日曜美術館「沖縄 見つめて愛して 写真家・ 平敷兼七 」

戦後の沖縄で懸命に生きる人々を撮り続けた伝説の写真家がいた。平敷兼七。夜の街の女。貧しくとも満面笑みの男。人の本当の美しさとは何かを問いかけてくる写真の魅力は?

初回放送日: 2016年6月19日

 

日曜美術館「沖縄 見つめて愛して 写真家・平敷兼七」

「井の中の蛙一天を見つめる。天は全世界とつながっている。つきぬけてゆくと宇宙にもたっする。」
高校の先生がいった言葉が沖縄の写真を撮影していく力になった。
基地の中に沖縄はあるとよく言われているが、私は沖縄の中に基地があると思いたい。
人が住んでいる約四十七の島でなりたっている沖縄を「復帰」前後の時期から
撮影したのがこれらの写真である。この写真集を通して、沖縄の歴史とは、
沖縄とは、沖縄人とは何かを感じてもらえればと思っている。

写真集『山羊の肺 沖縄一九六八―二〇〇五年』(影書房)の冒頭に書かれている言葉です。

著:平敷 兼七, 編集:平敷兼七写真集刊行委員会, 写真:平敷 兼七
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ETVで放送された日曜美術館「沖縄 見つめて愛して 写真家・平敷兼七(へしき・けんしち)」は、61歳で亡くなるまで、40年間にわたって沖縄の人々を撮り続けた写真家・平敷兼七を特集した番組です。

番組では平敷の写真に衝撃を受けたという写真家、石川竜一氏が平敷の足跡と写真を辿ります。

1948年、アメリカ統治下の沖縄に生まれた平敷がレンズを向けたのは沖縄の海でも、基地でもなく・戦後の混乱期を必死で生きる無名の人々でした。22歳の時訪れた南大東島で”料亭”と呼ばれる夜の店で働く女性たちと出会った平敷は、貧しさの中で生きる人々こそ自分の撮るべきものだと確信します。

「普通は人は死んだら無になるって言うんだけど、やっぱり人は死んでも何かを教えているようなね、感じがするわけですね。それを生きているこっち側が感じとらなけりゃあもう、それまでですよね。」(ドキュメンタリー「うしなわれしものたち1968~2005・沖縄」2008年 RBC琉球放送のインタビューより)

本島に戻った平敷は、夜の街に通い、女性たちとの信頼関係を築きさ津英を重ねます。しかし戦後、本土復興の盛り上がりのなか、世間は彼女たちから目をそらすようになっていきました。そんな人々を肯定したい・・・・。たくましく生きる女性や、貧しき労働者、無名の老人たちなど、誰も見ようとしなかった”沖縄の姿” が平敷の写真には記録されています。

大城和喜(元 南風原文化センター館長)が写真展によせたことばの中には、女性たちの存在を丸ごと肯定し、慈しむことによって、写真を撮るという行為が持つ暴力性を昇華させた平敷の仕事への敬意がにじみます。

タイトルの山羊は沖縄の生き写しといえる言葉です。山羊は気性はきまじめでおとなしく優しい動物です、しかし最後にはその絶妙な味ゆえに殺され食べられてしまいます。

人生をマンガタミー(人の不幸をみんな自分で背負うこと)して底辺で生きる人々を見つめ続けた写真は、私たちに強い感動を与え続けます。

この写真集は、当時大学生だった中條朝氏が平敷氏とその作品に出会い、強い衝撃と感銘を受け、写真集刊行を決意して奔走して刊行しました。

南風原文化センターを中心に県外にもまたがる友人・知人らの支援によって創り出された幸せな写真集といえます。そして、2008年度の伊奈信夫賞を受賞しました。

平敷兼七(へしき・けんしち)の世界

https://www.facebook.com/kenshichiheshikigallery/

制作:NHKエデュケーショナル

ディレクター:今 理織