美の壺「職人の技と粋 江戸前ずし 」<FIle567>

江戸前ずし

職人の技と粋 江戸前ずし 。マグロにこだわるすし職人が追い求める美味しさと美しさを兼ね備えた握り▽江戸創業、老舗の舞台裏に密着!職人の腕が試されるこはだの子「新子(しんこ)」の仕込みとは▽5時間かけて作る極上の玉子焼き▽江戸前ずしの名脇役、「おぼろ」とは?▽伝統の握り方「本手返し」の技▽すし種に極限まで包丁を入れたイカの輝きと究極の口溶け!▽濃厚な味わいの熟成ずし。熟成期間はなんと一ヶ月!?くえ握りの色気<FIle567>

放送:2022年10月7日

美の壺 これまでのエピソード | 風流

美の壺「職人の技と粋 江戸前ずし 」

江戸前寿司。江戸の前つまり東京湾でとれた魚介を使ったことからそう呼ばれています。流れるような所作から生み出される握りは、職人によって美しさが追求されています。
「流線形と言うかお寿司の形って誰の誰もがかっこいいな美しいと思う」
酢飯と寿司だねというシンプルな姿。ここにはさまざまな美が潜んでいます。職人の技が光るアナゴ。刻一刻と表情が移ろいます。大トロは炙ることで芳醇さを増します。日本の食べる芸術・江戸前寿司の世界をご堪能あれ。

ビジュアル

鮪にこだわる佐藤博之(さとう ひろゆき)さん。本日久しぶりに良いマグロに出会えたそうです。
「今日のマグロは奇跡の一本です。見た瞬間やっぱりもわかるんで。千本1万本に一本ぐらいのマグロだと思います。」
とろけるような身の柔らかさ。きめ細かく入った脂の美しい桜色。佐藤さんが思い描く理想のマグロです。奇跡のマグロ。どんな寿司にしたてるのでしょうか。まずは赤身。甘味を加えた醤油に五分ほど漬けます。佐藤さんが目指すのは美味しさが伝わる美しい握りです。醤油が深い赤を引き出しました。赤酢の酢飯と相まってシックな佇まいに。中トロは赤身からトロへの色の濃淡に注目です。
「グラデーションの入り具合も色々あって、全部見ながら一番綺麗に握れる。どうしたらいいんだろうというのを考えながら。見るだけでやっぱり美しいグラデーションというのが中トロの醍醐味。」「赤身から霜降りへの艶やかな変化」
思わず見とれてしまいます。大トロは酢飯に沿って細い脂の筋をのせ優美なラインを強調。時にすれば消える刹那の色と形に職人は情熱を注ぎます。
「食べるのは一瞬ですから、でももっと置かれた時にお客様が綺麗美味しそう嬉しいですよね。はかないなと思いますけども、やっぱりそこがやっぱりお寿司のいいところなのかなって思います」

一つ目の壺は一瞬の美を求めて

江戸文政年間に生まれたとされる江戸前寿司。冷蔵庫のない時代保存がきくよう手を加えた魚介を握ったのがはじまりでした。

華屋与兵衛

両国の寿司職人・華屋与兵衛が江戸前寿司を大成させたと考えられています。その華屋与兵衛の流れをくむ店が浅草にあります。

150年続く老舗、内田正さんは伝統的な江戸前鮨を受け継いでいます。並ぶのは煮たり締めたりして手間をかけた寿司種。いわゆる仕事を施すのが江戸前の伝統です。ヒラメは一晩昆布で挟んで寝かせると甘みと香りを纏います。仕事をしたヒラメは、しっとり上品な装いに。茹でることで現れるエビの鮮やかな赤。甘酢につけるのが昔ながらの仕込みです。味にも美しさにも磨きをかける、江戸前の心意気です。

中でも代表格と言われるのがコハダです。それぞれのお店がコハダにどの程度の実力を施すかによって、寿司屋の良し悪しを判断する基準ともなっています。

こちらはコハダの子供、新子です。晩夏の江戸の風物詩。仕込みを任されているのは、六代目を継いだ大輔さん。15歳からこの道一筋で、余分な水分と臭みを取り除きます。小さな信号は塩の浸透も早いため、様子をじっと見守ります。さらに酢で締めます。味を左右する漬ける時間は、店の個性が出るところです。

