大根はすり潰すされ水気も出てしまいます
勅使河原さんのおろし金の方はまんべんなく目があたります
これなら力を込めなくてもよくおろせ水気を失うこともありません
安田さん実際に大根をおろしてみました

ああすごい下し易い力が入らないのとまっすぐおろせるおろし金降ろしてくれてるですね
力が本当にいらないし凄い力が入らないと思いますよねそういう面では違うと思いますね

高く鋭くそして不揃いな目
それが美味しい大根おろしを生み出していました

大根おろしって糊代がこんなにあったんだっていうのをこのおろし金初めて知った
私はここでこうやってやってきててでやってきて買っていただいた方に喜ばれるのはやっぱり職人冥利だね
良かったよ手作りで言われるとね

手作りの良さが活かされた逸品です

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東京で金属加工が盛んなわけ

東京に金属加工の技術が根付いたのは江戸時代の中頃。

江戸には貨幣を作るための金座や銀座が置かれ、金属加工の職人が多く暮らすようになります。

元々金属製品は武家や公家のものでしたが、町人が経済力を持ったことで徐々に広まっていきます。

中でも人気が高かったのが銀製品です。

銀製品を作る職人は銀師(しろがねし)と呼ばれました。

銀師は互いに腕を競って様々な技巧を凝らすようになります。

銀師(しろがねし)の技

銀師は今も健在です。

上川宗伯さん。特殊な加工技術を受け継いでいます。

鍛金です。叩いて叩いて思い通りの形にしていきます。

例えばこの純銀の丸い板をぐい呑に変えます。

鉄でできた当て金の上に銀の板を乗せ、木槌と金槌で叩いていきます。

強く叩くと皺ができたりヒビが入ったりします。

そこで細く軽く叩き続けます。

途中作業を一旦止め銀を炙り始めました。焼きなましという工程です。

600°まで熱すると表面がオレンジ色に変わります。

その瞬間を見極め炙るのをやめます。

「こんな感じで手でもぎゅっと分かりますかね。くねくね曲がるぐらいまで柔らかくなるところが特徴です」

銀は叩き続けると硬くなり、形を変えるのが難しくなります。

熱を加えると柔らかくなります。これで再び加工がしやすくなるのです。

叩いては炙り、叩いて炙る。この作業を10回も繰り返します。

無言で叩き続ける根気のいる作業です。

「もう頭というより、感覚ですね。材料と会話するって言うんですけど、叩いてる時にその音だったり手の感触だったり目で見たところとかとのすごく大切になってくるので会話をするような形で」

最後は十分な強度を持たせるためにしっかりと叩きます。

銀の丸い板が、切ることもを削ることもなくぐい呑みになりました。

銀師の技と仕事。それは銀という素材ととことん会話することでした。

銀のアイススプーン

現代の暮らしにふさわしい新たな銀製品があります。

純銀のアイススプーンです。柄の部分には細かなされた模様が。使うのが楽しくなりそう。

しかもこれでアイスクリームを食べると驚きの効果があるんだとか。

スプーンを作っている工房です。

銀師の上川宗照さん。玄関に飾られている銀製品。ここでは宗照さんと四人の弟子たちが様々な製品を作っています。

鹿の模様の花瓶も上川宗照さんの作品。

難度技が高い作品です。中を覗いてみると模様が貫通しています。

切嵌め象嵌です。銀を切り抜きそこに同じ形の別の金属をはめ込んであるんです。

「夏は暑くてアイスを食べたい。普通のスプーンはアイスだと入らない。自分の体温を銀のスプーンに伝えて食べる」

銀のスプーンと木のスプーンの違いをサーモグラフィカメラで見てみます。

温度の伝わり方の違いがわかります。

このスプーンなら指の温度がすぐに先まで使ってアイスの表面を溶かしてくれます。

さらに柄の部分には様々な楽しみが。

古くから伝えられてきた模様です。

模様をつけるのは金槌。叩く部分が普通のものと違います。

この金槌ではお城の石垣のような模様が。岩石目と呼ばれています。

こちらは先が少し尖った金槌でできる槌目。

そして 細い線がいくつも走るござ目。ござ目の模様は小判の模様にも使われてきました。

「ヨーロッパにも模様はありますが、ごさというのは畳の目。ござ目だけは日本独特の模様です」

小判に使われたのは贋金をつくりにくくするため。

それほど高度な技なのです。

5ミリごとに引いたガイドラインに合わせてトントントンと早いリズムで打ち込みます。

一列のござ目はおよそ190。わずか5 CM の柄に合わせて2千を超えるござ目が打ち込まれます。

さらに難易度の高い技術が銀に別の金属を埋め込む打ち込み象嵌です。

埋め込むのは金で出来たイチョウの葉。

銀のスプーンに金を貼り付けるために接合剤を使います。

銀と銅そして亜鉛の合金でできています。

合金が溶け始める温度は750度。しかし熱しすぎると今度は金の銀杏が溶け出します。

温度計などはありません。職人の感覚と経験が頼りです。

くっつけた銀杏を木槌と金槌で叩いて完全に銀の中に埋め込みます。

スプーンと見事に一体化したイチョウの葉。

くらしのひとこまを引き立ててくれるイッピンです。

作品一覧 | 日伸貴金属の東京銀器

東京下町。

金属加工の職人たち。

追い求めていたのは手仕事がある豊かな暮らしのかたちでした。