都会にいながら森を持ち歩けると今人気の、杉のバッグがある。木目が美しく、手触り抜群。高知の東部・馬路村で作られたものだ。地元の銘木・魚梁瀬(やなせ)杉を生かすその製法とは?また隣の安芸市では、お風呂で遊べる木のおもちゃを製作。愛らしい海の生き物たちに、全国のこどもたちが夢中になっている。実はこれ、ある母親の思いから誕生したものなのだ。高知で生み出される木製品の魅力を生方ななえが徹底リサーチ。
【リポーター】生方ななえ,【語り】平野義和
再放送:2018年9月18日
イッピン 「触れて感じる 森のぬくもり~高知 木製品~」
東京御徒町のJR高架下に各地の工芸品を扱う店が集まる話題の場所があります。
ここで今注目されているのが、バッグ。木でできているんです。
材料は杉。濃淡のコントラストが美しい木目。
今日の逸品は杉のバッグ。高知・馬路村で作られました。
地元で取れる特別な杉を作った物。入荷するとすぐに売れてしまうほどで人気です。
たっぷり入るのに軽いという機能性に加え、最大のポイントは、
「木を見ると山が見える。この木目だったこんな杉林かな?というような、なんかそういう感じでこれを買いました」
街にいながら森を身近に感じられるのが人気の理由。
そしてもうひとつの逸品は、お風呂で遊べる木のおもちゃ。
こちらは桧製。お風呂嫌いの子供も夢中。
馬路村の隣。安芸市のお母さんたちが生み出しました。
13年前の発売以来口コミで評判が広がり、今年間5千セット売れています。
触れると落ち着く木のぬくもり。
高知生まれの木製品の魅力に迫ります。
杉のふるさと高知県
杉のバッグのふるさと。高知県東部に位置する馬路村。
面積の96%は森林。900人の村人の大半は林業や農業に携わっています。
村の特産品を集めた店を訪ねました。
ゆずの加工品などもありますがやはり目を引くのは木のバッグ。
「木目が綺麗ですね。すごくなめらか」
清潔感のある明るい色合い。くっきり浮かぶ木目。そして抜群の手触り。
開発者の山田佳行さん。
「カーブがあることによって中身の容積は大きくなります。潰れることもないです」
鞄を作っている工場を案内してもらいました。
「こちらが魚梁瀬杉。100年の古木です」
材料はこの地方で取れる魚梁瀬杉。美しい木目が特徴の銘木です。
色の濃い部分と浅い部分のコントラストが鮮やかです。
切り出した杉の木にまず加工を施します。
「木がお湯の中にいます」
90度のお湯で10時間煮込んで柔らかくするんです。
煮上がった木は次に巨大な機械に運ばれます。
薄くスライスする工程です。
「イメージとしては鰹節です」
スライドする部分刃がついています。 厚さは0.5ミリ。
木材から300枚スライスできるんだそうです。 このあとバッグの大きさにカットして6枚重ねます。 木目の向きを交互に重ねて丈夫さを生むんだそうです。
6枚目はバッグの表面。節のない最もきれいな板を使います。 木目の美しさを生むのは濃淡の差。
細く濃いのは「冬目」。秋と冬に成長した部分。太く明るいのは「夏目」。春と夏に成長しました。
冬目の細胞は小さく間隔が詰まっています。 一方、夏目の細胞は大きくなっています。これは水分や養分をたくさん吸収したため。
台風の通り道であるこの地方の降水量は全国屈指。 温暖な気候と合わせ夏に杉は大きく成長。それが夏目めの太さとなり、冬目との鮮やかな対象を生むと言います。
杉を重ねた6枚の板。 今度は蒸して柔らかくします。 金型でプレスしていよいよ、あの優美な形にするんです。
メリメリという音がします 6枚の板は接着剤で張り合わせていますが、まだ固まっていない状態。
板は、プレスすると少しずつずれてカーブしていくんです。
板が割れないよう小刻みに負荷をかけていきます。
15分後。綺麗なカーブがつきました。
「壊れてないですよ。曲がってる」
これで木の整形は終了。次はあの抜群の手触りを生む作業です。
14年前から仕上げを担当してきた乾公栄さん。
使うのは紙やすり。まず目の荒いヤスリで表面を整えます。次は上にスポンジがついたヤスリが登場。このスポンジが抜群の手触りを産むんですが、あの冬目が関係しています。
