イッピン「ちょっとおいしくちょっと豊かに~東京・金属製品~」




東京・下町は江戸時代から、金属加工の手仕事がさかん。

銅製のおろし金は、水気たっぷりの大根おろしができる。

すりつぶすのではなく、切る感覚だ。

職人がタガネを打ち込んで鋭い刃をつけている。

また、銀で作ったアイススプーンは、アイスクリームをおいしく食べることができる。

銀は熱伝導率が高く、指で持つとすぐに熱を帯び、アイスを溶かすのだ。

小さな柄の部分には、江戸時代以来の伝統の文様がつけられる。超絶技巧だ。

【リポーター】安田美沙子,【語り】平野義和

東京の金属製品

鋭く切り立った歯。大根おろしに使うおろし金です。

素材は銅。一流の料理人がこぞって愛用するといいます。

「とにかくふわっとしてて、大根がちゃんと見えるでしょね。改めて銅の切れ味を感じます」

東京下町。金属を加工する職人たちが伝統の技を伝えてきました。

銀のアイススプーン。アイスクリームが美味しく食べられると評判です。

そこには職人の最高度の技が注ぎ込まれています。

東京で作られる金属製品の魅力に迫ります。

おろし金の見分け方

料理研究家の土井善晴さんにおろし金の見分け方を聞きました。

「手で触ったら痛いのがいい」

“すり下ろす”のではなくて”切る”というのがおろし金本来の役割。

「いいおろし金は水の出方が少ないのです」

手作りおろし金

なぜ美味しい大根おろしをすり下ろすことができるのか。

職人の手作りというところに秘密があります。

東京葛飾区にある工房。

ここで50年近く金属加工を生業としている人がいます。

手仕事でおろし金を作りつづける職人・勅使河原隆さんです。

勅使河原さんの仕事を拝見しました。

まず熱した銅板に錫を塗っていきます。

何十年も末長く使ってもらうため、錫の塗装は変色や錆を防止するため欠かせません。

塗装に当たっては時間をかけすぎると錫が焦げてしまうため、す早く伸ばさなければなりません。

そして目立ての作業。固い鋼鉄でできた鏨を銅の板に打ち込み目を立てていきます。

リズムよく鏨が打ち込まれます。

「目の鋭さと高さに気を使います」

鏨が食い込むたびに目がぐんぐんと立ち上がるのがわかります。この高く鋭い目が銅おろし金の特徴。これなら大根も間違いなくスパッと切れるはずです。すりつぶすのではなく切る。だから水気を含んだ美味しい大根おろしになります。作業で肝心なのは鏨を持つ左手だと言います。刃先を銅板にしっかり食い込ませるためぶれないよう気が左手の指先に力を入れるのです。「最初の頃はもう指先が攣りました。抑えているからです」

次に逆向きの目を立てていきます。高さはほぼ同じ。

でも目の並びは少し不揃いです。

機械で大量生産したおろし金と比べてみます。

機械の方は目を結ぶと直線になります。

いっぽう勅使河原さんのおろし金はジグザグにになって見えます。

目が直線だと大根をする時、大根の同じ場所しか目に当たりません。

するとやがて溝ができ、力を込めなければすりつぶせなくなります。

これでは大根の水気もおろした大根から抜けてしまいます。

勅使河原さんのおろし金の方は、まんべんなく目が当たります。

これならち力を込めなくてもよくおろせて、水気を失うこともありません。

「力がいらないのとまっすぐおろせます」高く鋭く不揃いな目。

それがおいしい大根おろしを作り出していました。

「喜ばれるのは職人冥利です」手作りの良さが見直されたイッピンです。

 

 

