美の壺スペシャル「日本のお弁当」

美の壺スペシャル「日本のお弁当」

青空の下でかぶりつく大きなおにぎり。

山でひと仕終えて頬ばるごはん。

そして芝居見物の合間に舌鼓を打つ幕の内。 日本には楽しくて美しいお弁当がたくさん。

そんな全国各地の弁当の魅力を美の壺が総力を挙げて特集します。

そうだ旅に出よう。そんな時に欠かせないのが日本各地の駅弁。

そのパッケージには知られざる歴史が秘められていました。

秋の京都では旬の絶品がお出迎え。

季節の食材を美味しく彩る盛り付けの技は必見です。

美の壺スペシャル。日本中の弁当に秘められた美を味わい尽くします。

美の壺スペシャル「日本のお弁当」

放送:2018年10月26日

京都のお弁当

秋の京都絶景を巡る観光の旅に欠かせないものがありますよね。

京都通ならまず立ち寄る場所があるんだとか。駅に隣接する百貨店の地下。

お目当てはこちらの弁当。立派な包みばかりですね。

それもそのはず作っているのは京都の名だたる料亭や仕出し店ばかり。

普段はなかなか足を運べないような名店の豪華弁当が勢揃いしてるんです。

ジェイアール京都伊勢丹

ジェイアール京都伊勢丹のおすすめお弁当 | ジェイアール京都伊勢丹 | 店舗情報

憧れの店の弁当を好きな場所で楽しむのが今時の旅のスタイル。

見た目にも鮮やかな京料理を味わう贅沢なひととき。

おかずがその都度旬のものに入れ替わるため飽きることがないんだと言います。

京都の弁当には四季折々の景色が詰めこまれています。

一つ目のツボは四季をいただく。

弁当箱の中にどう季節を封じ込めるのか。

並々ならぬこだわりを持つのが京都の仕出し。

菱岩の5代目河村岩松さんです。

京都料理組合/菱岩

秋にふさわしい行楽弁当を作っていただきました。

旬の素材に恵まれた秋。

料理人にとっては腕の見せ所だと言います。

旬のごちそうをより美味しく食べられるよう盛り付けに工夫を凝らします。

京都のおばんざいの定番だし巻き卵を旬の魚に合わせるのです。

だし巻きの優しい黄色に鮮やかに焼けたぐじの赤。

全体の調和も考えながら季節の味を詰め込んで行きます。

「さりげない。しんみりというのがいいのではないでしょうか」

京都・お弁当箱の四季

約320年続く京麸の店「半兵衛麸」の本店。

ここでも京都の人々の季節へのこだわりを見ることができます。

代々の当主が収集してきた弁当箱のコレクション。

300点以上が残されています。

「お辨當箱博物館(おべんとうばこはくぶつかん)」は、本店の2階に開設されています。

京都MUSEUM紀行。第十一回【半兵衛麩・弁当箱博物館】 | 京都で遊ぼうART

十一代目当主の玉置辰次さんに四季折々に使った行楽用弁当箱を見せてもらいました。

秋の紅葉とともに楽しむ弁当箱は紅葉の柄。

赤や黄色で鮮やかに描いたり、輝く水面に浮かべたり、秋の情景を飾ります。

春はお花見。弁当箱はひときわ華やかに飾り立てられました。

春の風に桜が散り乱れます。そして初夏は風流に蛍狩り。

光っているのがわかりますか。蛍の正体は漆の箱に埋め込まれた金属。

凝りに凝って季節を楽しんだのです。

巡る季節に感謝していただくのが京都の弁当の流儀です。

京都 漆器の井助 通販 漆塗り販売 重箱・お椀・箸・弁当箱

江戸の弁当事情

東京銀座の歌舞伎座。贔屓の俳優や好きな演目を目当てにファンが集います。

芝居が一幕終わるとちょうどお昼時。客席のそこかしこで箸を持つ人の姿が。これも歌舞伎座ならではの風景。

幕間に一息お弁当の時間です。定番は幕の内弁当。

幕間に食べることから名付けられたそうです。まずは折り箱のサイズ。

女性の膝の上に起きやすいサイズにしました。

ご飯は箸で取りやすい俵型。おかずもそれぞれ一口で食べられるサイズに。

さらにくず餅など甘いデザートまで添えるおもてなしを。どれも客席で食事を楽しんでもらうための心配りです。

今日二つ目のツボ。芝居を楽しむおもてなし。

