日曜美術館「 皇室の秘宝 ~奇跡の美術プロジェクト~」

日曜美術館「 皇室の秘宝 ~奇跡の美術プロジェクト~」

昭和天皇の結婚の際に献上された美術品が皇居から初めて持ち出され公開された。一流の工芸家たちが5年の歳月をかけた奇跡のプロジェクトの作品 皇室の秘宝 を紹介する。

東京芸術大学の美術館で開催されている展覧会。金のまき絵やらでんが一面に施された飾り棚。天皇と皇后用に1対で献上された豪華な作品である。また48人の工芸家が技法を競った作品が装飾されたびょうぶ。金工、木工、漆、陶芸など日本の伝統工芸がここに集約されている。実はこのプロジェクトには中止に追い込まれそうな危機があった。皇室の秘宝とともにその秘められた物語を紹介する。

【ゲスト】東京藝術大学准教授…古田亮,【司会】井浦新,高橋美鈴

放送日 2017年11月12日 

日曜美術館「皇室の秘宝~奇跡の美術プロジェクト~」

飾棚に込められた高度な技

高村光雲「鹿置物」は一本の木を素材にした一木造りの彫刻作品です。

牡鹿の脇腹に現れた木目模様は太陽の光が当たって毛並みが輝いているようにも見えます。

足元に落ちた紅葉の葉の枝も、彫刻で表現されています。

「大正から昭和の初期にかけて皇室に献上された多くの美術作品があります。その殆どが東京芸術大学の前身であった東京美術大学が委嘱を受けていました。東京藝大は創設130年を迎えますが、ほぼ100年前に委嘱制作が行われていたことをもう一度注目し、私達自身の歴史を振り返ろうという狙いもあります」

昭和天皇の結婚に際し、2本の棚が献上されました。

「御飾棚」は高さ155センチ。幅153センチ。

奥行きは50センチです。

棚に舞うのは鳳凰。古来帝を象徴する文様の一つとして使われてきました。

その姿は何種類もの金粉や銀粉で精緻に表現されています。背景まで職人の技で埋め尽くされていました。

棚の一部を拡大すると、漆を塗り、そこに奥行きが出るように慎重に金粉を撒き、その上にさらに透明度の高い漆で塗り固めていました。

これらは蒔絵と呼ばれる漆の装飾技法。日本独自の発展を遂げた千年以上続く技です。

中でも鳳凰の文様には高蒔絵と呼ばれる、蒔絵を立体的に作る技法が用いられていました。

棚に光を当てて撮影すると、文様が盛り上がっていることがわかります。

それまで蒔絵は身近な箱などの装飾に使われてきました。しかし、これほど大きなものを埋め尽くすのは他に例はありません。

皇后の「御飾棚」。文様は羽ばたく鶴。

こちらも高蒔絵の技法で作られています。白く輝くのは螺鈿。貝の殻です。

夜光貝を嘴や羽の形に合わせて、一枚一枚切り抜き。漆の表面を彫って貼り込んでいます。

ふたつの御飾棚には作り方にも違いがあることが、今回明らかになりました。

鳳凰の鶏冠。輪郭に影がつくほど立体的に作られ、力強い印象を与えます。

鶴の頭から首にかけての輪郭は滑らかに浮き上がり、優しい印象。

鳳凰の輪郭は直角に近く大胆にエッジを盛り上げています。一方鶴の輪郭は丸みを帯びていました。エッジのわずかな差で力強さと優しさを表現していたのです。

この蒔絵の差を発見したのが人間国宝、室瀬和美さんです。

室瀬さんは伊勢神宮に作品を奉納しています。

御飾棚の蒔絵は職人たちが二年がかりで完成させたと言われます。

選んだのは菊の葉の部分。一枚の葉にいくつもの立体感が表現されています。

通常の蒔絵より粘り気のある漆を使って輪郭を描き始めました。粘り気のある漆で輪郭を引くと漆の土手が生まれます。この厚みが立体感のポイントでした。

続けて土手の内側に漆を塗り、

そこに炭の粉を撒きます。

漆が接着剤となって墨が固定し、土台ができました。コン上に金粉を撒きます。

ところが、御飾棚の高蒔絵は通常のやり方ではないことに気づきました。

はじめ一番内側と、外から二番目の金は同じ高さだと考えていました。しかし画像を拡大して調べると中央の金は葉の中で一番低くなっていました。

青い矢印の部分は、赤い矢印の上に描かれていたのです。それは通常のやり方よりさらに手間をかけた複雑な高蒔絵でした。

これに気づいた室瀬さんは同じように漆を重ね、金粉を撒くことにしました。

一枚の葉にも色や形の違う金粉を使い分け繊細に表現されていました。

一週間後、表面に塗った漆を墨で研ぎます。

金の輝きが少しずつ増して行きます。

最後に粒子の細かい粉で表面を磨き、ようやく一枚の葉が完成しました。

「二重三重の複雑さがある。大変な労力。二ヶ年でしたっけ。おそらく寝ずにやったと思います。それくらい工程数は多いと思います」

一枚の葉を完成させるだけでも 三週間かかりました。最高の美を求めて、時間と手間を惜しまない職人の技がここにありました。

ではこの棚はどのような人々が作ったのでしょうか?