アートで街おこしは難しい?乱立する”ハコモノ”美術館の裏事情
ハコモノとは、税金を財源とする予算を建築物などの建設費にあてる政策を揶揄したコトバです。行政担当者は一応維持費の予測はします。しかし自分の任期が終了した数年先のことまでは責任を持たないことからつくったはいいが閑古鳥が鳴く施設が目立つことになります。04年に開館した金沢21世紀美術館は数少ない成功例のようです。
地方自治体による観光行政の成功例として金沢 21 世紀美術館が挙げられる。同美術館は2004 年に石川県金沢市の兼六園近くの中心市街地に設立された金沢市営の美術館である。年間入場者数が兼六園約 180 万人に対して、同美術館は約 150 万人のため成功といってよいだろう。
大阪観光大学観光学研究所年報『観光研究論集』第 9 号― 59 ―http://www2.meijo.ac.jp/mei-kanken/img/file5.pdf
金沢21世紀美術館 | 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa.
美術館の運営費は約 7 億 6000 万円(平成22年度)財源は市から入る指定管理料約 7 億 1000 万円に加え、同財団のカタログ販売等の売上約 5000 万円です。美術館の“顔”になってるレアンドロ・エルリッヒの「スイミング・プール」などが話題を呼び開館1年で150万人以上が入館するなど大成功を収めましたが、美術館のコンセプトは意外にも美術館を見に来るコアなファンではなく地元志向の「気軽に入れる美術館」だったそうです。
同美術館は、ホスピタリティ実践のために次のように設計の工夫がなされている。建物の壁は、全面ガラス張りである。特に美術館に入るつもりがなかった人がふらっと立ち寄るように、そして無料ゾーンから有料ゾーンと展示品がちらっと見えるように造っている。
大阪観光大学観光学研究所年報『観光研究論集』第 9 号― 59 ―
百万石・前田家の文化が街のあちこちに残る金沢は伝統工芸の街です。「伝統の街になぜ現代アートなのか・・・」兼六園の隣の用地に計画された美術館は、計画段階で様々な批判の視線の晒されました。近くには石川県立美術館もあります。地元作家や市民からも反発を受けた行政担当者は優れた人材を探し出すことに全力を傾けたといいます。
日本の常識を打ち破る公立美術館が、なぜ金沢に生まれたのか | 『週刊ダイヤモンド』特別レポート | ダイヤモンド・オンライン
「アートで街おこし」の手法は、単純にマネをすればいいというものではありません。外部からきたプロデューサーやコンサルタントに計画を丸投げして、その結果地元に利益が残らないという危険性はつきまといます。金沢市の事例は「今すぐに成果が出る」という予算主義に抗い「この街らしさとはなにか」を考え抜いた末の成果だったことがわかります。
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美術館の建設にあたっては、おそらく自治体が建物を先に建て、そこに学芸員を雇って様々な企画立案してもらうのが一般的だと思われるが、同美術館は設計の段階で学芸員の意見を取り入れているという特徴がある。同美術館は、貸し施設(ギャラリー)や物品販売、カフェレストラン、茶室等のテナントに低額で入ってもらい地域住民の憩いの場となることを目指し、気軽さ、楽しさ、使いやすさがキーワードの今までにない美術館である。
兼六園の真弓坂口の近くなので、雨が降ると兼六園の入場者が来ることがある。入館者にとっては新しくてきれいな建物で雨宿りができ、トイレのみの利用も可能というホスピタリティが見られる。
「かっぽう着姿の金沢のおかみさんが、近江町市場(金沢の中心街にある市場)の帰りに、買い物袋をもって立ち寄ることができる美術館、これだけです」と語る山出保・全金沢市長の言葉が印象に残ります。