美の壺「華やかに物語る バレエ」

美の壺「華やかに物語る バレエ」

<File450>オーケストラの演奏に合わせ、踊りやマイムと呼ばれるしぐさで、物語を表現するバレエ。トップダンサーが語る、それぞれのテクニックの見どころを紹介!女性を支える男性ダンサーの思いとは?日本を代表する芸術監督のリハーサルに密着し、歴史とともに変わってきた表現に迫る!ダンサーの足の形や癖に合わせたトウシューズのこだわりとは?あらゆる動きに対応するバレエ衣装、驚きの性能とは?

【出演】草刈正雄【語り】木村多江

放送:2018年9月23日

美の壺「華やかに物語る バレエ」

オーケストラの演奏に合わせて踊る舞台芸術バレエバレエ。バレエはダンサー、音楽、衣装、照明、舞台セットなど全ての総合的に作品を表現します。華麗な舞い。体で語るストーリー。バレエ特有のつま先立ちのテクニック。それを支えるトゥシューズ。舞台を彩る華やかな衣装。そこにはバレエ衣装ならではの驚きの秘密が。今日はバレエ鑑賞のポイントわたっぷりお見せします。

バレーの花といえば華麗なテクニック。何百種類もあるという技を駆使して踊ります。こちらはシソンヌ・フェルメというジャンプ。高く飛ぶグランパディシャ。回転しながら進むピケ・アン・ドュオール。グラン・フェッテ・アントゥールナン。

バレエ団のプリンシパル。小野絢子さん。バレーの全ては基本姿勢から成り立っていると言います。

「バレエの足はアン・ドュオールといって、基本的に外になるべく開き、軸は細く。カラダも細く見える」バレエの基本姿勢は5つ。この5つの姿勢から数々の動きが生まれます。「女性ならではで、トゥシューズを履いてやるテクニックっていうのも例えばパド・ブレ・クレーという動きがあるんですけども、基本は5番で移動していく。この軸が細いまま膝が割われないように腰ひとつにしたまま足だけですすんでいって、なるべくガタガタならないように滑るように」後ろ側の足を押し出すように進むことで滑らかな動きができるのだとか。代表的なシーンがこちら。白鳥の湖第二幕。魔法で白鳥に変えられたオデット姫。ジークフリード王子が永遠の愛を誓い再会を約束して流れるシーンです。「基本はやっぱりいつ切り取っても美しいというのが大前提です。全部やっぱり一つの踊りにしなければいけないのでぶつ切りにならないように何をするときも」今日最初のツボは技の要は細部に宿る。

男性ダンサーによるダイナミックな踊りもバレーの見どころ。バレエ団のプリンシパル福岡雄大さんです。片足で踏み切るグラン・ジュテはより高く。力強い回転ア・ラ・スゴンド・ターンの連続。ジャンプと回転を合わせたトュール・ザンレール。男性の踊りには女性とはまた違う難しさがあるといいます。「体のコントロールが要求されると思います。音が鳴らないように指を使って降りる」ふたりで踊るデュエット。こちらはオデット姫とジークフリート王子が恋におちて踊るシーンです。女性を支えるこの動作。単に相手を支えているだけではありません。「十代の若い頃、早く結婚しなさいと言われて自分なんかでもまだ大人になりたくないと思ってるところに美しい姫が現れて恋に落ちるんですけどそのまだ恥ずかしいんですね。その時にこうやってどこを触れてはいけないのだろうかとでも行かないでいう気持ちが来て間の取り方などの表現につながる」さらにこちらのポーズ。あるものをイメージしています。「鳥の尻尾っていますかと言ってちょっとなってるイメージですかそれをイメージしてる」女性の上げた足と平行になるように腕を伸ばします。足を長く見せることでどこまでも続く羽を表現できるのだとか。女性を持ち上げるリフト。ポイントは持ち上げるときは一気に高く。降ろす時はゆっくり優しく。数々の動作を緻密に組み合わせ物語を踊りで表すバレーならではの華やかな世界です。

語る

バレエの起源はルネサンス時代。

イタリアの宮廷で行われた舞踏会が発祥だと言われています。その後フランスに渡り発展。

自らもバレエを踊ったルイ14世は世界初のバレエ学校をパリに作りました。18世紀になるとロマン主義の流れを汲み、妖精や亡霊などを描いたロマンティックバレエが生まれます。

