日曜美術館「井浦新 円空 への旅」北海道・始まりの地

江戸時代に全国を歩き、12万体とも言われる仏像を彫って庶民に与えた円空。円空仏と呼ばれるその仏像は、常識からかけ離れた荒々しい姿でありながら、穏やかなほほ笑みをたたえている。円空はどんな思いを込めたのか? なぜ膨大な数を彫ったのか?番組司会の井浦新は、20代で円空仏と出会って以来、強くひかれてきた。今回、井浦が円空の秘密を探る旅に出る。北海道、伊勢志摩、山形へ。そこで見つけたものとは…?!
【出演】円空学会顧問…長谷川公茂,善光寺福住職(北海道伊達市)…木立真理,見政寺住職(山形県庄内町)…石田秀弌
【出演】井浦新
【語り】伊東敏恵

放送日 2016年6月12日

日曜美術館「井浦新 円空への旅」北海道・始まりの地

北海道は円空が始めて旅をして仏像を残した土地です。現存している円空仏は全国でおよそ5千体。1632年岐阜に生まれた円空は仏像を彫り始めて間もない35歳の時、縁もゆかりもない北海道に渡りました。それは何故だったのでしょうか。

訪ねたのは津軽半島に面した木古内町。今も円空仏をとても大切にしている町です。円空がここを訪れた当時は小さな漁村だったと言います。円空仏は寺ではなく神社にまつられていました。
年に一度のお祭りの日、白装束の男性が大事に抱いているのが円空仏。ご神体です。この日、男がさらしに巻いた円空仏を抱いて町内を練り歩きます。祭りが始まったのは江戸時代の終わりのことです。当時不漁不作が続き人々は困窮にあえいでいたと言います。祭りのクライマックスです。

円空仏を先頭に砂浜に現れた4体のご神体は、極寒の海の中に運び込まれます。円空仏は人々に福をもたらす象徴なのです。

円空がなぜ全国各地に仏像を彫ったのか、その秘密が隠されていると聞き、伊達市の善光寺を訪ねました。円空が仏像を彫り始めて間もない頃の貴重な像です。

地元のイチイガシの木から彫り出された観音菩薩像。

40代の頃の円空仏は荒々しい彫りの中に穏やかなほほえみを浮かべています。しかし、この寺に残された観音菩薩像は瞑想しているようにも見えます。
「台座の上に座って両手を組んでますよね。そしてよく見ると眼は下を見て瞑想している半眼です。全国にある円空仏の中では珍しい。祈っている。この地域を助けたいという思いがあるのかなと思うのです」

「像の背面に文字が書かれています。寛文6年7月28日始めて有珠山にと書かれていますので、私は有珠山大噴火とかなり密接な関係があるのではないかと思います」
円空が北海道に来る三年前、有珠山が記録に残る中で最大の噴火を起こしました。降り積もった堆積物で一体は砂漠のように荒れ果てたと言います。円空はそのことを知って北海道を訪れ、観音像を彫ったと考えられます。このこ日本は繰り返し災害に襲われました。近江大地震、日向佐土原地震、陸中地震・・・そして有珠山大噴火。数年おきに飢饉が発生し、地方には困窮した人が大勢いました。そうした時代に円空は美濃国(現在の岐阜県)に生まれ、32歳の時から仏像を彫り始めました。円空自身も幼い頃長良川の氾濫で母親を亡くしました。その母の菩提を弔うために仏門に入ったと言われます。若き円空は寺の住職になる道を選ばず、諸国を行脚し12万体をめざして木の仏を彫り続けました。

災害で肉親を失う悲しみを知っていたからこそ、円空ははるばる北海道の地を踏んだのです。

三重県三重県志摩地方・転機の地

三重県志摩市立神地区に円空が桜の木に彫った仏が残されています。

朽ちた木の幹に直接彫られたのは仏門に帰依した女性の顔。善女の右隣には龍が彫られています。

円空が型破りな仏像を彫るきっかけになるものが保存されていました。600巻にもおよぶ経典「大般若経」です。この土地で仏像の修復に取り組んだ円空は、自筆の絵を添えたと言われています。

はじめは仏画を模写していた円空は、その後独自の絵を付け加え、簡略・デフォルメ化した絵を描くようになりました。それは女人成仏と呼ばれる教えと関わりがあります。古来、女性はなくなっても成仏できないとされてきました。

円空は災害で亡くなった母親が成仏できないことをずっと心に留めていました。しかし円空はこの地で「女人成仏」の教えと出会い目覚めたのです。母の鎮魂の喜びが大胆な作品を生みました。「善女竜王」は、その出発地点となった仏像なのです。

円空が薪に直接彫ったといわれる大黒天が、同じ地域の民家に残されていました。

仏像らしさを残しながらシンプルになっていく円空仏。もう一つの節目となったのは自然との出会いでした。

円空は49歳のとき山形県の出羽三山を訪れ、修行を積みました。庄内町の見政寺に山岳修行時代の円空仏が残されています。

「聖観音菩薩立像」は栗の木をナタで割ってできた筋目を生かしながら。静かなほほえみが彫られています。少し首をかしげているので、見る角度を変えると表情が変化する仏像です。命の恵みをもたらす仏として、この地の女性たちに拝まれました。

野生の厳しさの中から生まれたやさしさ。仏の向こうにいる円空の優しさを感じる旅でした。

ディレクター:上原一也

制作統括:村山淳、堀川篤志

制作:NHKエデュケーショナル

取材先など

番組で井浦新が訪れたのは以下の場所です。
● 北海道/木古内町 「寒中みそぎ祭り」 毎年1月13・14・15日 佐女川神社、他 北海道上磯郡木古内町字木古内155
● 北海道/有珠山 「有珠善光寺」 北海道伊達市有珠町124
● 山形県/庄内地方 「見政寺」 山形県東田川郡庄内町狩川阿古屋33
● 三重県/伊勢志摩 「片田三蔵寺」 三重県志摩市志摩町片田 
● 三重県/伊勢志摩 「立神少林寺・薬師堂」 三重県志摩市阿児町立神2051

井浦新の日曜美術館

井浦新の美術探検 東京国立博物館の巻

NHK日曜美術館1976‐2006―美を語る30篇

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