美の壺 「秋をまるごと 柿」

極上柿800本を育てる柿の木畑に潜入。柿一筋50年の農家が見つけた“柿が元気になる方法”とは!?平安時代から愛されてきた伝説の干し柿が登場。糖度はなんと普通の柿の約3倍とも!絶品の味わいを生む1000年の技“手もみ”とは!?圧巻は1000本に一本の柿の木からしか取れないという希少な「黒柿(くろがき)」の工芸品。艶やかな黒が幻想的模様を醸し出す。柿渋染め、日本限定柿スイーツも必見!<File459>

【出演】草刈正雄,津田寛治,【語り】木村多江

放送:2018年11月9日

美の壺 「秋をまるごと 柿」

柿。昔から人々に親しまれ暮らしに根ざした果物でした。ごちそうを彩りで包んだり。布を落ち着いた色に染めたり。艶やかな木工細工としても、柿はいろんな場面で日本人の生活を支えてきたのです。室町時代には紅葉した柿の葉に愛しい想いを綴って川に流したんだとか。風流ですね。奥深い柿の世界へご案内します。

甘く

岐阜県で去年ある柿が日本一と話題を呼びました。

それがこちら「天下富舞」[note]高糖度の「新秋」と、サクサクとした食感が特徴の「太秋」を掛け合わせた柿で、高い糖度と歯触りの良い食感が特徴です。収獲された柿に基準を設けて厳選された果実のみが「天下富舞」として出荷されます。[/note]。重さはなんと300グラム 以上。糖度は通常の書きを大きく上回る25度。その甘さは全国の柿農家や関係者を驚かせました。今年もその柿を育てた農園が注目されています。

柿づくり一筋50年加藤泰一さん。

3.2ヘクタールの広大な土地で800本もの柿の木を育てています。

畑の中を案内してもらいましたどんな風に実がなっているのでしょう。

条紋とは表面にできる年輪のような傷のこと。これが甘さの証拠なんだそうです。

「ひび割れると甘みでそのキズを治そうとする」
立派な柿の実の作り方を教えてもらいました。それは1年前の冬から始まっています。

まずは剪定。メインとなる枝を中心に残し周りの小枝を梳いていきます。

さらに加藤さん独自の柿の木を元気にする健康法が。

「上の実ほど甘い。だから絶えず先端を上げてあげると、先端のやつは俺がいつまでたっても先端だと思って一生懸命養分を吸うので甘くなる」

枝先を上に上げると大きな甘い柿が実る。加藤さんの手法が地元にも普及し、柿の産地として名を馳せるようになりました。一つ目のツボは甘さを極めた日本の味覚。

柿すだれと言われる晩秋の風物詩。朱色の大群干し柿です。

中でも平安時代から愛されてきた伝統の逸品がこの堂上蜂屋柿

旨味が凝縮し表面には白い粉が吹いています。

中身は上品な半生です。糖度は65度。なんと普通の柿の三倍もの甘さ。

堂上蜂屋柿は丹精込めてひとつひとつ手作りされています。

干し柿作りの名人坂井道夫さん。いい干し柿を作るには厳しい環境に置くことが大事だと言います。

「北風に当たると仕上がりが良くなる」

いっぱいの日差しと吹きすさぶ寒風。さらに加えてるもうひと手間が極上の干し柿に書かせません。

毎日優しく手もみ。

こうすることで水分が偏らずとろとろとした半生に仕上がるのです。実の外側にも伝統の技が光ります。

ホウキで細かくキズをつけると滲み出た糖分が白く結晶化し
砂糖をまぶしたように。皮の厚みに割って力加減を変える繊細な作業です。

甘さを極めようとする営み。柿の甘さを最大限引き出そうとする技が脈々と受け継がれています。

楽しく

奈良県吉野地方では柿がくらしのアイテムとして重宝されてきました。

夏真っ盛り。柿の葉の収穫です。

「葉っぱ専用の木で、実は取らない木なんです。渋柿の品種なんです。葉が包にもってこいだということで渋柿しかあかんのです」確かに普通より大きくて立派な柿の葉。これを何に使うのかと言うと、酢飯に鯖や酒など魚の切り身を乗せた郷土料理「柿の葉寿司」です。

