イッピン 「疲れない!楽しい!スニーカー~福岡 久留米の靴~」

福岡県久留米市で作られるスニーカーが大人気だ。キャンバス地にゴム底というシンプルなデザインと抜群のフィット感が魅力だが、これは工程の最後に靴を窯で焼くという特殊な製法によって作られたもの。いったいなぜ焼き物のように靴を作るのか?また長く歩いても、膝が痛まず疲れないと評判のウォーキングシューズも久留米産。画期的な靴の開発に秘められた物語とは?大のスニーカー好き中越典子が徹底リサーチ!

【リポーター】中越典子,【語り】平野義和

放送:2018年10月5日

イッピン 「疲れない!楽しい!スニーカー~福岡 久留米の靴~」

人気のスニーカー

横浜に今年誕生したショッピングモールのセレクトショップ。ニューヨーク生まれで世界中の洗練されたアイテムを取り揃えています。

中でも人気なのがこちらの靴。落ち着いた色とシンプルなデザイン。今日のイッピン福岡久留米のスニーカー。手作りで、男女問わず幅広い層の支持を集めているのだそうです。

「手作感の雰囲気はあります。トレンドに左右されない普遍的なデザインというところはやっぱり一番喜んで頂けると思います」

キャンバス生地にゴム底というスニーカーの定番の形。足に寄り添ってくれるフィット感。これが人気の理由です。もう一つ話題の久留米の靴があります。快適なウォーキングを徹底追求。足がつかれないと100万足以上売れています。あるきたくなる久留米の靴。その人気の秘密にまります。

福岡・久留米のスニーカー工場

福岡県の南部久留米市。知る人ぞ知るゴム製の靴の一大産地です。店を覗いてみました。久留米の靴スニーカーだけでも30種類以上あります。メイドイン久留米って書いてあります。色も形も様々で個性的。ここにはどんな技が隠されているんでしょうか。

製造会社を訪ねます。工場長の市丸和幸さん。「ムーンスター」ではスニーカーを始め長靴や上履きなど互選種類以上の靴を生産。およそ200人以上の工員が工程を分担し作業しています。

最初に案内されたのは巨大な扉が並んでいます。窯の中からたくさんのスニーカーが出てきました。工程の最後に窯で60分130°の熱と3キロ の圧力をかけて焼き上げるんだそうです。

「SHOES LIKE POTTERY(ポタリー)」 バルカナイズ製法(加硫製法)は1839年にアメリカで開発されました。とても手間がかかるため徐々に廃れていったのだとか。その貴重なやり方をこれからとくと拝見。こちらが最初の工程。ゴムを練っています。合成ゴムと天然ゴムを混ぜ適度な柔らかさにしていきます。

途中で加えるのが硫黄。硫黄を入れるのがこの製法のポイントですがその意味は後ほど説明します。次の工程はゴムの加工。様々なパーツに作り分けます。靴の底や側面など、細々としたゴムのパーツを作り後に組み合わせていくのもこの製法ならでは。

このスニーカーには9種類のゴムのパーツが使われています。これらは皆一つ一つ手で貼られていくんです。最初はつま先部分。ここはあちこちぶつかって傷つきやすい箇所なので厚めのゴムを用います。ゴムの成分が入った接着剤を使いゴムの柔らかさを活かしながら素早く買って行きます。靴の顔である美しさも求められる場所です。

次に貼るのはテープ状のゴム。靴底と布の部分をつなげる役目を果たします。続いては直接地面に触れる底ゴム。当然最も摩耗しにくく丈夫なゴムを使います。そして二枚目のテープ。側面は歩く時にたわみやすく、二重にして丈夫に強さと共に仕上がりの美しさの鍵になる部分でもあるんです。

1枚目のゴムと常に平行になるようゴムを引っ張ったり緩めたり微妙に調整しながら貼っていきます。見事にまっすぐ。履きご事地に直接関係するのは足に直接触れる中底。使うのはスポンジ状のゴム。弾力性があります。それぞれ機能を持ったゴムを複雑に貼り重ねていくため手作業でなければならないのです。バルカナイズ製法で作られる靴は手貼り靴とも呼ばれています。

柔らかいため扱いにくい。優しく丁寧にスニーカーが形になりました。そしてここからバルカナイズ製法ならではの窯入れの仕上げ。靴を窯に入れ加熱します。ここであの硫黄が活躍することになるのです。そもそもゴムの分子は細長く絡まった状態です。これを伸ばすと解け、伸び切ったままになってしまいます。硫黄を加えて熱すると硫黄が分子同士を結びつけるまです。これが加硫・バルカナイズ。加硫したゴムには引っ張っても元に戻る弾力性が出てきます。実験すると下流前のゴムは伸び切ったまま戻りません。加硫したゴムはしっかりと戻ってきます。さらに圧力をかけることでゴムの各パーツは密着し強固なものになるんです。

1時間後強さと弾力性を持ったスニーカーが出てきます。多くの工程を経て人の手をかけ、ようやく完成。「これだけ時間と手間と職人の技を作って出来上がった靴は子供と同じようなものなんでこれがやはり10年後50年後100年後ともちゃんと続くように我々もしっかり頑張っていく必要があると思います」手間ひまかけて履きやすく。メイドイン久留米のスニーカーには愛情が詰まっています。

 