江戸の庶民にとって歌舞伎は最高の娯楽でした。

朝、めかしこんで芝居小屋へ出かけると1日がかりで楽しんだと言います。

長丁場では腹ごしらえが肝心。

もこれはちょっとやりすぎでしょう。江戸の食文化に詳しい神崎宣武さん。こんなことして怒られなかったんですか。

「この人ですね。これたぶん料理茶屋あるいは料理屋から出前を運んでる男の人だろうと思います。

それで手に持ってるのが皿鉢ですね。じきの大皿です浜焼きのような形で焼いてこれを出前をしてると見るのが良いと思います。当時は芝居を見るって言うことはつまりで飲みながら食べながら見るって事でした。

何がなくても酒が先というような川柳があるぐらいで、当時の江戸の庶民の楽しみだったと考えて良いと思います。注目すべきは三重の重箱があって、これが幕の内弁当の一つの原型だと思います」

なんとこの重箱が幕の内弁当のルーツ中はどうなっていたんでしょう。

その手がかりを見つけました。当時の風俗を綴った書物。

守貞謾稿の記述。ご飯はにぎりめしにして焼いたもの。

そしてかまぼここんにゃく焼き豆腐などが入っていたようです。しかし残念ながらわかるのはそこまで、重箱にどのように詰められていたのかは謎のままです。

その謎を解き明かすため番組では神崎さんにお願いし重箱の中身を再現することに。

江戸の伝統料理も手がける人形町の料亭「よし梅」さんに協力してもらい真相に迫ります。

よし梅 当時の料理本などを参考に調理法を探ります。

一見地味な焼き豆腐とこんにゃく。江戸のレシピには彩り豊かなものがありました。豆腐は梅肉を混ぜた白味噌を塗ってケシの実をつけます。

見た目だけでなく食感も楽しめる逸品です。こんにゃくは赤味噌をたっぷり塗って田楽に。

そして卵焼きもエビとネギを入れて華やかに。

二百年の時を越えて再現した幕の内弁当です。

豆腐も卵焼きもこんにゃくもそれぞれに色を添えて華やかな印象に。

煮物は亀甲型にして縁起よく。見た目にも楽しく詰め込みました。

下の段は小ぶりの焼きおにぎり。簡単に取ることができ、女性にも食べやすくしました。

「色合いも工夫してもらってるからこれだと楽しいですね。こういう小さいおにぎりにしてしかも薬という炙るという手間をかけて」

「箸で取りやすいし取った時にも崩れにくいので着物着て女性が食べる時にはすごく安心」

そして最後の一段。とっておきがありました。甘いデザートです。羊羹と干菓子を贅沢に詰め込みました。

一度にいろんな食欲欲望を満たしたいと思った。コンパクトで入るって事は意味があるんでしょうね。好きなものや可愛いものをめいっぱい詰め込んで。

昔も今も開けるのがワクワクする楽しいお弁当です。

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小豆島の激レア弁当「わりご弁当」

小豆島に地元の人も滅多に食べられない激レア弁当があると聞き訪ねました。

「年に一回しか食べられないお弁当を探してます」

「わりご弁当のことではないですかね」

田万千子さんのお宅で見せてもらいました。

「これがわりご弁当です」「形が面白い。いい香りですね」。

わりごとは小豆島に伝わる弁当箱のこと。これ一つで20人前も運べるのだそうです。

台形のデザインも弁当箱にはあまり見られない形。まさに激レア。

「家族親戚一同が集まってお芝居を見に行くときに使います」

中山地区では毎年10月に地元の人々がこぞって参加する農村歌舞伎が行われます。

その歴史は300年以上と古く、すべて地元の人々による手作り。

年に一度わりご弁当を持ち寄って秋の夜長に芝居を楽しむのです。

矢田さんのお宅には代々使ってきたわりごが残されています。

家族の大切な思い出を刻んでいました。

「使い込んだ感じが」。「100年。もっとですね。私が60年ぐらい前嫁に来た時も同じ格好でしたね」。「中山の方たちにとってわりご弁当とは」。「誇り大切なものなんです」。「この中身がまたどうなっていくのか楽しみです」。

