【絶賛】「すごい廃炉」篠山紀信がすごすぎる

【絶賛】「すごい廃炉」篠山紀信がすごすぎる

・・・という不謹慎な欲望を隠しきれない、

書店愛好家のAちゃんです。

福島第一原発に写真家の篠山紀信が挑んでいて、その写真集が発売されました。

写真集は一般書に比べ比較的読者が限られている分野です。

よほどのことがないと店頭に平積みされることはありません。

私のいる書店でもそうですが、

ところがこの本は別格で、見た目のインパクトもありますが結構な勢いで動いています。

福島第1原発の廃炉に向けた巨大な工事現場の7年間を、

日経の建設専門誌による取材記事と篠山紀信の写真で切り取ったバランスが

人気の秘密かもしれません。

 

前半は、廃炉に向けた工事現場のドキュメントです。

働く人たちや、解体作業現場の活気が、まるで生き物のような迫力で迫ってくる写真集です。

後半は、「工法」の解説にページが割かれています。

世にも珍しい原発解体を支える技術者たちの知恵と技を眺めると

原発の是非を超えた、人間の営みに頭が下がる思いがわき上がります。

解説を挟んで終盤は、圧倒的な迫力で見る人の胸に迫る「帰宅困難区域」のルポです。

本書の前半で感じた、血の通った人間の気配は姿を消し、

生活感は残されながら人気を失った「帰宅困難区域」が、

行きながら死せる者に出会ったような肌ざわりで迫ってきます。

紀信の眼が捉えた”神聖な”現場に立ち会ったような気にさせられます。

篠山紀信の怖い物知らず

原発はマスコミにとって極めてナーバスな素材です。

賛成と反対が入り乱れている上にカネも動いているからです。

いわば「触らぬ者にたたりなし」。

下手に触るとやけどするほど怖い取材対象だと思います。

襟を正して接しなくてはならないような、はっきりいって「めんどくさい」存在です。

でも、その原発には廃炉に向けて数多くの人々が働いているわけです。

安全に作業を進めるために最新技術も投入されています。

つまり現場はテーマパークのアトラクションのように、

最新技術がせめぎ合っているはずなのです。

ところが、”めんどくささ”が邪魔をして、

物見遊山の見物は簡単には許されず、その結果として現場でなにが起きているのか伝わってきませんでした。

その壁を篠山紀信は写真で切り崩したのです。

切り口は定点観測

「すごい廃炉 福島第1原発・工事秘録」の画像検索結果

写真の強みはしっかり腰を据えて素材と向き合える自由さがあります。

この素材をテレビで表現しようとすると、多分時間が邪魔をします。

動画を素材とするテレビドキュメンタリーは、

写真ほどフットワークはよくありません。

撮影にかかる時間や、編集という判断が加わります。

制作者の企画意図が作品に出やすいのです。

俯瞰で撮った写真は背景にあるすべてを映し出します。

観客は思い思いに事実を確認することができるのです。

「すごい廃炉 福島第1原発・工事秘録」の画像検索結果

紀信は「ボクは野次馬のように現場が見たい」

と思ったのに違いありません。

紀信が興味を示していると知った編集や、受け入れ側の企業も

多分同じ切り口を考えたのかも知れません。

定点観測のように記録しよう。それが事態を動かしたのでしょう。

コンセプトは「巨大な工事現場」だったと思います。

日経の建設専門誌である「日経コンストラクション」「日経アーキテクチュア」は2011年から、東京電力やゼネコン(建設会社)、メーカーが福島第1原発で進める作業や工事の詳細を追い続けてきました。

本書では、現場で陣頭指揮をとる技術者への綿密な取材と、写真家・篠山紀信が切り取った現場の光景を基に、試行錯誤をしながらも進む様々な工事の裏側を、詳細にリポートします。

建築・土木技術者はもちろん、電力会社やメーカーの技術者、日本のエネルギー政策に関心がある全ての方にとって、必読の書です。

まとめ

最近の篠山紀信の仕事の幅には驚かされます。

昨年、渋谷松濤のアートスペース「アツコバルー」で開催された「ラブドール展」。

https://spice.eplus.jp/images/Vw6qdyVTtpT3OaR2g9MzKeIvhCrIvYPlne9023tI1NkGjQhYoA0I1MW6XczjG485

紀信が撮ったと聞いたときも驚いたものです。

「見たいものが見たい」という誰もが持つツボを心得ているのでしょう。

「すごい廃炉 福島第1原発・工事秘録」の画像検索結果

毎日6000人が「廃炉」に向けて働く福島第1原発は、

最新の建築・土木技術が集う巨大な工事現場といわれます。

真実は細部に宿るといいますが、

現場で起きている何かを見るだけでも、気づきをもたらしてくれます。

作品が発表されたのは専門誌でした。

専門誌であるからこそ、一般マスコミとは違う切り口で普遍的なテーマに挑めたのだろうと思います。