美の壺 スペシャル 「 和食 」

和食

星を獲得する名料理人が語る割烹料理の極意▽まるでオブジェ!職人の技が光る若鮎の塩焼き▽人気料理研究家・大原千鶴さんの買い物に密着▽大原さん直伝・おいしい家庭料理のコツ▽銀座・行列の人気店が美味しいごはんの炊き方を大公開!▽木村多江が柴漬け発祥の地で伝統の漬物作りを体験▽修行僧が漬ける10年ものの沢庵▽きつねうどん発祥の店の黄金のだし▽江戸の伝統を守る醤油蔵▽醤油の驚きの使い分けをご紹介する 和食 スペシャル!

初回放送日:2022年10月29日

美の壺 スペシャル 「和食」

日本伝統の食文化和食。2013年にはユネスコ無形文化遺産にも登録されました。豊かな自然に感謝しその恵みを大切に頂く。古くから日本の暮らしの中で育まれてきた和食の魅力を美の壺が大特集。銀座で割烹料理店を営む奥田徹さん。奥田さんが考える割烹料理の極意とは。職人の技には食の美学が宿ります。行列ができる人気店。美味しいご飯を炊く秘訣を大公開。

京都老舗の米店では、全国から厳選した米を何と使う料理に合わせてブレンド。味のバリエーションは無限に広がります。私、木村多江は京都へ。平安の時代から続く伝統の漬物・しば漬け。先人たちの驚きの知恵と職人技の結晶。魔法を見たような気がしましたさらに寺の食事に欠かせないたくあん。修行僧たちの食べ方を教えていただきました。京都に暮らす人気料理研究家大原千鶴さん。家庭料理で表現する和食のおもてなしとは。

体に馴染むと言うかそういったものを特別なものを使わないことの方が私たちの身近な和食になっていくんじゃないかなと思いますね和食の代表的な調味料醤油。卵かけご飯から刺身まで。意外な使い分けをご紹介。さらに大阪。きつねうどん発祥の店のこだわりのだし。だしの元祖といわれる精進だしまで。日本の風土が育んだ食の文化と受け継がれてきた職人の技和食の奥深い世界をたっぷりとご紹介します。

心得

銀座 小十店主、奥田透さん

東京銀座。割烹料理店を営む奥田透さんです。
手をかけすぎず、食材のじみを最大限に引き出すのが奥田流です。
こちらはカワハギの薄造り。
キモとねぎしその花方を載せ可憐な見た目と複雑な味わいを表現します。

「割主烹従」この間を抜いて割烹料理。割というのは切るということ。烹は煮るですね。ですから切るが主で煮るが従うという。これが割烹料理の意味合いで、基本的に日本料理切ることがすごく大事で、そこから火を入れて煮たり焼いたりっていうことに進みましょうという、世界にあまり類のないあの料理かなと思ってます

切るといえばつくり。和食の花形です。

切ることが味の表現。じゃあ何でも切るものいいんですかって言うとやっぱり切れる包丁でなければいけないのこれ当たり前なんですが、この長さですとか重さですとかも必要です。私が切る技術も大事ですねこれによってその一切れが味となって完成する

魚の線を感じながら細胞を壊さないよう包丁をひくことが大事だと奥田さんは言います。

巧みな包丁技によって旨味を逃さず、舌触りの良い極上の作りに仕立てます。
こちらはアオリイカのお造り。
細かく斜めに包丁を入れます。
裏側の切り込みは表と交差するように。
繊細を極めた切り込みから旨みが広がり、優しい歯ごたえが生まれます。
切ることが味を決めるお造りは究極の日本料理だと奥田さんはいいます。
美しい盛り付けも和食の見所です。
織部焼の器に盛られた鯛とアオリイカのお造り。
奥を高く手前を低く盛り付けを強弱をつける割烹料理の基本形です。

「割主烹従」続いては火を入れて調理する意味をこちらはわかるで。作るのは塩焼き炭火を使って焼き上げます。

「もちろんガスでも電気でもオーブンでもフライパンで火が通るんですけど、住みだけが鮎の脂が落ちてその香りとなって自分のとこに戻ってくるんですからあゆの味付けが始まるわけです。」

