どっしりとした形、ゆらめく炎。家庭用からキャンプ用まで、多彩な用途とデザインで近年人気を博している「薪(まき)ストーブ」。奥飛騨のホテルにある、360度どこからでも炎が楽しめる薪(まき)ストーブとは?!人が作り出す“オーロラの炎”とは?!薪(まき)ストーブならではの絶品料理とは?!“家の主役”とも言える薪(まき)ストーブの、魅力と楽しみを紹介する。<File:437>
【出演】草刈正雄,【語り】木村多江
放送:2019年2月3日
美の壺 「薪(まき)ストーブ」
プロローグ
山梨県北杜市。会社員の五味辰弥さん。
8年前家を建てた時薪ストーブを入れました。
薪ストーブとは主に鉄でできた箱の中で薪を焚いて温める暖房器具のこと。
どっしりとした重厚感と窓越しに揺らめく炎。パチパチという薪のはぜる心地よい音。五味さんの家では毎年冬になると生活の中心に薪ストーブがあるといいます。
今日は体を温め、心も豊かにする薪ストーブの魅力に迫ります。
暖
東京・杉並区。薪ストーブの専門店。店内には様々な種類の薪ストーブがあります。
最も人気があるのが鋳物製の薪ストーブ。溶かした鉄を型に流し込んで作ります。薪ストーブはストーブ本体を温め、その熱を放出することで部屋を温めます。鋳物製の薪ストーブは温まるのに時間がかかりますが、火が弱くなっても暖かさが長持ちすると言われています。
こちらは鋳物製のストーブにホーローをコーティングしたもの。様々な色と艶やかな表情が楽しめます。
一方こちらは鋼板製。型に流し込むのではなく鉄の板を加工して作られています。鋳物製より冷めやすいものの、温まるのが早いのが特徴です。
「体の中から温めるものですので、全然温まり方が違います」。今日最初の壺は身も心もあたたかく。
薪ストーブの前身は暖炉と言われます。14世紀後半、暖炉を応用した箱型のストーブが誕生したと伝えられています。しかし暖炉と同様、熱の大半は煙突から出てしまうため、部屋全体を温めることは容易ではありませんでした。
1742年。アメリカの発明家ベンジャミンフランクリンが画期的な薪ストーブを発明。
ストーブ内に空気の通り道を作り、燃焼効率を上げることで格段に暖かいストーブを生み出したのです。
日本で薪ストーブが初めて作られたのは北海道函館。
1856年のことでした。イギリスの船が入港した際、船で使われていた薪ストーブを参考にしたと言われています。
今では日本各地で薪ストーブが作られています。
薪ストーブ職人の高橋健三さんと息子の和雅さん。一つ一つ手作りで薪ストーブを作っています。
高橋さん親子が作るのは鉄の板を加工して作る鋼板製の薪ストーブ。直線を基調としたシンプルなデザインが特徴です。見た目はシンプルでも中はストーブの機能を最大限に引き出す工夫が施されているのだとか。「燃焼した熱をいかにして薪ストーブに蓄熱、蓄えるかと、熱効率と燃焼効率をいかに高くしてあげられるか。そうすると薪が少なくてもあったかい」。蓄熱性と燃焼効率が求められる薪ストーブ。
鋼板製は鋳物製に比べ冷めやすいので高橋さんは9 mm と12 mm の熱い鉄板を使っています。そのため火が弱くなっても蓄えられた熱で部屋を暖めてくれるといいます。
こだわりはそれだけではありません。構造にも秘密が。
ストーブの後ろ側に作られたこの空間です。
「火を燃やすと燃えた排気は仕切りのここを通ってストーブの中をぐるぐる回っています」。ストーブの中が空洞の場合、燃えた熱の大半は煙突を通り外へ逃げていきます。
そのため多くの薪ストーブには仕切り版がついています。燃えた排気熱がまわり、何度も燃焼します。
さらに空間を加えると排気熱がストーブの隅々まで周りより効率的に熱ををストーブに貯めることができるといいます。
燃焼しきった排気熱だけが煙突を通り外に出るため、煙を最小限に抑えることができると考えられています。 薪ストーブの暖かさにかける知恵と工夫が今に息づいていました。 薪ストーブの暖かさにかける知恵と工夫が今に息づいていました。
炎