久留米でゴム製の靴作りが盛んになったのには意外なきっかけがありました。大正時代にこの家で生まれ、爆発的なヒットとなった地下足袋。足袋の底にゴムを貼り付けたものですが、その発想のもとになったのがアメリカ製のゴム底靴だったのです。やがてゴム底靴そのものの生産に乗り出します。

1925年には今で言うスニーカーを作り始めました。その後も人々のニーズに応える靴を生み出していきます。防水性が高くしかも蒸れにくいサラリーマン向けの靴。着脱が簡単でつまずきにくいシニア向けの靴。 そして今話題のウォーキングシューズが登場。長く歩いても疲れないと評判なんです。

ひざのトラブルを予防する靴

見た目は普通の革靴。しかし、裏返してみると、そこには不思議な形のものが。この部分に秘密がありそうです。ウォーキングシューズを生み出したこの会社は、創業100年を超え、足袋から始まり一貫して履物づくりを行ってきました。その中でも、最も開発に時間をかけたのがウォーキングシューズでした。「膝を予防するような靴が作れないか、という発想で開発されたのがこの靴です。」

多くの人が抱える膝の不安。それを靴で解消したいという思いから生まれたのが、この靴のゴムスクリューです。では、このゴムスクリューは膝にどのような影響を与えるのでしょうか?

「膝の動きを外側に導きたい。着地の時、かかとの部分に装着されたオレンジ色のゴムで着地すると、つま先がわずかに外側に回転するように設計しています。これによって、膝が正しく動き、膝への負担を軽減できるんです。」と開発者は語ります。

正常な歩行では、膝は外側にわずかに回転する動きが自然ですが、体力や筋力が衰えると、この動きが失われてしまいます。そこで、この靴はスクリューの力で膝が外に回転するようにサポートします。着地の瞬間、体重によってスクリューがたわみ、その方向に沿ってつま先がやや外側に導かれるのです。これにより、長時間歩いても膝が痛まず、疲れにくいというメリットがあります。

この画期的な製品は、2006年に発売され、130万足近くが売れる大ヒットとなりました。

しかし、その誕生までには苦難の道のりがありました。それどころか、開発には会社の命運が託されていたのです。バブル崩壊後の1998年、この会社は経営破綻し、倒産に追い込まれました。社員一丸となって立ち直りを図り、新たなヒット商品を生み出すことが何よりも求められました。

2003年、塚本を中心にプロジェクトチームが発足。メンバーは、足のデータ解析を得意とする江西浩一郎、そしてゴムのエキスパート山崎伸一。数々の製品を開発してきた名コンビです。それまで足首から下の健康をサポートする靴はありましたが、膝のサポートまで行う靴は前代未聞でした。「そんなことできるのかな、というのがまず第一印象でしたね」と塚本は語ります。

塚本が見つけてきたのは、変形した子供の足を矯正する靴の資料。6枚羽のスクリューが特徴です。これを手がかりに、試作に取り掛かりました。

山崎は1000種類以上の靴を作ってきた経験を活かせば、できるはずだと考えました。しかし、試作品第1号が出来上がると「6枚だと、足を着地する時の荷重を支えきれない」と判明。子供用に考えられた6枚の羽では、大人の体重を支えることはできなかったのです。山崎はゴムの強度を再検討し、羽の枚数を増やしていきました。そして、最も効果的に羽がたわむ12枚という数字にたどり着きました。

羽の位置は足裏の重心近くにし、膝の真下に配置すれば膝に直接影響を与えられると考えましたが、力が働きすぎて方向が安定しません。江西はデータ収集を行い、歩行時の体重移動を測定。その数は3ヶ月で200を超えました。サンプルを作り、膝の動きを計測しながら、スクリューが最も無理なく作用する位置を探っていきました。ついに、その位置はかかとの真下であることが分かりました。着地と同時に足の方向を変えるという仕組みです。

こうして、開発開始から1年後、スクリューの形と位置が決定しました。この靴は絶対に失敗が許されません。より快適に歩けるよう、靴底にも工夫を凝らしました。最大のポイントは、できるだけ軽くすること。全てをゴムにせず、四つの層に分けました。底は重く丈夫なゴム、その上に軽いスポンジを置き、軽量化を図ります。間に硬い樹脂を挟むのは、スクリューを安定させるためです。つま先部分は二層、かかと部分は四層。異なる素材が重なり合う複雑な構造は、従来にはありませんでした。そのため、仕上げには高度な技術が必要とされました。

工場一のベテラン、緒方拓実さん。場所によって硬さが異なる靴底を研磨できる腕を持つのは、緒方さんだけでした。美しく仕上げるコツは、研磨する手を途中で止めないこと。二層のつま先は弱く、四層のかかとは強く、巧みに力を調整しながら削ります。ポイントは手の使い方。左手で押さえて軸を作り、右手で押し当てる強さをコントロールします。こうして、一連の動きが生まれていたのです。

職人の技と開発者の情熱が一つに溶け合い、ついに完成しました。このウォーキングシューズは、多くの人々に歓迎されました。一足の靴が、人々の健康と未来を変える、そんな信念のこもった逸品です。おしゃれも健康も足元から。人々が毎日長い時間を過ごす靴だからこそ、技の限りを尽くします。メイド・イン・久留米の誇りを胸に、職人たちは作り続けていきます。

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