らでん、まき絵、大理石…豪華装飾の 万年筆 が勢ぞろい。万年筆に名前をつけ愛用する作家・北方謙三、驚きのコダワリとは!?漢字やひらがななどを書くため、日本で独自に進化を遂げたペン先。その究極の書き味を追求する職人技は必見!祇園の石畳の色、長崎の夜景、六甲山の緑など、人気のご当地インクが登場!万年筆画家が描く食べ物のイラストは、食欲そそるリアリティーを実現!謎の“賢者の万年筆”とは!?<File456>
【出演】草刈正雄,佐戸井けん太,作家…北方謙三,【語り】木村多江
放送:2018年9月21日
美の壺 「書くよろこび 万年筆」
筆記具の王様と呼ばれる万年筆。
使う人の思いをのせて頼れる。相棒のような存在感を宿します。インクは黒やブルーブラックが定番とされた時代を経て、今や百花繚乱。色とりどりのインクが登場しています。
その表現も書くことから描くことにまで広がっているのです。
書けば書くほど触れれば触れるほどに愛おしさを待つ不思議な筆記具。そんな万年筆の奥深い魅力を堪能していきましょう
軸に宿る職人技
東京代官山にある大型書店。
その文具売り場にはおよそ1000本もの万年筆が並んでいます。質実剛健なシンプルさ。個性際立つ絢爛さなどどれも魅力的。
文具コンシェルジュの佐久間和子さん。万年筆の胴体、軸の魅力が光る逸品を見せてもらいました。
万年筆だけで繊細イラスト1000枚 「蔦屋書店」文具担当者のスゴ技 – withnews(ウィズニュース)
代官山T-SITE | 蔦屋書店を中核とした生活提案型商業施設
「イタリアのメーカーになるんですけれども。アドリア海をイメージした万年筆になっております。やはりなんといってもこの軸色ですね。特殊な樹脂で出来ておりまして、万年筆のメーカーの方でペンを作るために作った樹脂の塊を削りだして作ってるんですね」
色鮮やかで透明感のある軸。職人の高度な技術の賜物です。続いて古代ローマの都市をテーマにした大理石の万年筆。
「大理石があるって言うだけでも珍しいんですけれども。ミケランジェロがダビデ像を彫った時に切り出した場所。同じ産地から切り出したものになるんですね。
ただの大理石じゃないぞっていう魅力もありますね」
シルバーの装飾が美しい軸。イタリアの職人による繊細な手仕事です。
「それぞれ万年筆にヒストリーがあったりとか、素材は何だろうとかっていうところに注目していくとより楽しいと思います。人生に彩りを与えるものですね」
今日一つ目のツボは軸に宿る職人技を楽しむ。
手に吸い付くような握り心地。歪みのない艶やかな漆塗りも肝心なのはその下地となる軸作りです。
軸を削りだすのはろくろ職人の松原功祐さん85歳。
手作りで軸を作り続けて70年。日本でも数少ない職人です。手作業にこだわり絶妙な握り心地の良さを追求する松原さん。使う材料はエボナイトと呼ばれる樹脂。昔ながらの丈夫な素材ですが、ある難点が・・。
「一番加工がし辛いですね。刃物が切れなくなったんです。ですからそばに砥石を石置いといて、一本一本研ぎながら削らないと削れないんですね」
道具はすべて松原さんが使いやすいように工夫したもの。軸の中心が寸分の狂いもなく万年筆の真ん中を貫くように削る。熟練のなせる業です。
松原さんが最も難しいというのがこちらの作業。キャップのネジを削るのですが、上から塗る漆の厚さを考慮しなくてはなりません。形を決める最後のひと削り。「息を止めてけずります。そうすると触っても段がつかない」
一気に削りだした軸は驚くほどこの滑らか。この滑らかさがあるからこそ、漆塗りの美しさが際立つのです。松原さんが削った軸に螺鈿細工と蒔絵をあしらった贅沢な逸品。
螺鈿で描かれた玉虫。金粉で蒔いた梨地など、意匠を凝らした装飾には良い下地が不可欠だと言います。「下地が悪いと漆を塗ると余計にあらが出ちゃうんです。お化粧じゃないけれどやっぱりダメはダメなんです」
個性豊かな万年筆の軸は繊細な手仕事と誇りによって支えられていました。
理想の書き味を求めて
パソコン主流の時代につき250枚を超える原稿を万年筆で書いている人がいます。作家の北方謙三さんです。
「便利な方に行こうと思えば行けるんです。ところがそれで小説を書こうとするとダメなんです。ここにペンだこがあるんですが、ペンだこに刺激が行くと脳に刺激が言って言葉が出てくるのです・・・としか思わない限り、万年筆持たないと小説の言葉は出てこないんです。ここに砥石がいっぱいあるんですが、ちっちゃいやつを使うんです」
北方さんは万年筆を購入すると必ず行う儀式があります。自分のくせに合わせてペン先を調整するのです。
「半日くらいやる。3時間でいい。十分なんだけど」
百本以上の万年筆を手にしてきたという北方さん。中でも愛用しているのがこちら、何と名前までつけていました。
「黒旋風李りき」という水滸伝に出てくる純真な誰よりも強い男。
万年筆の書き味を小説の登場人物に重ね合わせてつけたこの名前。51巻もの連作を書き上げた強者で現在執筆中の原稿もこのリキが活躍しています。
さらにもう一本。25歳から30年間を共にした武蔵という名の万年。筆ペン先は喜多方さんの書き癖そのままに大きく斜めに削れています。
「ずっと長年だから、現代ハードボイルド小説なんてずっとこれで書いていたな。
インク漏れで使えなくなった今でも手放すことができない大切な一本です。
「指でしょ。俺の指」
今日ふたつめの壺は理想の書き味を求めて。
