日曜美術館 「印象派150年 美の革命 パリ・オルセー美術館」

1874年、パリで絵画の革新を目指す画家たちが、自らの手で展覧会を開いた。「第1回印象派展」。モネ、ルノワール、ピサロ、歴史に名を残す巨匠たちが起こした美の革命だ。今年は、その誕生から150年のメモリアルイヤー。印象派の殿堂と呼ばれるパリ・オルセー美術館をめぐり、印象派を代表する傑作から、印象派の影響を受け、次の時代を切り開いた作品まで、珠玉のコレクションをじっくりと味わい尽くす。

初回放送日:2024年6月23日

日曜美術館 「印象派150年 美の革命 パリ・オルセー美術館」

今から百五十年前それは美術史を揺るがす革命でしたパリにあるオルセイ美術館数多ある所蔵品の中でも、

世界随一と表されるのが印象派のコレクションです今を生きる人々の姿を色彩豊かに描いたルノワール、生涯、光を追い求めたモネ、そして人々の一瞬の動きを 捉えた ドガそのコレクションには印象派の魅力のすべてが詰まっています今日の日曜美術館は美術歯科高橋明さんの解説でオルセイ美術館の司法を巡ります印象派百五十年、今も色褪せないその魅力を存分にお楽しみください。

ここはセーヌ川を渡る船の上です。綺麗ですね、高橋さん、ここから見るパリの風景、とっても素敵ですね
「そうですよねまあやっぱりね、何度見てもね、何回言っても性能が本当に綺麗ですね。さあ、見えてきましたこの豪華な大きな建物、これがオルセー美術館です」
「綺麗 ですね懐かしいですか」
「はい、懐かしいですね私ね、実はオルセー美術館が1986年の12月に開館しましたけども、その前2年間、美術館の準備室に私、勤めてたことがありまして」
「なんとこのオルセー美術館の中に誰もいない頃を知ってらっしゃる博物館ですけれども、開放感がありますよね高井さん、コレクションにはどんな特徴があるんでし ょうか」
「このオルセー美術館というのはね、 本来は19世紀美術館という風にね、名付けようとしてたんですねそうなんですですから、もう十九世紀の、まさにパリ全体が発展を遂げた、その時代の代表的なものを並べている美術館なんですねマルネッサーズに通う華やかな時代って言ってもいいのかもしれませんけどねそうなんですね」


「では、早速絵画を見ていきましょう。いろいろな楽しみ方があると思いますが、今回は時代順で、印象派誕生のきっかけとなった歴史的な絵画をいくつか見ていきたいと思います」

「草上の昼食」マネ

「まずはこちらの作品です。エドゥアール・マネが描いた『草上の昼食』という作品ですね。マネといえば、よくモネと間違えられますが、似ていますね。」

「はい、確かに似ています。ただ、マネの方が少し年上ですね。これはどんな状況なんでしょうか?」

「はい、これは屋外で、裸の女性が描かれています。ちょっと不思議で、変わった絵ですね。こんなことは普段ありえないかもしれませんが、ヨーロッパでは夏になると田舎でみんな服を脱いで川に飛び込んだりすることもあり、その生活を描いているのかもしれません。」

「そうなんですね。楽しそうな表情をしていますね、女性も。」

「でも、当時の人たちにとってもこの絵は変で、不謹慎だと感じた人が多かったんですよ。」

「そうですか。」

「それまでの絵画は、もっと硬い内容のものが多かったんですが、この絵をきっかけに、日常的な情景をリアルに描こうという気運が高まっていったんですね。」

「そうですね。当時は、偉人の肖像画が多かったんでしょうね。」

「そうですね。マネは『印象派の父』とも呼ばれていますが、当時は女性にもモテていたようで、いつも華やかな女性たちが周りにいて、モデルになっていたそうです。」

「オランピア」マネ

「『草上の昼食』から2年後、マネはまたしても問題作を発表しましたね。」

「これも大変なスキャンダルを巻き起こしました。それがこちらの作品、『オランピア』です。横たわっている女性が裸で、ベッドにいるという、なんとも怪しい雰囲気の作品です。」

「そうですね。マネが大きな人物だったと聞いたので、いろいろな関係を想像してしまいますが、彼女の表情がしっとりしていて、先ほどの『草上の昼食』と同じように、こちらをじっと見つめていますね。ドキドキします。」

「当時のパリでは娼婦たちがよく見られ、彼女もその一人だった可能性があります。スキャンダラスなのは、ただ裸だからではなく、彼女が性的な存在として描かれているからです。これを当時の人々がどう見たかというと…」

