美の壺 「サラダ 野菜の工芸」

野菜のアート!さまざまな「サラダ」を堪能▽小山薫堂流、究極の「ポテトサラダ」の味わい方とは?▽きゅうりとぬか漬けのきゅうりが合体!京料理人の「和のサラダ」とは?!▽まるで宝石箱!フランス料理人の勝負サラダ!▽大根の豆、高菜の菜花…農家が野菜の「野性」を刺激して生み出したサラダの新素材。濃厚な野菜エキスがごちそうに!▽盛れば花咲き乱れる「いけ花サラダ」とは?!<File378>

【ゲスト】小山薫堂,【出演】草刈正雄,【語り】木村多江

放送:2019年7月14日

美の壺 「サラダ 野菜の工芸」

サラダはお好きですか。ニューヨーカーに人気の瓶詰めサラダ。都内の公園ではこんなお洒落ランチも見かけました。他にも野菜を薄く削いだリボンサラダや細かく刻んでモザイクのような彩りを楽しむチョップドサラダなど。デザインされたサラダの数々が話題を集めています。野菜のみずみずしさを楽しむ一見シンプルな料理。ところが世のサラダ熱に煽られて大勢の料理人たちが腕を振るい始めました。あるシェフは新素材を発見し、ある料理人はカットに革命を起こします。今日は野菜の工芸サラダに込められた最新の技の数々を堪能します。

大ヒットグルメ番組で知られる放送作家の小山薫堂さんです。銀座の日本料理屋で見つけた絶品サラダ。それはポテトサラダ。一見何気なさそうですがこだわりが凝縮しています。それではポテサラの鉄人によるポテトサラダのツボ。「ブラックペッパーをかけてあるんて、このペッパーをいかに最後まで使い切るか。だから絶対しちゃいけないのが、上のを全部取ってしまってはいけないので、崩すように食べていく必要があります。まずラーメンに置いて最初の三口をすするように、ポテサラにおいては、じゃがいもの味とマヨネーズの味を確認する」そして最後に「いよいよベーコンを入れて味わいます」これであなたもポテサラの鉄人。実は小山さん。日本人とポテサラの関係についてこんな見解を持っています。「日本人は野菜を生で食べるという感覚がほとんどなかった。欧米の食生活のスタイルで野菜を生で食べるということが入ってきて、実は日本人の DNA としては食べ慣れてないものをここ100年足らずの間に一生懸命食べようとしているので、ポテサラは一回火を入れたものをこういう形にして、野菜へのつながりを作ってくれたような。サラダワールドの入り口みたいなそういうもんじゃないかなと思います」いざ、サラダワールドへ。今日最初の壺は日本にサラダを。

京都下京区。本格的な京料理人はサラダをどう考えるのでしょうか。「サラダは完全に、日本料理の枠内に入っていない料理だと思います」高橋さんに、ドレッシングに注目してオリジナルサラダを作ってもらいました。湯通しした鰹と昆布でとった出汁の中へ。続いてアスパラガスは時間差で。どうして同時に入れないんでしょう。「水っぽかったり濃かったりしますよね。じゃなくてその素材に合わせていい塩梅になるように」決め手はこちらのジュレ。出汁に薄口醤油などを加えゼラチンでとろみをつけました。アクセントは刻んだ木の芽です。およそ30°で溶け始めるゼラチンは口の中で食材を噛むのと同時に広がり、絶好のタイミングで野菜と混じり合います。互いに主張しすぎずにそっと寄り添う素材と黄金のジュレ。目指したのは和の調和。最後はジュレでした。「日本料理ってのは、少しでもその素材に出しを付けたり少し下味をつけたりして、そしてその合わせるドレッシング自体をあっさりさせたいという意向があるわけです。それで一つの調和を作ろうと。いうものは和の考え方ですので」ジュレだけではありません。次なる技は。まずは湯がいたみょうがを酢と砂糖の入った水につけます。すると30分後。住んでいたピンクが見違えるほど鮮やかに。ミョウガに含まれる色素がお酢に反応し発色したのです。緑色の野菜はさっと銅鍋で湯通しします。野菜に含まれる葉緑素が銅イオンと結合し、銅クロロフィルという物質に変化。緑色の色素が安定します。「オクラの緑とそれからはきゅうりの緑とこら全然色が違うんですね。特にはの今の季節っていうのは緑の季節。新緑の時期でもありますし、もみじでもその薄い緑から本当に濃い緑までありますよね。あれのグラデーションがその太陽によって透けたりしてそれが美しいと。同じ緑の色だけでは変えた何も美しくないわけですよ」花きゅうりは緑の部分だけを湯通しする念の入れよう。和の職人芸に脱帽です。色に続いてさらなる技がありました。先ほど土鍋で湯通ししたキュウリです。そしてこちらはわかりますか。ぬか漬けです。微妙に違うきゅうりを和える。面白いですね。初夏の野菜が 京料理の繊細な技で、みやびに生まれ変わりました。仕上げにはまたしてもきゅうり。摺ったぬか漬けのドレッシングでした。これぞ日本のサラダです。

