イッピン「進化する“みやび”~京都 工芸品と菓子~」

イッピン「進化する“みやび”~京都 工芸品と菓子~」

千年の都、京都。御所を中心に優雅な文物が次々と生まれ、それが庶民の間に広まり、親しまれていった。

優雅な御所うちわが進化した「透かしうちわ」。

あおぐのではなく、見て楽しむ。また、皇室の祝い事で引き出物によく使われる「金平糖」。

いまでは60種類以上の味が楽しめる。さらに京都名産の竹を使った繊細なアクセサリーで人気を集める女性工芸家。

京都ならではの工芸品と菓子の魅力、その製作過程を紹介する。

【リポーター】三倉茉奈,【語り】平野義和

イッピン「進化する“みやび”~京都 工芸品と菓子~」

放送:2019年9月3日

千年の都京都。御所は政治だけでなく華やかな宮廷文化の発信地でした。雅な品々がここから庶民の間に広まり、やがて驚きの進化を遂げていきます。そのひとつがこちら。透かしうちわです。風を送るのではなく目で楽しむうちわ。季節の花々や生き物が繊細優美に描かれ、インテリアとして楽しむものなんです。ボンボニエール中には金平糖が入っていました。ポルトガルから伝えられたこのお菓子。京都の人々に親しまれ。明治に入ると皇室の祝いの品として使われるようになります。ここは京都でただひとつの専門店。今では60種類以上の味が楽しめるんだとか。今日は京都ならではの雅な色、形そして味に迫ります。

奈良にある高松塚古墳。国宝の壁画です。女性が手にしているのはうちわ。うちわはもともと高貴な女性が顔を隠すために使うものでした。都が京都に移ってからも、うちわは優雅さの象徴。庶民の憧れでした。江戸時代には雅な絵柄をつけたうちわが大流行。御所うちわと呼ばれました。夏の暑さをしのぐのに欠かせないものとなっていきます。こちらは300年以上続く老舗の料亭。綺麗な屏風ですね。あこれうちわじゃないですか。花や鳥や虫などがまるで日本画のように繊細優美に描かれています。しかもうちわは透けている。絵柄がより引き立って見えます。名付けすかしうちわです。「京都の夏は暑いので、まずは見た目からお客様には涼を感じてもらいたいし、京都らしいね、きれいねと声かけていただいております」やってきたのは創業330年のうちわ専門店です。

普通のうちわだと前面に紙が貼ってあり、その紙に絵柄が描かれているんですが、すかしうちわは骨に直接絵柄を貼り付けています。一体どうやっているんでしょう。10代目の当主・饗庭智之さん。「今貼っているのは飾り用で少し骨が多めなんで100」普通のうちわでは骨の数は50本ほど。でも透かしうちわは倍の100本必要だと言います。壊れやすいので強度を高めるため骨の数を多くしなければなりません。それだけ手間がかかります。竹ひごにのりをつけ台紙の上に扇形に貼っていきます。この時竹ひごを3段階にずらすのがポイント。綺麗な扇型になりました。ここから絵柄を貼り付けていきます。表と裏。全く同じ形の和紙を貼り付けます。裏側は青い和紙のみ。表には青に加えて花びらに白と灰色の和紙が使われています。表と裏の絵柄が少しでもずれると商品になりません。何種類もの色の和紙を使ってピッタリに合わせます。この朝顔の場合は。まず青白灰色青と重ねた4枚の和紙をずれないようにしっかり止めます。それを絵柄に合わせて慎重に切り抜きます。切るとき力を入れすぎると、重ねた和紙がずれてしまいます。コツは刃先をたて、切るというより軽く撫でるという気持ちで。表側の三色と裏側の青。図柄が揃いました。裏側の和紙を先ほど扇形にした竹ひごに貼り付けます。ここで相葉さんが持ち出したのが木の板です。こうして裏側ができあがり。これに合わせて表側を貼っていきます。裏側の絵柄を確認しながら、寸分の狂いもなく同じ場所に貼り付けていきます。貼り終わったら竹ひごにしっかりと固定していきます。そしてうちわのサイズに合わせて余分な和紙をカット。最後にもうひと仕事。竹ひごの先端部分をこのままにしておくわけにはいかないのです。細く切った和紙を使って先端をつないでいきます。それがなかなか神経を使う難しい作業なんです。「空中で貼っていきます。変に引っ張って貼るとそこがつれたり、かたちが不細工になることがあります」見るだけで涼しい透かしうちわ。ただただ見とれてしまうばかり。「皆さま色んな所でおののの楽しみ方で色々楽しんで頂けたらそれを喜んで後ろでつくらしてもらいます」