「漬ける時間が本当に1分、でも2分でも違うと味が変わってしまうので、そこはもうちょっとちゃんと見張ってないと。」

明日の入り具合を見極める間も職人は片時もそばを離れられません。身に酢が入ると生々しさが消え、ほんのり白く変化。一晩寝かせると、酸味の角が取れ、繊細な甘みが引き出されます。小さな信号は、一巻に使う贅沢な数枚に仕上げ、醤油を塗るとすっきりとした華奢な姿に。職人の仕事で進化が一層光り輝きます。

「自分は仕事してて良かったなと思いますよね。」

千の煌めきの中に魂を込めた仕事終わり。江戸前寿司の真骨頂です。

 弁天山 美家古寿司 台東区浅草2-1-16 銀座線 浅草駅 7番出口より徒歩3分

通好み

東銀座にある寿司店。卵焼きにひときわこだわっているのが小林智樹さんです。小林さんの卵焼きは、酢飯を巻き込んで握る珍しいスタイルで、握りもふんわりした厚みを活かす独創的な造形です。

「卵焼きは職人の個性が一番出やすいですし、また出しやすいものですから、ひたすら修行時代から練習したり、自分の店を出してからこだわり続けたものなんですけれども。」

材料がシンプルなだけにこだわるほど奥が深い卵焼き。どのように作られるのでしょうか。仕込むのは妻の寿里さん。十代から和食の名店で修業してきました。下ろした大和芋に芝海老のすり身を加え、さらに鱧のすり身も加えます。卵はきめ細かい生地にするため、一つずつ加えます。12個の卵をその都度空気を含ませながら丁寧に混ぜ合わせます。

「生地をちゃんとしないと焼き上がりが全然違うので。」

全身を使って根気よく、生地作りだけで一時間。その後、焼き工程に入ります。銅板の卵焼き器で焼きます。弱火、かつ遠火で焼ける特注の台に置き、厚みのある生地の中心までじっくりと火を入れます。さらに10分ごとに向きを変え、微妙な焼きムラをなくし均一に仕上げるために手間は惜しみません。一時間半後、卵焼きが焼けました。しかし、これで完成ではありません。さらにもう一枚、厚みを出すために二枚を重ねるのです。

「2枚目が七割方焼けたら、微妙な厚みの差をなくすよう細心の注意を払い合わせます。これこそ、ふんわりとした食感を生む小林さんの秘策です。」

およそ五時間、完成です。どんな焼き上がりなのでしょう。しっかりした狐色と淡い黄色のコントラストが鮮やかで、しっとりきめ細かな気泡は職人の手間の賜物です。

「ふわっとしたデザート的な甘みと食感は玉子でしか表現できない、自分の今のお店を支えてくれる縁の下の力持ちです。」

 木挽町 とも樹 東京都中央区銀座4-12-2

今日、二つ目の壺は、粋を支える名わき役

江戸前寿司の名店がひしめく銀座。ここでのれんを守り続けているのが青木利勝さん。青木さんの作る見事なデザインのちらし寿司には、実は江戸前の名脇役が隠れています。海老の下に潜んでいるのが「おぼろ」です。海老のすり身で作る江戸前寿司の伝統的な仕事で、実は握りにも使われています。

「じゃあ、もうおぼろなくては江戸前寿司はないって感じしますよ。おぼろを入れることによって、美味しさを引き立てる調味料の一種です。」

新鮮な芝海老と車海老をさっと湯通しし、さらに舌触りを滑らかにするために丁寧に辛い鍋に入れた酒でみりんのアルコールを飛ばして調味料を作ります。海老のミンチを入れて辛い行きます。

「おぼろは名人と謳われた父・よしさんから引き継いでいます。やっぱり良いものを作るというのは父の遺言で、車海老は甘みがあり、芝海老がふわっとした食感を持っていますので、それを二種類使うことによって色も味も良くなりますね。」

水分が多く手間がかかるため、おぼろを作る職人は少ないそうです。しっとりと粒が細かい青木さんのおぼろで、父直伝のおぼろの技術を受け継ぎます。カスゴと呼ばれる古代のおぼろの甘みと旨みが淡白なカスゴの味を華やかにしてくれます。こんなに切りも受け継がれています。

海老とたっぷりのおぼろが、上野中国で被られていた頭陣笠の形に似ているため名付けられたそうです。主役・脇役の区別なく仕込みに全力を注ぐ青木さん。ゼロから仕込んでいますし、食べても美味しいですか?そういうネタこそ、本当に晴れの舞台に立つ土の江戸前寿司になると、役者たちを輝かせます。