その焼き方にも職人の技が光ります

「少し傾けですね、こうすることによって鮎の油が全部頭に向かってくるので、この自分の頭で鮎を空にする。すごいなんかシンプルで地味な仕事なんですけど、いろんなことが詰まってると言うか。」

炭火で焼くことなんと一時間。最後は火を遠ざけ風を送りカラッと仕上げます。

「鮎ってこの収益って本当になんか勝負って炭で焼くだけなんですけど。まだまだ何て言うんですか何か違う表現が出来るんじゃないかな。」

食の美学が宿る若鮎の塩焼きが完成しました。

天然のうなぎは炭火で素焼きに。皮が硬く身がしまっているため、蒸さずに焼き上げることで皮はカリカリに、中はふわっと仕上がります。

器は小倉さんが厳選した逸品ばかり。お椀には四季折々の自然が描かれ、季節感を表現します。料理をいただく空間も大切な要素です。飾りすぎない侘び寂びの世界。樹齢七百年の檜のカウンターが料理を一層引き立てます。奥田さんにとっての和食とは。

日本の表現する一つの形と言うか、今日本を伝えるのに一番わかりやすい手段かなと思ってます。

銀座 小十 銀座/日本料理・懐石・会席 ネット予約可 | ヒトサラ

今日最初の壺は、食卓を彩る日本の心

料理研究家・大原千鶴さん

京都在住の人気料理研究家・大原千鶴さんです。
大原さんが作るのはシンプルな家庭料理。

家庭料理は何て言うんですかね、手に入る材料を美味しくするためには最低限の手当てをするだけでいいと思うんですよ。やっぱり作る人にも食べる人にもうストレスとかなんかそういうところがないものは大事だと思うので、私はなるべくシンプルに簡単に。

そんな小原さんの普段の買い物を見せていただきました。
京都市内のスーパーです。

専門店には専門店の良さがあるしスーパーはちょっと季節が違うものとか、いろんな種類があるので、色々なお店に来なって新しい発見も色々ありますし、使い分けしてます。おいしそうやなあ。

大原さんが選ぶのはどこにでもある身近な食材です。

綺麗やなこれをカリカリに焼くか

安いの食材も買うんですね

高級な食材を使ったからと言って満足いくかというとそうでもなくて、家のご飯はなんでもない材料でなんでもなく作る方が美味しくできると思います。体にスッと入る感じ。

スーパーで見つけたイワシは小麦粉をつけてカリカリ焼きに。
こちらは肉じゃが。
使う調味料も手に入りやすい市販のものです。
美味しく仕上げるポイントは、調味料の銘柄や種類をできるだけ変えないことだとか。

どれがいいとか悪いとかじゃなくって、さっきみたいにやって回しかける感覚変わるんですよね。そうなると料理がしにくくなって家庭の味がちょっと変わってしまう。カンも鈍っていくので私はなるべく調味料は変えない方がいいなっていうふうに思っています。

美味しそう家庭料理の定番肉じゃがの関係です。
盛り付けにも一工夫。
肉じゃがは色を意識して食材ごとに分ければ洗練された印象に。
こちらは夏野菜の錦糸瓜。
そうめんのようになることからそうめん瓜とも呼ばれます。
そのそうめん瓜は和え物に。

こういう深い器とかに和え物をしてもらう場合は土台を作って真ん中を作って上をちょっととがらすように言って
その上にあの手をつけてもつけてないということで体森の意味を込めてごまをちょっと上にねじりながすると香りがちょっとたつんですね。指でよじりながらそして上にかけてあげると盛り付けが綺麗に仕上がると思います。

香り付けだけでなく誰も手をつけてないので安心してお召し上がりくださいという和食ならではのおもてなしです。

なんか体に馴染むと言うか、そういったものを特別なものを作らないことが、私たちの身近な和食になっていくんじゃないかなと思いますね。

シンプルな料理の中に細やかなおもてなし。食卓を彩る日本人の心がありました。

米農家の近正宏光さん

新潟県東蒲原郡阿賀町。ここで米作りをしているのが、近正宏光さんです。16年前に勤めていた会社を辞め、米作りの道に進みました。現在では、その技術が評価され、作った米が一流料亭に採用されています。近正さんが米作りをしているのは、山間に広がる棚田です。ここには日本の原風景が広がっています。

