北海道の大自然に抱かれた400以上もの鉄道の駅は、それぞれ異なる魅力にあふれている。名画の舞台となった懐かしの駅。築100年以上!長年使い込まれた味わいが何とも言えない木造駅舎。夕景や流氷、大自然の雄大な景色をのぞむ絶景の駅。行くも帰るも困難、鉄道でしかたどり着けない“秘境”駅。さらに、北海道で唯一、駅舎の中に宿がある駅も!鉄道ファンならずとも行きたくなる、魅惑の旅へ、いざ出発!<File427>
草刈正雄,【語り】木村多江
美の壺「北海道の駅」
放送:2018年11月16日
プロローグ
どこまでも続く雄大な大地。大自然を走り抜ける北海道の鉄道はファンならずともワクワクするような魅力にあふれています。人気の一つは北海道で400以上もあるというそれぞれに個性的な駅です。藻琴駅です。今は無人駅ですがかつては網走に次ぐ賑わいも見せていました。大正13年に建てられた木造の駅舎が今も現役で使われています。三角屋根に昔懐かしいホーロー製の看板。板張りの壁がノスタルジーを誘います。この藻琴駅かつて映画の舞台になりました。昭和40年公開の網走番外。地映画の冒頭で今は亡き高倉健さんが降り立った駅です。藻琴駅の旧事務室は現在喫茶店として使われています。きっかけは30年前。国鉄が民営化し藻琴駅が無人駅となったこと。街のシンボルが失われるのではないかという声が上がりました。そこで店のオーナー松和芳博さんは駅にかつての賑わいを取り戻したいと喫茶店を始めました。北海道の駅は開拓時代からの歴史や、底に暮らす人々の思いが詰まった大切な場所です。極上の景色やグルメを楽しむ北海道の駅を巡る旅。さあ出発です。
駅舎
北海道で最古の木造駅舎があります。明治45年に建てられた旧室蘭駅です。昭和50年日本で最後の SL が出発した駅としても知られています。寄棟造りと言われる四方に大きく張り出した屋根。ドーマーと呼ばれる出窓。随所にアメリカの建築様式が導入されています。一体なぜなのでしょうか。北海道に初めて鉄道が開通したのは明治13年。東京や大阪に続いて日本で3番目の早さでした。石炭など豊富な資源を輸送するため明治政府がアメリカ人の鉄道技師ジョセフ・クロフォードを招き、一大鉄道網を完成させたのです。そのためアメリカ式の駅舎が次々と作られていきました。
今日最初の壺は歴史が宿る建築
石炭産業華やかなりし頃、大量の乗降客で賑わったという旧室蘭駅。当時珍しい建築上の工夫がありました。およそ190畳の大空間です。室蘭の歴史的建造物を研究している武田明純さんです。「これだけ大きな空間はめずらしい。屋根を持たせなければいけませんから、ユネから梁にかかる荷重を普通は柱で支えます。その柱がまったくない。その大空間を実現したのはすごく高い技術だと思います」当時の日本建築では難しいとされた大空間。それを実現できたのは梁を支える構造に秘密がありました。特別に屋根裏を見せていただきました。「これは洋小屋組みの一種になります。洋小や組の中でもクイーンポストトラス構造と呼ばれるものになります。斜めでもって荷重を吊っていく構造になります」日本建築の場合梁は柱で支えます。一方旧室蘭駅では梁を吊るすことで柱を使わない構造。欧米の教会などでよく使われる建築方法です。作られた広々とした空間は町の観光拠点として今も多くの人が集う場所になっています。北海道随一の景観と称される木造駅舎があります。昭和5年に建てられた釧網本線の川湯温泉駅です。建物の正面はスイスの山小屋を思わせるつくり。白樺の肌を生かしたハーフティンバーと呼ばれる飾りが施されています。アプローチにはいちいの大木がそのまま使われています。当時腕利きの大工たちが競って建てたと言われるこの駅。なぜここまで凝ったつくりになっているのでしょうか。その秘密は現在レストランになっている旧駅事務室の奥にありました。「貴賓室だったんです」川湯温泉は阿寒摩周国立公園中にある温泉地。かつては広大な皇室の御料地がありました。皇族が訪れた時のためにこの駅は重厚な作りで建てられ、特別に貴賓室が設けられたのです。部屋のしつらえも当時のまま。どっしりとした6人がけのテーブル。昭和初期の名工の手によるものとみられます。貴賓室には入り口とは別にもう一つドアが。改札を通らず直接ホームに出られるようになっています。特別にドアを開けてもらいました。国鉄民営化の時この駅も建て替えの話が出ましたが地元住民の強い希望で残されることになりました。