今専門店がオープンするほど大人気のチョップドサラダをご存知ですか。食材を切り刻むことを意味するチョップ。大きさをそろえることで食べやすさを追求したサラダです。細かい具材の隙間にまんべんなくドレッシングが行き渡ります。実はカットにこだわったサラダは世界中にあるのです。サーモンをふんだんに使ったハワイの角切りサラダ。一説にロシアでは食材を細かくカットすることが手の込んだ料理なんだそうです。切ることで野菜が姿を変えるのがサラダの面白さ。今日二つ目のツボはカットが生み出す野菜。
シェフの都志見セイジさんの料理は野菜が主役。肉や魚は脇役だと言います。例えばお店のメインディッシュがこちら。皿の上で堂々と寝そべっているのが肉ではなく山芋。天然の山芋を鳩の出汁で煮込んで表面に焼き色をつけたものです。「肉魚に比べて野菜は多様性がある。日本は縦に長いので季節が南から北に上がっていきます。各地から送られてくる野菜が図手分季節感が違うなということが日本の野菜の多様性でもあるし面白い」都志見さんのサラダは野菜の常識を覆します。ずらりと並んだ四十種類を超す野菜のパーツ。並んでいるのは野菜のほんの一部分です。たとえばオクラは。柔らかく味の濃い先っちょだけ。レンコンは丸です。穴の触感を残すくりぬきの技。ビーツの葉は色の個性と一番触感がわかる葉脈を強調したカットに。その野菜の特徴が最も現れる部分だけを切り取っていきます。「一部を召し上がっていただくことでその野菜が理解できる」細かくカットを施せば切断面が増えます。するとにじみ出るうまみが野菜を際立たせるというわけです。盛り付けでさらに一工夫。ひょろっと長い間引き人参をかぼちゃの上で絶妙なバランスに。「カボチャとニンジンは非常に組み合わせがいいですね」個性をぶつけ合うことで野菜の知られざる魅力を引き出していきます。「まず楽しんでいただくや皿」野菜のもう一つの姿を切り出すカットの芸術。切ることは創造なのです。

畑から新しいサラダを創ろうとしている人たちがいます。野菜の目利きといわれる畝田さんはシェフに提案する野菜を探し日々畑を歩いています。「料理の素材として使えるかどうか。本来なら廃棄してしまうものの中にもお宝はけっこうある。それを探し出す」宝は普通の目では見つかりません。「タマナは本来は漬物。サラダの材料にするためにこの菜花が出てくるのを待ってます」葉物野菜として知られる茗花。その花の存在はあまり知られていません。畝田さんはその風味の良さを発見しました。風味の良い菜花を栽培するには工夫が必要でした。試行錯誤の結果たどり着いたのが種を蒔く感覚。ほらぎっしり。「過保護的に育てると優しい味になってしまう。厳しい環境で育てると結構強いものが最後残る。そうすると茗花自体にも強い味が残る」野菜の野生にこそ可能性が眠っていました。今日最後のツボは野生に出会う。