棚田は中山間地に位置し、一日の寒暖差が大きいのが特徴です。朝は寒く、昼は暑く、山からの清水が流れるため、生活排水が混じらない冷たい水で育てられています。この自然環境により、昼間に光合成を行いでんぷんを蓄え、夜はしっかりと休むことで美味しいお米ができるのです。

豊かな自然を守りながら、その力を活かして米作りにもこだわりを持っています。近正さんの栽培方法の特徴の一つが「尺隔植」です。田植えの際に苗と苗の間を通常よりも長く開けて植えます。尺隔とは約30センチの間隔を指します。この間隔を広く取ることで、風が通りやすくなり、病気になりにくくなると同時に、より多くの日光を取り入れてデンプンを多く作ることができます。

収穫量は少なくても、本当に美味しい米を作りたいというのが近正さんの強い思いです。その土地の風土や人々の知恵と工夫が、美味しいお米を生み出しています。

中山間地の棚田では、耕作放棄地が増えており、作業は大変です。機械化も難しく、面積が小さいため効率がはかれません。それでも、この景色を守り続けることが、自分たちの使命だと近正さんは考えています。

今日二つ目のツボは大地の恵みに無限の可能性

東京銀座。
行列もできる米にこだわる人気店があります。「八代目儀兵衛
美味しいご飯の秘訣を教えてくれるのは料理長の橋本晃治さんです。

炊き方もそうですし扱い方ですね研ぎ方もしかりいかにストレスをかけずにポテンシャルを引き出してあげるかです。

さっと洗った米を握っては離し。
一分ほど繰り返します。
研ぎすぎないことが一番のポイント。
米を傷つけにくいプラスチックのボウルやザルを使うのがおすすめなんだとか。
そして水を入れ軽くかき回し水を変え、同じこと2、3度繰り返します。
米を炊く土鍋は専用に作りました。

これあの普通の土鍋というか、石の成分が入ってるんですよね。赤外線がすごい発するんですよね。そうするとどうご飯に影響するかって言うとお米の芯の芯までしっかり熱が通りますよ。そうすることによってご飯が甘くなります。

京都の老舗米屋が提供する土鍋釜で炊きたての銀シャリご飯

目指したのは外はしっかり中は柔らかい「外硬内軟」です。
米の保管方法から研ぎ方、炊き方まで2年間研究を重ねた自慢のご飯です。
ほぐしも優しく。
盛り付けも米の粒を潰さないようにすることで甘みや旨みを最大限引き出すことができるといいます。
仕上げは土鍋の醍醐味・おこげ。
焦げ目と艶やかな輝きのコントラストです。
おかずを引き立てる名脇役でもあり食卓の主役にもなるご飯。
美味しさを引き出す知恵と工夫で進化を続けています。

料理長の橋本さんは、京都でおよそ100年続く老舗の米屋で生まれました。現在、米屋を経営しているのはお兄さんの橋本隆志さんです。

こちらが玄米、お米の貯蔵倉庫になります。毎年、収穫時期には全国を回って仕入れる米はおよそ100種類にも及びます。

「産地や品種には違いがありますが、同じ品種でも産地によって味が全然異なります。たとえば、長野県の飯山地域のお米は非常に粘りが強いお米です。粘りが強いとはいっても、しっかりしている感じがあります。」

こちらは大分県湯布院で収穫されたお米です。「非常に柔らかく、ふんわりとしたお米ですね。甘さもありますが、その食感や味わいが全然違います。」

橋本さんは30年ほど前から、様々な種類の米を使い、料理に合わせてブレンドして出荷しています。なぜブレンドするのでしょうか。

「そのままでももちろん美味しいんですが、料理によってはブレンドした方が確実に美味しくなることが多いんです。たとえば、おむすびにはおむすび用のお米をブレンドします。石川県産のお米と宮崎県産の米を使い、石川県産の米をベースに、宮崎県産の米をどれくらい入れればおむすびがより甘く、かつ加工しやすくなるかを考えます。石川県産の米は比較的甘さが強いですが、それだけでは粒離れが悪く、おにぎり加工に使いづらいのです。そこで、宮崎のお米を入れて甘さを加えつつ、粒離れが良いブレンドにしています。」

