美の壺「和箪笥(わだんす) 深い愛着の家具」




和箪笥(わだんす)の“女王”と呼ばれる「桐箪笥(きりたんす)」の魅力は引き出しの密閉性。ハガキ1枚の隙間さえ作らない、職人の精緻なカンナ技に迫る!さらに、カラクリ満載、金庫のような船箪笥(ふなだんす)や、龍や唐獅子など飾り金具が豪華な仙台箪笥(せんだいたんす)が登場!150年たった古い箪笥(たんす)を見事修復する達人も!知られざる和箪笥(わだんす)の魅力を伝える。 <File430>

草刈正雄,【語り】木村多江

美の壺「和箪笥(わだんす) 深い愛着の家具」

放送:2018年11月16日

プロローグ

東京港区のそば店。

目を引くのは立派な和箪笥。落ち着いた風格が店の雰囲気を上品に醸し出します。引き出しは食器やお盆入れとして大活躍。

「創業から使っていてお蕎麦屋さんの看板が描かれています」

30年前店の開業に合わせて作った箪笥は金具も特注品です。さらに椅子とテーブルも箪笥。客が荷物を入れられるようにと考えた工夫です。

半年前に新築したこちらのお宅。100年以上前の箪笥を修理し部屋の彩りとして壁に組み込みました。代々の嫁たちが嫁入り道具として持ってきた箪笥。蔵に眠っていたものでした。

暮らしとともに歩んできた和箪笥には、それぞれの思いが詰め込まれています。

和箪笥は時代や用途によって様々な工夫が施されてきました。江戸時代、店の帳場で使われていた箪笥。蛇腹の扉を開くとなんとそろばんが収納されています。

贅の限りを尽くして作られた明治時代の箪笥。

梅と鶯の螺鈿細工が見事です。日常品でありながら高い美意識が込められた和箪笥の世界。今日は持ち主や作り手の愛着が込められた和箪笥の魅力を堪能していきましょう。

守る

和箪笥はもともと長持など蓋を開けて出し入れする箱が前身だったと言われています。

現在のような形になったのは江戸時代初め。

戦乱の世が終わり豊かな時代となって人々の持ち物が増えました。そこで整理収納しやすい引き出しのついた箪笥が発明されました。

数ある箪笥の中でも嫁入り道具の代表格として知られるのが桐箪笥。白い木肌。優美な佇まいから和箪笥の女王と呼ぶ人もいます。着物好きの山崎菜穂さん。3年前に桐箪笥を購入しました。「私の部屋がそんなに大きくないのであまり圧迫感がないように。桐の色もそうですし、部屋の中に溶け込むような感じで選びました」和、洋問わず、お部屋のインテリアに溶け込む桐の木肌を生かすための金具はいぶし銀です。桐箪笥の良さは見た目だけではありません。 「中の空気がすごく密閉がいいってことだと思いますね」空気圧で下の引き出しが開くほど高い密閉性。虫やカビの侵入を防ぐと言います。「自分で頑張って求めたものなので、いつまでも綺麗で良い状態で保存したいというのが一番です」その確かな作りによって大切なものを守ってくれる桐箪笥。今日最初のツボは宝を守る白き女王。

新潟県加茂市。桐箪笥の生産量日本一を送ります。昭和21年創業の工房には伐採した木がずらり。一年以上干してアクを抜くそうです。この道20年石井克彦さんに桐たんす作りの技を見せていただきます。桐箪笥の高い密閉性を生み出すために重要な道具がカンナです。ひとつの桐箪笥を作るのに使うカンナは15種類以上。削る箇所や厚さ幅などに合わせ使い分けます。「カンナですべてが決まります」密閉性のカギを握る引き出しを仕上げる作業。僅かな歪みもない平面を作り上げるのは職人の手の感触。引き出しをタンスに。ところがうまくはまりません。実は引き出しはわざと大きく作られています。手の感触を頼りにカンナを使って少しずつ調整していくのです。カンナで削っては再びタンスにはめてみる。その繰り返しです。密閉性を左右するひと削りはなんと0.1ミリ以下。桐の柔軟性が繊細な削りを可能にしています。試すこと6回。引き出しはピッタリとはまりました。隙間はほとんど泣く、ハガキ一枚も通しません。この徹底したこだわりが中に収める衣類を守ってくれるのです。宝を守ってくれる心強い桐箪笥。そこには職人の緻密で繊細な技が込められていました。

