イッピン「色彩ゆたかに あざやかに~群馬 桐生の織物~」




「西の西陣・東の桐生」と並び称された織物の産地、群馬県桐生市。

ここでいま、鮮やかで豊かな色彩を持つ新感覚の織物が次々と生み出されている。

産地の衰退に危機感を持ったベテランの職人たちが、古い機械のよさを生かして、今の機械では出せない肌触りや高度な職人技を発揮したのだ。

日本だけでなく欧米でもヒットしたマフラー、若い世代の“山ガール”に人気のストール、そしてスカジャンの刺しゅうの名人技を紹介する。

【リポーター】三倉茉奈,【語り】平野義和

イッピン「色彩ゆたかに あざやかに~群馬 桐生の織物~」

放送:2018年12月9日

プロローグ

縞模様がなんとも鮮やかなニットのマフラー。

様々な色の組み合わせがあります。例えばこちら。

ある有名な絵画をイメージしたものです。

スペインの巨匠ベラスケスの作品です。青は空。茶色は馬。ピンクは王子の胸の飾織。本国スペインでも販売され代人気なんだとか。

そしてこちらはトレッキングを楽しむ人々。

皆さん汗を吸い取ってくれるストールを首に巻いています。2色に染め分けられとってもおしゃれですよね。

今日のイッピンは群馬県桐生市で生まれた色鮮やかな織物です。

時代遅れが生み出す柔らかな風合い

全国にその名を知られる織物の産地桐生市。現在およそ100軒の工場があります。

マフラーを作っている工場を訪ねました。

社長の松井智司さん。100年の歴史を持つ作業場です。

「明治から大正にかけての木造工場」

職人の河内安央さん。マフラーに使う色とりどりの毛糸を正確に並べていく作業を担当しています。このマフラー。

八つの色の組み合わせを3回繰り返してできています。まず使いたい8つの色をセットして。

ドラム整経機と呼ばれる機械で毛糸を巻き取ります。よれたり重なったりしないようテープで固定しておきます。河内さん最初は片手でドラムを慎重に回転させます。力を入れすぎると毛糸が切れるし弱いと緩みが出てくるからです。ある程度を巻き取ったら足元にあるスイッチを入れ、自動回転に。毛糸の太さはわずか0.5ミリ。一瞬も油断できません。神経を使うこの作業。河内さんのようなベテランにしか任せられないんだとか。

30分かかって巻き取り完了。マフラー300個分の毛糸が見事に整列です。そしてここからが編む作業。

ニットを編むための専用の機械ラッセル編機です。

巻き取った毛糸のロールが二組。編み機の上前後にセットされています。これが色の配列を保ったまま機械の中に。備え付けの針が一つに編み上げていきます。昭和30年代に作られたこの編み機。今ではもっと早く動くものがいくらもあります。でもその鈍さが貴重なんだとか。

「早いと糸がついていかない」糸に無理な力がかかっていないか見守り調整する職人が川岸正男さんです。毛糸に触って張り具合を確かめます。作業が進むにつれ毛糸の張り具合は徐々に変わっていきます。川岸さんが重りを軽くしました。すると毛糸を押さえていた棒が緩んで張り具合を調整してくれるんです。この機械は時代遅れでゆっくりしか動けないからこそ、職人の経験と勘に敏感に反応してくれます。

ニットのマフラーの柔らかな感触。それは機械と人のベストマッチから生み出されたものでした。

伝統の染色の業。軽やかな山ストール

群馬県は古来生糸の生産の盛んなところ。桐生で絹織物が作られ始めたのは平安時代でした。

江戸時代には西の西陣、東の桐生と謳われるほどに。市が立ち絹織物を売る商人。

群がる人々。

全盛期の昭和初期には絹織物だけでなく関連産業が盛んになります。

例えば絹や木綿を鮮やかな色に染めていく染色。高度な技術が必要なことから多くの優れた職人が生まれました。

そんな染めの伝統を受け継いだユニークなストール。ある理由でトレッキングなどアウトドア好きの人達に評判なんです。

ストールを扱っている工房にお邪魔すると。

上久保匡誠人さん。自身も山登りが大好きなんだとか。

筒のようになっているストール。これが染める前の生地。2枚を縫い合わせたのではなく、丸く繋がった生地に折り目を入れてありました。これだとストールの内側にも空気が入って、夏は染み込んだ汗を早く乾燥させてくれます。一方冬は中の空気が保温効果をもたらし首元が暖かいんです。筒の口を広げて首に通せば。このストールならではの使い方です。

