美の壺「肥後象がん」




400年前、肥後・熊本で生まれた「肥後象がん」。

鉄の表面に、金や銀で緻密な模様を施す工芸品で、大切に受け継がれてきた。

今も伝統の方法で作られ、0.1ミリ単位の細工を施す極小の技、鉄の美しい黒色をひきだす謎の液体「さび液」(海水・ネズミのフンなど秘伝の材料を調合)など驚きの連続!武士のダンディズムを今に伝える肥後象がんの、知られざる魅力に迫る!<File393>

【出演】草刈正雄,細川護煕,【語り】木村多江

ラグジュアリー・デ・エイジ キメハリ美肌キット

美の壺「肥後象がん」

放送:2019年10月13日

東京銀座の街の文具店でいま話題の万年筆があります。それがこちら。

2016年5月に開催された伊勢志摩サミット。

各国首脳への贈呈品としてこの万年筆が贈られたのです。

金で桜の花やイチョウの細工が施されています。

この細工が肥後象眼です。

肥後象嵌はかつて肥後国と呼ばれた熊本の伝統工芸品です。金属の下地に金や銀で模様付けます。

手の込んだ細かい絵柄が特徴。

緻密な仕事に職人の技が光ります。

もともと肥後象嵌は刀の鍔や鉄砲などに用いられた装飾です。

金や銀空模様をかたどって形にはめ込んでいます。

肥後象嵌の名品を扱う美術商米野純夫さんです。

古い刀の鍔には職人たちの卓越したセンスが伺えるといいます。

特に感心するのは肥後象嵌の金と黒の組み合わせの妙。

「金色を引き立てるためには黒がかった色が一番いい。黒の中に金がまばらに、パッパッとバランスのとれた入れ方をしているのがあります。金と黒というのは合うんですね」

400年の時を超え、今に伝わる肥後象眼。その魅力を紹介します。

アクセサリーやインテリアなどにも用いられる肥後象眼。

現在熊本では15名の職人が腕をふるっています。

伝統的な図柄から現代的なデザインの物まで様々。個性豊かです。

肥後象眼の職人坊田透さん。この道60年のベテランです。

伝統を踏まえながらもモダンで斬新な図柄。

繊細な表現で知られる職人です。

こちらは宝石箱。すすきや萩などの秋草や鈴虫が金や銀で描かれています。熊本阿蘇の大自然を緻密な象眼の技で表現しました。

直径5センチほどの朱肉入れ。羽根を広げた孔雀が描かれています。直径1ミリ以下の金や銀の線を使った手仕事です。

「線で細かいのを技術的には難しいけども、やっぱり目で見えないのは指先で見える・・ていいますか。あのある程度細かいところは自分の感覚で模様を付けていきますね」細かい技の積み重ねが肥後象眼の美しさを生み出しているのです。今日一つ目のツボはミクロの技が生み出す雅。

今回合田さんが作るのは帯留め。横幅およそ6センチです。まず薄い金の板を型で抜きます。

このわずか3ミリ程のモチーフを象嵌ならではの方法で付けていきます。

はじめにベースになる鉄の板にタガネという小さなのみで溝を刻んでいきます。その細かい事。

1ミリの間に7本から10本の溝ができています。

さらに向きを変えて同じように溝を刻みます。

これを繰り返すと表面はまるでガーゼのよう。拡大して見ると無数の突起が並んでいるのが分かります。

布目切と呼ばれる技法です。タガネで4方向から打つことで細かい突起ができます。これが布目切りです。ここに型抜きした金のモチーフ落ち込みます。すると金が突起にしっかり食い込み剥がれません。

金を打ち付ける時に使うのは鹿の角。古くから使われてきた肥後象嵌に欠かせない道具です。「鹿の角は一番。独特の柔軟性と粘り強さと堅さとを餅備えている」

できあがったのは金銀のイチョウの葉をリズミカルに散らした帯留め。

一方こちらの帯留めではさらに細かい技が。直径0.1ミリに満たない金の線を使って、菊の花びら1枚一枚を描いていきます。

緻密な布目切りが施してあるからこそ極細の金でも密着するのです。

全ての模様をはめたところでなんと布目を全て消していきます。地の黒をより美しく見せるためです。金を傷つけないように慎重に消します。

完成した肥後象。これでもかという細かい技の連続が美しさを生み出すのです。

「基本的に細かいことにですね手を抜かずにちょっとでも昨日よりも今日はもうちょっといいもの作ろうっていう気持ちでもって仕事続けてるとあの細いいいものが自然と残っていた」小さいながらも華やか。いにしえの雅を伝える肥後象眼です。

