ガラスに泡を封じ込めた幻想的なグラスや、万華鏡のようなまばゆい輝きを放つ切子の器。千葉で生まれた独創的なガラス製品の魅力と職人たちの技に中山エミリが迫る。 今、千葉で生まれたガラス製品が人気だ。ガラスに泡を封じ込めた幻想的なグラスや、海外で学んだ技法から生まれた神秘的な香水瓶。50年ほど前からガラス工房が増えだした房総半島では、若き職人たちが日々競うように独創的な色や形を追求している。切子の器に万華鏡のような輝きを与える研磨の技など、 千葉ガラス製品 の新たな世界を切り開こうと挑戦する職人たちを中山エミリが徹底リサーチ!
【リポーター】生方ななえ,【語り】平野義和
放送:2021年2月23日
イッピン 「アイデアが止まらない!〜千葉 ガラス製品〜」
まばゆいほどのきらめき。
実はこれガラスで作られた輝きなんです。
職人の手によって繊細に磨き上げられた器はまるで万華鏡のよう。
置くだけで特別な存在感を放つ逸品。
千葉県で生まれたガラス製品です。
今、千葉から斬新なガラス製品が次々誕生しているのをご存知ですか。
ちょっと不思議な形のワイングラスから、美しいバラを思わせる器のセットまで。
アイデアあふれる製品の数々。
すごいきれいですね。
見る角度で表情も全然変わるんですね。
イッピンリサーチャー中山エミリさんを虜にしたのは、きらめくガラスに泡を封じ込めた幻想的なグラス。
泡が水中に立ち上る瞬間を切り取ったようなデザインが印象的。
アレンジ次第で使い方はさまざま。
年間七千個を売り上げる人気製品なんです。
斬新でモダンな千葉から生み出されるガラス製品の魅力に迫ります。
東京六本木。
大人が集う夜の街で話題を呼んでいる器があります。
泡を閉じ込めたあのグラス。
お酒が美味しそうに見えると評判なんだとか。
「色のついたお酒が特に栄えますよね。シャンパンとかあとカクテル見栄えがいいですね。
女性には受けますね。もう見た瞬間にかわいいっていう言葉が出てくるので」
琥珀色のお酒を注ぐと泡に色が映り込んでまた違った表情に。
グラスが生み出されたのは千葉県の九十九里。
房総半島にはガラス工房が数多く建ち並んでいるんです。
創業八十六年のガラスメーカー菅原工芸硝子。
全国に向けて五千種類もの製品を作っているこの会社。
泡グラスは十年ほど前に開発したんだ
これはどういうきっかけで生まれたんですか
「ガラスに気泡っていうのはある意味大敵で、製品作ってるとどうしてもそれが残っちゃったりだとかして、
そうするとこれ失敗作だって言って壊すですね。その泡を生かして何か表現がを職人たちが考えまして」
ガラス製造につきものの泡をあえて生かすという逆転の発想。
幻想的な泡の数々はどうやって生み出されるでしょう。
泡のグラスを作ったのは職人歴五十三年のベテラン塚本衛さん。
見せていただいたんですけど
気泡を作る作業をしますか
まず塚本さんが向かったのは工房中央にある炉。
中には溶けたガラスが入っていて、必要な分をさおに巻き取るんです。
「これが千二百度ぐらいあるんですよ」
ここで塚本さん大きなピンセットのようなものを取り出しました。
一体何に使うかというと。
ガラスの先をちゃんちゃんとつまんでいます。
「これがアワのもとになるんですよ。このつまみがうまくいかないといい泡はできない」
ガラス全体がまるでサザエのような形になったら準備完了。
まんべんなく突起ができているか確認したら再び炉へと向かいます。
サザエのガラスの周りにさらにガラスを巻きつけました。
すると。
「先程つまんだところが泡になった」
よく見るとガラスの中に泡が出現。
どうやって生まれたでしょう。
秘密は塚本さんがつまんだ突起にあります。
でこぼこした表面にガラスを巻きつけることで、窪んだ部分に空気が閉じ込められ美しい泡となるのです。
さらに塚本さんあえてランダムに摘むことである効果を生み出しているというのですが。
果たしてどういうことでしょうか。
そう突起が大きな部分には大きな気泡が。
小さい部分には小さな気泡が生まれるんです。
つまみ方をコントロールすることで、大小さまざまな泡が湧き出る幻想的な世界を表現していたのです。
最後は整形作業。
金属の型に入れて息を吹いて形にしていきます。
慎重に息を吹き入れることを三十秒。
「これで完成なんですよ」
すごい。うわ綺麗。
見事に泡が閉じ込められたあのグラスが生まれていました。
竿から外し、十分に冷やして余分な部分をカットすればグラスの完成です。
「泡一個一個の上がってくる感じを味わいながら使っていただけるかと。一個一個コントロールしてやっているんですけどもね。もっと先にいいものがあると思わせてくれるんですよね
奥の深さにはまってしまう」
職人のあくなき探究心を刺激するイッピンです。
ガラスの可能性を広げる若い力
自然豊かで広々とした千葉にガラス工場が増え出したのは今から五十年ほど前。
都心へのアクセスも良く、全国から職人たちが集まってきます。
中でも目立つのが若者の姿。
一流を目指して腕を磨いているんです。
飴細工のようにガラスを操るのはこの道九年の若手職人。