「なるほど。裸の絵でも神話のビーナスや聖なる存在とは違って、この女性は現実の性的な存在ですから、当時の人たちは受け入れがたかったでしょうね。」

「そうなんです。同じ裸体でも、聖なる存在や母性を描いたものとは違い、生々しい性の対象として描かれているので、それが問題だったんです。」

「マネは日常のリアルな姿を描こうとしたんですね。」

「そうですね、彼は意識的にそれを追求しました。そして、若い画家たちも彼の作品に影響を受けました。」

「マネの影響を受けた画家たちは、1874年にパリで自ら展覧会を開きました。メンバーにはモネ、ルノワール、セザンヌ、ドガなどがいて、保守的な美術界に疑問を抱いていたはみ出し者たちでした。」

「そして、モネが描いた『印象・日の出』が画壇に衝撃を与えます。モネは太陽に照らされた水面の一瞬のきらめきを捉えようとしましたが、厚塗りの即興的な筆さばきは、伝統的な技法を無視したものでした。」

「批評家たちは、これは未完成だとか、ただの印象だと酷評しましたね。しかし、この瞬間が印象派誕生のきっかけとなりました。」

「いよいよ、印象派の登場ですね。」

「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」ルノワール

「これは傑作中の傑作と言われるルノワールの作品ですけども、印象派でも最も有名な油彩画の一つかもしれませんね本当に賑やかな空気が伝わってきますね

「この作品『ムーラン・ド・ラ・ギャレット』は、モンマルトルの丘の途中にあるダンスホールで描かれています。当時のパリジャンやパリジェンヌたちが集まって、楽しそうに踊り、飲んで食べて、人生を謳歌している様子が描かれています。みんな着飾っていて、若者たちの笑い声が聞こえてきそうです。木漏れ日の表現がとても美しいですよね。これが、印象派の特徴とも言えるかもしれません。」

「木漏れ日が下に落ちてくるんだけど、それをただ影としてではなく、色として扱っていますよね。青や紫の色が使われていて、画面全体が明るい印象です。」

「そうですね。むしろ、照らされた部分が強調されて、みんなのドレスの布に落ちる木漏れ日が布の動きを浮き立たせているように感じます。印象派の技法の特徴として、絵の具を混ぜ合わせずに、一筆一筆を丁寧に重ねていくことで、明るさを保つんですね。だから、全体が明るくなり、テーマもよりリアルに表現されています。」

「ルノワールが『絵は愛らしく、楽しいものでなければならない』と言った言葉がありますが、この作品はまさにその通りですよね。」

「ダンスのレッスン」ドガ

「次々に傑作が出てきますけれども、坂本さん、この作品を描いたのは誰かすぐわかりますよね」「踊り子といえば、ドガ。これでもの踊り子とは違う場面ですけれども」

「そうですね、踊り子たちが集まって、先生がいろいろレクチャーをして、説教している、そんな感じですね。まあ、少し疲れているのかもしれません。」

「そうそう。周りには踊り子さんたちが集まっているけれど、一番左の人なんかは、一生懸命背中を掻いていて、ちょっと疲れているようですね。」

「そうですよね。右の奥の方でも、みんなが隣同士でおしゃべりしたり、気を抜いていたり、いろいろな様子が描かれていますね。」

「本当ですね。きっとまだ若い少女たちも混ざっていて、少し集中力が切れてしまったのかなと思います。ドガは、バレリーナのポーズを取っているトップのシーンだけでなく、リハーサルやその合間のシーンも描くんですね。そういうところが面白いです。」

「そうです。ドガの視点は、本番の決めシーンだけじゃなく、緊張感のない瞬間も捉えているんですね。」

「カフェにて(アブサント)」ドガ

「この女性、何か一点を見つめていて、少し憂いがあるように見えます。寂しげで、不安そうな表情です。隣の男性との間に緊張感も感じますし、カフェにいるのに、目も合わせていないですね。」

「そうですね。飲み物もほとんど進んでいないようです。これは、強いアブサンというお酒を飲んでいるんですよね。特にこの女性は目がうつろで、かなり酔っ払っている感じがします。何杯目なのか…進んでいないように見えるのが、逆に深い裏の世界を感じさせます。」

