イッピン「暮らしを彩るモダン柄~大阪・堺の手ぬぐい~」

イッピン「暮らしを彩るモダン柄~大阪・堺の手ぬぐい~」

普通、手ぬぐいは裏地が白いままだが、表裏同じ柄がくっきりと染め抜かれた手ぬぐいがある。

また、同じ柄なのに表と裏で色が異なるものも登場。

額装してインテリアに、またスカーフにして色の違いを楽しむなど、これまでにない使い道で、女性を中心に人気を集めている。

開発したのは、日本有数の手ぬぐいの生産地、大阪・堺。

そこには、ベテランの職人たちの磨きこんだ技が注ぎ込まれていた。

モデルの生方ななえさんが訪ねる。

【リポーター】生方ななえ,【語り】平野義和

イッピン「暮らしを彩るモダン柄~大阪・堺の手ぬぐい~」

放送:2018年11月6日

プロローグ

天井から垂れ下がった色とりどりの布。一体何だと思いますか。長さ23メートル。裁断すると手ぬぐいに。でもただの手ぬぐいじゃありません。ふつう手ぬぐいの裏側は白っぽい生地のままですよね。

ところがこちらの手ぬぐいは、裏も表と同じ。くっきりあざやかに染め出されています。デザインも洗練されていて、いろいろな使い方ができるんです。

ランチョンマットに。

額装してインテリアとしてもステキですよね。

日本有数の手ぬぐいの産地。大阪堺市で生まれました。さらに若い世代に大人気のこんな手ぬぐいも登場。同じ模様なのに表と裏で色が違います。

スカーフとして巻くとこんな感じどうですか。トートバッグに結んで、ワンポイントにするのもいいですね。どんなデザインを楽しむか。どんな色合わせを楽しむか。そしてどんな使い方で楽しむか。今日は手ぬぐいの新たな魅力を堪能してもらいましょう。

注染という技

大阪府堺市。手ぬぐいの生産が盛んです。現在20軒ほどの工場があります。

創業50年を超える工場の二代目中尾雄二さんです。「従来の手ぬぐいはシルクスクリーン印刷なので裏が白いです。私のとこでやらしてもらっているのが注染という伝統技法で裏表がありません」
ふつう手ぬぐいはシルクスクリーンという方法で色付けされます。型の上から1枚ずつ染料吸い込みます。

片面にだけ模様がつきます。それに対して注染はひとつながりの長い布を手ぬぐいの長さ2折りたたみ、その上から染料を注ぎ込みます。これで裏までしっかり染まった手ぬぐいが一度に何枚もできます。

実際はどのようにして手ぬぐいを染めていくのでしょうか。

現場を覗いてみます。注染を行う前に大事な作業があります。

使うのはこちらの型紙。この柄に色が付けられます。残った部分は白い生地のまま。染料ほ注ぎ込む時色が染み込まない工夫がしてあるのです。

防染のりと呼ばれるのりを付けていきます。そこには染料が染み込みません。生地の長さは手ぬぐい25枚分。一枚分を台の上に載せ型紙を置き防染糊を塗ります。

防染糊が付けられたところは生地のまま色が染まりません。白い部分がこの後染色サれるのです。

塗った後は布を蛇腹のように重ねていきます。こうすることで布の表と裏、両面に防染糊がしっかりとつきます。

この作業簡単そうに見えますがなかなか難しい。糊をつける木べらを見ると指の跡がくっきり。

木べらがへこむほど力を込めているんです。25枚分の糊付けが終わりました。

次に布を床に。床は砂だらけ。この砂を布の上にかけています。砂の中は一定の温度が保たれるので布が均等に乾き、糊がしっかりと定着するのです。

さあこれから色を付けていきます。染台にセットします。大阪の名所をちりばめた図柄に染め上げます。

防染糊をチューブで絞り出し囲いを作り始めました。「パティシエみたいですね」

今回使う色は青オレンジ黄色赤緑。色同士が混ざり合わないように糊で土手を作ります。

この土手の中に染料を注ぐと他に染み出さず狙い通りに染め上げることができます。

いよいよ染料を注ぎます。

使うのは如雨露のような形の部品。ドヒン。ドヒンに染料を入れ注ぎ込む。注いで染めるから注染なんです。糊の土手で囲った部分にそれぞれ違う色を注ぎます。

「一瞬で吸い込まれますね」

足元のレバーで操っているのは吸引器。染台の下から強力な力で全量を一気に吸い込みます。これで25枚分の手ぬぐいが同じ色の濃さで裏表しっかりと染めあげられるのです。

それだけではありませんグラデーションをつけることもできるんです。

薄い青の上から濃い青色を注ぎます。もう一度見てみると、この時吸引器を踏む加減でグラデーションの幅を調整していたのです。さらにぼかしをつけることも。周りを青で染めた部分に別の色を注いでいきます。

