イッピン「かけるだけじゃない!技を生かしたものづくり 福井メガネ産業」

イッピン「かけるだけじゃない!技を生かしたものづくり 福井メガネ産業」

「つる」の部分が山なりにカーブを描いていて、かけたときに圧迫感が少ない斬新なデザインのメガネが話題だ。これはメガネ製造の産地、福井で作られたイッピンで、美しいカーブは熟練の職人が手作業で施したもの。そして今、メガネ作りの技術を生かし、新たな製品も続々誕生。メガネフレームの素材で作ったスプーンや、メガネの「つる」の構造を応用したユニークな製品も!?福井のメガネ作りの技を安田美沙子がリサーチする。

【リポーター】安田美沙子,【語り】平野義和

放送:2019年8月13日

 

イッピン「かけるだけじゃない!技を生かしたものづくり 福井メガネ産業」

プロローグ

ここはメガネの産地。福井県鯖江市のメガネミュージアム。

県内で作られた3000本にも及ぶ眼鏡が揃いその歴史も学べます。

シンプルなデザインからモダンなものまで種類も様々。

つるの部分がカーブを描く印象的なデザイン。フィット感もあります。

これは福井の高度な技術を駆使して生み出された逸品。さらに今メガネ作りの技を活かして新たな製品も誕生しています。

メガネフレームに使われる素材で作られたクリップ式のスプーン。

飲み物を混ぜた後はこの通りグラスに取り付けることができます。

色鮮やかな耳かきを眼鏡のつるを作る技術を応用しているんです。

かけるだけじゃない福井の眼鏡づくりの技。その魅力に迫ります。

 

メガネの故郷

国産メガネフレームのおよそ8割を生産している福井県鯖江市。眼鏡作りに関わっている会社は500以上もあります。

向かったのはカーブが印象的なメガネを開発した会社。

開発をした増永幸祥さんです。

松永さんは20年前からつるの部分にこだわり、様々なデザインの眼鏡を作っています。

テンプルとよばれるつるの部分。緩やかなカーブを描いているのが特徴です。

掛けたとき圧迫感のないデザインを目指しました。この形状を作るには高い技術が必要。松永さんはベテラン職人の力を借りました。

職人歴40年の平等浅教さん。つるのカーブを作り上げている職人です。

まずはつるになる部品を軽く曲げていきます。

機械を使っていっきに。ここまでは下準備です。続いてつるをレンズフレームに取り付け大まかにメガネの形にしていきます。

組み立てが終わりましたがまだ完成前。かけ心地はと言うと。

「この前かけてたときは、かけてないような感じがまだまっすぐたからちょっと落ちるのかなっていう感じもしますね」

ここからつるに繊細なカーブを付けていきます。

ややふくらみを持たせて、滑らかにすぼまっていく。頭を優しく包み込むようなカーブ。

平さんが追求した美しいラインです。一体どうやるかと言うと、「手で曲げて、綺麗なラインになるように内側に曲げて留まりやすくするです。かけた時に留まりやすくします」

人の頭をイメージしながらカーブを作っていくという平さん。

人差し指の付け根と中指で支え、親指の強い力でつるを押し込んでいきます。

テニスボールがへこむほどの力が必要なんだそう。

指先に神経を集中させ徐々に曲げを施していきます。

平さんは3000本以上のメガネを曲げては試し、今の形にたどり着いたといいます。

最後は型に合わせ微調整します。

 