飾る

赤漆に黒い鉄飾り。華やかさと豪快さを併せ持つ船箪笥。起源は江戸時代中期。日本海側から積荷を運んだ北前船。その船乗たちの金庫だったと言います。豪華な鐵飾りは富の象徴。その緻密な装飾は競い合うようにして豪華さを増していきました。民芸運動の先駆者柳宗悦は船箪笥を高く評価しました。「世界の箪笥類の中でも目立った存在と言えようどこの国どこにもこのような箪笥はない」運送業を営む石井真一さんも船箪笥の魅力にとりつかれた一人。コレクションの中でもいちばんのお気に入りがこちら。幕末に作られたイッピンです。金庫として使われた船箪笥。いくつかある鍵穴の中には偽の鍵穴も。盗難防止のためです。
ほかにも持ち主にしかわからない仕掛けがいっぱいあります。大事なものをしまうため、複雑に堅牢に作られています。石井さんの一番の楽しみは、「漆の臭いがするんです。江戸時代の匂いかと思うとロマンですね」持ち主だけが知っている箪笥への愛情と密かな楽しみ。今日2つ目のツボは自分だけの秘密の箱。
宮城県仙台市。ここに江戸時代末期から伝わる伝統的なタンスがあります。仙台箪笥。素材には欅や栗の木を使い木目を活かした透明な漆が塗られています。磨き上げられた漆は鏡のように景色を映画こみます。最大の特徴であり箪笥の顔とも言われるのが見事な箪笥金具。立体的で緻密な造形。一枚の鉄板を人の手によって打ち出したものです。龍や唐獅子など伝統的なモチーフでありながら組み合わせや配置は持ち主の自由。自分だけの箪笥が作れるのです。明治から続く彫金師4代目。八重樫栄吉さんです。鉄板を打ち出す際に必要なのがタガネと呼ばれる太い釘のような道具。先端の形や大きさが違うタガネおよそ1300本を駆使してリアルな造形を彫っていきます。図柄が一通り彫り上がったら裏返し、金槌で立体的に打ち出していきます。龍が浮かび上がってきました。さらに。「いちばん大事なのが腰」腰とは図柄の縁をより深く打ち出すこと。腰を入れることで陰影がはっきりとして龍が浮かび上がるのです。仕上がりまで二ヶ月かかるという箪笥金具。八重樫さんのもとにはこんな以来も舞い込みます。「クジラの注文が」ほかにもカブトムシとクワガタなど持ち主の趣向にあわせた新たなモチーフにも挑戦しています。「時代時代に変わったモノ変わって作っていったモノが伝統だと私は思っているわけ。自分より長生きするから心をこめて作っています」自分だけが判る密かな楽しみ。箪笥にはそのひとらしさが刻まれています。

受け継ぐ

ビーズ刺繍デザイナーの田川啓二さん。一週間前に祖母の箪笥を譲り受けました。昭和の初めに作られた桐たんす。痛みも少なく当時の趣を残しています。田川さんの祖母イクさんは着物を400着も持って嫁いだお洒落なお嬢様。着物を収める桐箪笥は特注で作りました。「真ん中の7つの引き出しがついてるこれがここに来たものなんですねシンプルなちょっとモダンな感じもするところが気に入りました」桐箪笥に守られてきた着物はビーズ刺繍デザイナーとして活躍する田川さんの想像力の源だと言います。「センスはもしかすると僕は祖母から学んでいたような気がします。自分が知らなかった祖母をモノとか引き継ぐモノによって感じられるそこまでさかのぼって感じることができるのでこういうものをこうを受け継いでいくってことは大切なんだなって思いますね」モノも思いも時空を超えてつなぐ和箪笥。最後の壺は未来へのタイムカプセル。山形県に古い箪笥を蘇らせてくれる工房があります。家具修復人井上兵次さんです。井上さんの元には全国から様々なタンスが送られてきます。作られた時代。木の材質。金具の種類。一つ一つ異なる箪笥の個性を見極め、購入した当時の姿へ時間を巻き戻していきます。「なるべく使えるものは使って。色んな思いがいっぱいここに入っているわけですから」今取り掛かっているのはこの桐箪笥。およそ150年前に作られたものです「ここにひとつひとつ字が入っていますからちょっと珍しい」テンスの金具には宝、福、壽、禄の文字が。修復を依頼した小笠原正亮さんです。この冬解体予定の家の蔵の奥に箪笥は眠っていました。小笠原さんの祖母まきさんの嫁入り道具です。息子の嫁が気に入り、ぜひ使いたいと申し出ました。「品物だけですけどやっぱり残るのはうれしいことですね」次男の子どもたちが3人のうち2人が女の子ですから、どっちかが受け継いでどっかに持っていくと思います。箪笥の修復作業がはじまりました。「これが元々の色ですよね」金具を取り外すと現れたのは当時の木の色。150年の時の流れを感じます。取り外した金具はひとつひとつ磨き、サビを落として行きます。錆止めを丁寧に施した後、黒漆を塗り当時の色を蘇らせます。問題は大きなへこみ。直す道具は何とアイロン。凹んだ箇所に濡れた布で水分を加え温めます。すると木の細胞が膨らみ凹みが消えるそうです。効果はご覧の通り。そしてカンナで薄削り。時間の汚れを落としていきます。修復が完成するのは2か月後。作業はまだまだ続きます。「次世代にずっと続いていったらいいと思います」作る人、使う人、 そして治す人。和箪笥はモノも思いも包み込み、未来へ受け継がれていきます。

取材先など

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ガジェット愛好家です。世の中にあふれるモノゴトはすべてヒトが作り出したもの。新しいモノの背景にある人の営みを探るのが大好きです。発見した情報はまとめて発信しています。