美の壺 「進化する折り紙」

一枚の紙を折っていくだけで、ギザギザのあごをもつクワガタムシや愛らしい猫、そして空想上の生き物ドラゴンまで迫力たっぷりに折ってしまうスゴ技を紹介!ある大学教授が開発したコンピューターソフトを使えば、曲線で構成された複雑な折り紙も瞬時に完成!これまでにない形が次々誕生する。さらに驚きは、宇宙実験に採用された“ミウラ折り”。その折り方とは!?様々な分野に広がる折り紙の技と魅力に迫る!<File477>

【出演】草刈正雄,【語り】木村多江

放送:2019年5月25日

美の壺 「進化する折り紙」

紙を織るだけでいろいろな形ができる折り紙。子供の頃に遊んだ記憶あるのでは。ですが今、子供の遊びをはるかに超えるすごい折り紙が次々生まれています。口を大きく開けた蛇。これも正方形の紙を折っただけ。贈り物を和紙で折って包む門外不出の作法。日本人は古来紙を折ることに特別な意味を見出してきました。そして現代、様々な分野で広がっていく折りの可能性。その多様な世界をご紹介します。

遊ぶ

岐阜県美濃市。古くから続く和紙の名産地です。紙すき職人の有澤悠河さん。折り紙好きが高じて紙も自分で漉いてみたくなったのだとか。折り紙作家として今若手の注目株。とりわけ動物や昆虫の表現には定評があります。代表作はこのドラゴン。91センチ四方の和紙1枚をヶ月かけて織り上げました。ハサミは一切使っていません。空想上の動物のはずなのに、なんともリアル。「ドラゴンのモデルとかコウモリだったりとかそういう動物の骨格を見たりとかそういうところから研究して作ることで、よりリアルなドラゴンっていうのを作れるかなーと思ってます」ギラファノコギリクワガタ。長く突き出した大きなアゴが特徴です。有澤さんはリアリティは細部に宿ると考えています。どうやって作るのか実際に折ってもらいました。使うのは25センチ四方の黒い和紙。クワガタムシの顎にある棘の部分。紙を追ってたくさんの突起を作ります。その突起を倒していきます。「真ん中に大きなとげが一つある。ギラファノコギリクワガタの特徴になるキモになる部分です」子どものころから折り紙好きだったという有沢さん。気づけばいつも紙を折っているのだとか。「僕は折り紙が大好きなのでご飯食べるよりも折り紙したくなる」およそ20分でギラファノコギリクワガタがかんせいしました。「生きたるはずがない視覚の紙が折るだけで生き物になるというのは個人的に面白い。生き物を作るのは好きです」生き物への愛と造形へのあくなき探求が一枚の紙を変貌させます。今日一つ目のツボ。命吹き込む超絶技巧。

さてこちらは芝居の一場面。江戸時代人気を誇った仮名手本忠臣蔵より松の間の刃傷沙汰です。大げさな身振りで挑発する敵役。脇差に手をかけつつも、ぐっとこらえる侍。ひるがえるそでや、乱れる袴の裾が緊迫のシーンを演出しています。この折り紙の元になったのは江戸時代後期に出版された折り方手本忠臣蔵。12の場面に登場する人物の折り方を解説しています。版を重ねて出版されるほどの人気でした。折り紙歴史研究家の岡村昌夫さん。30年以上前から、この折り図の研究を行ってきました。この折り紙はハサミを使います。三角形を3等分に折って切り六角形にします。角を一つずつ折って折りたたんで行きます。これが全ての人物の基本形。「全部この形から始まる。長いところが足となって、こういうところが手となる」元服前の少年が主君の奥方から婚約者のことを気化されはにかむ場面。繊細な少年の真鍮をどうやって表現するのでしょうか。鍵となるのは袖からのぞく手です。「顔でなかなか表現しにくい部分なので指先の使い方で表現できる」膝に置いた両手の一を少しずらして折っています。目上の人の前ではきちんとそろえて膝に置くべき手。それをずらすことで奥方の言葉に動揺する少年の心の動きを表しています。そんな少年の様子を見て思わず口元に手を当て小さく笑う奥方。表情まで目に浮かぶような情感溢れる折り紙です。「江戸時代には紙っていうのは貴重で子どもの遊びなんかに使えません。大人がやってたんです。折り紙ってのは大人のホビー。遊芸のひとつなんです」今も昔も折り紙は大人を虜にします。

贈り物を包むラッピング。どこにも紙を折って形を作る技やアイデアが活かされます。ラッピングコーディネーターの熊谷洋子さん。ワンランク上の包み方を教えてもらいました。例えば男性にプレゼントする四角い箱を包むには。まずは贈り物のサイズに合わせて袋を作ります。袋の口を折り曲げ、両側に切り込みを入れます。リボンを置いて折り曲げると。ネクタイを占めたシャツの形ができました。どんな形も工夫次第。円筒形は紙を銅に巻き付け。余った部分を折り込みます。ひだを均等に折るのがポイント。ラッピングによって受け取る人の気持ちも変わるとか。「すごく可愛いく包んであげたりすると、何が入っているのだろうかと、差し上げた方がじっと見て創造してくれる。その時間なんか共有している。そういうのも楽しいですね」今日二つ目の壺。心結ぶそのひと折り。

古来日本には贈り物を紙で包む作法がありました。折型といいます。送る品や相手の格によって包み方の手順が細かく決められていました。室町時代には将軍家が武家の礼法として定め伝承されてきたのです。折型の基本は白い和紙。神聖さと清浄を表します。この折型を今に伝える山根一城さん。草花を贈るための包みを折ってもらいました。「基本原則は右手で開いて相手が心地よく、すべて折り手は左から折るということ」 草花鼓は草花を象徴する形に折ります。真ん中の襞が花の茎。左右の襞が葉を象徴します。見引きを結び花を入れて完成。今を盛りと咲き誇る草花をこうして包んで贈ります。「相手のことを思う。その準備期間を楽しんでいく。相手のために何をしよう、どの紙にしよう、どういう形にしよう、どうやって渡そう、相手のために考えて集中して準備していく。日本の礼法の根柢の一つだと思います」薬や香辛料など粉状のものを包む粉包み。江戸時代に生まれたデザインです。形のバリエーションも増えました。やがてここから遊びとしての折り紙が生まれたと言います。「寺子屋で礼法とか武道とか教える中で折型も教えていった。礼法を外れて形を楽しむ遊びとしてですね、折り紙遊びで一気にご発展していきました」伝統的な折型の精神を残したい。山根さんは折型の教室を開いています。この日教えるのは残菓包み。お菓子を小分けにして渡す時などの包み方です。日常で気軽に使えるよう紙は白にこだわりません。「品物を大切に包むということは相手の方をとても大切にするということ。だからそれだけで十分気持ちが伝わる」そのひと折に込めるのは相手を想い尊ぶ心。