驚きの竹細工繊細で美しいアクセサリー

ここは嵯峨野。美しい竹林が有名ですよね。京都は全国でも指折りの竹の産地。寒暖の差が激しいため肉厚で良質の竹が取れます。竹を使った工芸品作りも盛んに行われてきました。茶筅、茶杓などお茶の道具にも使われてきました。京都の人々と竹には長い歴史があります。 小倉智恵美さん。独特な感性で今注目を集める竹細工職人です。「伝統的な網目模様を使っています。花籠とか盛り籠に使えるような籠です」京都の繊細な工芸品は現代の人にも魅力的だと言います。「ずっと京都に憧れがあります。伝統的な工芸に魅力があります」小倉さんは神奈川県出身。京都の竹細工に魅了されこの世界に。若い人にもアピールするように竹のアクセサリーに挑みました。今一番の人気はこのバングル。腕輪です。伝統的な網目模様にさらに工夫を加えて。「細かい。同じですね編み方が」「細いところが0.5 mm 幅なんです」小倉さんは京都で学んだ昔ながらの方法を大事にしています。なたを使って竹を幅1ミリいかになるまで割っていきます。さらに補足するため丸太に二枚の刃を打ち付けます。この刃と刃の間に竹ひごを通して行きます。これも古くから伝えられてきたやり方。 幅と厚さが異なる3種類の竹ひごが出来上がりました。これを編み込んでいきます。横にした3本の竹ひごに斜めに竹ひごを交差させます。指先に神経を集中させて。「六つ目網という六角形の編み方」六角形の網目は邪気を払うおめでたい文様。幅わずか8 mm の六角形が整然と並びました。ここからが小倉さんオリジナル。六つ目編みにさらに手を加えていきます。幅0.5ミリの極細の竹ひごを六つ目網の中に込々、より緻密な模様にしていきます。竹の繊細さ、しなやかさをもっと引き立たせたい。手わざの限界にまで挑戦したい。これが京都の竹細工の実力です。最後は外枠にはめ込んで。竹よりも柔らかい籐の皮で二つを丁寧につなぎ合わせます。「完成品です」繊細さと力強さを併せ持った手仕事の結晶です。「京都の伝統工芸を残したいという思いが強いので、他から来たものですけれども是非あの後世0につないで行けるようにしたいと思います」

不思議な味の体験 手作りの金平糖

皇室の祝賀行事の引き出物。ボンボニエール。この中には様々なお菓子が入れられますが、なかでも多いのが京都の金平糖。金平糖は16世紀ポルトガルからもたらされたと言われています。京都にその製法が伝わったのは江戸時代。以来この町の人々に親しまれ皇室ゆかりの菓子になりました。創業170年専門店を訪ねました。工房に入らせて頂きました。「中、暑いですね」五代目の清水泰博さんです。 直径二メートルほどの鉄の釜。これを熱して回しながら金平糖をつくります。今ここでは様々な味の金平糖を作っているんだとか。マンゴーにスイカ。「丸ごと食べてるみたいやな今ある方もいらっしゃるんですけど」その数なんと60種類以上。中には予約して1年待ちのものまであるとか。味は後からコーティングしてつけるのではありません。鉄の大きな釜を回しながら職人がタイミングを計って蜜を入れていきます。味はこの蜜の中に仕込まれているんです。完成までになんと2週間。少しずつ少しずつ蜜をかけつぶを大きくしていきます。あの独特の突起も大きくなります。従来の金平糖の蜜はグラニュー糖を溶かしたもの。栗やスイカなどを様々な味はこのグラニュー糖に混ぜ合わせています。蜜をかけて行くと独特のあの突起ができます。転がる粒に蜜をかけると鉄釜に接したところが熱で硬くなります。そこが膨らんで転がると今度は別の場所が膨らむ。こうして少しずつ膨らみが大きくなり、突起になります。「流れ落ちる音。この音すべてがちがいます」蜜の種類が異なれば流れ落ちる音が違ってくる。職人はそれを聞き分けて裁量のタイミングで最適な量の蜜を注ぐといいます。まずは栗。今度はイチゴ味。「多分違う風に聞こえているんでしょうね」コリッとした歯ごたえ。口の中に広がる多様な味わい。それを可能にしたのは職人の鋭い耳でした。「ドライフルーツを餅ちいてその上に金平糖の形にして、噛むとその中から本当の素材が出る。そんな金平糖に挑戦していきたい」雅な文化。濃密に培っていた京都。そこに生きる職人は伝統にあぐらをかくことなく新たな雅を生み出そうとしていました。

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