表面に赤い漆を塗ったカップが今、大人気。実は木ではなくガラスに漆を施したもので、中は色とりどりの線で彩られ「まるで万華鏡のよう」と評判だ。
これは椀や盆などの生活雑器で有名な長野の木曽漆器。近年では異素材との融合を図り、新たな境地を切り開いている。
使うほどに艶が増していく漆塗りの革財布や、最先端のハイテク技術を駆使して生まれた酒器など。
伝統とアイデアを融合させたものづくりに、女優の南沢奈央が迫る。
2012年12月4日放送
【リポーター】 南沢奈央 ,【語り】平野義和
イッピン 「山里生まれのクールなお椀!長野県 木曽漆器」
放送:2019年3月19日
プロローグ
赤一色の器。表面には漆が塗ってあります。でもそれだけじゃありません。木ではなくガラスに漆を塗っているんです。中は色とりどりの線で彩られ、まるで万華鏡。長野県の伝統的な工芸品。木曽漆器。それが今思わぬ進化を遂げています。こちらの財布は革と漆とのコラボレーション。最先端の技術を駆使。合成樹脂に漆を塗ったものも。異なる素材との融合で新たな境地を開く木曽漆器との最前線に迫ります。
木曽漆器の故郷
長野県塩尻市木曽平沢。日本有数の漆製品の産地です。工房の数は実に90以上にのぼります。漆とガラスを融合させている工房へ。ガラスに漆を塗るようになったのは25年前。「きっかけは先代がちゃぶ台。低いテーブルにガラス天板をはめる商品があって、それに漆を塗ったのがきっかけで、ふつうは塗ることはできても数ヶ月してくると剥がれてきてしまうのではがれない技術開発をしたもの」中でも人気なのがこちらのグラス。いくつもの色で塗り分けられた細い線が印象的です。「漆でぐるっと塗っています。内側と外側とのギャップを楽しんでもらうためにぐるっと」漆を塗るのはこの道10年の漆職人小坂智恵さん。グラスの外側には漆を定着させるため特殊なコーティングが施してあります。 最初に塗る漆は赤い顔料を混ぜたもの。蒔絵筆で塗っていきます。極細の筆先。一気に線を引きます。 「まっすぐ何もないところに線を引くのは意外と大変で。ガラスの内側を目で拾ってしまうのでこの距離感がつかみにくいんですよね」続いては先ほどより暗めの赤を引いていきます。左手を微妙に動かしています。スピードも重要。乾くと漆の伸びが悪くなってしまうんです。今度は黄色。一旦乾かした後、最後の一色です。「金だ」「品が出ますね金が入ると」描いた線の数は90本。この後電気釜で焼き漆を定着させます。次は全体に赤い漆を塗れます。やすりで表面を削り始めました。実は漆の表面に独楽かな凹凸を付けることで上から塗る漆が一体化してはがれにくくなるのです。筆先から伝わる微妙な感覚を頼りに均一に仕上げていきます。表面についた小さなホコリを取り除きます。この後電気釜でもう一度焼いたら完成。ガラスの輝きと漆の落ち着きが見事に融合しました。「今までの湿気になかった表現方法を追及できるのでやりがいがあります。気軽に友達にプレゼントしたいと思っていただけるようになっているような気がします」
持ち歩ける漆製品
次に向かったのは、岩原裕右さん。新進気鋭の漆職人です。「牛皮に漆を施します」若い世代にも漆を身近に感じて欲しい。岩原さんは9年前から漆と皮とのコラボレーションに取り組んでいます。「こういう感じで使っているうちに艶が」3年間で使い込んだ財布。確かに新品の物に比べ艶があります。「漆自体は硬化すると柔軟性はなくなっるものなのでやっぱりそういうところがすごく難しいところではありますね」漆は皮になかなか浸透せず、厚い膜のようになります。そのため軽く曲げただけでひび割れてしまうという問題がありました。この点を克服するため岩原さんは漆に様々な液体を配合。漆を皮に染み込みやすくしました。詳しい成分は企業秘密とのこと。四年がかりで開発した苦心の作です。