日曜美術館「出かけよう、日美旅スペシャル 奈良 美仏の都へ」

司会の2人が旅へ。訪れたのは天平時代の仏像が注目を集める奈良。国宝・阿修羅像をはじめとする“奇跡の美仏”の秘密を探る。なぜこの時代に人間らしい仏像が花開いた?

数々の国宝仏像が1300年前をほうふつさせる並びで安置された興福寺。人間のようなリアリティとミステリアスな表情が、日本独特の仏像誕生の秘密を物語る。さらに2人は仏教伝来の地、桜井へ。国宝・十一面観音像は、信仰の広がりとともに高まった彫刻技術の到達点。究極のプロポーションと、繊細で柔らかな美が生まれたのはなぜ?そして奈良を撮り続けた写真家・入江泰吉の美術館へ。作品に宿る天平仏の神秘の美しさとは?

【出演】仏像技法研究家…山崎隆之,【出演】聖林寺住職…倉本明佳,【出演】写真家…山口高志,【司会】井浦新,高橋美鈴

放送:2017年6月11日

日曜美術館「出かけよう、日美旅スペシャル 奈良 美仏の都へ」

興福寺です。奈良の都で花開いた天平文化。その次代を象徴する仏像が数多く残されています。

このお堂に1300年前を彷彿とさせる並びで、仏像が特別に安置されています。

阿弥陀如来の周りに釈迦の教えに帰依した神々「八部衆」や「釈迦の十大弟子」これまで国宝館と呼ばれる建物に一列に並んでいた像が前後左右に安置されました。

井浦さんが好きな仏像がこの像。

嘴のような姿に異形の美を感じるといいます。

国宝「阿修羅像」。像の高さは153センチ。六本の腕と三つの顔を持つ戦いの神です。

作られたのは734年です。当時の人々は仏像の表情に並々ならぬ私撰を注いでいたことが明らかになりました。

最近行われた科学調査の結果意外な事実が明らかになりました。

2009年、X線CTスキャンで阿修羅像の内部を撮影。15万枚の画像を解析しました。

X線CTを用いた国宝阿修羅像の健康状態調査と製作技術の解明|事業の成果|日本学術振興会

内部にあったのは木の骨組み。その周りに粘土で塑像と呼ばれる原型をつくり、上から漆で固めた麻布を何枚も貼っていました。

最後に中の粘土を取り出して空洞にしていました。調査の結果、阿修羅像の原型となる塑像の形を復元することができました。

その顔は完成したものと全く違っていました。

「驚いたのは今の阿修羅像のお顔とは表情が違う。正面の顔は眉の部分が違います。」

眉をひそめている今の顔に対し、原型では眉がつながって目が釣り上がり、怒りの形相に見えます。

さらに驚いたのが向かって左側の顔。舌唇をぎゅっとかんでいる口が、原型では驚いたかのように、ぽかんと開いていたのです。顔は単純なものからより複雑なものに変えられていました。

釈迦の説法に深い関わりがあるというのが仏像技法研究家の山崎隆之さんです。

「このお堂全体が釈迦の説法。釈迦の説法を聞いている像の集まり。すなわち釈迦集会像です」

とりわけ、龍が巻き付いている「金鼓」が打ち鳴らされ、その音の響きで懺悔するのです。

中心に置かれた「金鼓」という楽器は罪と業を消し去ると言われます。阿修羅を始めとする八部衆の不思議な表情は金鼓の音色と深く関わっていると山崎さんは考えます。

「見ているのではなく耳を澄ませて聞いている。耳を澄ましているときって視点が合わないですよね。自分の心の中を見ている。見ているというより耳が大事。どの像も眉間にちょっとシワを寄せているのは、何かを注視しているというよりは、音を聞き取ろうとしているのではないかなと思います」

さらに阿修羅像の三つの顔の変化は心境の変化を段階的に表しているといいます

向かって右の顔は戦いの神の本性を残した厳しい顔。下唇を噛む左の像は過去の悪行を悔い改める表情。正面は戦いをやめ仏に帰依した阿修羅の一途にも見える眼差し。複雑な心理まで描き出した阿修羅像。そこには日本の文化とは何か模索した時代の機運が関係していたと言われます。