メガネの素材でスプーンを

福井で眼鏡作りが始まったのは明治時代のこと。

農閑期の副業として福井市で発祥し、隣接する鯖江市へも広がっていきました。

その後各部品の製造を分業することで精密な眼鏡作りが行われ、一大産地へと成長を遂げたのです。

現在も細かな分業制が受け継がれています。ネジや着色などの製造など一つの眼鏡を作るのに10以上の会社が関わっているんです。

メガネの製造技術を活かした新たな製品があると聞きました。

それがこちらクリップ式のスプーン。

飲み物をかき混ぜた後グラスにつけることができ使い勝手抜群。グラスを逆さまにしてもこの通り。

スプーンを開発した吉岡敦之さんです。吉岡さんは普段つるに文字をレーザーで彫り込むという作業を専門に行なっているんですが、いったいなぜスプーンを。

「メガネは顔にフィットするものだから、やってできないかなって考えて」

メガネのフレームに使われている金属チタンの弾力性を別の製品にも行かせないかと考えた吉岡さん。それがこのクリップ式のスプーンです。

吉岡さんが製造を依頼したのはチタンのメガネフレームを作っている会社。

社長の服部祥也さんです。材料はメガネフレームに使われているベータチタンという金属。スプーン全体の形にくりぬいたベータチタンに穴を開けます。

穴を開けたところが最終的にクリップの部分になります。ここからがメガネ作りの技が活かされるところ。

このクリップ部分に弾力性を持たせます。ポイントはその部分を薄く加工すること。使うのはメガネフレームの整形に使うプレス機。80トンの圧力をかけることができます。

「今ここが潰れて0.93ミリ。ここでは0.6にしたいので下げてみる」目指すのは0.6ミリ。クリップの部分のチタンにしなやかな弾力が生まれる最適な厚みなんだそう。それ以上薄くプレスしてしまうと弾力が弱くなってしまいます。わずか0.3 mm の違いでこの通り。曲げた後戻り切りません。ブレスの作業は機械の繊細な調整が必要です。

「周囲の気温によって伸びたり縮んだりする金属なので」

同じ作業でもその日の気温や湿度によってわずかに数値が変わります。

そのため正確に0.6 mm にプレスできるよう毎日機械をセッティングし直していきます。

メガネ作りで培った経験を生かして0.01ミリ単位で調整するんです。

「これぐらいで行くんじゃないんかなと言ったところで」0.6ミリになりました。
プレスが終わったら手作業でUの字に曲げクリップの形にしていきます。

力を入れてペンチで引っ張り綺麗なグリップの形に。最後にコーティングをしたら完成。

「ベータチタンじゃなきゃ作れない商品ってものに携わらせてもらったのはすごくおもしろい。やり方次第ではもっともっと他のものにも使えていけるのかなって思います。そのためにはうちらの技術力も上げていかなきゃいけないので大変かなとは思いますけども、頑張っていければなと思います」

 

メガネの構造を応用したユニークな雑貨

メガネの製造技術で作った製品があると聞きこちらの会社へ。

色鮮やかなアクセサリーの数々。

これはメガネフレームに使われる樹脂から作ったもの。

樹脂の仕入れをする会社が10年前にカラフルなアクセサリーの開発を始めました。

「基本眼鏡は黒とかブラウングレーって言った地味な色しか使われていませんが、赤とか青とかすごい綺麗な色の材料も扱ってたんですねそれで材料を使って何かできないかということでまいろんなアクセサリーであるとかユニーク雑貨を作ってます」

中でも人気なのが耳かきです。

金属の小さな匙が つややかな樹脂で覆われているスタイリッシュな耳かき。

樹脂製のつるの強度を高めるために金属を入れる技術を使っています。

それを応用してカラフルな耳かきにしたのです。

作っているのは樹脂製のメガネフレームの製造会社。担当の橋本俊之さんです。

まず機械で樹脂を耳かきの形にカット。

この後樹脂に穴を開け、そこに金属をさして耳かきにしていきます。

穴あけに使うのは樹脂製の眼鏡のつるを作るのと同じ機械。機械についている細長い金属の棒で樹脂に穴を開ける仕組みです。

「この穴。熱をかけて穴開けなくてはならない」

樹脂を150度に熱した鉄板に挟み柔らかくします。

一発勝負の穴あけは樹脂の柔らかさがポイント。

樹脂が柔らかすぎると金属の棒が刺さった時、圧力で形がゆがんで変形してしまいます。

いっぽう硬すぎると棒が綺麗に刺さりません。

無理な力がかかり樹脂が割れてしまうこともあるんです。樹脂の状態の見極めは長年培った感覚。

熱を加えると柔らかくなり、先端部分が徐々に垂れ下がってきます。集中力を研ぎ澄ませ状態を確認。

指で摘みあげた時わずかにしなるこの瞬間を逃しません。すぐに機械にセット。一気に穴を開けます。

「触ると熱いです。自分の手で感覚を覚えているので、手袋をするとわからない」

幅3.5ミリの樹脂にきれいに穴が開きました。最後は樹脂に金属を刺していきます。

「メガネのものを使ってこういうアクセサリーとか作るのは何でも応用できると思います」こうして色鮮やかな耳かきの完成です。

商品情報

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