東京の金属加工の歴史

東京に金属加工の技術が根付いたのは江戸時代の中頃。

江戸には貨幣を作るための金座や銀座が置かれ、金属加工の職人が多く暮らすようになります。

元々金属製品は武家や公家のものでしたが、町人が経済力を持ったことで徐々に広まっていきます。

中でも人気が高かったのが銀製品です。

銀製品を作る職人は銀師(しろがねし)と呼ばれました。

銀師は互いに腕を競って様々な技巧を凝らすようになります。

銀師(しろがねし)の技

銀師は今も健在です。

上川宗伯さん。特殊な加工技術を受け継いでいます。

鍛金です。叩いて叩いて思い通りの形にしていきます。

例えばこの純銀の丸い板をぐい呑に変えます。

鉄でできた当て金の上に銀の板を乗せ、木槌と金槌で叩いていきます。

強く叩くと皺ができたりヒビが入ったりします。

そこで細く軽く叩き続けます。

途中作業を一旦止め銀を炙り始めました。焼きなましという工程です。

600°まで熱すると表面がオレンジ色に変わります。

その瞬間を見極め炙るのをやめます。

「こんな感じで手でもぎゅっと分かりますかね。くねくね曲がるぐらいまで柔らかくなるところが特徴です」

銀は叩き続けると硬くなり、形を変えるのが難しくなります。

熱を加えると柔らかくなります。これで再び加工がしやすくなるのです。

叩いては炙り、叩いて炙る。この作業を10回も繰り返します。

無言で叩き続ける根気のいる作業です。

「もう頭というより、感覚ですね。材料と会話するって言うんですけど、叩いてる時にその音だったり手の感触だったり目で見たところとかとのすごく大切になってくるので会話をするような形で」

最後は十分な強度を持たせるためにしっかりと叩きます。

銀の丸い板が、切ることもを削ることもなくぐい呑みになりました。

銀師の技と仕事。それは銀という素材ととことん会話することでした。

 

銀のアイススプーン

現代の暮らしにふさわしい新たな銀製品があります。

純銀のアイススプーンです。柄の部分には細かなされた模様が。使うのが楽しくなりそう。

しかもこれでアイスクリームを食べると驚きの効果があるんだとか。

スプーンを作っている工房です。

銀師の上川宗照さん。玄関に飾られている銀製品。ここでは宗照さんと四人の弟子たちが様々な製品を作っています。

 

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鹿の模様の花瓶も上川宗照さんの作品。

難度技が高い作品です。中を覗いてみると模様が貫通しています。

切嵌め象嵌です。銀を切り抜きそこに同じ形の別の金属をはめ込んであるんです。

「夏は暑くてアイスを食べたい。普通のスプーンはアイスだと入らない。自分の体温を銀のスプーンに伝えて食べる」

銀のスプーンと木のスプーンの違いをサーモグラフィカメラで見てみます。

温度の伝わり方の違いがわかります。

このスプーンなら指の温度がすぐに先まで使ってアイスの表面を溶かしてくれます。

さらに柄の部分には様々な楽しみが。

古くから伝えられてきた模様です。

模様をつけるのは金槌。叩く部分が普通のものと違います。

この金槌ではお城の石垣のような模様が。岩石目と呼ばれています。

こちらは先が少し尖った金槌でできる槌目。

そして 細い線がいくつも走るござ目。ござ目の模様は小判の模様にも使われてきました。

「ヨーロッパにも模様はありますが、ごさというのは畳の目。ござ目だけは日本独特の模様です」

小判に使われたのは贋金をつくりにくくするため。

それほど高度な技なのです。

5ミリごとに引いたガイドラインに合わせてトントントンと早いリズムで打ち込みます。

一列のござ目はおよそ190。わずか5 CM の柄に合わせて2千を超えるござ目が打ち込まれます。

さらに難易度の高い技術が銀に別の金属を埋め込む打ち込み象嵌です。

埋め込むのは金で出来たイチョウの葉。

銀のスプーンに金を貼り付けるために接合剤を使います。

銀と銅そして亜鉛の合金でできています。

合金が溶け始める温度は750度。しかし熱しすぎると今度は金の銀杏が溶け出します。

温度計などはありません。職人の感覚と経験が頼りです。

くっつけた銀杏を木槌と金槌で叩いて完全に銀の中に埋め込みます。

スプーンと見事に一体化したイチョウの葉。

くらしのひとこまを引き立ててくれるイッピンです。

日伸貴金属のアイススプーン

作品一覧 | 日伸貴金属の東京銀器

東京下町。金属加工の職人たち。追い求めていたのは手仕事がある豊かな暮らしのかたちでした。




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