銀座 鮨青木(ぎんざ すしあおき) 東京都中央区銀座6-7-7 第3岩月ビル4F

伝統的な技法と独自の工夫で新境地を開いている人がいます。それが中村将宣さんです。彼のベースにあるのは、「 本手返し(ほんてがえし)」という古典的な握り方です。本手返しは非常に難易度が高く、握れる職人はごくわずかだと言われています。

本手返しは、酢飯の中に空気を含ませ、上下左右に向きを細かく入れ替えながら整えていく技法です。「優しくたたんでいく感じで、箱の中で手のひらの中でたたんでいく握り方で、美味しくできるんだっていう」と中村さんは語ります。空気を含ませ、ふわりと握られた寿司が口どけの良さを生んでいます。

中村さんはこの握りに合わせて独自の包丁技を加えました。イカには究極の口説きを求め、限界まで包丁を入れるなど、繊細を極めた包丁技が生み出す中村さん独自の江戸前寿司です。

包丁技だけではありません。例えば、大トロを炙り、とろけるような食感に仕立てる技もあります。目指すのは、酢飯と寿司種の極上の出会いです。伝統と進化が生む口どけで、マグロの旨味と酢飯が見事に響き合います。

「本当の元の握り方である 本手返しを守りたいと思っています」と中村さんは語ります。「あさりとネタが一体になったその美味しさ、もうこれだと思いました」。江戸前寿司は職人の手で日々進化しています。

鮨 なかむら 東京都港区六本木7-17-16

今日最後のツボは職人が切り開く新世界

江戸前寿司では、新しい技法が日々探求されています。伊佐山豊さんは約10年前から寿司のネタを熟成させる方法を模索してきました。こちらはすべて熟成寿司です。なぜ熟成させるのでしょうか。

「香り、色、味、ツヤ、そして余韻ですね。食べ終わっても、その魚の余韻が長く続くというのが、熟成寿司の最大の魅力だと思います」と伊佐山さんは語ります。熟成する方法や期間は、魚によって異なります。素材の味を最大限に引き出すために、伊佐山さんは日々研究を重ねています。

中には、こんな長期熟成の例もあります。これは、30日熟成させたクエです。身が固いクエは、熟成してこそ柔らかくなり、酢飯と馴染む良い寿司ネタになるそうです。

特別にクエの仕込みを見せていただけました。こちらは長崎県五島列島で採れたクエ。洗ったクエを扇風機の前に置き、表面の水分を飛ばして熟成の準備をします。3時間ほど乾燥させた後、吸水性のあるペーパーで包みます。さらに酸化を防ぐために二重に袋に入れ、空気に触れないよう密閉します。そして冷蔵庫で寝かせます。寝かせている間は何度も水分を取り除き、乾燥を繰り返しながら熟成を促します。

1ヶ月後、熟成が仕上がりました。「いい塩梅で脱水できてますね。身も押すと、指の跡が少し残るくらいで、すごく柔らかくなっています。香りもとても良く出ていて、これで柵にし、塩水で締めて2日ほど寝かせれば完成です」とのことです。

30日経ったとは思えないほど、みずみずしい身。水分を程よく残し、ねっとりとした食感に仕上げるのが、伊佐山さんの真骨頂です。滑らかなクエの身が酢飯を包むように握られる熟成寿司。旨味と香りが存分に引き出されたクエと酢飯が見事に融合します。

「僕はこれを進化系だと思っています。でも、魚に手間をかけるという部分は昔の人と変わらずに続けていくことが大事だと思います」と伊佐山さんは語ります。

今も変わらぬ職人の心意気。江戸前の伝統は、未来へと受け継がれていきます。

 鮨 まるふく 東京都杉並区西荻南3-17-4

情報

寿司屋はっこく 東京・銀座

中央区銀座6-7-6

弁天山美家古寿司

浅草江戸前寿司|弁天山美家古寿司 – 江戸前ずしの古典的技法を守り続ける老舗

木挽町とも樹

木挽町 とも樹

銀座 鮨青木

銀座 鮨青木 (ギンザ スシアオキ) – 銀座/寿司 [一休.comレストラン]

鮨なかむら

港区六本木7-17-16

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