今「和楽器」が熱い!懐かしくて新しい響きの秘密と演奏▽人気和楽器ユニットが教える和楽器だけの演奏法!▽世界最古のオーケストラ・雅楽!千年続く伝承の極意▽百年寝かせた素材の音色!笛づくりに密着▽雅楽は宇宙を創造する!東儀秀樹さんが奏でる世界の楽器と雅楽の神髄▽箏(こと)職人に代々伝えられた隠れ技とは?▽筑前琵琶の歴史を背負うイタリア魂▽草刈さんが和太鼓で魅せる!お祭り男が大騒ぎ!〈File 554〉
初回放送日: 2022年4月15日
美の壺「 天地空の調べ 和楽器 」
今、和楽器が熱い。
懐かしさと新しさが共存する響きに、若いファンが増え続けています。
美しさと音色を追求した究極の姿は、何代にもわたり工夫を重ねた匠の技の結晶です。
打楽器は世界を魅了。その例えは。
「音の出る時刻ですね」
千年以上変わらぬ響きが表わすものとは。
「天から降り注ぐ光が音になったと言われているんです」
不思議さいっぱい。知られざる和楽器の魅力をご紹介します。
奏でる
音合わせする時の極意・あうんの呼吸がその名の由来。
AUN J CLASSIC ORCHESTRA(アウン・ジェイ・クラシックオーケストラ)です。
腕利きの和楽器奏者七人が集まりました。
和楽器の種類は大きく三つ。
琴や三味線などの弦楽器、挽物。
篠笛や尺八などの管楽器、吹きもの。
太鼓や鼓などの打楽器、打物。
和楽器の音色の特色を尺八奏者の石垣征山さんに聞きました。
「尺八は噪音と呼ばれる雑音を非常に大事に表現の一つとして使っていた楽器です。例えばこういうブレスノイズ・雑音を意図的に入れることによって、それを表現の一つとして確立させてきた楽器ですね。例えばメリカリと呼ばれる技術なんですけれども、顎を引いたり出したりすることによって音程感が変わるので、そのゆらぎのようなものをみんなに自由に解釈してもらう気持ち、思いが、音色そのもの、演奏そのものにダイレクトに出やすい楽器だなと思ってます」
今日最初のツボは、奏者の心が音色を決める。
大阪の四天王寺。
千四百年以上前に建立された聖徳太子とゆかりの深いお寺です。
旧暦の二月二十二日。
聖徳太子の命日に奉納される雅楽。
雅楽は大陸から伝わった楽器や音楽が日本独自の発展を遂げたもの。
聖徳太子も黎明期に仏教に取り入れたのだとか。
その伝え方は独特です。
「基本的には師匠から弟子への口伝という形で雅楽は伝えられてきました。その口伝の仕方っていうものも唱歌とも言いますけれど、歌をまず指導者が歌う、それと同じようにそっくり同じように真似て生徒が歌う。そういう歌の中に音程であるとか間合いであるとか、ちょっとしたそのメロディの加減であるとかそういうものの地位を凝縮してその唱歌を受け継ぐということがまずベースになって、それが基本的な伝承の仕方でございます」
江戸時代から今も使われる譜面です。
記されているのは笛の穴の押さえ方や拍子だけ。
メロディやニュアンスなどは全て口伝です。
雅楽は世界最古のオーケストラと言われます。
しかしそこに指揮者はいません。
互いの音を合わせていくのにも秘密が。
「実はそれぞれの楽器がその主導権を取るところがあって、笛から楽団全体に、あるいは笙(しょう)から楽団全体に、今の場合はこうだよっていうメッセージを送り合うというような形で雅楽の合奏が成立していくという風になっています」
風土
京都府木津川市。
谷田直道さんは雅楽で使われる吹き物を手がける職人。
家族で篳篥や竜笛など雅楽の笛を作っています。
これは篳篥になる素材。煤竹です。
「これはいける。これはちょっと行かない。煤竹でないと雅楽に使う楽器はいい音が出ない」
煤竹とは古民家の囲炉裏の煙で何十年も燻された竹のこと。
篳篥の本体は煤竹でないと駄目なのだとか。
煙の成分が奥まで浸透すると竹はしなやかで硬く割れにくい性質になります。
「質の良い竹ほど中まで煤がしっかり入ってます」
小刀を使って煤竹の表面を削り、丹念に穴を開けていきます。
内側に漆を塗ります。
漆の厚みで笛の内径を変えて音の高さを調整していくのです。
塗り重ねは時には数十回に及びます。
妻の京子さんが作っているのは篳篥に巻く蒲。
山桜の樹皮を細く切り糸状にします。
蒲は見た目の美しさだけでなく吹きやすさや強度を高める役割を果たしています。
煤竹、漆そして蒲。
選び抜いた素材と天才な技。
二つが合わさり変わらぬ音を守っています。
「百年以上かけて藁ぶきの屋根で。生きとるわけで枯れてる訳じゃない。だから美しい音色をかもしだすのかなと」
今日二つ目のツボは、自然の響きを象る
雅楽師の東儀秀樹さんです。
世界中を旅し各地の珍しい楽器を集めてきました。
その土地それぞれの暮らしや文化によって楽器は姿や音色を変えます。
篳篥もそうした楽器の一つ。
実はこのままでは音が出ません。
蘆舌と呼ばれる葦で作ったリードが必要です。
しかしただの葦というなかれ。
「この葦も、そこら辺のどこの葦でもいいってわけじゃなくて、千年以上前から大阪府高槻市の鵜殿のヨシ原のさらにその一角の美が最も良いとされて、ずっとそれを使い続けています」
大阪を流れる淀川の一角に残る鵜殿のヨシ原。