「どのくらいの割合がベストなのかは、少しずつ配合を変えて実際に食べてチェックします。白さや艶、香り、甘さなど、七項目を五感で判断していきます。」

「ちょっとしたブレンドの差によって、全く味わいが変わってくるんです。これがブレンドの奥深いところですね。」

銀の組み合わせから新しい米の味わいを生み出し、多くの人に届けることが橋本さんの思いです。日本人の主食として古くから愛されてきた米の美味しさを追求する情熱は、これからも失われることはありません。

篠本市役所の電話

ご飯のお供と言えば漬物です。全国には地域の特産品を生かした様々な漬物があります。

長野県野沢温泉で作られるのは野沢菜漬けで、長野特産の野沢菜を塩と唐辛子で漬け込んでいます。鹿児島県指宿市の山川漬けは、大根を壺で塩漬けし、熟成させたものです。鮮やかなピンク色が特徴なのは、滋賀県日野町の日野菜漬けです。

漬物の起源は定かではありませんが、最も古い記録は平安時代に遡ります。当時の文献には、ブリと茄子の粕漬けの文字が見られます。また、気を付けとは、大豆などを塩で熟成させた発酵調味料に漬けたものでした。江戸時代になると、様々な漬物の製法が確立されました。

こちらはたくあん作りの様子です。大根を丸干しして漬ける工程が描かれています。

全国有数の漬物の消費量を誇る京都では、聖護院蕪を切って塩と特製の蜜で漬けた千枚漬けが冬の名物です。一方、夏を彩るのが柴漬けです。

平安時代に大原さんが発案したと言われています。その後、鎌倉時代に大原に隠居していた建礼門院徳子がその味に大層喜び、鮮やかな紫色にちなんで「紫葉漬け」と名付けたことが名前の由来です。

美の壺スペシャル、和食漬物が大好きな私、木村大河は、しば漬け発祥の地、京都大原に伺いました。赤紫蘇畑が広がり、7月の最盛期を迎えた赤紫蘇が見えます。

「こんなに真っ赤な畑があるんですね。赤紫蘇は普段あまり見かけないので、驚きました。」

こんにちは。今日は収穫を手伝っていますね。結構大変そうですね。どれくらい時間がかかりますか?

「この赤紫蘇は、香りが非常に良いんです。ちょっと摘んでいただけますか? その香りを感じてみてください。」

大原の風景が広がり、朝晩の寒暖差が大きい盆地特有の景色です。この気温差が赤紫蘇を美味しく育ててくれます。昼間の高温で開いた葉が、明け方の寒さで縮れ、独特の香りを生み出します。

毎年6月後半から9月まで、その日につける量だけを毎日収穫します。私も挑戦させていただきました。

「これを引っ張ってください。結構固いですが、気をつけてくださいね。」

収穫した赤紫蘇は、創業120年の老舗漬物店の工房に持ち込みます。新鮮な赤紫蘇がちょうど良い状態です。現在では様々な食材で作られる柴漬けですが、元々は赤紫蘇と茄子で作られていたそうです。

「創業以来変わらぬ製法で作り続けています。塩加減は長年の経験で調整し、樽の底のほうは少なめに塩を振っていきます。漬け込む時には百年程使い込んだ木製の樽を使用しています。」

木製の樽が水分の管理をしてくれるため、暑いときには水分が出て、乾燥していると保水をしてくれます。樽には乳酸菌が自然に発生し、発酵を助けます。

「石の重さも重要です。一トンの石を載せることで漬物が均等に浸かります。石の重さは約10キロから20キロで、専門の職人が慎重に載せていきます。」

すべての石を載せ終わると、発酵が始まります。何も加えず、赤紫蘇と茄子、塩、そして樽の環境によって発酵が進みます。漬け込むことおよそ1ヶ月で、大原の土地が育てた赤紫蘇のしば漬けが完成します。

「見てください、きれいに紫色に仕上がっていますね。茄子が混じることで、この美しい色合いが生まれるんです。」

平安時代から伝えられてきた先人たちの知恵が詰まったしば漬け。私もいただきました。

「贅沢にいただきます。そのままでも美味しいですが、ご飯と一緒に食べるとさらに美味しいです。本当にシンプルな材料で、こんなにも深い味わいが出るんですね。歴史ある大原の地で漬物の魅力を堪能させていただきました。」

続いて私が訪れたのは、京都の円福寺です。

こんにちは、今日はよろしくお願いいたします。この寺はどのようなお寺ですか?