作っていたのは可憐で柔らかなフォルムが印象的な小鳥の一輪差し。
伝統にとらわれない自由な発想で、ここ千葉から新しい製品が続々誕生しています。
中山さん話題の製品があると聞いて早速工房へ。
とてもきれいですねこれ。香水とかを入れる。こう回してみると凄く不思議ですね。層になってるんですよね。
一つ一つ表情が違い、自分だけのお気に入りを見つけることができる香水瓶。
直線と曲線が混在した神秘的な佇まいが人気です。
作者の谷川亜希さん。
アメリカやチェコで修行を積み、様々な技法を取り入れていますね
香水瓶にも少し変わった材料を使っているそうですが。
これが板ガラスっていう。
そうですね。大体こういう本当に切りっぱなし
なんと材料に使っていたのは建物の窓などに使われる板状のガラス。
まず小さくカットしたら。
断面を際立たせるため一枚一枚に白い塗料を塗っていきます。
六枚の板ガラスを重ね合わせてブロック状のガラスを作るんだそう。
電気釜に入れて熱するとこの通り。
一つの塊に。
このガラスをさらに高温の炉で熱します。
そしてここからが腕の見せどころ。
一つの塊を器にしていくんです。
独特の丸みはどうやって生み出されるのでしょうか。
「だいたい真ん中になるように穴を開けていく」
そして谷川さんが修業時代に身につけたピンブローという技です。
「濡れた新聞紙を丸めたものなんですけれど、それをここに当てていくとこの水蒸気が音を出しているのが分かるんですけど、空気の逃げ場がなくなって膨らんでいくピンブロー」
一体何が起きていたかというと、高熱のガラスに濡れた新聞紙を差し込むことで水分が暖められて一気に膨張。
ガラスを押し広げていたのです。
多くの場合整形作業は口で空気を吹いて行ないます。
しかしこの技はより繊細な力で押し広げるため柔らかなフォルムができるんです。
若手職人の創意工夫がふんだんに詰まった香水瓶
ガラスの可能性が広がるイッピンです。
万華鏡のような美しさ
整然としたカットの向こうに連なる万華鏡のようなきらめき。
優美に光り輝くこの器が本日最後のイッピン。
作ったのは房総半島西部に工房を構える若手作家。
千葉の自然に憧れ五年前に富山から越してきた田中雅樹さん。
News/Schedule of Masaki Tanaka | 田中雅樹
きれいですね
シンプルなのに凄くこのレンズの効果で万華鏡のように見えてすごく面白いデザインです。
デザインのベースは古来から伝わる切子碗。
伝統的な器ですがガラスを磨き上げることで全く新しい現代的な輝きを生み出しました。
これがもとの状態です。
つるつるの普通の状態なんですね
ここに手作業でカットをほどこしていきます。
うんまず表面に目安となるあたりを付けたら。
こちらの機械で削っていきます。
まずは粗削りから。
一発勝負っていう感じ
使うのはダイヤモンド製のホイール。
あたりを目印に慎重にカット位置を探ります
三十秒程削るとざらざらとした円の形が浮かび上がりました。
田中さん。隣り合う部分にも円を作っていきます。
器のふちをぐるっと一週。削っていったら。
このような状態に。
でもよく見ると完成品のカット面は円ではなく六角形。
ここからどうやって形を変えていくのでしょうか。
田中さん先ほどの円から一段下を同じように削っていきます。
すると円と円が連なる部分にきれいな直線が現れてきました。
最初に削った一列の円の下に半個ずつずらしで二列目の円を削っていきます。
すると円と円が接する部分に直線が。
これを繰り返すとやがてきれいな六角形が連なっていくんです。
つるつるだった器の表面を削り続けること五時間。
ようやく六角形の形が前面に。
でも作業はまだまだ終わりません。
ここからあのダイヤモンドのような輝きを出していきます。
使うのは目の粗さの違う四種類のホイール。
まずダイヤモンドのホイルで粗削りし、次第に目を細かく。
仕上げは木のホイールと柔らかい布のホイールで美しい輝きを出していくんです。
完成までにかかる時間はなんと六日間。
木製のホイルで削ると、器に透明感が出てきました。
ここが磨いたところ。
ほんとだつるつるに一気に向こうが見えましたね
ここまで来たら完成まであと一息。
布のホイルで仕上げたら。
磨き上がりました。
いや本当に綺麗ですね。
ようやく完成。
つるつるだった表面が、丹念な研磨を積み重ねまばゆい輝きに生まれ変わりました。
光が幾重にも映り込む万華鏡のような美しさ。
ここにはある秘密が隠されていたのです。
実は一つ一つのカット面がまっ平ではなくわずかに窪ませて作られています。
このことでレンズのような効果が生まれ、六角形の中にいくつもの面が映りこむのです。
ああ完成品をよく見ると確かにわずかなくぼみが。
田中さん高度な研磨作業でより幻想的な表情を作り出していたのです。
ーこのガラスっていう光を透過する素材。例えば窓辺に置いた時と家のライトの下とかでは違う表情が出ると思うんですね」
ひた向きな削りの技が無類の輝きを与えたイッピンです。
職人の腕ひとつで生み出す新たなガラスの世界。
まだ見ぬ可能性を追い求め挑戦は続きます。