作業に使うのも一般的な刷毛ではなくスプレーガン。漆を薄く塗ることでひび割れを起きにくくする効果があるんです。淵の部分には黒い漆。美しいグラデーションが出来上がりました。作業はさらに続きます。色に深みを加えようというのです。色づけしていない生漆を表面に薄く塗ります。そしてこの後ぬったばかりのうるしを拭き取ります。「時間がたつと漆が乾き始めて蕗鳥がしづらくなってしまうので手早さが大事」摺漆と呼ばれる伝統技法。漆を塗ってはふき取るという工程を何度も繰り返します。こうして厚さ7ミリ以下という薄い漆の層を幾重にも重ねていくのです。「拭き具合もあまり拭きすぎてしまうと仕上がった時に艶が鈍い仕上がりになってしまったりするので結構加減が難しいですね」拭きすぎると漆が減り明るくなりすぎます。一方拭き取りが足りないと漆が多すぎて暗く沈んでしまうんです。色の深みが狙い通りになるよう漆の厚みを手に伝わる感覚で確かめながら仕上げていきます。「これが乾燥が終わって完成したものです」この後縫製をしたら完成です。「手間暇かけてこれからもいいものをつくりたいと思います」
最新技術から生まれた驚きの漆器
起訴で漆製品が盛んに作られるようになったのは江戸時代のことです。中山道の尺場待ちだったころ多くの旅人が訪れました。その土産物として漆を塗った櫛や弁当箱が人気を博したのです。その後家具や食器など幅広い製品を手がけるようになり、木曽漆器の名は全国に広まりました。そんな長い伝統を受け継ぎながら今も新たな挑戦が続いています。こちらの器は和紙に漆と錫を塗ったもの。この小皿は桜の葉に漆を施したものです。そして最近話題なのが・・・。「とそ器の銚子。お正月に使う道具なんですけど。これがよく見るとそ器の銚子ですけど、洗う時ちょっと面倒だったりするんですよね。蓋や口が小さいので、何とかそういうことも変えたいなと」昔から扱ってきた伝統的なとそ器。それを現代風にアレンジし使い勝手もよく出来ないか。まず洗いにくさを解消するため蓋を取り外せるように。さらに収納する際にかさばらないよう蓋をひっくり返すことでコンパクトに。「この開閉っていうのがなかなか木では精度が出ないんですよね。で何でこれを作ろうかなとにこれ実は樹脂なんですね。3 D プリンターで作ったんです」合成樹脂を漆を組み合わせた銚子。製作はいくつかの会社で分担しています。成型するのは医療機器やゲーム機などの商品開発を手掛ける会社。「こちらになります」これが銚子を成型する3Dプリンター。 abs樹脂という耐久性に優れた樹脂をセット。設計図のデータを読み込ませます。作業開始。厚さ0.19 mmずつ樹脂を積み上げていきます。待つこと9時間。いよいよ最終段階。蓋をはめるための溝も正確に作っていきます。成型が終了。ところが光の性質上どうしても表面に細かな段差が残ってしまいます。そこで塗装会社の元へ。表面を荒削りした後スプレーガンでポリエステルの顔料を吹き付けます。このポリエステルの部分を削ることで表面を滑らかにするんです。もう一度塗装しここでの作業は完了です。そしていよいよ漆職人のもとへ。鉄分を混ぜた黒い漆を素早く塗っていきます。この作業を2度繰り返して、遂に合成樹脂と漆を融合させた銚子の完成です。「これからも新しいもの作っていくので、そういう中で異素材にどうやって今までの技術を使って漆をくっつけて行く持っていくかっていうことは考えてまだまだかっこいい器は作り続けていきたいし、でもやっぱりそのもとに経験を積んだ熟練の職人さんたちがこの街にしっかりと言ってくれるということが大事なことだなって」様々な異なる素材との融合を目指す木曽の漆職人たち。江戸時代から続く伝統に新たな一歩が刻まれようとしています。
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