「これは手捺染という、職人のちから加減一つで表を染め、ひっくり返して違う色を下に映らないように手加減しながら」

染め職人の小山哲平さん。この工場の三代目です。

昔から使われてきた鉄製の作業台が並んでいます。長さ25メートル。染料が乾きやすいよう高温で温めて使います。

この台に生地を一気に貼っていきます。

まっすぐにたわまないように。これも職人の技。

普通ならこれでいいのですが、生地は二重なので丹念に直していきます。手間がかかるんです。

「後ろの裏の生地は張り付いているのですが表は浮いています。このまま染めると端とかが染まらなかったり。たるんでいるとうまく染まらない」準備ができたら台の温度を65°まで上げて。

シルクスクリーンを台に乗せます。

染料はその日の温度や湿度の影響で粘り気が変わります。同じ粘り気になるよう微妙な調整が必要です。刷毛は上下に1回ずつ。修正のきかない一発勝負です。押し付ける力が強すぎると下の生地まで染料が滲みてしまい。弱すぎると均等に染まりません。一つ置きに染めます。続けて染めると滲むからです。両側が乾いてからその間を染めるんです。表側が騒い終わりました。果たしてうまくいったのか。染料が乾いてから生地を裏返します。今度もシワにならないように慎重に貼り付けます。こちらは黒い染料。乾くとグレーになります。「一ヶ月くらいはかかりました。すべての条件が一致しないとできません」このストールを考案した上久保さんは、もともと織物とは縁のない会社員でした。「地元が桐生で山登りが好きなので始めちゃったものだから当然できると思い込んでいた」「受けたい以上はやっぱりなんとかしたいなって思った」二人の若者が力を合わせて生み出したユニークなストール。ふるさとの野に山によく映える逸品です。

神奈川県横須賀市。桐生とある物で繋がっています。それがこの横須賀ジャンパー。略してスカジャンです。

スカジャンは戦後横須賀に駐留していたアメリカ兵が自らのジャケットに日本風の刺繍を施したのが始まり。その刺繍を桐生の職人たちが請け負っていたのです。

今は少なくなったその職人の一人が大澤紀代美さんです。

「桐生に伝わる横振り刺繍です」まるで絵画のようですが、れっきとした刺繍です。

60年のキャリアを持つ大澤さんの作品です。

刺繍専用の横振ミシン。

切れ込んだ穴に沿って針が動きます。

一般的なミシンは布を前に送り出して針は同じ場所で上下するだけ。ところが横振りミシンは針が横に動くので様々な縫い方が可能なんです。

形も縫い幅も思いのままです。

「ペダルを右の膝で押していくと針が右に動いて幅が出ます」

同じ糸でも縫う角度を変えると別の色に見えてきます。

光の反射が生む効果です。

「下絵なしで始めないとのびのびとした絵ができないんです」

大澤さんは刺繍の技を伝えようと若い人たちの指導に力を入れています。現在お弟子さんは6人。こちらの男性は地元企業に勤めるエンジニア。刺繍を習って半年になります。

「やりたいことができるって言うので俺はやらないと絶対後悔するなと思って」

古くは着物や帯。そして戦後はスカジャンにも。

時代を超えていき続ける刺繍の技に脱帽です。

古い機械や道具を大事にしながら新しいものを作っていく。

そんな桐生の土地柄が職人たちを活気づけていました。

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