評判のフレンチレストランで出される食器、「漆黒のプレート皿」。これは宮城県石巻市の雄勝町で生まれたイッピンで、材料は「雄勝石」という真っ黒い石!「驚くほど薄く割れる」という雄勝石の不思議な性質をいかしてこの皿は作られた。そこには1億年前に起こった自然現象が大きく関係していた!?さらに「ある技術」を駆使して生み出した端正なフォルムの「石の盃」など。雄勝石で作られた製品の魅力に女優の内山理名が迫る。
【リポーター】生方ななえ,【語り】平野義和
放送:2019年1月8日
イッピン 「悠久の時が生む 漆黒の器~宮城 雄勝石~」
プロローグ
宮城県内にあるフランス料理のレストラン。
シェフご自慢の料理を引き立てるのが黒いプレート皿。
薄く盛った塩との対比も鮮やかです。よく見ると皿の表面に凹凸があります。実はこれ石でできた皿なんです。
この石のプレート皿が生まれたのは宮城県石巻市雄勝町。
書道で使う硯の産地として有名なところです。
雄勝石と呼ばれるこの町の石が墨を擦るのに最適と言われています。
そしてなんとこの杯も雄勝石でできているんです。
石の加工とは無縁のある技術を使って石を削り杯の形にしました。
飲み口の薄さわずか2 mm。 これで飲むお酒美味しいでしょうね。
石を知り石を活かす雄勝石で作られた逸品の魅力に迫りました。
石の町
石巻市雄勝町は東日本大震災で壊滅的な打撃を受けました。現在も復興作業が続いています。
今日のイッピンリサーチャーは内山理名さん。ここは雄勝石の製品を扱うお店。黒いプレート皿もありました。
「割ったときにできる模様です。ですから一枚一枚違うのです」。
石が薄く割れるとはどういうことなのでしょう。加工場を訪ねました。
これが雄勝石。「これが割ナタという道具です。しっかり当てて叩いていく」。
細かい加工もできます。この石どんな自然の作用で生まれたのでしょうか。
石は町内の山で採れます。この当たり太古の昔は海の底でした。そのころ 山から流れてきた泥が長い時間をかけて堆積しました。一億年前大規模な地殻変動がおき、強力な力で海の底が地表に押し上げられました。この時泥の成分に大きな変化が。バラバラに向いていた物質が同じ方向に並んだのです。ある方向から力が加わるときれいに割る。独特の性質はここから来ています。
雄勝石は明治以降洋風建築の屋根に使われてきました。
大正時代に完成した東京駅にも使われ、2012年の復元工事でも採用されました。雄勝石をプレート皿にしてみたら。そんなアイデアが出てきたのは建築資材の需要が減ってきたためでした。ではその作り方を拝見。
まずはお皿のサイズに合わせて石版をカット。味わいのある石肌。でもこのままではテーブルの上に置いたとき安定しません。そこで裏側を平らにしていきます。
まずは砂摺り。粒の細かい砂を使って石を磨きます。
上からしっかりとおさえ付けます。雄勝石は強い力で押さえつけても割れません。硬くて丈夫なんです。
大まかに平らになったら、砂より目の細かいヤスリで面を整えます。縁になる部分は持ちやすいよう斜めに。石肌の凹凸がなくなりました。でもまだ先があります。
最後は手で磨くんです。小さな傷や筋目を丹念に落としていきます。
こんなになめらかになりました。「石の可能性はまだまだあります」。石の皿。それは悠久の時が生んだ不思議な魅力をたたえていました。
日本人が愛してきた硯
雄勝石の名が知られるようになったのは室町時代。硯としてでした。雄勝石は粒子の肌理が細かく、墨持ち味をよくひきだすんです。震災の前は全国で使われる硯の90%を生産していました。
震災後職人が減る中、硯づくりを一手に引き受けている樋口正一さん。
こだわりは石それぞれの良さを生かしたデザイン。「原石のどこもカットとしてないんです」。美しい硯にするためのポイントがあります。
「胸と呼びます。あれり削ってしまうとどこに胸があるか、境目がわからなくなる」
墨を擦る部分を丘。墨を貯める部分を海。その境目を胸といいます。
胸は四角い硯では直線的に。楕円形のものでは硯の形より少し小さなアーチにすると美しく仕上がるといいます。
まず石を手にとってどんな風に仕上げるかじっくり見極めます。
専用の平らなのみを使って外枠を作ります。
続いて硯の中の部分。表面を薄く剥がすように少しずつ削っていきます。墨を貯める海の部分を掘り下げていた時でした。
「傷が入ってる」。外部からの衝撃によると思われる傷。天然の素材ならではの思わぬアクシデントです。でも墨を擦る陸の部分に問題がなかったので彫り進めることにしました。
「今は石が不足しているからできる限り使う。しかしこの傷が墨をする陸の部分にあったら中止。彫らない」。
ここから丸いノミに持ち替え、胸の部分を整えていきます。
ゆるやかな丸みが出てきました。最後に砥石を使って表面をなめらかに。「自分の好きな硯を作っていきたい」。
何百年と日本中の人々が愛してきた雄勝石の硯。守り続ける職人が生んだイッピンです。
石の限界に挑戦・優美に輝く盃
雄勝石からつくった杯。飲み口の薄さわずか二ミリ。とても石とは思えない繊細な造形です。お酒を注ぐと石の縞模様が浮き出て深い味わいが楽しめると評判です。
開発に携わった島貫昭彦さん。「硯だけではなく、違うものが作れないかと考えたとき、この杯を作るような先端技術があるって言うことを知るわけだよね。そうするとその技術でまずは何か作ってみようということで生まれてきたのがこちらの杯」。
実はこの杯を加工しているのは石を扱う会社ではありません。専門は金属加工。宇宙や医療分野の精密部品を作っています。もちろん石の加工に挑むのは初めて。
「我々は金属加工業なので、石を削る場合の条件出しがむつかしい。石は堅い。もろいという難点がある。これはやってみないと分からないというのが今かなり苦しいところですね」。
杯に使うのはプレート皿や硯に使われるものより堅い石。柔らかいと機械加工に耐えられないからです。それでもなかなかうまく加工できず、試行錯誤の連続だったと言います。通常金属を丸く加工する場合、金属の方を回転させます。しかし同じ方法で石を加工したところ割れやヒビが入ってしまいました。一体どうすればいいのか。半年かけてたどり着いた結論は削る機械の方を動かすということ。今回特別に許可を得て見せてもらうことにしました。
機械の先端部分は直径6ミリ。これを回転させて動かしながら削っていきます。中心から徐々に外側へ。 一度に削る深さはわずか0.2 mm それ以上深く削ろうとすると、石に熱がこもり砕けてしまうんです。
作業は13時間続きます。この後表面がなめらかになるまで更に細かく削っていきます。
最後に旋盤を使って磨き、石につやが出てきたら完成です。
「金属にはない温かみがある。これを使って酒を飲んでもらうことによっては私たちの復興に役立つという思いを持って今は加工できてるのかなと思っています」。
雄勝石の未来に思いを託して石の可能性を切り開くイッピンです。
海と大地の壮大なドラマが生んだ雄勝石。職人たちはそれを丁寧に加工し暮らしに送り届けていました。
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