美の壺 「勇壮と華麗 真田紐 」

戦国の乱世に、真田一族によって作られたと言われる織物「真田紐」の魅力を紹介する。約400年前に生み出された真田紐は伸びにくく丈夫な性質から、ビニール製品が主流となる昭和初期まで生活の必需品だった。近年ではその美しさが注目されるようになり、ストラップやベルトに用いられるなど、海外でも人気だという。

放送日 2016年6月10日

美の壺 「勇壮と華麗 真田紐」

この紐を束ね、結び、運ぶために生まれた真田紐は、四百年以上にわたり私たちの暮らしとともにありました。現在でも、雅な紫の真田紐を作り続けているグループがあります。

彼らが用いるのは機織り機。紐の幅はわずか数センチしかありませんが、織られている縦糸には通常の倍近い本数の糸が使われています。経糸を上下させ、その間に横糸を入れ、しっかりと打ち込むことで真田紐は強靭さを身にまといます。経糸がびっしりと織り込まれているため、表面には横糸が見えません。

江戸時代の商人たちは、この強靭な紐に勇猛果敢な真田家の名をつけ、「真田紐」として売り出しました。店先に並んでいるのは巻かれた真田紐。真田紐研究会のメンバーが手がけているのは、幾何学模様があしらわれた洒落た紐です。

よく見ると、真田家の家紋「六文銭」が繋がっているように見えることから、この柄は江戸時代に「真田紐」と呼ばれていたそうです。

「真田の人らが九度山に来てくれたおかげで、今こうやって私らが使わせてもらえるんやなぁって思ってます。」

雅之の伝記には、真田紐との関わりを示す一説があります。雅之は九度山で暮らしていた際、大小の刀の柄を木綿の糸で巻いていたそうです。ある人がそれを見て笑ったといいますが、なぜ笑ったのでしょうか。

出雲の哲也さんにご指導いただきながら、真田紐を巻いてもらいました。「刀の柄は本来、絹で巻くのが基本です。しかし、雅之はあえて木綿の真田紐で巻いていました。そのため、その刀を正宗のような最高峰のものと比べると、やはり一風変わった選択だと言えます。しかし、その背景には、雅之の反骨精神や、豪放な性格が垣間見えます。それは、彼ならではの粋な行動だったのです。」

真田紐は江戸時代、刀を帯に結ぶ下げ緒としても使われ、敵の不意打ちにも効果を発揮したと言われています。しなやかで強靭な真田紐は、まさに武士道そのものを象徴しています。

ここは茶道具の専門店です。棚には貴重な茶碗や茶入れをしまう桐箱が並べられており、そのすべての箱には真田紐がかけられています。茶道具に使われる真田紐は、単に木箱の蓋と身を固定するためのものではなく、その紐の色や模様によって使用される流儀や、誰が作ったか、さらには何代目の職人が作ったかといった情報を伝える役割も果たしています。お茶人にとっては非常に重要な要素です。

今日二つ目のツボは真田紐に秘められた約束と秘密

トートで十五代続く真田紐の老舗です。織状に巻かれた色とりどりの紐が、店内にうず高く積まれています。この店の始まりは戦国時代にさかのぼり、武士だった先祖が武具に使う紐を作ったことが由来だそうです。代々受け継がれてきた見本が今も伝わっています。

「真田紐は戦場で屍となっても、その紐を見ればどこの家の者かが分かるようになっていました。家ごとにその柄があり、まさに紋章のような役割を果たしていたのです。」

茶道の世界でも、真田紐は同じように重要な役割を果たします。流派や所有者を示す紐は「約束紐」と呼ばれ、茶道具の素性を知る大切な証拠です。たとえば、表千家の約束紐や裏千家のもの、それぞれの流派ごとに模様が異なり、個々の道具の持つ歴史を物語ります。オリーブグリーンの紐は、千家御用達の道具を作る竹細工職人・黒田さんのもので、まるで縁を紐に重ねているかのようです。鮮やかな桃色の紐に包まれた道具も、どんな歴史があるのか気になるところです。

「華やかな色彩の茶碗は永楽善五郎さんの作品です。その紐は大西清右衛門さんの作品と響き合うような、洗練されたデザインが特徴です。さらに、約束紐というのは、偽物か本物かを見分ける術にも使われます。その中には、一見してわからないような、さまざまな秘密の技が含まれています。」

