美の壺「華やかな漆芸」




世界に誇る「漆芸」。

およそ1年かけて生み出される“究極の黒”、「漆黒」の美!

表面を鏡のように輝かせる技、「ろいろ仕上げ」とは!?

漆黒の上に、幅0.1ミリにも満たない、金の点や線で図柄を描き出す緻密な「沈金」。

人間国宝が挑む新たな作品とは!?

漆の上に金粉をまき、奥行きや質感までも表現する日本独自の技「蒔絵(まきえ)」。

職人技によって浮かび上がる、夢のように美しい情景!

【出演】草刈正雄,沈金職人(人間国宝)…前史雄,蒔絵師…田崎昭一郎,【語り】木村多江

美の壺「華やかな漆芸」

放送:2018年10月9日

プロローグ

この皿は長年漆を入れていた樽から作られたもの。

樽の形や質感を生かしています。生漆を丁寧に塗り重ねた竹の皿。

こうした漆器の数々は料理を一段と美味しくしてくれるといいます。

器などに漆を使う文化は日本や中国などアジアを中心に育まれてきました。

なかでも日本独自に発展した技法が蒔絵です。

その名の通り漆の上に金粉を撒く装飾の技法。金粉の大きさや密度を変えることで奥行きを与えたり質感を表現したりします。

一方、ノミで図柄を彫り金粉や銀粉を付着させる沈金。緻密な装飾が器を上品で華やかに仕上げます。

「素材の組み合わせ方次第でピカピカだけでなく凹凸のあるテクスチャを作ったりすることができますので本当に表情がコロコロと変わるのが面白いところだと思っています」

いにしえより伝わる様々な漆芸。多くの人を惹きつけるその魅力をたっぷりとご紹介します。

漆器の一大産地石川県輪島市。今も職人たちが貴重な技術を守り継いでいます。

100年前に建てられた工房です。住居と工房が一体化した細長い建物は塗師屋(ぬしや)造りと言われます。

柱や壁は漆塗り。100年経っても美しい艶が保たれています。

この工房で作られた輪島塗りの器です。華やかな赤。闇に吸い込まれるような黒。漆の黒は多くの人を魅了し続けてきました。

「漆の黒は他を寄せ付けない黒です」どこまでも深くつややかな漆の黒。

今日最初の壺は漆黒が作る魅惑の表情。

漆器の黒は漆を何度も塗り重ねて作られます。

下地に使う漆です。生漆に米ぬかを混ぜ滑らかにしてあります。そこには輪島で取れる珪藻土を加えます。珪藻土と漆が混ざることで漆器を丈夫にします。塗り重ねること7回。強固な下地を作り上げます。

仕上げに塗るのは漆に水酸化鉄を混ぜ黒くした黒漆です。この工房ではおよそ30年寝かせたものを使います。優しい光沢が出るといいます。

仕上げの作業。上塗りを行うのは六畳の締め切った小部屋。塵ひとつつかないようにするためです。大崎さんがこだわるのは漆の奥から滲み出るような底艶のある黒。薄く均等に塗って行きます。

塗り終えた器は風呂と呼ばれる専用のスペースに入れます。漆は水分を吸収しながら固まっていくため工房では湿度65%で24時間寝かせます。その後湿度を85%に上げて10日感。さらに半年ほど寝かせることで落ち着いた黒が出来上がります。

およそ1年の歳月をかけて完成した漆器。輪島の職人たちが受け継いできた極上の漆黒です。

漆黒の輝きを引き出すもう一つの技があります。呂色という仕上げを施す巻砂賢修さんです。

まずは柔らかい炭で湿気のわずかな凹凸を取り除きます。今度はみがき粉をつけて手で磨きます。肉眼では分からないわずかな磨き残しも見逃さないよう指先で確かめていくのです。