リードに向いた葦を見つけるのはまるで宝探し。
木村和夫さん。
五十年以上葦を取り続けています。
「これが一番ベストです」
蘆舌に使えるのは長さ四メートル前後で、穂がしっかりついた太い葦だけです。
さらにプロの篳篥奏者は自分でリードを作ります。
一つ作るのに時には一時間近く。
自然素材を扱うため当たり外れや失敗も多く、数十個作っても満足できるのはごくわずか。
完成したリード。
吹くためにはまず湿らせます。
ひたすのは昔から緑茶と決まっています。
「葦ってのは筋でできているから、この筋の山と谷の間に茶渋がきっと埋まっていってすごく均一的な面にしてくれて、で振動が滑らかになるとか。あとは殺菌作用がこうお茶にはあるからそこら辺の事を昔の人はよく分かっていてお茶って決めたんじゃないかと思いますね」
「これはね僕にとっては音が低すぎるんだけれど、他の人にはとても吹きやすい柔らかいいい音のするリードができたから、これはこれで良い価値が残ったと思っています」
東儀さんは雅楽に使われる管楽器。
吹きものの響きにそれぞれ意味があると言います。
「笙という楽器で昔の人は、この音色は天から降り注ぐ光が音になったと言われているんです。こんな音色がします・・・篳篥は人が歌うのと同じような揺らぎとともに抑揚を表現することができるというので人の声つまり地上の音ということになります」
「これは龍笛という楽器。龍の笛という字を書くんですがえーこんな音がします。龍とは天と地の間を行き交う存在だから空間を象徴するということなんです。雅楽っていうのはこの最低限この三つの管楽器の合奏っていうのが核になっていて不可欠なんですが、それを合奏っていうのは天地を合わせるということなので、音楽表現がそのまま宇宙を作る要になっているんだという考えが我が国は続いているようですね」
自然界や宇宙の音を奏でる小さな和楽器。
そのスケールは無限大です。
琴
琴。
龍にも例えられる美しい姿と複雑で豊かな音色。
ここにも精緻な技が隅々まで使われています。
埼玉県にある琴をつくる工房。
材料で最高とされるのは福島県会津の桐。
大きな丸太を製材して作ります。
高級品になる樹齢五六十年のものも。
琴の本体コウを作ります。
全体の形を削り出した後、手がけるのは裏側。
そこに隠れ技、綾杉彫です。
のみで一筋ひとすじ刻み込んでいきます。
見た目の美しさだけでなく音にも影響を与えているといいます。
琴の音響を研究している安藤政輝さんです。
「複雑なそのでこぼこがあることによって単一の残響でなくて複雑な響きにして余韻を伸ばすというか残響やっぱり余韻がきれいになるというような効果があるのではないかと思われます」
裏側ができたら表にももうひと技。甲焼きです。
柔らかな桐の表面を硬くすることで保護し虫食いなどを防ぐ効果もあります。
さらに木目を美しく浮かび上がらせます。
木目は琴の美しさを左右する決め手。
代表的な木目は三種類。
板目。
年を重ねた年輪が作り出す美しく風合いのある表情は千差万別です。
正目。
まっすぐ走る木目は太い丸太からしか取れません。
まろやかでムラの少ない音がします。
弾目。
木目が渦巻き音も良いものは数が少なくとても貴重です。
甲焼は琴の個性を際立たせる技なのです
甲焼のもう一つの効果は音。
甲の表面が硬いと弦の振動が確実に伝わり豊かに共鳴するのだとか。
今日最後のツボは連綿と続く職人技。
琵琶
福岡県その一部はかつて筑前の国と呼ばれていました。
福岡市に筑前琵琶作りの技を継承する職人がいます。
ドリアーノ・スリスさん。
1974年にイタリアから来日。
筑前琵琶の音色に感動しました。
当時筑前琵琶作りをほぼ一人でになっていた石塚源三郎さんに弟子入り。
音色だけでなく原木から削り出す制作工程に魅了されました。
「やっぱり音楽的な音色音色の美しさ。そして見た時のその形から全体の美しさですね。この二つは一つになってるんですね。だから素晴らしいですね音の出る彫刻ですね」
スリスさんは古い琵琶の修復も手掛けています。
こだわりは作られた時の状態にできるだけ近づけること。
例えば表面の傷や汚れはかんなで削ればきれいに取れますが、板の厚みが変わるので音も変わってしまいます。
こちらがスリスさん流。
音を変えずに傷を消す方法です。
濡れタオルをかけて熱した古いアイロンを当てると・・・。
蒸気が乾いた木に浸透して膨らみます。
長年の傷が消え滑らかになりました。
修復が終わった琵琶を持ち主が受け取りに行きました。
筑前琵琶奏者の尾方蝶嘉さんです。
「すごい。あちこち壊れて聞くことができなかった古い琵琶が蘇りました。ありがとうございます。ドリアンのさんの手を借りましてまた楽器として百年の時を経てまた復活したっていうのが弾手としても嬉しいなと思います」
師匠が亡くなった後、伝統を一人で守ってきたスリスさん。
しかし最近弟子を取るようになりました。
「吉塚先生の分だけじゃなくて。一人でずっと研究したものを何もかも教えたいですね。琵琶の将来はその人たちの手にあると思いますね」
打楽器の未来。
その灯火は技を伝える職人の情熱によって守られています。