美の壺 「沖縄の風をはらむ 芭蕉布(ばしょうふ)」

着物愛好家憧れの芭蕉布(ばしょうふ)。およそ600年前の琉球王国の時代から、沖縄の気候に最適な布として愛されてきた。素材は、糸芭蕉(いとばしょう)。その茎の繊維を結んで糸を作るため、布の表面に結び目が残るのが特徴。織り手の間で伝えられてきた絣柄は、沖縄ならではの由来や歴史が。貴重な芭蕉布(ばしょうふ)から、王国時代の布の復元など、今に息づく魅力をたっぷりご紹介!。<File445>

【出演】草刈正雄,【語り】木村多江

放送:2019年7月5日

美の壺 「沖縄の風をはらむ 芭蕉布(ばしょうふ)」

沖縄生まれの布芭蕉布。はじまりはおよそ600年前の琉球王国の時代。風通しがよく高温多湿の沖縄に最適な布として愛されてきました。素材はバナナの仲間の植物から取り出した繊維そのもの。糸を作るところから一枚の布に織り上がるまで全て手仕事で作られています。沖縄の人と風土に育まれた布・芭蕉布。今日はその魅力をご紹介します。

東京に芭蕉布のファンという人がいます。週末には着物を着て出かけるのが一番の楽しみ。そう語る会社員の戸屋好江さんです。他の着物も持っていますが芭蕉布は特別な存在。20年ほど前から集め始め今ではその数11着。夏だけでなく春や秋口にも纏うのだと言います。「来ていると沖縄に行けた感じ。梁があって透明感がある。自然に生えている繊維を差のまままとう感じ。光沢があって美しい」今日一つ目の壺は自然をまとう沖縄の糸。
沖縄県北部に位置する喜如嘉。人口はおよそ400。現在芭蕉布のほとんどがこの集落で作られています。集落の中には芭蕉布の原料となる糸芭蕉の畑が広がります。糸芭蕉はバナナの仲間の植物。糸が取れるようになるまで3年かけて育てます。布に使われるのは茎の部分。毎年10月から3月の初めにかけて刈り取りが行われます。直径10センチほどの茎から外側の皮を剥がし中の繊維を選り分けます。「外側は太い繊維でちょっと粗いです。中は少し柔らかくなるので一番中心は着尺(着物地)に使えますので柔らかい糸がとれます。口割りする時に柔らかさが感じられるのがありますのでそういうのですね」糸芭蕉は繊維の硬さによって4種類に分けて使います。外側はテーブルクロスや帯ネクタイなどに。中心に近い白くて柔らかな2種類が着物に使われる部分です。着物一着分を織るためには糸芭蕉が200本ほど必要になります。糸になるまでにはまだまだいくつもの工程を経なければなりません。まず皮をアクで数時間炊き柔らかくします。アクとは木の灰を水に混ぜたものの上澄み。これに含まれるアルカリ性の成分によって組織が柔らかくなります。強く炊き過ぎると繊維が切れてしまいます。ベテランでも最後まで気を抜くことはできません。炊き上がったものから不要な部分を取り除くのも手作業。竹で作ったハサミで削ぎ落とします。ここまで丸2日。ようやく白い繊維が姿を現しました。最後の工程ウウミと呼ばれる作業。取り出した繊維を繋いで糸にしていきます。繊維そのままでは太さがバラバラ。これを織に使いやすいように細く割き、結んでいきます。ウウミの出来具合が芭蕉布の仕上がりを大きく左右します。

「いい反物を作るためには紡ぐ時の口ですね。結び目をちゃんとしてきれいに切ることですね。そうした場合は織る時もとっても楽になります」織り上がった時糸の結び目は布の表面に残ります。これが芭蕉布ならではの味わいに。「織るより糸作りが大事なんですよ。いい糸を創ればいい反物ができるとおばあさん達からももよく言われてました」一本一本作られた芭蕉布の着物。島の恵みと技の賜物です。

織り

沖縄の中心都市那覇市。沖縄県立芸術大学に勤める阿嘉修さん。阿嘉さんは古い芭蕉布の着物を大切に使い続けています。その着物は絣が全面に施されたもの。染め分けた縦糸と横糸の両方で絣が織り上げられた名品です。「個の肝のは親せきのおばあちゃんからいただいたもので30年くらい前、おばあちゃんが芭蕉布をずっと織っていたみたい。なかなか手に入らない。こういった柄は特注じゃないとできない」実は阿嘉さんは琉球舞踊の踊り手です。長い伝統を持つ琉球舞踊には芭蕉布の着物が欠かせないと言います。踊っているのは若い女性が主人公の「おんじゅる」という演目。「芭蕉布は庶民を演じる時に着て踊ってます」琉球舞踊では着物の柄によって男女が演じ分けられてきました。「縦じまは男おどりに使っています。やっぱり縦縞になるとしっかり芯のある男踊りを演じたりするんですけど、この絣柄は大体女踊り用に使っています。かすり柄となって少しは女らしくしなやかに踊るように変えています」二つ目のツボは模様が伝える島の心。
芭蕉布の名産地喜如嘉には現在20人ほどの織り手がいます・織り手の名手といわれる辺土名佳代子さんです。芭蕉布の糸は植物の繊維そのもの。乾燥するとハリが出て織にくくなります。そのため湿度には気を使います。「乾燥するとやっぱりよく切れますのですすみません。湿った天気ではわりかし1日織ります。湿った天気の時は1メートルちょっとぐらいも織ますけど、織れない時は30センチぐらいです」模様を生み出すのは琉球藍など天然染料で染めた糸。部分的に染められた糸を使い様々な模様を作ります。模様を入れるところが来ると糸を持ち替えます。糸の微妙なずらしが腕の見せ所。縦糸と横糸で異なる模様を織ることも。着尺で縦がハチジョー柄で横から小鳥がを飛ばしてます。立糸で織っているのはハチジョーという矢の模様。横糸で折るのはトィグワーと呼ばれる小鳥の柄。どちらも織手たちが代々伝えてきた絣の柄です。空を羽ばたく小鳥の姿が現れました。こうした絣の柄は時代を重ねるごとに少しずつ変化をしてきました。その記録が縞帳40年ほど前から作られているものです。絣の模様には沖縄独特の傾向が見られます。