無地に見える茶色の紐も、よく見ると緑の筋が浮かび上がっています。縦糸のわずかな隙間から覗く横糸の色が、紐に隠された秘密を物語っています。茶色一色に見える紐にこっそり潜ませた隠し技は、大切な約束紐を守るための工夫です。

さらに、紐の結び方にも独自の技があり、中身のすり替えなどを防ぐために特別な結び方が施されています。このような手法は、茶道具の保護や信頼性を確保するための重要な役割を果たしています。

和田さんが手掛ける約束紐は、昔ながらの方法で糸を染め上げ、変わらず同じ材料を使い続けています。特に、陶芸色の糸は日本固有のヤシャブシの実を用いて染められ、青い色を染めるには、現在では手に入れにくい材料が使われています。このように、約束紐の製作には、伝統的な工程が今も厳格に守られているのです。

この約束紐に特別な思いを持っている陶芸家がいます。それはリチャード・ミルグリムさんです。彼は日本の陶芸に魅了され、茶の湯を学び、35年以上にわたり茶道具を制作しています。彼の作品は、伝統とアバンギャルドが融合した個性的なデザインが特徴です。特に、紐にはエンジ色に石畳のような縞模様を右側に寄せた独自のデザインを施しています。

「自分の作品が少し変わっているので、紐も変わっている方が良いと感じた」とミルグリムさんは語り、日本の伝統的な市松模様を好んで取り入れています。このように、美しい紐を掛けるという行為も、茶道の精神を表現する重要な要素となっています。

自慢の自転車でおしゃれに走るレースが、毎年富士山麓で行われています。イタリアで始まったこの競技は、日本での開催が今年で四回目となり、世界中から自転車マニアが集まりました。会場で人気を博していたのが真田紐です。参加者たちはハンドルに巻き付けて使っていました。

「愛車に合わせて、真田紐を自由にコーディネートしました。このかばんの色と、あとこのメッキとのバランスが良いかなと思って、この色にしました。」と話すのは、真田紐を自転車に取り入れた夢のただのりさんです。

「昔は刀や武器に巻いていた紐を、今は自転車のハンドルに巻くっていうのは、時代が変わっても日本の伝統文化が引き継がれていくという点で、すごく面白いと思ってやろうと思いました。『侍自転車』って言われて、元気が出ました。」

三つ目の壺は「現代の侍たちの心をとらえる真田紐の魅力」

侍はここにもいました。アップダウンの激しい山道をひたすら走る男たち。トレイルランニングという、今注目されているスポーツです。気持ちよさそうに走っていますね。あれ、皆さんサンダルです。大丈夫でしょうか?その中でもこの「わらじ」が一番ですね。数々のフルマラソンを走破した木村さんがたどり着いた、究極のランニングシューズです。

モデルとして活躍してきた木村さんは、今ではアウトドア研究家としても知られています。この「わらじ」は全て手作りです。材料は、靴の底を補修する際に使うゴムと、ウェットスーツに使うゴム、鼻緒には真田紐が登場します。

そもそも「わらじ」を知ったきっかけは、この本でした。メキシコのタラウマラという先住民たちは、古いタイヤを切っただけのサンダルで走り、足を痛めない。その理由に興味を持ち、木村さんは「一度自分でも草鞋を作ってみよう」と思ったのです。

わらじ作りには二年の歳月を要しました。特に難しかったのが鼻緒の素材でした。何度も試行錯誤を繰り返し、最初はタラウマラの人たちと同じく皮を使ってみたものの、どうもしっくりこない。もっと足に優しい素材を求めて調べていくうちに、着物の帯締めに使われる「真田紐」にたどり着いたのです。

この「わらじ」は、三千キロを走破したという強者です。一度履けば、紐が解けず、緩まない。そして、履いていて全くストレスがない。木村さんは自分なりの紐の結び方も編み出しました。斜めに紐を通すことで、小指に沿って固定され、鼻緒ずれを防ぐという工夫です。まるで真田紐を使って形を結んだ侍のようです。

新たな仲間たちも集まりました。戦国時代に生まれた真田紐は、時空を超えて今に受け継がれています。真田紐を織ってみました。 : こけしと手織りの小部屋