「はい、臨済宗という宗派があるのですが、円福寺はその臨済宗の専門道場です。普段は修行僧がここに集まり、座禅や托鉢などの修行に励んでいます。一般の参拝客は普段入ることができない、修行僧のためのお寺です。」

寺の中を特別に見せていただきました。こちらが台所の「転送(かまど)」です。ここでご飯を炊いたりします。普段はガスを使っていますが、四十九のつく日などにはここでご飯を炊いたり、お汁を作ったりします。

円福寺で毎年12月に行われる冬の風物詩があります。それは、近所からいただいた大根を沢庵漬けにするため、境内のイチョウの木に干すことです。実は沢庵は寺になくてはならない漬物です。

「こちらが我々の寺漬物小屋です。臭いはお漬物の香りと塩だけで漬けています。修行僧たちが漬けた沢庵です。托鉢から漬け込み、食べるまでが大切な修行の一環です。」

「これはいつぐらいにつけて、いつ食べるのですか?」

「これは全て昨年1月に漬け込んで、まだ1年では食べません。次に、こちらの大きな樽にもう一度漬け込みます。早くても食べるのは大体3年もの、それまで食べられません。」

特別に樽を開けていただきました。こちらは3年漬け込んだ沢庵です。

「これが3年物ですね。黒っぽく茶色っぽくなっています。皮を取ると、もう少し色が分かると思いますが、だいぶ茶色いですね。3年でこんな色になるんですね。」

そしてこちらがなんと10年漬け込んだ沢庵です。

「だいぶシュワシュワになっていますね。さっきのよりも塩分が強めです。10年も漬け込むと、かなり塩分が入っていないと持たないんですよ。」

「私はここで最初にこの沢庵を口にして飛び上がるほど驚きました。1年物、3年物、そして10年漬け込んだ沢庵です。見た目だけでなく味わいも変化していきます。」

「だんだん味が変わっていきますね。10年ぐらいになると、味わいが深くなってきます。」

私は大本山妙心寺で、古くから伝わる禅僧の食べ方を体験させていただきました。

「これはいつも召し上がるお食事ですか?」

「基本的に一汁一菜と言いまして、まず一番左にご飯があります。今日は麦飯になっています。真ん中にはナスのお味噌汁、そしておかずは一つだけ。それに沢庵が2枚添えられた、こういった質素な食事になります。」

「まず初めに、サバというお供え物をします。お箸を取っていただいてよろしいですか? 箸先を少しお味噌汁で濡らし、ご飯の粒を3粒から7粒ほど取り、手のひらの上で3回回して、お供え物としてお供えします。生きるもののために、自分だけではなくお裾分けをするのです。」

「次に、イワシを取り、ご飯から一口二口食べていただきます。食事をいただく際は音を立てないのが作法です。」

「もちろん沢庵をいただく時も、少し難しかったですが、2枚の沢庵のうち1枚はおかずとして食べ、1枚は残しておきます。」

ここからは、寺ならではの沢庵の旅です。

お茶碗を取っていただき、手のひらを返して「もういいですよ」と合図します。手を挙げていただいて、お茶碗に入れたのはご飯のおこげで作ったお茶です。そして、残した沢庵をお茶の中へ入れ、たくあんを使ってお椀を洗います。

お椀を洗い終わったら、たくあんをいただきます。最後にお茶を飲んで、全てに感謝し、無駄なく頂くことで、その作法を完成させます。沢庵を噛み締めて食べることで、その深い味わいを感じることができました。しょっぱさの中に甘みを感じることができ、やはりお漬物は素晴らしいと再認識しました。

「お漬物は私が小さい頃から食卓にあり、今も自分で軽い浅漬けを作ったり、日常的に食べています。しかし、漬物に対して深く考えたことはありませんでした。それでも、漬物が日本の風土と自然の恩恵を受けて、皆さんの細やかな手仕事によってできていることを改めて知りました。」

「お味噌汁の準備はこれでいいかな?じゃあ、豆腐とネギを切って、あ、ちょっと待ってください。これから美味しいお味噌汁を作るんですよね?なんだか、合戦に向かうような厳かな気持ちになりませんか?」

「はい、きちんとしたことを言いたくなりますね。今回は、ただお味噌汁を作るだけなんですが。」

「はい、お願いします。家庭料理から懐石料理まで、和食に欠かせないだし。一口にだしと言っても、昆布や鰹節など様々な種類があります。その甘みは、今や世界中から注目されています。」