柿の葉には殺菌防腐効果があると言われ、寿司の保存に一役買ってきました。

この地域ではかつては一家に一つ柿の葉寿司専用の大きな木箱がありました。

家族総出で作った柿の葉寿司を近所や親戚にお裾分けしたと言います。地元の婦人会では今でも地域の催しなどで柿の葉寿司を振る舞っています。

1つ目の壺。愛されて輝きを増す

美味しそうた柿をふんだんに使ったタルトタタンです。フランス伝統のお菓子ですがりんごのかわりに柿を焼いて作るところが斬新です。

作ったのは国際的なパティシエの協会の会長フレデリック・カッセルさん。日本の柿の甘みに惚れ込んでしまったとか。

柿のタルトで使う砂糖はりんごのわずか十分の一。

カッセルさんは今、柿を使った新たなスイーツの開発に挑戦しています。

使うのは干し柿です。なめらかなペースト状にしてそこにミキサーにかけた生の柿も混ぜ込みます。

「干し柿は甘すぎるんです」干し柿の甘さと生の柿のフレッシュさの絶妙なマリアージュ。

そして出来上がった新たなスイーツは柿のミルフィーユ。

周りをサクサクのミルフィーユで包んだ独特の食感も自慢です。海外からやって来た新たなファンも巻き込み今なお磨きがかかる秋の魅力です。

渋く

古都京都で1000年以上前から愛されてきた日本固有の色があります。柿から生まれた柿渋の色です。街並みや家具調度に自然と溶け込む茶色。なんだか和みますね。明治の中頃までこの色が日本中を彩っていたそうです。

吉岡幸雄さん。草木染めなど日本古来の色の数々を現代に蘇らせてきた染物の達人です。

柿渋は落ち着いた色合いもさることながら実用的にも優れていると言います。

柿渋は渋柿の実から作られます。使うのは熟す前の青い柿。

果汁に含まれたタンニンを絞り出します。

これが柿渋。元は白いんですね。2、3年かけてゆっくり熟成させるんだそうです。

3年経った柿渋。赤みがかった独特の茶色になりました。

吉岡さんの三女更紗さんです。柿渋の色に魅せられ様々な作品を手がけています。

若者向けの小物入れやバック。長い歴史を持つこの渋い色が現代の暮らしの中でも失わない魅力とは。

「特に柿渋は使い込むと味わいが出てくるので。家では2年ぐらい使ってます。座布団はちょっと使ってると思います。最初はかなり硬くて丈夫な印象なんですけど、使えば使うほどどんどん生地も柔らかくなってきて、味わいもちょっと使ってるとことを蓋のかぶってるとことかかなり色が変わってくるんですけど、結構魅力」

時間とともに色あせていくことがかえって愛着を産む。今日最後のツボは時が育む美しさ。

幻の銘木・黒柿

山形県天童市。

この地で柿の木の採取から加工まで手がける木工芸家の吉田宏介さん。最高級の銘木とされる黒柿に造詣の深い数少ない職人です。

黒柿とは水墨画のような柄を持つ柿の木材。

年輪とは異なる複雑な模様は自然が織りなす偶然の産物です。「神秘的な模様に惹かれます」 黒柿にはごくまれにしか巡り会うことができません。

この日向かったのは山奥の家の跡地。

黒柿は樹齢150年を超えた老木にだけ現れるといいます。しかもその確率は1000本に一本。果たして・・・

「これだ黒。最高だ。こりゃ」

「色で善し悪しがわかる。一種の老化現象。

ある程度寿命が来るとこうした現象起きる」

ひっそりと人知れず朽ちてゆく柿の老木。

その中に生じる神秘の模様は発見した人々を驚かせ見れをしてきました。

幹の中に隠された模様をどう切り出すかが木工芸家の真骨頂です。

選び抜いた木を斜めに切って行くと、青黒い部分が。

孔雀杢と呼ばれる最上の材です。鳥の羽のような模様。

その不規則な形は水面の光のように繊細です。

「なんとも言えない景色のものが出てきたり。それが一番楽しい」しかし黒柿が取れる量は年々減り続けています。

息子宏信さんの時代には新たに見つけるのも困難になりそうだといいます。

「削っていると木目が変わってくるのが面白い。もうちょっと早く仕事がしたかったねって気がしますけどね。あと100年ぐらいね」

儚く消えゆく謎めいた柿。心をとらえて離さない黒柿の魅力です

染色家・吉岡幸雄

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