「確かに、この構図も左側が大きく開いていて、見る側に不安感を与える効果がありますね。」

「そうですね。現代で言うと、カフェでこっそり誰かの写真を撮るような、そんな雰囲気があります。彼女はもう酔っていて、写真を撮られても気づかないんでしょうね。」

「印象派といっても、ひとまとめにできない気がします。スタイルもさまざまで、何をもって印象派というのでしょうか。」

「それはやっぱり、現代のリアルな日常や風景、光の移ろいに興味を持って、それを描いていくことです。一瞬の光を捉え、暗い画面を排除し、絵の具の明るさや鮮やかさを生かすこと。そういう共通点があると思います。」

それまでの伝統的な絵画では描かれることのなかった身近な人々や風景をモチーフにした印象派の画家たち。その視線はこんなところにも向けられました。

「これは印象派を代表する画家、クロード・モネの作品ですね。」

「はい、これはサン・ラザール駅を描いたものです。モネといえば、やはり『睡蓮』が思い浮かびますが、これは駅の風景ですね。煙や汽車からの蒸気、街のいろいろな場所から上がる煙のモヤモヤとした空気感が印象的です。向こうの建物には光が当たっていて、とても美しいですよね。」

「本当に綺麗ですね。なぜモネはこの駅舎を描いたのでしょう?」

「サン・ラザール駅はフランスの北にあるノルマンディー地方への列車が発着する駅です。当時のパリにはいくつかの主要な駅があり、それぞれが北や南の地方に向かう列車を出していました。駅は近代文明の象徴で、産業の発展や働く人々の様子、未来に向かって進んでいる感じが重なり合う場所です。だからこそ、駅を描くというのは、モネにとっても非常に肯定的な意味合いがあったのではないでしょうか。」

「人々が歩いている活気あふれる様子が見られますが、遠目で見ると幻想的ですね。」

「そうですね。きっと汽笛が響いて、シュッシュという機関車の音が聞こえてきそうです。その間から光が降り注ぐ様子が、近代の幻想を描いているように感じます。あなたが言うように、近代の幻想がこの煙とともに表現されているのでしょう。通常、煙は灰色で描かれがちですが、この作品では白っぽく、全体的に明るいトーンで描かれていますね。まさに『明るい近代』、前向きな未来が感じられます。」

十九世紀、近代化によるかつてない繁栄を謳歌する中、流行したものがあります。それはレジャー。週末になると鉄道に乗り、郊外に出かけるのが大ブームに。印象派の画家たちも例外ではありませんでした。モネもまた週末になる と、ギャンバスと絵の具を抱えて、パリ郊外へと出かけました。

「セーヌ河畔、アルジャントイユという農村で描かれた風景ですね。」

「とても晴れやかで、水面にくっきりと映り込んでいますね。アカウント的な雰囲気も感じます。」

「かなりラフに描かれたように見えますが、水面に映るヨットの姿がしっかり表現されています。水の反射も含め、それぞれの色が独立していて、印象派の技法がよく表れていると思いますね。色を混ぜすぎず、グラデーションも綺麗に作り込んでいない感じがします。」

「そうですね。あえて色を重ねないことで独特の味わいが出ています。」

「こちらはピサロが描いたエラニーという農村の風景ですね。優しいタッチで、夕暮れの光が逆光気味に描かれているのがわかります。影が伸びて、温かな温度感が伝わってきます。空の表現もまた見事で、グラデーションの技法が際立っていますが、印象派らしく、あまりグラデーションを綺麗に整えずに、重ねて重ねて作り上げた質感が強く感じられますね。」

「ピサロは印象派のグループの中でも温厚な人物で知られていましたよね。その性格がこの画面にもにじみ出ていて、とても優しい包み込むような視点が表れています。」

「これはモネが最晩年にあって、自分の本当に興味のあるものだけにこうどんどんどんどん集中していった、証ですよね」

「明け方の情景でしょうか。この藍色の中にポツポツと浮かび上がるスイレンが、とても繊細で儚げに見えます。モネは、印象派の中でも特に光や移り変わりを描くことに情熱を注いでいましたね。駅の風景では、煙や変わりゆく瞬間を描き続けていました。」

「そうですね。移りゆくものを定着させるというテーマに、一生懸けて向き合い続けた画家です。心の赴くままに描き続けたその人生は、きっと幸せだったのではないでしょうか。まさに理想のアーティストの一生ですね。」

「19世紀から20世紀初頭にかけて、産業革命や近代化を背景に、経済的にも文化的にも大きな繁栄を遂げましたが、都市化がもたらす矛盾も生まれました。そのような都市の圧迫感に耐えられず、遠くへ逃れたいと感じる人たちが出てきました。実際にパリを離れ、遠くへ行ってしまった画家の一人がポール・ゴーギャンです。」