オーナーの武山秀樹さんもそうした住民の一人。そこで駅の特徴を生かした貴賓室のレストランを提案しました。
駅の雰囲気に合わせメニューはビーフシチューなど洋食が中心です。
駅舎の歴史を感じながらいただく贅沢な時間です。
絶景
列車降り立ったその場所で雄大な景色が見られるのも北海道の駅舎の魅力の一つです。釧網本線の北浜駅です。小さな駅ですが連日観光客が訪れます。狭い待合室の壁一面にびっしり貼られた名刺の数々。いつの頃からか旅人が記念に残して行くようになったそうです。待合室を出るとホームの先にはオホーツク海。青いオホーツク海とそして列車。ここだけでしか見られない夏の風景です。冬になると別世界に様変わり。この駅では流氷が間近で見られます。
今日二つ目のツボは大自然が生み出す奇跡の風景
旭川市に住む河原健介さんです20年ほど前から休みの日には北海道中の駅を訪ね歩いています。川原さんにおすすめの駅を案内してもらいました。
「車で行く道路がない駅でちょっと面白いです」
乗るのは長万部と岩見沢を結ぶ室蘭本線。一日に九本しか列車がありません。向かうのは日本一の秘境駅と言われ鉄道ファン憧れの場所だそうですが、どんな駅なのでしょうか。
川原さんが降りたのは小幌という駅。
一見何の変哲もありませんが。「ここはトンネルとトンネルの間に挟まれて駅に来る道がないとこなんで、列車に乗ってくるしかない。本当にポツンと置いたような駅ですよね」見渡す限りあるのは二つのホームだけ。トンネルとトンネルに挟まれ外の世界から切り離された空間周囲を山に囲まれた様子はまさに秘境。近くに一軒の民家もありません。小幌駅が作られたのは昭和18年。その頃は数件の民間があり、生活に欠かせない駅でした。住む人がいなくなって40年以上。秘境駅として鉄道ファンに愛されてきました。駅から続く山道を5分ほど降りると目の前に広がるのは穏やかな湾。ほとんど人が立ち入ることのないまるでプライベートビーチのような場所です。浜辺にはかつて人が住んでいたことを思わせる防波堤が残っていました。列車でなければたどり着けない現代の秘境。北海道の鉄道の魅力です。河原さんが次に案内してくれたのはとっておきの景色が楽しめるという駅。
「海にホームが浮くような感じに見える駅で、これだけ海に近い駅っていうのも北海道にないんじゃないかなと思ってます。夕焼けに浮かぶ最高だと思います」
小幌駅から南東におよそ50分。北舟岡駅です。まるで海の上にホームがあるような不思議なが広がります。夕日のの一瞬の輝きがここでしか見られない絶景を作り出します。
駅とともに
300以上のある北海道の無人駅。多くは地元の人に支えられています。宗谷本線の糠南駅です。簡素な板張りのホーム。
待合室は何と物置を流用したもの。止まる列車は1日に5本だけですが地元の暮らしを支えてきた大事な駅です。去年駅を廃止する話も出ましたが町の強い希望で残すことになりました。駅の管理を任されている女性がいます。歩いて5分ほどの場所に住む千葉礼子さんです。かって子供の送り迎えで通い続けた糠南駅。ここには家族の思い出がたくさん詰まっています。
「駅の方がちょっと待っててくれるんですよねだから助かりましたね」今日最後の壺は人の温もりが駅を灯す。
函館と旭川を結ぶ函館本線です。函館からおよそ4時間ニセコの東に位置する比羅夫駅です。この駅北海道で唯一駅舎の中に宿があるんです。国鉄民営化で無人駅になった時に空いたスペースを有効活用しようとオープンしました。2階の休憩室と駅長室は客室に。寝台列車をイメージした二段ベッドが設置されています。鉄道ファンだけでなくニセコの山々を訪れる登山客からも人気を集めています。二代目のオーナー南谷吉俊さん。自然が大好きで北海道を度々訪れるうちにこの宿に出会い20年前経営を任されました。夕方5時過ぎ列車がやってきました。この時間におりてくるのはほぼ間違いなく宿の客です。「駅に泊まれるのはめずらしい」宿の人気メニューはバーベキュー。場所はなんとホーム。あとからやって来た客もテーブルに加わります。比羅夫駅でしか見ることのできないどこかほのぼのとした光景。そしてまた一人客が。北海道に点在するおよそ400もの駅。それぞれ個性的でそこでしか味わえない魅力にあふれています。
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