「とろっとあがるんですね。ピカッじゃなく。とろ~っと艶があがるのが一番いいです」

呂色仕上げが完成しました。漆が今でもとろけだすようななめらかで吸い込まれそうな艶です。熟練の技が作り上げる極上の深みがありました。

沈金

江戸時代末期に作られた重箱です。松竹梅のきらびやかな装飾は沈金、呂色に仕上げた黒漆の上からノミで絵を彫り金粉を付着させています。

シャープな線で彫られたしなやかな松葉。無数の点で力強く表現された木の幹。溢れるような生命力を見事に描き出しています。

沈金に新しい表現を持ち込んだのが人間国宝の前大峰さん。新たな技法で作られた道具箱です。点彫(てんぼり)という技。0.1ミリにも満たない小さな点でグラデーションを作り、立体感や動きを表現しました。

今日二つ目の壺は漆黒と金の饗宴。前大峰の弟子・人間国宝の前史雄さんです。

身近にある自然や生き物を題材に、日本画に見られるような叙情的な作品を数多く発表しています。

「私の作った作品が部屋に飾ってあって、ご覧になった時に雰囲気が変わるような、たとえば音を感じるとか、自然の空気感。そういうものを狙って表現したいなと思ってやっておりますけど」

前さんは丸ノミや片切ノミなど形の異なる4種類を使い分け彫っていきます。

立体感や躍動感を出す時に使うのが師匠・前大峰編み出した点彫です。漆をじかに掘る沈金はやり直しができません。頭の中に完成図を浮かべ点を細かく刻んで行きます。

一週間かけて掘り上げたのは今にも動き出しそうなリアルな猫。彫った絵に接着剤となる漆を塗り込みます。

取り出したのは金粉です。今回は金消粉と呼ばれる最も細い種類の金粉を付けていきます。

余分な金粉を取り除くと猫が金色に輝きました。点の密度を微妙に変えることで毛の質感と立体感を表現しています。さらに前さんは新しい技法を生み出しました。

前さんが考案したのみです。先端が三角に尖っています。彫った溝が V 字型になり、点や線ではできなかった表現が可能になりました。

彫った木の葉に金を付着させると、葉の一枚一枚に複雑な輝きが生まれました。

「木は光の反射の具合で金色の光の変化下が出る面白さがあります」

同じノミで描いた竹林の硯箱です。 漆黒に浮かび上がる金の模様。その場の空気を一変させるほどの輝きを放ちます。

蒔絵

平安時代に作られた道具箱です。漆の上に金粉を巻く蒔絵が施されています。

牛車の車輪が乾燥して割れるのを防ぐため水につけられている様子が表されています。扇子と松の絵が施された重箱。立体的な松は漆を高く持った上に金粉を撒くことで表現しています。

こちらの道具箱は研ぎ出し蒔絵という技法が使われています。金粉を撒いた上に薄く漆を塗り炭で綺麗に磨き上げています。

奈良時代には確立されていたという蒔絵。その伝統を守りながらも新しい表現に挑んでいるのが漆芸家の田崎昭一郎さんです。

「どこにもないものを作るの満足感が私の生きがい」

田崎さんが制作した硯箱でか。蓋を華やかに飾るのはカラフルなボタンの花。まるで絵画のようですが金粉と色漆を使った蒔絵でできています。今日三つ目の壺は金で描く日本のこころ。

二羽の鴨。先ほどのボタンと同じく絵画のように見えますが、これもまた蒔絵です。オレンジの中にうっすらと輝く金の装飾。どのように作るのでしょうか。技を見せていただきました。色漆で絵を描きます。その上から金粉を撒きます。金粉が乾くと再び色漆を塗り、金を隠してしまいました。

ここからが腕の見せ所。表面の色漆を薄く磨き、金がうっすらと浮かび上がるようにするのです。こうして出来上がったのが先ほどの作品です。色漆の奥に透けて見える金。撒き餌ならではの美しい輝きです。

こちらは同じ技法で仕上げた紅葉。緑や赤の複雑な輝きが色づき始めた一瞬を見事に捉えています。

最後に蒔絵でこんな楽しみも。椀の蓋を裏返すと金粉の夜空に銀粉の月。

盃に使うと月見酒。蒔絵には日本人の持つ奥ゆかしさと遊び心が詰め込まれていました。

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