食い倒れの街、大阪。江戸時代、北前船で北海道から福井を経由して昆布が大阪に集まり、出汁文化が根づきました。大阪市南船場にある、きつねうどん発祥の店として知られる「曇天」は、明治26年に創業しました。親子二代で切り盛りしています。店自慢のだしを引くのは、息子の宇佐美成治さんです。

朝8時、その日に使う出汁作りを始めます。利尻昆布をベースにした合わせだしです。「やっぱりその最後まで飲めるだしが、大阪の出汁ですよね。」と宇佐美さんは語ります。うどんに染み込むように、出汁と絡むうどんを作っています。

削り節は、鰹節など三種類の素材を使用します。特に「本枯れ節」と呼ばれる鰹節は、すっきりとした香りが特徴で、利尻昆布とともに基本となります。これに合わせるのが枯れ鯖節で、濃厚な香りを加えます。

削り節の使い方にも特徴があります。削り節を粉状にすることで、一気に味が回ります。出汁を引く直前に粉にすることで、新鮮な香りと旨味が引き出されます。創業から129年間、変わらない黄金色の一番だしです。

一番だしは油揚げに加え、醤油とお酒で煮込みます。これが店こだわりのきつねうどんです。麺はだしが絡むように工夫した自家製です。「うどんと油揚げが三位一体となって、こそ美味しいおうどんになる」と宇佐美さんは話します。

今日三つ目のツボは地味を生み出すハーモニ


私の起源には諸説ありますが、その一つは中国から伝わった精進料理と言われています。鎌倉時代の僧侶・道元が書いた『典座教訓』によれば、道元が中国に渡った際、面のスープを作るためのしいたけが見つからないと現地の僧侶が言ったと記されています。このことから、当時から精進料理が存在していたことが伺えます。

精進料理の研究家、藤井まりさんは、精進料理を始めたのは36年前で、亡くなった夫・宗徹さんがきっかけでした。宗徹さんは鎌倉の建長寺をはじめ、数々の寺で典座として食事作りを任され、その後、各宗派の精進料理を網羅した書籍をまとめました。藤井さんはその遺志を継ぎ、現在では精進料理の研究家として教室も開いています。

精進料理に使われる出汁の主な材料は、昆布、椎茸、切り干し大根、大豆の四種類です。藤井さんにその作り方を教えていただきました。

こちらは大豆です。まずは焦げ目が付くまで煎ります。しばらく時間がかかりますが、雨の日の強い見物などに使うとおいしいです。その後、水を加えて少し煮ます。こうすることで、大豆の甘みと旨味が染み出した精進だしが完成します。

精進料理の出汁の特徴は、使い方にもあります。全ての材料を無駄なく使うのです。一物全体を食べるという考え方があり、出汁を取った昆布や椎茸、大豆も全て食べてしまいます。これにより、ゴミが出ず、環境にも配慮しています。また、大豆は貴重なタンパク源ですし、昆布と椎茸の合わせ出汁は、けんちん汁などの料理に使われます。

大地の恵みに感謝して、全てを残さずいただくのが精進料理です。炊き込みご飯が炊きあがりました。

日本の食卓になくてはならない調味料、醤油。

現在の醤油に近いものが登場したのは、室町時代とも鎌倉時代とも言われています。安土桃山時代には、当時の国語辞書にあたる書物に「醤油」という文字が見られます。当初は関西地方を中心に製造されていましたが、江戸時代中期になると関東が醤油の一大生産地となりました。

岡山県有田郡湯浅町は、醤油の発祥地と言われています。会津や麦、野菜などを使った金山寺味噌を作る際にできた上澄み液が、醤油の起源と言われています。江戸時代には92軒もの醤油蔵があった湯浅町。創業天保12年、181年の歴史を誇る醤油蔵があります。創業当時からの製法を守り続けており、大豆と小麦、塩と水を使ったもろみを1年から1年半、専用の蔵でじっくりと熟成させます。もろみは定期的にかき混ぜて空気を送り込み、発酵を促進させます。この蔵では、創業当時から使い続けている杉の樽を使用しています。建物も181年前のまま使用しており、これらすべてが醤油作りに欠かせない要素だと言います。

