幅広い年代に人気のウイスキー。その香りや味を引き出すのに欠かせないのが、 ウイスキーグラス 。プロのブレンダーが使う「テイスティンググラス」で味わう、ストレートの極意。カット模様が美しい「ロックグラス」を手に、ウイスキー愛を語る松尾貴史さん。ハイボールの“フルコース”を出すバーこだわりの「タンブラー」。ウイスキーグラスの魅力に迫る!<File443>
【出演】草刈正雄,松尾貴史,【語り】木村多江
放送:2019年8月11日
美の壺「宵を楽しむ ウイスキーグラス」
今人気のウイスキー。ストレート、ロック、ハイボールなど飲み方も様々。
一層美味しくするのがウイスキーグラス。楽しみ方に合わせた形と粋なダンディズム。
今宵はゆったりと時を過ごすウイスキーグラスの魅力に迫ります。
ティスティンググラス
静岡県御殿場市。
富士山の雪解け水が伏流水となる、水に恵まれた土地です。
ウイスキーづくりに適したこの地で創業する蒸溜所。ウイスキーは麦芽など穀物からとった糖分を発酵、蒸留して作られます。蒸留したばかりの原酒は無色透明。樽に詰め何年も熟成するうち、美しい琥珀色に変わります。原酒の仕込み方や保管場所の温度、樽の違いなどで、同じ味はふたつとないと言います。
マスターブレンダーの田中城太さん。
ウイスキーの味を決める責任者として国際的な賞を数多く受賞してきました。田中さんの仕事の一つはウイスキーを仕込み、熟成具合と個性を見極めること。
その時使うのがテイスティンググラス。ノージンググラスとも呼ばれます。
「古樽でゆっくり熟成させているから。エステルも出てきている」
「ノージングとは香りを嗅ぐという意味なんですけれども、いろいろと工夫がなされています」明日の部分に薄くですねこの開いている部分とどの部分のチューリップ型と呼んでいますけどもこの座り方は考えられてデザインされています。リム、口部分の厚みも適度に薄く、らいている部分と胴の部分の、チューリップ型と呼んでいますが、すぼまり方は考えられてデザインされています」
ウィスキーのティスティングで大切なのは香り。グラスのふくらみに香りをため、微妙な違いを嗅ぎ分けます。ここからがブレンダーの腕の見せ所。個性の異なる原酒を現象を合わせ、ウイスキーの配合を決めます。
ここでもテイスティンググラスが活躍します。
ガラスのカバーは他のウィスキーの香りと混ざらないようにするため、片手で素早く開け閉めします。「ライトだけどボディ感がある。サルファイド系の臭さがある。ミーティな感じ」納得いかなければ何度もブレンドをやり直します。「化ける感じだよ。嗅いだ俊寛心地よい」
プロのブレンダーの研ぎ澄まされた感覚をウイスキーに集中させるティスティンググラス。今日一つ目のつほ背は香りと味を丸ごと楽しむ。
名だたるバーがひしめく街。銀座。ウイスキーのボトルがズラリと並んだ老舗の主は人呼んでミスターバーテンダー。
中村健二さんです。
ウイスキーをストレートで出すとき、中村さんはテイスティンググラスを使います。ウィスキーそのものの味を存分に楽しんで欲しいと言います。
まずステムと呼ぶ足を持ってグラスを回します。「色を楽しみます。香りを楽しみます。それからグラスのふちにつけてみましょう。ビシャっと付きませんか。
一般的にこういうことをレッグといいます。いい脚がでて、きれいな色をしています。ステムを使ってしっかりウィスキーをかきまわすことができる。空気に当てることができるんです。それによってウィスキーの変化が出ます。すごい香りが出てくる。このがないと、真直ぐだと、置くことができない。
ゆっくり休んで、少しずつ上がっていく。このふくらみがあることがいかにウィスキーのノジングに、香りを楽しむことに大切かがよくわかる」
いよいよ一口。ウイスキーを舌先にはこび、空気を吸い込んで口の中で転がします。「のどの一番奥にファーっと広がります。アフターティスト」
今宵味わうウイスキー。ティスティンググラスがその楽しみを引き立ててくれます。
ロック
漆黒の模様が際立つロックグラス。持ち主はタレントの松尾貴史さん。このグラスで飲むムオンザロックが至福の一杯なのだとか。「ウイスキーが好きだということをご存知のかたがこういうの使ってみないかというふうに薦めていただいたのが最初なんですが。羽ってタイトルがついてるんですけど、強いコントラストの黒と白で気に入っています」ロックグラスとは氷を入れ、その上から注ぐウィスキーを楽しむためのグラス。「氷がカランという音が、テレビのCMで音がする。テレビで見ていて、大人の世界ってすごいなと。泣ける曲なんです。「夜が来る」小林亜星さんの。時間がたつとだんだん水滴が大きくなってきて、きらきら輝くようになって、感覚的に自由な時間と空間がそこにある」