肥後象眼はおよそ400年前に加藤清正と細川家に仕えた金工職人林又七が始めました。それを洗練された工芸に発展させたのが戦国時代に活躍した細川忠興でした。茶人でもあり千利休の愛弟子だった忠興。林又七をはじめとする職人を指揮して今の肥後象眼のスタイルを確立します細川家18代当主細川護煕さんです。「忠興という人はもちろん武将として活躍した人ですし、茶人としても活躍しましたから、都のセンスを熊本に持ち込んで肥後の金工というものを育てていったと思うのです。武士のダンディズムとしてストイックな美しさを珍重する雰囲気が出てきたということでしょう」忠興が追求したストイックな美しさとだかディズム。それを象徴するのが肥後象眼の地の色、黒です。二つ目のツボは黒のダンディズムを極める。
林又七が作った肥後象眼の鍔。金が生える黒を出すのが当時の職人の腕の見せ所でした。肥後象嵌の職人稲田憲太郎さんです。昔の黒に憧れて伝統的な手法で黒を表現しようと試行錯誤を重ねています。肥後象嵌の黒は特殊な方法で作られるといいますが・・・「 黒はですねサビなんですよ」一体どういうことなんでしょう。黒色の出し方を見せていただきます。取り出したのはサビ液と呼ばれるサビを出すための液体。稲田さんは江戸時代から口伝えで継承されてきたサビ液を再現しています。「サビ液の中身はですねカワガニの味噌とかネズミの糞とか赤土だったり、後は海水が少し入ってたり井戸水から湧き水がに入ってたりとか色々不思議なものが入ってるんですけど、どれをどれくらい入れるっていうのは、自分のさじ加減なので実際使ってみて、ちょっとこっちを足そうかとか引いたりしてて作るんですよね。ちょっとの黒魔術みたいな感じ」金の装飾を施した鉄に熱を加え先ほどのサビ液を塗ります。急激に熱せられると鉄が酸化して錆が出ます。10回20回とサビの出具合も見ながら作業を繰り返します。さらにサビ液に直接つけ、また加熱。これも何度も繰り返します。こうしてキメの細かいサビを出すのです。鉄は放っておくと腐食して表面がボロボロになってしまいます。一方サビ液をつけて熱した鉄は細いサビが膜のように表面を覆います。このサビの膜が美しい黒を見出すのです。ここでもうひと手間。鍋に入れたのはお茶の葉です。煮ることに20分。鉄が真っ黒に。お茶に含まれるタンニンがサビに反応して黒く変化したのです。煤を混ぜた油を使って黒に深みを出します。仕上げに使うのは伝統のコーティング剤。イボタ蝋カイガラムシが分泌した蝋です。錆止めとつや出しの効果があります。

「道具なんかもそうですけど、古来のものを使い続けることでちゃんと伝承していくことができるのでそういうのも含めて守っていかなくてはならないものだと思います。いい状態だと金も映えるしいい黒にも見える。バランスもいい肥後象眼の作品になっていると思います」

おもい

熊本県宇城市に住む松崎康弘さん。松崎さんには長年大切にしている肥後象眼があります。こちらのペンダント。真ん中の十字の部分が肥後象嵌です。10年前に誂えました。当時松崎さんはウエイトリフティングの選手。国体で優勝した経験もあります。ペンダントを作ったのには理由がありました。「スポーツをするとけがをする。予防もこめてつくりました。金なんで一番ということ」現役を引退した今でも大切にしています。「気持ちほっとします」肥後象嵌は人々の思いに寄り添っています。今日最後の壺は物語をつなぐ。
肥後象眼職人の稲田さんが今取り組んでいるのはオーダーメイドの箱。へその緒入れです。 女の子を授かったお父さんからの依頼です。あしらわれているのはなでしこの花。
花びらは漆で色を付けています。肥後象嵌は手入れをすることで美しさを保ちます。この日クリーニングをしていたのは持ち主が30年以上も愛用してきたネクタイピン。「贈られたものだったり、自分が本当に好きで買われたものとか、その使ってる方の思いみたいなものに宿ってると思うんです。そういうのでまた新たにメンテナンスして使っていただけるととてもありがたいことです」クリーニングを依頼した梅木節男さん。元は学校の先生です。玄関には額に入った肥後象眼。桜を描いた象嵌は定年退職の祝いに教え子たちから贈られたものだそうです。小中学校で教鞭をとってきた梅木さん。若い頃から大の肥後象嵌好きでした。人生の節目節目で買ったり贈られたりした肥後象嵌の数々を大切にしています。「熊本には質実剛健の気質がある」梅木さんは普段から肥後象眼を身に着けています。ループタイやカフスボタン、ベルトのバックルなど、肥後象眼を次の世代に伝えていきたいという梅木さん。クリーニングを終えたネクタイピンは。「気に入っていたひとつ。孫に伝えたい」自動車の営業マンをている孫の慎一郎三に贈りました。家族の物語を刻んで肥後象眼は代々受け継がれていきます。

バリューコマース

見逃したNHKの番組は動画配信サービス「NHKオンデマンド」で見ることができます。NHKの全チャンネルから最新の番組が視聴できる「見放題パック*1」は月額972円で配信期間中なら何回でも視聴できます。

スポンサー




ABOUTこの記事をかいた人

ガジェット愛好家です。世の中にあふれるモノゴトはすべてヒトが作り出したもの。新しいモノの背景にある人の営みを探るのが大好きです。発見した情報はまとめて発信しています。