テーマは「竹」。宮崎県日之影町で、日々の暮らしの中で使われる竹製道具の数々。機能性と美しさを兼ね備えた道具には、伝説の竹細工職人の哲学が!?これも竹!?“自然がデザインした”不思議な形や模様の竹が続々。幻の一級品も登場。竹の個性を生かした美術品は圧巻!伝統工芸、駿河竹千筋細工の技術を総動員して作った竹の豪華シャンデリア!繊細な光と影の世界は要注目!前代未聞の作品に挑んだ職人の奮闘物語も!
【出演】草刈正雄,【語り】木村多江
放送:2018年10月17日
美の壺 「竹と暮らす」
古都京都。創業およそ100年の老舗旅館を訪ねてみると、そこかしこに竹が。「なよ竹」という部屋。竹取物語にちなんだこの部屋はまさに竹づくし。真竹が敷き詰められた天井に襖の引手も竹の節。座卓にうつるは庭の竹。心憎い演出ですね。もてなしの茶の湯の席も竹で彩られています。抹茶を入れる茶杓。お茶を点てる茶筅。花入れは竹の根っこを生かしています。昔から使われてきた道具。大切な仏像を納める厨子。そしてこれ何だかわかりますか。竹を複雑に組み合わせたシャンデリア。今日は私たちの暮らしに寄り添う竹の魅力を堪能していきましょう。
竹のある暮らし
端正な網目が美しい竹の籠。釣った魚を入れる魚籠です。はねた魚が飛び出ないよう、口をすぼめて編んだ独特の形。こちらは、古くから作業などで使われてきた背負い籠。使いやすく丈夫に。使う人への思いが、美しい竹細工を生みました。
その作り手の名は廣島一夫(1915~2013)。暮らしの道具をおよそ80年にわたって作り続けた竹細工の職人です。世界的に高く評価され、アメリカのスミソニアン博物館にも作品が所蔵されています。
生まれ故郷、宮崎県日之影町では今も廣島が手掛けた道具が使われています。穀物などを容器に注ぎ入れるのに使った「片口じょうけ」、干し椎茸を選別する「なば通し」、収穫した蕪を入れた背負い籠。この地方では背負い籠のことを昔から「かるい」と呼んできました。
こちらの女性は廣島一夫が作った「かるい」を20年近く使い続けています。「見た目が綺麗で、丈夫で、縁がきれいですよね」。丈夫さのポイントはこの縁周り。ゆがみなくしっかりと巻かれています。壊れやすい角の部分には「力竹」と呼ばれる補強の竹が表と裏に貼り巡らされています。
こちらは、廣島一夫が作ったという飯籠。炊いたご飯を中に入れ、涼しい所に吊るしておけば傷みにくい。生活の知恵から生まれました。様々な編み方の使い分けが目を楽しませてくれます。機能を極めた美しさ。廣島一夫の真骨頂です。
生前の映像が残されています。およそ80年にわたって暮らしの道具を作り続けた廣島は、独自の哲学を持っていました。「竹をだましながらかごにしなす。竹をだますというのか、逆に戻したりすることを…。勝負は勝負。こういうものが一つのものになるということは、だましながらなっていくということだ」。
竹と向き合い続けた廣島一夫は、竹を曲げにくい方向に曲げることを「だます」と表現しました。
今日1つ目の壺は竹を騙して美しく。
廣島一夫の技を受け継ぐ人がいます。小川鉄平さん。きっかけは「かるい」。自分でも作ってみたいと16年前に移住してきました。廣島一夫と出会い、一から竹のことを教わった小川さん。良い竹細工は良い竹を選ぶことから始まります。
「できれば節は竹ひごの中では少ないほうが扱いやすい。なので高く伸びている竹で節のところがあまり大きく太っていない竹を選びます」。竹を取る場所についても、廣島ならではの教えがありました。「雑木林の竹がいいと言ってました。雑木林でない竹は竹同士で競争しないので伸びない。雑木林だとよく伸びるらしいのです」。
村を一望できる山の上に自宅兼仕事場があります。小川さんはここで日々竹と向き合い続けています。この日作るのは魚や野菜などを乗せる「たらし」と呼ばれる水切りかご。竹の皮を剥いで作った竹ひご。これを使って底を編みます。
