印象派の巨匠ルノワール。その最高傑作とも言われる名画が初来日、注目を集めている。 ルノワール を愛してやまない個性的な3人が傑作を選びながら、意外な魅力をひもとく!
ルノワールの描くパリの女性たちは不思議と私たち日本人の心もとらえて離さない。それは一体なぜ…?クリエーティブ・ディレクターの佐藤可士和さんは、作品には思いがけない逆転の発想があるという。美術史家の高階秀爾さんは、激動の時代に何が大切かを示した稀有(けう)な力があると考える。演出家・作家の大宮エリーさんは、ある作品を見ていると涙が出るという。泣けるルノワールとは一体…?3人が傑作を出し合い熱烈談義!
【ゲスト】美術史家・大原美術館館長…高階秀爾,クリエーティブ・ディレクター…佐藤可士和,演出家・作家…大宮エリー,【司会】井浦新,伊東敏恵
初回放送日: 2016年7月3日
日曜美術館 「熱烈!傑作ダンギ ルノワール」
ルノワールの描くパリの女性たちは不思議と私たち日本人の心もとらえて離さない。それは一体なぜ…?クリエーティブ・ディレクターの佐藤可士和さんは、作品には思いがけない逆転の発想があるといいます。
ピンクの木漏れ日と青い陰、パリの庭で着飾った男女がブランコで遊んでいます。一見なにげない日常の風景に佐藤可士和さんは心を動かされました。
「美術大学三年の春休みに、美術館を巡る旅をしました。そのときオルセーによって驚いたのがこの作品です。暖かさを描くのに寒色を使っているのに驚かされました。クリエィティブディレクターをしていると、違う視点を提示できたときにはじめて提案が出来るのではないかと思っています。国立美術館や企業のロゴなどあえて違った視点を提示して、そこをエッジにしてグローバルなものを出そうとしています。その発想の原点、ヒントともなった作品です」
「筆のタッチを残さないような絵がずっと主流として来ていた中で、なんかこれは違うのではないか、リアリティを伝えるというのは公じゃないのではないかという違和感があったのではないかと思うのです。僕は、クリエイターという仕事は次の視点をつくっていく人たちだと思っています。新しい視点を見つけて、本当とはこうじゃないのということを信じてた。どうして日常を描いてはいけないのか、穏やかな絵ではあるけど革新的な絵だったと思います」
演出家・作家の大宮エリーさんがルノアールに惹かれるきっかけとなったのが「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」です。
「小学校のときこの絵を見て、大勢のざわめきが聞こえてくるような体験をしました。その後、大人になって美術館を巡るったとき、この絵の前で同じような思いが蘇ってきたのです。私はせっかちなのでいちいち絵の前に立ち止まり見ることはしません。駆け足で見て回ることが多く、その場の印象を感じ取る用にしています。ところがそのとき、この絵の前で私がそこにいるような感じになったのです」
「左上にカップルがいますよね。うれしそうな二人とたまたま目が合ってしまったように思いました。ルノアールのしかけなんですかね」
見ている人との距離感をしっかり計算している。空の空間が描かれていないのも工夫の一つです。アトリエでしっかり考えています。
ベンチが手前にありますがその奥にお母さんと子どもがいますが、これはデッサンにはないのです。世界が広がっているのをしっかり計算しています。
開催中の展覧会で、佐藤可士和さんも初めて見たのがこの作品です。70年以上も公開されなかった幻の作品です。パリ近郊の梨の木が押井ゲル果樹園です。印象派で風景がといえばモネが有名ですが、ルノワールは風景画の印象は薄いかもしれませんが、佐藤さんはルノワールらしさを感じたと言います。
「これはまさに、ここに行きたいなと、ざあざあと心地の良い風が吹き渡る、ちょうどいい気温といいますか、言ったら気持ちいいなと感じます」
「人間が左右にいますが一体化して描かれています。モネというのは目の人。すばらしい視覚を持っていて風景でも、光を描く。ルノワールは近接して描いている。目だけではなく手触り、そこに入っていきたいというものを触覚的に描いています」(高階)
貧しい幼少期を送ったルノワールは絵付け職人として腕を磨きました。彼が青年期を過ごした時代、パリは「パリコミューン」の動乱の中にありました。数多くの人が犠牲になるつらく苦しい日々を過ごしたルノワールは美しいものに惹かれてゆきました。
ルノワールがもっとも情熱を傾けて描いたのが女性でした。肌の色、体の曲線、そして肖像画では内面に迫りました。
美術史家の高階さんが傑作と考えるのが「ジュリー・マネ」9歳の少女です。
ジュリーはマネの弟の娘です。ポーズや構図、猫の絵に隠された計算があるといいます。「職人的な技術を持った画家です。見る人が気持ちいいと感じる絵が描ける画家で、自分を出すタイプではないことがわかります」
佐藤可士和さんはルノワールの女性の肌に魅力を感じるといいます。
「まさに人肌のぬくもりを感じるといいますか、その質感・・距離感が面白いですね」
「自分が好きなモデルは、光を吸い込むようなモデルがいいとルノワールはいっています」(高階)
「陶器のような肌というか、柔らかい光ですね。陶器に絵付けしていた反動なのですかね」(大宮)
「身近な感じがしますね」
「天才たちの作品はどこか飲み込みにくい部分があるけど、ルノワールはそうじゃない」(佐藤)
大宮エリーさんが選んだ女性の傑作「浴女たち」。肉体はバラ色に包まれているかのよう。どこか現実離れした光景です。ルノワールが晩年療養のため移り住んだのが南フランスのカーニュです。この作品を描いた場所です。
アトリエにはルノワールが使っていた車いすも残されています。手足の自由もままならないルノワールは78歳でなくなる直前にこの作品を描きました。「ようやくなにかわかり描けてきた気がする」ルノワールはつぶやきました。
大宮さんが思わず涙が出るという。泣けるルノワールとは一体…?
「やっと描けたという気がした。こんなに力強く、太陽と大地を感じる絵がなかったから、この作品を見て感じました。私も作家であるから観客のことを思いながら描くことが多いのですが、自分はどうなのと考えると泣けてきました」(大宮)
「指は動かないで絵を描いているところは凄い画家でした」(高階)
「病気とは思わなかったのです。生きるって凄いなと思いながら描いたんですね」(大宮)
「ファンタジーですね。晩年で最後自分の死を感じていて、執着している。それって素晴らしいと感じますね」(佐藤)
「ぶれない思いが凄いですね」
「エゴを捨ててピュアに向き合っている。それをハイレベルなところで実現しているところが凄いですね。僕は美大生からクリエィターになったときその整理がつかなかったのですが、ようやく5年目くらいになって、捨てることがわかって先に進めた」(佐藤)
「みんなに受けたいから、彼の気持ちもわかる。でも最後の絵を見たときにやりたいことをやれたのだという事がわかった」(大宮)
「あの絵は大きいのです。大作です。そかそ、生命がある。表現したい。それを人々に訴えるんですね。様々なことを描く中から、人間を良く出していった人です」(高階)
ディレクター:山口誉人
プロダクション:日経映像(制作協力「美の巨人たち」のプロダクション)