美の壺「精進料理」

<File:434>仏教の戒律に基づいて作られる、精進料理。

肉や魚介類を使わずに、おいしくいただくための知恵と工夫が込められている。

曹洞宗大本山・永平寺の朝食に出される「粥(かゆ)」には、作ることから、食べる所作に至るまで、さまざまな作法が。

京都・萬福寺の「普茶(ふちゃ)料理」では、肉や魚に似せた「もどき料理」が供される。

創作精進料理や料理教室まで、精進料理の魅力を紹介!

【出演】草刈正雄,【語り】木村多江

美の壺「精進料理」

放送:2019年1月4日

プロローグ

仏教の戒律に基づいて作られる精進料理。精進料理は肉や魚介類を使いません。その制約の中で季節ごとの食材を余すところなく活かし切ります。中はこんな華やかな料理も。長い年月に渡り各地で受け継がれてきた精進料理の世界をご案内します。

三大禅宗の一つ曹洞宗の大本山永平寺。永平寺が開かれたのは今からおよそ800年前の鎌倉時代。今も170人余りの僧侶が仏道修行を行っています。午後6時30分。永平寺の台所大庫院では翌朝の食事の準備が始められていました。朝食の主役は粥。使う米は2升です。砥ぎ終えると大きな釜へ。炊きむらの出ないように米をドーナツ状に広げ一晩水を含ませます。午前5時境内に響き渡るのは修行僧の読経の声。食事を取り仕切る典座という役の僧侶が粥を炊き始めます。開山以来永平寺の朝食は粥と定められてきました。このひと釜で170人あまりの僧侶の朝食をまかないます。粥に添えられるのは香の物とごま塩。たくあんは修行僧たちの手によって漬けられます。毎年年の瀬が近づくと漬け込みが行われ、1年後日々の食事に出されます。ごまはその時使うぶんだけ行って擦りたてを。作り置きはなく、食事の度に丁寧に用意します。「身も心も安楽になって修行に専念できる。そんな気持ちで作っています」。今日、1つ目の壺は粥に始まる、精進の心。 永平寺では食事を食べるときにもさまざまな作法があります。粥に向かって9回礼拝した後僧侶たちの元に届けます。食事の時に使うのは応量器という漆器。修行僧が持つことを許される数少ないものの一つです。粥を受けた後食事をいただくときの心得、五観の偈を唱えます。食べ物がどうやってここまで届いたかを考え、自分は食事をするに値するか問いかけます。粥をいただく前と口に運ぶ間器は顔の高さに上げておきます。食べ物を見下さない心を持つためです。食べるものから気をそらすことのないよう無言でいただきます。口いっぱいに頬張ったりせず、数口含んでは器を置いて粥をかみしめます。「食事を口から入ったものがその人の体になります。その体から思いや行いが現れてきます。食事はそのままその人になりうるものです。食事を整えることによってそのまま生活、その人の心も整ってくるということです」。毎日向き合う一杯の粥。心と体を整える精進料理の原点です。

ハレ

神奈川県南足柄市にある曹洞宗大雄山最乗寺。紅葉が盛りを迎える11月の終わり一年を締めくくる行事が行われます。およそ100人の客を招いて行われる清浄鎮火祭。札や絵馬を炊き一年間の感謝と祈りを捧げます。客に振る舞われるのが特別な精進料理です。副典座を務める大崎仁詩さん。この日のために2ヶ月前から献立を練り上げてきました。「紅葉の最後のシーズンということで季節感を出すために紅葉麩を使用し、これからの時期ですと根菜類の時期なのでレンコンも煮しめに入れさせていただきました」。味や色合いが混じらないよう別々に煮て一つの椀に盛り付けます。ハレの日ならではの朱塗りの器。精進料理の基本は肉や魚介類を使わないこと。決められた枠組みの中で工夫を凝らした料理が並びます。目にも舌にも美味しい特別なひとときです。「どこの世界にもルール、法が存在する。俳句ですと五七五という狭い世界と思える中で表現力豊かなメイクというものが生れています。それを狭いと思わず自分の中で掘り下げて、頭をひねればこういうお膳はつくれます。思いやりの心を持ち、食べる人のことを考え、丁寧に一品ずつ作ることが振る舞いの気持ちだと思います」。限られた食材の中で食べる人のことを思い、心を込めて作る。今日二つ目の壺は、知恵と工夫でもてなす。
京都府宇治市にある黄檗宗の大本山万福寺。この寺は中国から渡来した僧侶によって開かれました。ここで振る舞われるのは普茶料理。品数も色合いもバラエティ豊かな中国風精進料理です。「中国の隠元禅師が江戸時代のはじめ日本に来た時に入ってきたもの。江戸時代のはじめということもありまして、新しい文化に当時の庶民たちが飢えていた。はいってきたまんまを残していこうと考えた」。普茶料理は大皿に盛られた料理をそれぞれが直箸で食べるのが作法。食卓に着いたら老いも若きもみな同じ。もてなしの料理として350年の間この寺でふるまわれてきました。時代とともに工夫が重ねられてきた普茶料理。その最たるものが何かに似せて作るもどき料理です。一見したところ鶏の唐揚げのようですが大豆などから取り出したタンパク質の一種で作られています。長芋もちょっと意外なものに変身。小麦粉をまぶした後に梅酢で色を出した薄紅色の衣をまとわせます。さっと油で揚げると。目にも鮮やかなかまぼこのもどきに。こちらはうなぎの蒲焼。その正体は豆腐です。水切りした木綿豆腐を裏ごししてなめらかに。ごぼうのみじん切りを加えます。これでうなぎさながらの食感を表現。皮は焼き海苔を使います。形を整えタレを塗って焼き上げれば出来上がり。

取材先など

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