竹の皮は滑りやすく、網目が固定しにくいため、細長い竹ひごで止めていきます。「たらし」は料理に使う道具。そのため高度な技で編んでいきます。「これはここが内側になります。カビが出たりとかしたら見苦しいのと、直接食べ物にあたる部分が皮面の方が綺麗なんですよね。なので作る側としたら大変なんですけど、こっち向きに立ち上げる」。ポイントは竹を曲げる力加減。わずか0.3mm ほどの細さの竹ひごは、無理に曲げると割れてしまいます。
そのため竹を騙して曲げる技術が必要になるのですが、感覚はどうですか。「騙す感覚はどうですかね。やられてばっかりですよね」。2日かけて編み上げた小川さんの「たらし」。端正な網目に美しいカーブを描いたフォルム。四隅の足は、底が地につかないための工夫です。洗濯かごやトートバッグ。小川さんは日々使う道具を作り続けています。
「すごい素材だなと思います。竹だけで仕上がっていくと、やっぱりそれはすごいことだと思いますし、やりがいがあるなあと思います。難しいことはあれこれ考えて、そこからもう形になっているのは本当に楽しいです」。編むことは、竹と人の暮らしをつなぐ営みでした。
京都には竹を専門に扱う店があります。その4代目店主、利田淳司さんが経営するこの店では、すべて一級品の竹「銘竹」が並んでいます。特に珍しい竹があるということで、案内していただきました。
「これが亀甲竹(きっこうちく)と呼ばれる変竹です。自然にヤブの中から生えてくるんですよ」と利田さん。亀の甲羅の形に似ていることから名付けられた亀甲竹は、孟宗竹が突然変異したもので、そのダイナミックなフォルムが特徴です。
また、こちらの茶褐色の竹は煤竹(すすだけ)。これは茅葺屋根の建材として200年以上囲炉裏で燻された竹です。縄で結ばれていた部分が淡い模様となり、古くから珍重されてきました。
「亀甲竹が造形の美なら、煤竹は経年の美。長い時間をかけてしか作れない、この模様が景色となり、一本一本が個性を持つ銘竹の中でも、私は煤竹に最も重みを感じます」と利田さんは語ります。
さらに、代々伝わるとっておきの竹を見せてくれました。赤い模様が浮き出た竹、これは中国の紅斑竹(こうはんちく)です。現在、日本では手に入らず「幻の竹」と呼ばれています。この独特な模様は自然が生み出したもので、煎茶道具などに使われることが多く、組み合わせると不思議な景色が楽しめる一品です。
今日二つ目のツボは竹ならではの個性を味わう。
竹の個性を生かした作品を集めるギャラリーがあります。ここには、竹筒に扉が付けられた作品があります。扉を開けると、中には小さな観音像が祀られています。この竹の根っこを厨子に見立てた作品は、江戸時代後期に作られたものです。
「長い時間をかけて風雪に耐えてきた部分を使っているため、まるで岩の祠に祀られた仏様のように、時間を経て神が宿っているかのような、非常に類を見ない代物です」と語られています。
直径5センチほどの孟宗竹をそのまま活かした建水(けんすい)も展示されています。これには、名工・田辺竹雲斎の銘が刻まれています。「竹の魅力を十分に感じながら、竹そのものの形を建水という形にした作品だと思います」とのこと。竹の節をどの高さに配置するか、その狙いすましたバランスは、竹を熟知した作者ならではです。また、切り口の美しさも、名人の技が光っています。
「のし」と名付けられた花活けは、竹工芸家・本田和明の作品です。細い煤竹を渦巻きのように曲げ、水や空気の流れといった目に見えないものを表現しています。細い部分は、和竹を細く裂いて使っています。異なる太さの竹を組み合わせ、躍動感と繊細さが巧みに表現されています。
「人間と自然素材がどう折り合いをつけ、最終的にどういった作品ができるのか。竹という素材の持つ難解さをうまく味方につけながら、自分のオリジナリティーを活かした作品を作り上げているところが、竹工芸の他にはない面白さです」と解説されています。
竹は一本一本が個性的で、造り手に問いかけてくるような素材です。この難しさこそが、竹の魅力でもあります。
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