クラシックバレエが確立されたのは19世紀後半。

ロシアで初演された眠れる森の美女がきっかけでした。ロマンティックバレエよりも高度なテクニックを折り込み演時間も全幕と呼ばれる長いものになります。バレーはセリフの代わりに踊りと身振りや表情を使ったマイムで物語を表してきました。例えばこちらのシーン。今日二つ目のツボは言葉を越えて。

20世紀に入るとバレエの表現方法に変化が現れます。

バレエ団の芸術監督を務める小林紀子さん。日本のバレエ界を牽引してきた一人です。今回バレエマスターとして元イギリスロイヤルバレエ団のプリンシパル、アントニー・ダウスンさんを招き演目を手がけます。19世紀に作られ20世紀に大幅に改定された「2羽の鳩」。画家の青年とその恋人が紆余曲折を経て本当の愛を見つける物語です。マイムはなく踊りだけで物語を表現します。小林さんが注目したのは足の動きです。「心が表現しやすいですね。セリフだったらどうしよどうしよどうしてもでなんでよみたいなのその足で表現してるって言うか体全体ですけどもポワント(足)も利用して」こちらは画家の青年をめぐって二人の女性が喧嘩するシーン。怒りや悲しみを足先の動きに込めます。さらにリアリティを追求していきます。「みなさんこの直後、もし実際に誰かが友達にこんなことをしたらその瞬間の反応は・・・もっと自然にする必要があります」「ダンサー、音楽家、プロデューサー、衣装さんとか、大勢でひとつの表現を理解してお客さんに見せる。舞台芸術であるバレエの表現力っていうのは本分ではないかと思います」全ての動きはあくまで自然に。セリフを言っているかのように体で語ります。

支える

ロマンティックバレエ時代のダンサーマリータリオーニ。

彼女が確立したとされるのがつま先を使ったポワント・テクニック。

その後トウシューズが作られ、世界中で使われるように。トウシューズは踊りの幅を格段に広げました。

東京練馬にあるバレエのシューズ工房。バレエシューズを作り続けておよそ70年。手作りにこだわって製作しています。

「うちのトゥシューズは立つトゥシューズではないんですね。踊るトゥシューズなので、まずとにかく重さを重視しました。特殊な軽い生地を重ね合わせ、硬化材で固めます。最後にサテンの生地で仕上げます。つま先の硬さはダンサーの足の形や筋力。クセなどを計算しながら一人ひとりに合わせて行きます。「トゥシューズはサポートするものなのです。パフォーマンスをとにかく輝かせる。それだけに徹しています」

今日最後の壺は踊りを支える名脇役。

バレエには踊りの他にも様々な楽しみがあります。大掛かりなセットに舞台照明。そして衣装。生眠れる森の美女では数多くの衣装が用いられます。

これは王子の衣装。襟や袖に施されているのは金の装飾。複雑な柄の生地や繊細なレースが使われています。ボタンには薔薇の細工も。舞台ではその華やかさが踊りを引き立てます。バレエの衣装といえばこちら。クラシック・チュチュです。最初は丈が長かったチュチュですが、バレーの発展とともに短くなったと言います。スカートの形を保つため長さの違うチュール生地が重ねられています。踊りやすく足を上げた時には足とスカートのラインが一体になるのです。

東京渋谷区。ここにバレエ団の衣装を製作している工房があります。

林なつこさん。50年間バレエの衣装を作り続けています。ひとつひとつ全て手作り。何万種類もの生地。緻密な装飾を重ねていきます。「まず、ストーリーにちゃんと表現できるかっていうことと、ダンサーが着た時に本当に体のシルエっトがきれいに見えるか」こちらは眠れる森の美女に登場する伯爵夫人の衣装。フリルの襟とシルバーのボタン飾りが舞台で映えるように施されています。バレエの衣装の特徴は体のラインにフィットすること。しかしそれだけではありません。

「普通の洋服は結局ここを押さえた上がらないけど、バレエの衣装は腕を上げてもラインがきれいで動きやすい。伸びる素材ではなく邪魔しない」

緻密な計算の元、生地の裁断を工夫することで様々な動きに対応できる衣装を作り出します。

踊り、セット、衣装など。全てが調和して生まれるバレーならではの舞台芸術です。

書籍

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