万年筆の歴史は理想の書き味の探求と言っても過言ではありません。明治時代日本にもたらされた万年筆。漢字やひらがななどを書くため、様々なペン先が開発されました。
例えば先端がなぎなた状に研がれたこちらのペン先。紙との接地面が大きく、止め、跳ね、払いをはっきりと書き分けることができます。大きく曲がるよう柔軟性を持たせたペン先も登場。ペン先がしなって力強いハライを書くことができます。
超極細のペン先は手帳など小さなスペースにおすすめ。複雑な日本の文字を細やかに表現できます。
千葉県我孫子に理想の書き味を追求し続ける職人がいます。
ペン先研ぎ師の森山信彦さん。「その人の使う角度と合ってないとインクが出なかったり引っかかったりします。あなたの今書く角度でペン先を最もコンディションとして良い状態に研ぎ上げていくのがやり方」
人の数だけ書癖がある。だからこそ森山さんはその人の書く姿を必ず目で確認してから調整に入ります。
「角度っていうのは二種類あります。立てる角度と寝かせるともう一つはこの角度があるんです。このねじれる角度。設定とまったく反対の方向で書くとこんな音がするんです。これ引っかかってる音なんです」
使う人のの角度に合わせ、引っかかりを取り除くのが森山さんの仕事。1 mm ほどのペンの先端部を砥石で削ります。仕上げの作業。
サンドペーパーやクラフト紙など粗さの異なる様々な紙を使って、より滑らかな書き味へと仕上げます。
研ぐ前は四角い形をしていた極太のペン先が、森山さんの手にかかると丸く滑らかに。ペン先が四角いままでは、角度が変わると書けなくなってしまいます。
丸みをつけることで書き手が角度を気にせずに滑らかに書くことができるのです。この日ペン先の調整を依頼していた男性が万年筆を取りに訪れました。
「スラスラ書けるとなんか明日からまた仕事頑張らないと」
理想の書き味は十人十色。万年筆への愛着は自分だけのペン先の形にありました。
インク
鮮やかな色彩実はすべて万年筆を使って描かれています。
作者は絵本作家で万年筆画家のサトウヒロシさん。集めたインクはおよそ160色以上にものぼるんだとか。
今日はこの三色を使うのですが、果たして何を描くのでしょうか。
まず輪郭に使うのは琥珀色。続いてセピア色。味のある線と豊かな色の濃淡が万年筆画の持ち味です。
水筆を使って輪郭をぼかし、仕上げはもう一度万年筆で重ね塗り。
お分かりですか美味しそうなエクレア。重ね塗りとぼかしの技法によって陰影がつき、よりリアルな質感に。チョコレートのしっとりとした色合いが食欲をそそります。
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「水筆で溶かした時にとろっとした感じになります。揃ってするんですねであと透明感があったりするんで、溶かされた時にちょっとこってりした感じとかするんでこのあの漢感じってのはひどい食欲に近いものがある」
最後のツボは小瓶に込めた物語を味わう。
今、日本各地で作られるご当地限定のインクが大に大人気。
例えば京都祇園の石畳をイメージした薄いこげ茶色のインクや伏見稲荷の鳥居をイメージした鮮やかな朱色など京都ならではの色を表しています。
続いて長崎。
青空にそびえる大浦天主堂に平和への願いを重ねた優しいブルー。市内の夜景をイメージした藍色など旅の記念に購入する人も少なくありません。
こうしたご当地インクのさきがけが神戸です。
開発したのはある老舗文具店の社員でした。
竹内直之さんです。「神戸の町を写真を撮って散策するのがすごく好きだったんですね。それとあと文具が好きで。いずれ神戸発のですね文房具ステーショナリーを出したいと思って入社したのがきっかけでした」
kobe INK物語
入社して10年経った頃大変なことが起きました。阪神淡路大震災。店は大きな被害を受けました。様々な人の助けを借りて復興するのに10年。竹内さんはある思いを抱くようになります。「お礼の手紙を書こうと思った時、インクがひらめいた」最初に手がけたのはこちらの三色。一つ目は六甲山をイメージした深いグリーンです。二つ目は遊覧船から眺めた神戸港の海の色。三つ目は最も神戸らしいと思う色を選びました。「神戸といえば旧居留地。三八番館の夕刻の影になったところの色が非常に素敵な色で、その三色を自分自身の中では勝手に「神戸の三原色」とか思いながらあの勝手気ままに作ったのが最初の三色です」その後も神戸ポートタワーや有馬温泉などをイメージした67色が作り出されました。竹内さんが腕を見込んだのはインクブレンダー歴40年の石丸治さんです。基本となる20種類のインクから神戸の67色を生み出したと言います。「神戸の人たちの心にとっても、神戸を訪れる方達にとってもすごくいい試みし思います」どのようにインクをブレンドしているのでしょうか。まずは客の好みを聞き出しインクを大まかに調合します。客の会話の言葉のニュアンスから客がイメージする色へ近づけていきます。十五分後オリジナルの色のインクができ上がりました。
「自己表現ではないかなと思います。感情が現れる筆記用具の中でさらに色を挟むことによって自分というものが表現できる一つの道具なのだろう」
小瓶に詰めた自分だけの物語、あなたはどんな色を作りたいですか。
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