細胞の詰まった冬目は固くブレスした後もわずかに盛り上がっています。
これを削るんですがただ削ればいいのではないんです。
「完全に凸凹をとってしまうと、木の風合いがなくなってしまうので、残しつつやりすぎない」
4年の試行錯誤の末、スポンジにたどり着きました。
研磨する前と後、板の凹凸を針の先でなぞり、木目の高さを比較します。
乾さんは冬目を半分削り百聞の二ミリほど遺していました。
これが抜群の手触りの正体だったのです。
こうして磨いた二枚の板を丈夫な帆布でつなぎ合わせればバッグは完成。
地元の杉の魅力を最大限に引き出した逸品です。
バッグの工場を抱いているかのような魚梁瀬杉の森。
実は20年前は荒れていました。その再生の中からバックは生まれたんです。
戦国時代には大阪城などにも用いられていたという魚梁瀬杉。
江戸時代には土佐藩が保護管理。
良質な木材として知られ、ながらく高級な建物の天井や柱に使われてきました。
しかし住宅の西洋化に伴い需要は減り、森は廃れていったのです。
森を再生するために立ち上がったのが、今バッグを作っている工場のメンバー。
17年前。村の出資を受け間伐や食品などを中心とする事業をスタート。
さらに間伐材を利用するとともに魚梁瀬杉の魅力を広く伝えるため開発したのがあのバッグでした。
バッグはフランスやアメリカでも話題になりました。
デザインのみならず環境を保全とものづくりを一体化した取り組みが評価されたんです。
魚梁瀬杉のバッグに詰まっていたのは森への深い思いでした。
つくるのはママ職人!木のおもちゃ
プカプカ浮かぶイルカやタコ。今大人気。お風呂で遊べる木のおもちゃ。
可愛らしい海の生き物たち。
魚屋さんごっこも。これでお風呂嫌いが治ったんでしょう。
木のおもちゃを作っているのは馬路村の隣に位置する安芸市。土佐湾に面した漁師町です。
有名なしらすを始め、年間30種類の魚が水揚げされます。
町の人気セレクトショップ。店の中央にあのおもちゃが置かれていました。
触り心地がいいんです。丸いファルムに親しみやすい表情。
シンプルで飽きのこないデザインが魅力。
その上子供の手に馴染むよう様々な工夫がされているんだとか。
古民家を改築した工場。
ここでは15人の職人が腕を競っています。
そのほとんどが子育て中の女性。
12種類のおもちゃを順番に日替わりで担当。
1日20個がノルマです。
この板を切り抜くんですが、見せてくれるのは今日魚を担当する小松紗矢さん。
小松紗矢さんは3歳と5歳の娘を持つママ職人なんです。
糸鋸で地元産のヒノキを切ります。
板をしっかり押さえつけたままこまめに動かしながら輪郭を切り抜きます。
「子供が触るもんなんでこのやっぱりとんがったところとかをなくすようにしないといけないんで。危なくなくないようにできるだけ」小松さんが入社したのは3年前。子供が大好きなおもちゃを自分の手で作りたいと思ったのがきっかけでした。
この木工所でおもちゃを作り始めたのは15年前。
それまでは夫婦二人でカトラリーなどを作っていました。
転機となったのがある母親の言葉です。
「子供がお風呂で遊べる木のおもちゃをリクエストされたのがきっかけでした」
その時思ったのが地元土佐湾の生き物たち。
材料に選んだのは地元で取れる土佐桧。
ママのアイデアから生まれたおもちゃは瞬く間に評判となり全国で支持されました。
おもちゃの完成までにはもうひと手間。
先ほど小松さんが切り抜いた魚表面を研磨するんですが。
ハイスピードカメラで見てみましょう。
電動ヤスリにおもちゃを押し付けて角を削り落としていたんです。
研磨したあとの魚にはほのかな丸みがついています。
このカーブが小さな子供の手にフィットするんだそう。
「焼きたてのパンの上の部分みたいなイメージ」
小松さんが真ん中家族で食べる食パンそのまるみをイメージしたものだったんです。
滑らかで優しい触り心地。
「安全と言うか安心して使ってもらえるように丁寧にやろうとは思ってます」
塗装なしで仕上げます。
魚をすくう網を添えたら完成。
子供達への愛情いっぱいの逸品です。
木のおもちゃ
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