美の壺「福を呼ぶ“大そうじ”」

美の壺「福を呼ぶ“大そうじ”」

<File432>職人が一から作る伝統の箒(ほうき)は、材料のホウキモロコシの細い穂先と細かな縮れがゴミを逃さずキャッチ。

穂先が床に垂直に付くよう設計されていて、10年使える逸品。

禅寺に学ぶ拭き掃除の極意、さまざまな色の糸を使った自作雑巾の楽しみも必見!

さらに、知恵と工夫の収納法も紹介。

カリスマ主婦のユニークな収納アイデアから反故(ほご)紙や使い古しの布を上手に利用した、武家の美しいしまい方まで!

【出演】草刈正雄,【語り】木村多江

美の壺「福を呼ぶ“大そうじ”」

放送:2018年12月23日

プロローグ

今年も年の瀬が迫ってきました。お正月の準備って楽しいですよね。でもその前にあれを忘れていませんか。そうこの時期ちょっと気が重い大掃除。その由来は平安時代。五穀豊穣をもたらす年神を迎えるため宮中で行った煤払い。新年に福を呼び込むための儀式だったんですね。この機会に伝統的な掃除道具を直してみましょう。ホウキと雑巾は使い方次第で絶大な効果を発揮します。楽しい片付けのコツも伝授。江戸時代の収納は想像と工夫に満ちていました。先人の知恵を生かして楽しい大掃除を。

年末の人気者ホウキ

東京荒川区にある生活雑貨店。昔懐かしいレトロなデザインが若者に人気です。最近の売れ筋は意外や意外。ホウキ。便利な家電が当たり前の時代に一体どうして。「自然の素材をずっと使ってて、すごく長く使えて使えば使うほど味の出てくる穏やかな暮らしの道具です。現代人が遅く帰っても大きな音を立てずに簡単にちりとりとほうきで掃除ができるというような便利さと、電気を使わないエコな暮らしというようなものに対する消費者の人気がある原因だと思いますけども」。インテリアに溶け込むナチュラルな佇まいも人気の秘密です。室内用の座敷箒。現代のような形になったのは江戸時代です。地域や職人によって様々なデザインが生まれました。柄とホウキの接合部分を枝分かれに編んだ東型は関東発祥。栃木県の鹿沼に伝わる蛤型。子宝の象徴であるハマグリをモチーフにして縁起を担いだと言われます。そして最もポピュラーなのが手箒。左右非対称の編み込みが特徴です。柄が短いため片手で使える手軽なほうきです。手箒の使い方を明治から続くほうき作りの家の六代目柳川直子さんに教えてもらいます。「畳の目に沿って力を入れずにサッサと気持ちよく」撫でるように動かすと穂先が広がり表面のゴミを逃さずキャッチします。「先端を使うときと、角を使って畳の溝をかき出せます」ホウキには体に負担をかけず扱える理由があります。ある仕掛けが施されているのです。「手箒はここに角度が付いておりまして、斜めに腰をちょっとかがめた時に先端が畳に垂直に当たるようになっております。ですから余分な力を入れずにかき出すことはできます」。ホウキは畳にもいいんです。素材のほうきもろこしという植物の油が染み込み、つやを与え、長持ちさせます。はく人の体に馴染み環境にもやさしい。大掃除の頼もしい助っ人です。今日一つ目のツボほうきは機能満載のエコツール。

ホウキ職人の技

箒はどうやって作られるのでしょうか。神奈川県北部の愛川町。かつてほうきの一大生産地でした。最盛期には年間50万本を出荷していたと言います。ほうきの原料ほうきもろこしはイネ科の植物。使うのはその後の部分。一本ずつ手摘みされ、3日ほど天日干しした後に室内で乾燥。その先がそのままほうきの先端になります。この縮れが細かなごみまで絡め取るのです。山田二郎さんは日本有数の箒職人。手箒の作り方を見せてもらいました。手ボウキは複数のパーツで構成されていますまず。まず穂を数本束ねた玉を三つ作ります。続いて穂を編んで耳を作ります。手箒に角度をつけるためのパーツです。ただ束ねただけでは曲げると折れてしまうため、糸を通して編むことで強度と弾力性を持たせます。完成した四つのパーツ。これを一つにまとめます。先ほど作った耳の部分をホウキが床に垂直に当たるよう曲げていきます。穂先の広がりを糸で綴じることでさらに角度をつけます。しっかりと編み上げられたほうきは耐久性に優れ、10年は使えます。使いやすさを極めて生まれた形。職人の知恵と工夫の結晶です。

拭く

東京武蔵野にある観音院は江戸時代初めに創建された禅寺です。朝7時たすきがけをする29代目住職の来馬正行さん。作務太鼓を打ち鳴らすとお寺の掃除が始まります。座禅の会に集まった人たちが雑巾で本堂の隅々まで拭き清めます。このお寺では拭き掃除に3種類の布を使い分けます。床を拭くのはいわゆる雑巾。年季が入ってますね。家具や障子の桟を吹く中巾。大事なものや畳の乾拭きには一番綺麗な浄巾を使います。仏具を拭くのは浄巾。漆塗りの大きな香炉を丁寧に磨き上げます。そして最も汚れる床にはしっかり雑巾がけ。板の間を吹くときは板の向きによって吹き方を変えるのがコツ。板の目が横場合は横。木目に雑巾が引っかからずスムーズに拭けるから。日本に掃除の習慣が根付いたのは鎌倉時代。禅を広めた道元禅師の教えによるものでした。道元曰く「人間は放っておくと勝手なことばかりして身の回りのことをおろそかにする。不潔な環境では良い心は育たない。作法に従い自分も周りの環境も正常に保つことが大事なのだ」。「正しい心の在り方というものを築くには行為が大事だってことです。丁寧にね拭いたという。その結果がすぐ現れるじゃないですか。いい加減に吹いたらいい加減な吹き方になる。雑巾を絞ってそしてよくよくを磨けば磨いただけ光るじゃないですか。そこにね喜びがあるじゃないですか。誰もがわかる喜びですよ」。床を磨けば自分の心も磨かれる。今日二つ目のツボ人の心を写す雑巾。
こちらのお宅でも拭き掃除の真っ最中。都内で荒物業を営む松野絹子さんは拭き掃除が大好き。雑巾でピカピカに磨き上げるのが日課です。松野さんは手芸の分野で作家活動をするほどの腕前。手の込んだ品々が生活を彩ります。当然雑巾もお手製。縫い目もさぞや細く美しくと思いきや、思ったより粗い目ですね。「甘く塗っているのであんまり細かくは縫っていないので、ボコボコしてた方が絞った後に拭きやすい」。粗く縫った素朴な雑巾ですがそこには拭き掃除付きの松野さんならではの工夫があります。雑巾にするタオルの上に古手ぬぐいなどの薄い布おきます。ちょうど良い大きさに切って挟んで雑巾の芯にします。これが丈夫で長持ちするための工夫。芯があると縒れにくく絞りやすくもなります・雑巾を作る時の楽しみは糸選び。「糸色選びとかいとは好きなのでいろんな色があると楽しいので早急はあの単調だとつまらないのであの糸で変化をつけたりしてます。自分で手をかけて縫うと本当にとことんずっと続かを使い続けることができるので、拭き掃除もちゃんと。雑巾があることが私にとっては安心みたいな部分があって」。新品で台を拭き、汚れてきたらレンジ周り。さらに使い込んだら床掃除。穴が空いたらたたきを拭いて処分します。ボロボロになった雑巾の穴はその一生を全うした勲章なのです。

取材先など

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