「そうですね。ゴーギャンが南太平洋に移り住んで、多くの作品を残したのはよく知られています。彼はトロピカルな色彩を使い、黄金の色調を作品に取り入れました。印象派とは全く異なる流れを作り出したのです。」

「そうですね、ポスト印象派と呼ばれることが多いですが、実際には印象派の持つ繊細な都会的な光の芸術から離れ、よりインパクトが強く、内面的なものに焦点を当てた作品が主流となっていきました。」

「内面的なものというと、どのようなテーマでしょうか?」

「この絵の中では、女性たちが祈りを捧げているような場面が描かれています。ヨーロッパの文明とは異なる自然との近しい関係や、神との繋がりを感じるような文化に魅了されたのだと思います。自然と神が一体となるような生き方に、ゴーギャンは惹かれていたのではないでしょうか。」

「なるほど。自然の風を感じるような描写ですね。祈りがあり、犬がいて、手前には植物があり、風の音さえ感じられる。人物たちの眼差しにも意味深な何かを感じますね。」

「そうですね。『君はどう思うんだい?それでいいのか?』と問いかけているようにも見えます。」

「まさにそう感じます。近代化が進むにつれて、スピードが速まり、都市も人口が増えて混雑していました。その中で、ゴーギャンのように心が豊かになれる場所を求める気持ちが強まったのだと思います。」

オルセイ美術館が誇る印象派コレクション。その中には印象派を基礎に独自の理論を打ち出した画家たちの作品もあります。光の表現をもっと明るい世界にしようと挑んだ画家がこちら。

「サーカス」スーラ

「はい、スーラですね。ああ、これは難しいですね。暴れ馬の上に踊り子がいて、サーカスのような賑やかな場面が描かれています。淡いタッチでこの状況を描くのが、とてもシュールな作品ですね。」

「そうなんですよね。寄って見てみると、点描がはっきり見えますね。ピクセルのように、細かい点を並べるアプローチです。印象派の技法を究極まで進化させた結果、こういったスタイルが生まれたんですね。一種の実験的な作品ともいえます。」

「そうですね、これを描くのには相当時間がかかります。大きな画面をすべて点描で描くとなると、途方もない時間がかかるため、スーラの作品数は非常に少ないんです。彼は若くして亡くなってしまったので、さらに作品が少ないんですよ。でも、彼のこの技法は多くの画家に大きな影響を与え、皆が真似しようとしました。例えば、よく知られているゴッホもその一人ですね。」

「はい、スーラは1853年生まれで、私の100年前に生まれたんですよね。意外と時代が近いんですよ。」

「そうですね、近くで見ると顔には緑の色が強く見えます。遠目ではあまり感じませんでしたが、よく見ると首元や喉にも緑が使われています。目の中も猫の目のように、何かを見ているようでいて、焦点が定まっていない感じがします。視線はこっちに向いているようですが、何も訴えてくるものがないので、孤独感がありますね。」

「印象派はスーラのように、若い頃から他の画家たちに影響を与えましたよね。」

「そうですね、スーラは自分の表現を追求し続け、最終的には炎のように渦巻くスタイルにたどり着きました。彼の日常の都市生活をリアルに描く部分と、絵の具を混ぜずに明るい画面を作るテクニックは印象派の特徴でもあります。彼のオランダ時代、ヌエネン時代は暗い画面が多かったんですが、明るい色彩を取り入れて表現するという点では、印象派から大きな影響を受けています。」

「やはりパリに来てから、彼は影響を受けたんですね。」

誕生して百五十年を迎える印象派。今も見る人の心を動かす色と光の世界。

「やっぱり特別な階級の人たちや、選ばれた職業の人たちだけではなく、何でもない日常の風景にも光を当ててくれたのが印象派の特徴ですね。庶民である自分たちが主役となり、絵として長く残る場面が描かれるというのは、一つの希望になったと思います。それこそが人間の美しさだと捉え、それに着目できるのがアーティストの視点だなと感じます。」

「そうですね、何でもないように見えるシーンにも、実はとても価値があるんです。例えば、今日も見てきたように、カフェで言い争っているようなカップルや、バレエ教室で疲れて背中をかいている少女など、人間の飾らない瞬間こそが尊いと気づかせてくれます。そうした一瞬のシーンも、美しい光や水面、煙のように、移ろいゆく美しさの一部です。それがまさに人間の美しさであり、印象派という時代が私たちに教えてくれたことだと思います。」

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