「紀州漆器」の産地、和歌山の職人が作ったゆがんだフォルムに漆の艶やかさを持った盃。木地がひょうたんで作られている。海南市は漆器作りが昔から盛ん。伝統の根来(ねごろ)塗りを応用した室内用プランター、ガラスに漆で装飾しナイフとフォークが使える皿など、最新技術と伝統を融合させた、新たな製品を生み出している。その現場を前田亜季がリサーチ。何気ない暮らしに彩りを添える漆の器を目指す、紀の国の職人技に迫る。
【リポーター】前田亜季,【語り】平野義和
放送:2019年7月16日
イッピン「食卓を華やかに!うるわしの器~和歌山 紀州漆器~」
ここは和歌山県海南市。
紀州漆器と呼ばれる日本有数の漆器の産地です。
今、伝統の技を生かした新しい器が次々と生まれています。
中でも話題なのが一つ一つ形の違ったこちらの器。
繊細な模様と一風変わった形が魅力的な漆塗りの盃。
実は意外な素材に漆を塗っているんです。
モダンなデザインが特徴の円筒形の漆器。白地に浮き出る金の模様が印象的です。今漆器は和食だけのものではありません。
ガラスに漆を塗った洋食プレートも。料理を引き立てるこのお皿。
見る角度を変えると美しく色が変わっていきます。奥深い色彩の秘密は漆の塗り方にあります。
斬新なアイディアで美しい器を作り出す和歌山県紀州漆器の魅力に迫ります。
紀州漆器の故郷
紀伊水道を望む街、海南市。室町時代から続く紀州漆器の故郷です。
訪ねたのは漆塗り職人林克彦さんの工房。塗師の家に生まれた林さんはキャリア40年以上。
紀州漆器の伝統を今に受け継ぐベテラン職人です。
10年ほど前林さんは地元で採れるひょうたんで漆器を作ることを思いつきました。
ヒョウタンの括れた部分がそのまま盃の形に。「世界に一つしかない器です」これはヒョウタンを乾燥させて輪切りにしたもの。
まずは内側に布を貼り下地を塗る作業から。
岩を細かく砕いた粉と漆を混ぜたものを使い、器の強度を高めます。
何度も塗り重ねることで丈夫な器になるんです。一回塗るごとに湿度と温度が調整された部屋に入れて漆が十分乾くのを待ちます。
2、3日経ってから紙やすりで磨いで細かい傷をつけていきます。次に塗る漆をしっかり定着させる大切な作業。「塗って乾かして研いでその繰り返しです」
内側を完成させるだけで2ヶ月以上もかかると言います。内側が塗り終わったら今度は外側。
流れるようなこの模様はどうやって作るのでしょうか。「黄緑の漆を塗っていきます」
ハケで塗られた黄緑の漆をよーく見ると。
「刷毛目を残して塗ります。刷毛で塗った後の線を残す」通常は塗ってしばらくすると平らになり刷毛目が消えます。しかしこの黄緑色の漆はあえて粘り気を強くしたもの。「漆の硬さが違う。ある程度粘ってます」
このわずかな刷毛目の凹凸が模様となるポイントです。次に塗るのは深緑。刷毛目が残りにくい漆です。
黄緑色がすっかり隠れてしまいました。続いては。
「下に塗っている黄緑を出していきます」紙やすりで研いで行くと、所々に黄緑の漆が。器全体をまんべんなく研いでいきます。しかし出てくる模様はまばら。どうしてなんでしょうか。
杯の断面図です。あえて刷毛目を残した黄緑色の漆の高さは異なります。
その上に深緑の漆を塗って均等に研いで行くと黄緑色の高い部分だけが現れてくるんです。
浮かび上がってきた模様。その表情は一つ一つ違います。自然の恵みと伝統の技が生み出した杯です。「同じものを何個も作っているけどまた違う」
時代とともに進化する漆器づくり
紀の国和歌山。森林資源を使って作ったのが紀州漆器の始まりだと言われています。江戸時代には藩の保護を受け一大産地に発展。6千人もの職人が腕を競って様々な漆器を日本全国に送り出しました。これは根来塗りと呼ばれるもの。和歌山県にある根来寺の僧侶が作った漆器が長年使い込まれるうちにハゲ、模様となったことがその由来だと言います。味わい深いと評判になり、職人たちがかすれたような風合いを再現。技法として広まりました。大正時代に創業した漆器メーカー。島平さんと圭祐さん親子です。根来塗の技法を生かして時代に合った様々な漆器を作り続けています。和食に合う伝統的な器からモダンな小物まで、その種類は千以上。「どうしても漆器は若い人から離れていく感がありますのでちょっとカジュアルな感じの漆器を作っています」中でも注目されているのがこちら。植物を楽しむ室内用のプランターです。開発から製造まで5代目の圭祐さんが手がけました。プランターの素材は間伐材。「和歌山県の熊野古道のヒノキを使用しています。小さい材料を製剤してつなぎ合わせています」地元の資源を大切に使っていきたいという職人の思いです。どのようにプランターの形にしていくのでしょうか。
商品情報
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