ロックグラスの中で繰り広げられる光と音の饗宴。今日二つ目の壺は、ガラスの向こうに広がる
景色。
茨城県龍ケ崎市。日本ではじめてクリスタルガラスを製造した会社です。
クリスタルガラスでできたロックグラス表面に施されたカットが光を反射し宝石のように輝きます。ロックグラスを作るには高度な技が必要だと言われます。まずおよそ1200°に熱したガラスを竿に巻き取り、金型の中に入れ回しながら息を吹き込みます。
縁は薄く底は厚く、それを一気に仕上げるのが匠の技。
歪みのない円筒形を気泡一つ入れず作り上げます。
ガラスを冷やした後はカットを施します。重厚感のあるフォルムと大胆なカットがロックグラスの魅力。
時には5 ミリ以上削りこむことも。
縦を削った後は横を。交差作を繰り返すラインが複雑なきらめきをもたらします。カットの種類は大きく三つ。
鋭く削りこむヒシカット。
丸みのあるカーブで削るかまぼこカット。
そして平らに削る平カット。
氷の形。ウイスキーの琥珀色。液体が混ざり合ううねり。オンザロックならではの景色です。
「グラスを手に持って眺める。あるいはその中に入っているウィスキー、氷の変化を眺めるというのを大切に就てもらいたいと思います。
菱カットを入れると非常に光が幅広く広がる。心地よい気持ち良い空間を演出ことができます」雲間から琥珀色の夕日が差し込むような光と横井さん。
かまぼこカットでは丸いカットがレンズのような効果を生み、クラスの中の情景に変化をもたらします。ウイスキーと氷そして光。移ろう景色をゆったり味わうロックグラスです。
ハイボール
東京恵比寿のハイボール専門店。
ウィスキーをソーダで割ったハイボール。炭酸のすっきりしたのど越しが人気です。
こちらのお店で使っているのがガラスのジョッキ。ウィスキーもぐっとカジュアルに楽しめます。
一方こちらは東京東中野にあるバー。
オーナーの佐々木剛さんです。スコットランドアイラ島のシングルモルトウイスキーで作るハイボールにこだわっています。
用意したのはタンブラー。3杯で完結するハイボールのコースを提案しています。
一杯目は大ぶりのタンブラーでテーマはのどごし。
二杯目のテーマは味。合わせるのは細身のタンブラー。
アイラ島の中でも個性の強いモルトウィスキー二種類を合わせます。
細身のグラスを使うのは炭酸を抜けにくくするため。味そのものを楽しんでもらいたいと、あえて氷は入れません。
最後は上が広がったラッパ型のタンブラーテーマは香りです。今度は大きな氷を三つ入れます。
氷が大きいので間に適度に隙間ができます。炭酸を注ぐと香りを含んだ気泡が隙間から立ち上ります。
仕上げに個性がひときわ強いアイラ島モルトをそっと浮かせると複雑な香りが生れます。
「炭酸が上がっていくことで香りが広がるのが一つの利点。ひときわ違うインパクトを楽しむ」
今日最後の壺は、立ち上る気泡に思いを込めて。
愛媛県松山市。
創業1958年。全国からウイスキーファンが尋ねるという店があります。
営むのは露口貴孝雄さん、朝子さん夫妻。お店の自慢は創業以来使い続けているハイボール用のグラスです。
「13席のカウンター。グラスも13個しかなくて、一個も割れないんです」
なくなったら店を閉めるというほど大切なグラス。「これ8オンスタンブラーと言って、このタンブラーとの出会いは大阪なんです。大阪でバーテンダー修行時代からのグラスで非常に愛着のあるグラスなんですね。60年間使ってます。
これペンタゴンと言ってこれ五角形ですね非常に縁起の良い画数なんです。神戸の工房で阪神震災で潰れたんですね工場が。でも今も在庫が無い状態で今13個現状維持というかね」グラスが貴重なのは常連さんも先刻ご承知。
乾杯もグラスを合わせる程度。小ぶりのグラスに多めのウィスキーで作るハイボール。創業当時のままです。
「これ楊枝入れなんですけどね。柳原先生が手書きで。今も残ってないと思うんですがこの中にまたこれ先生来られた時に同じアンクルこれ書いていただいてる」
このイメージキャラクターが登場したのは昭和30年代。当時まだ一般的でなかったウイスキーを手軽に飲める庶民的なバーが全国にできました。
この店はその草分け。以来60年夫婦二人で守り続けてきました。
「3世代並んでハイボール飲んでいただいて」「酒場はウィスキーが主役でグラスはわき役。だけど脇役がないと主役はダメ。「人も変わらないグラスも変わらない」「もう本当にいい感じ」いつまでもこんな夜保過ごしていたい。
みんなが大切にしているウイスキーグラスです。