日の光が当たっているような絶妙のぼかしです。この後ひっくり返して裏からも染め、川と呼ばれる洗い場へ。防染糊をしっかりと洗い流します。脱水し、乾燥。丸太に染め上がった布を一反ずつかけて干していきます。この後シワ取りをして完成。

優れた技術を活かすのもデザイン次第。デザイナーの腕に任されています。

デザイナーの中木あけみさん。

中木さんデザインの手ぬぐいです。タイトルはお米。収穫した後脱穀し、水洗い。釜の中で米が踊り、炊き上がるまで美味しいお米の物語です。

こちらもなんだかわかりますか。実は注染をモチーフにしているんです。注染の断面図です。色鮮やかな手ぬぐいができるまでの物語。裏までくっきり鮮やかに。豊富な図柄で様々な物語を楽しめるイッピンです。

進化する手ぬぐいの街

堺市は江戸時代の初めから木綿の栽培が盛んでした。水量の豊富な川で生地を洗うことができたので手ぬぐい作りが始まったと言います。

糸を織り生地を作る。染め上げる。全ての工程が今も堺のを街の中で行われています。木綿の糸を織り布を作る工場。それが別の工場に運ばれ窯で三日間に詰められ不純物が取り除かれます。

そして真っ白に。これが手ぬぐいの生地になるのです。

この町で最近、また新たな手ぬぐいが生まれました。同じ柄なのに表裏違う色で染められている手ぬぐい。スカーフとして巻くと表と裏の色が響き合って何ともおしゃれ。お弁当箱を包んでもこんなに可愛く。この手ぬぐい今若い女性を中心に大人気なんです。

表と裏の色の組み合わせにはあるヒントが。実は日本古来の伝統的な色の合わせ方を参考にしているんだとか。

ブランディングを手掛けた神崎恵美子さん。「裏表が染め分けできる技術ができた時に、どうやってこれを上手く伝えようかと考えて、日本古来の平安時代の考え方なんですけれども、十二単の時代には「かさねの色目」といって色遊びをされていた時代があったんですね。今回は独自に二つの色目でかさねの色目っていう日本古来の色彩文化を象徴するような形をとらせていただきました」

1962年創業の工場。社長の寺田尚志さんです。

「100年続く技法でロール捺染という技法で染められた手ぬぐいです」

ロール捺染で使う機械。ロール捺染は本来生地の片面だけを染めるものです。でもここでは同じ機械を使って両面を染めると言います。

「裏表違う色を染め分けられる技術というものが全国でも殆ど無い珍しい技法なのです」

機械に型をセッティングします。丸い形の表面が山型に織られています。よく見ると細かい溝が。ここに染料が入るのです。

次にゴムブラシと呼ばれるものを取り付けます。染料を下の受け皿に入れます。このゴムブラシが型に染料をつけて行くのです。

ロール捺染の仕組みです。柄が彫られた型に染料を乗せ、回しながら生地に押し付け染め上げていくのです。

機械が回り始めました。生地の染まり具合を見ながら両サイドの四つのハンドルを素早く回していきます。

「型の押し加減を調整しています。強く押すとベチャッとなる。緩めていって一番良いところまできれいに染まるまで」

型の押しが弱いと色が乗らない。強いと模様が潰れてしまう。生地の状態を的確に判断して調整していたんです。

染めの作業で最も重要なことは機械の裏側で行われていました。回転する形にステンレス製の刃が当たっています。くっきりと染めるためにこの刃が大きな働きをしているのです。

型を回転させながら織られた部分に染料が入る。これがロール捺染の仕組みです。

でも、彫られていない部分にも染料がつきます。これを綺麗に落とさなければなりません。

そこで回転する形にこの刃を当てて余分な染料を削ぎ落とすのです。

刃は職人自らが研ぎ出します。ヤスリ一本で行う手作業。ステンレスの刃は硬く、大変な力仕事です。

「しっかりやらないと白いところに染料が残ったりします。刃をとげるようになるにはかなり年月がかかります」

この刃がちゃんと研げるようになったら一人前。

刃のセッティングにも職人の技がありました。ローラーと刃がぴったりと密着しているか。それを音で確かめるのです。

「古い機械なもので音で確かめていかないと綺麗に染まらないんですよね。音や手の感覚だったりとか人間でないとできない」

「オモテウラぴったり合うように染めていきます。社内で研究した結果できた技術なので秘密なのです」

職人の技とステンレスの力で表裏ぴったり合うように染めていきます。最後に水洗いすれば完成です。

「どちらも堺市で染めてますよって言うような発信をしていきたい」

画期的な染の技法は古い機械とベテランの職人の手で生み出されていました。大阪堺。ユニークなアイデアが職人の技によって形になる。手ぬぐいのイメージを一新させています。

お問い合わせ

てぬぐい(にじゅら)

※番組内で取り上げられた手ぬぐい。

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