岐阜県高山市。ここに8年前にオープンした温泉旅館があります。
ロビーに入ると目を引くのが大きな薪ストーブ。こちらの薪ストーブ360度どこからでも炎を楽しむことができます。
宿のオーナー林英一さんのこだわりで八角形の薪ストーブを特別に注文しました。
「やはり囲む。暖炉だと壁になります。火を囲みながら団らんする雰囲気が欲しいと思いました」。
食事がすむと薪ストーブの周りにお客さんが集まってきました。薪ストーブを囲んで食後のデザートを食べるという趣向です。今日二つ目の壺は炎の揺らめきに酔いしれる。
埼玉県で薪ストーブ店を経営する金子稔さん。
薪ストーブに使用する薪は長い時間燃えるナラやクヌギなどの広葉樹が適しているといいます。
その薪を薪棚で保管。乾燥させます。薪を十分に乾燥させるためには積み方にも工夫が必要なんだとか。
「日当たりがいいところに風通しをよく積んでいただくのが一番いいんですけど、交互に住んでるんですけども風が抜けるように密集して住むよりも好き間を開けて積むというのがより良い方法ですね」。
薪を交互に積み風通しを良くしておよそ2年。不完全燃焼を防ぎ、よく燃える薪になります。
いよいよ燃やしていきます。最初は小さめの薪を交互に積んで行きます。空気の通り道を作り火をつけやすくします。
火をつけて数分。炎が勢いよく立ち上がりました。このストーブの場合30分から1時間ほどでストーブの表面温度が200°を超えます。
そこでエアーコントロールレバーで空気の量を絞ると。
「炎の天井に上っていくゆらめきの速度がゆったり、揺れながら薪が燃える。炎が揺れながら立ち上がっていくってことです」。勢いよく燃えていた炎がゆったりとした姿に変わりました。ここから幻想的な炎を作り出します。
それがこちら。ストーブの上だけ雲のように燃えています。ストーブ中央の酸素が少なくなり、上に溜まったガスだが燃えるために起こる現象。
オーロラの炎と呼ばれています。燃え尽きる直前の最後の瞬間。完全に萌え真っ赤に染まる薪。
よく見ると表面には青白い炎が。時の流れとともに様々な表情を見せる薪ストーブならではの景色です。
楽しみ
神奈川県南足柄市のキャンプ場。会社員の椎名隆さんはアウトドア仲間と冬によくキャンプをするといいます。
この四角い箱はもしかして。「キャンプ用の薪ストーブです」。
薪ストーブ専用のテントの天井の穴に煙突を差し込んで使います。
今、全国のキャンプ場でこうした薪ストーブを楽しむ人が増えているといいます。薪ストーブの高さはおよそ35センチ。温まったりお湯を沸かしたり冬のキャンプを一層楽しくしてくれるといいます。今日最後の壺は五感で味わう特別な時間。
山梨県北斗市。冬の暮らしに薪ストーブは欠かせないという人がいます。四井真治さん。10年前に憧れの薪ストーブを手に入れました。四井さんのストーブは二段式のもの。下の段はオーブンになっています。「冬というと寂しい気持ちでいっぱいでした。薪ストーブとの暮らしを始めると暖をとるだけではなくて、地溶離をしたりとかいろんな作業をできますから楽しみが生れます」。毎年10月から5月成就生で薪ストーブが活躍するといいます。この日は家族全員でピザづくり。自家製の生地に家庭菜園で採れたピーマンやとうもろこしをトッピング。あとは薪ストーブのオーブンに入れて待ちます。直火ではなくストーブの熱でじっくりと焼き上げます。ストーブの上で煮込んでいたスープが出来上がりました。自家製のトマトで煮込んだ鶏肉と野菜のスープです。ピザが焼き上がりました。薪ストーブが冬の食卓を彩ります。薪ストーブの楽しみはもう一つあります。子供達がこねているのは陶芸用の粘土です。待つこと一晩。素焼きの置物が完成。冬の暮らしを豊かにしてくれる薪ストーブならではの楽しみです。
取材先など
七輪 | 薪クラブ本店 薪(まき)・薪ストーブ・石窯の専門店
静かなブーム「薪ストーブ」 後悔しないための心得 :日本経済新聞
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