「祖父が天井の雨漏りがひどくて張り替えたことがあったんですが、その後、桶の発酵がうまくいかなくなってしまいました。それで元の状態に戻そうと、内側の板だけ当時のものに戻し、屋根の部分は張り替えたんです。そうしたら発酵も元に戻りました。」

熟成が終わると、次は手作業で醤油を絞り出し、最後の仕上げに入ります。日持ちを良くするため、赤松の薪を使って醤油を煮炊きします。これは創業以来変わらぬ方法です。

「薪を使うことで、ゆっくりと温度と火力を上げていけるんです。ガスバーナーやオイルを使うと、火力が一瞬で強くなりすぎて、味が苦くなってしまうんですよ。だからこの間を大切にして、ずっと薪で焚いているんです。」

火を入れ始めておよそ3時間。沸騰させないように火力を調整しながら、丁寧にあくを取っていきます。少しでもやり方を変えると、全く違う味になってしまうと、蔵元の加能さんは言います。

「この建物で作ってこそ、醤油の味が生まれるんです。新しくすることは簡単ですが、このままの状態で作れる限り、ずっとこの方法で作り続けたいと思っています。」

仕込みからおよそ1年半。江戸時代から続く伝統の味が、こうして完成します。

今日最後の壺 先人の知恵は時を超えて

群馬県前橋市。醤油の専門店があります。蔵元をめぐり、全国から集めた醤油が並んでいます。店のオーナー高橋万太郎さんです。

「そうですね。東北から九州までで、蔵元の一都六十ぐらい。商品アイテムと百種類ぐらいっていう形になります。一般の方で醤油を嫌いっていう方って相当少ないと思うんですけど、ただじゃあ醤油意識そして買ってるかとか使い分けてるかっていう人ってもう限りなくゼロにしてほしいなと思っていて、じゃあちょっと小さくして気軽に味比べができるようにしたらいいかなっていうのでこの小瓶専門の専門店を始めたです。」

独自に醤油と言ってもいろいろな種類があります。こちらは小麦を資源量とした白醤油。西日本ではおなじみの薄口醤油。こちらは九州地方の濃口醤油をべースに甘みをつけた甘口醤油。そして最も一般的なのが濃口醤油です。出来上がった生醤油で再び醸造を行う再仕込み醤油。しょうゆたまり醤油は大豆に工事を加えできた味噌玉を一年以上発酵させて作ります。高橋さんは料理に合わせた醤油の使い分けを提唱しています。

一般の方って、醤油ってなかなか使い分けるっていう感覚ないと思うんです。で、ただワインの世界で白ワインとか赤ワインって聞くと恐らく多くの方って食べる食材とか食事の内容によって飲み分けてらっしゃる気がするんです。それも全く同じことが当てはまると思ってます。

刺身の種類によって使い分けることで、より魚の特徴を引き出せると言います。

「一言にお刺身と言っても、白身と赤身でまず違うと思ってます。特に白身系の味が淡白で繊細な味わいのものには白醤油とか薄口醤油。この二つっていうのがうま味を抑えて塩分濃度ちょっと高めにしてあります。なのでむしろうま味を抑えた醤油をかけた方が素材そのものが生きてくる。」

一方マグロなどの赤身の刺身は祭仕込み醤油やたまり醤油。醤油のうま味を加えることでより濃厚な味わいに。甘口醤油は卵かけご飯に。うまみと甘みが卵をより引き立ててくれます。照り焼きにはたまり醤油。

「これ自体はうま味が濃厚なんですけども、香り成分が若干控えめなので、まさに照り焼きがいい例なんですけど熱加えるとぐっといい香りが出てきたりもするんです。」

日本の食卓に欠かすことのできない醤油。
使い方によってまだまだ醤油の可能性は広がると高橋さんは考えます。

「やっぱり日本人で嫌いな人がいないっていうことと、あと日本人やっぱりにDNAに刻まれてるっていうと極端かもしれないですけど、私たちも海外に行って帰ってくる飛行機の中であれ食べたいなって思うものって大抵醤油使ってると思うんです。っていうのはやっぱり日本人なくてはならない調味料っていうのが一番の魅力。」

日本の風土と暮らしの中で育まれた先人たちの知恵の結晶。
和食の伝統は未来へと受け継がれていきます。