駅弁・掛け紙が伝えるメッセージ

日本を代表する巨大ターミナル東京駅。

一日に発着する列車はおよそ4,000本。北海道から九州まで日本各地へ向かう列車が行きかいいます。

東京駅の中でひときわ賑わう場所が駅弁の専門店。

日本各地から取り寄せた駅弁は200種類以上。休日ともなると1万5千食を売り上げると言います。

その土地の風土が詰まった駅弁。峠超えの難所だった横川駅の弁当は山の幸の彩。

東海道線大船駅の押し寿司。アジの皮と身の彩りが海の景色を思わせます。

このカニ弁当は日本海沿いを走る山陰本線鳥取駅。

赤い身が贅沢に散りばめられています。外国人観光客にも駅弁は大人気。

駅弁の容器やかけ紙。言葉や文化が異なる外国の人にも魅力を伝える力があるようです。

今日3つ目の壺は掛け紙が伝えるメッセージ。

駅弁復活

かつてはどこの駅でも見られた駅弁の立ち売り。

折り箱に入った駅弁を窓から顔を出して買うのが鉄道旅行の楽しみでした。

そんな駅弁の始まりと言われているのが明治時代に発売されたおにぎり。

竹の皮で包まれていました。やがて折箱に様々な食材を詰め込むようになると弁当の中身を伝えるため、掛け紙が生まれます。

元国鉄マンの泉和夫さんは日本でも有数の掛け紙コレクター。明治時代から現代に至るまで一万枚の掛け紙を集めてきました。中でも戦前の掛け紙には多くの見どころがあるといいます。

こちらは鮎ずしの掛け紙。清流で泳ぐ鮎の姿が鮮やかに描かれています。

正月限定の駅弁は赤を基調にしたおめでたいデザイン。

サンドイッチの掛け紙はモダンなイラストに。ほんと色々あるんですね。

「長野駅の夏目商店という駅弁屋の紙になります。長野といえば善光寺が名所なんですけども、中をよく見ますと善光寺まで18丁。それから戸隠山まで5里ですね。これを見ますと善光寺までこんくらいなのかと、今度長野に行ったらば善光寺に行こうかとかそういう気持ちを醸し出すものかもしれません」。

こちらが東海道線の駅弁。名所旧跡が紹介されていて今で言う観光パンフレットの役割もありました。

よく見るとこんな注意書きも。弁当のゴミを窓から投げ捨てないようにとのお願い。

こちらはカバンにきちんと名前を書くようにですって。間違える人が多かったんでしょうか。さらに掛け紙からはその時代の世相を読み解くことができると泉さんは言います。

「デザインは同じ。売られた日を見ると昭和13年の7月7日とあります」。

まったく同じ掛け紙ですが、一枚は宮城、もう一枚は京都で発売されていました。

「7月7日一日限りの弁当を鉄道省が提案して各駅弁屋さんで売ったということがわかります。堅忍という文字があります」。

堅忍とは戦争中につかわれた我慢強く耐え忍ぶというスローガン。こうした駅弁が日本各地で売られていたといいます。

「一枚の紙によって情報が収集できるというのが駅弁の掛け紙の持つ魅力なのかな」

戦前デザインの掛け紙弁当

広島宮島口に戦前の掛け紙を復活させた人気の駅弁があります。

明治時代から続く穴子の駅弁「あなごめし」。蒲焼にした穴子が売りの宮島観光の名物です。

その掛け紙に使われているのが戦前のデザイン。

発売された明治時代から昭和11年のものまで12種類の掛け紙が復刻されています。

4代目の主人上野純一さんが今から30年ほど前に手がけました。

それまで使っていたのがこちらの大鳥居の写真を載せた掛け紙。

「私がダサいだろといっている掛け紙です。これはないだろと」。

この掛け紙を使っていたのは昭和50年代。このころ作った弁当を駅で販売することは殆どなくなっていました。湯治0代だった上野さんが弁当を売りに行ったのは観光バス。山陽新幹線の開通で駅に止まる急行列車が激減してしまったのです。

明治から続く看板をどう守っていけばいいのか。そんな時偶然見つけたのが戦前の掛け紙。

倉の奥で食器を包むために使われていました。

「見つけたときには鳥肌が立つくらい。手作りの線というのは独特の感じが。自分たちの歴史に出会ったという感じがありました」

上野さんは掛け紙を復刻。荒谷宮島観光の情報を書き加えました。100年以上続く心意気。次の代にも伝えたいと考えています。

「古いラベルのパワーです」。

駅弁の掛け紙一枚に様々な物語が詰まっています。

弁当箱

皆さんはどんな弁当箱を使っていますか。

こちらは懐かしい人も多いはず。アルミニウムの弁当箱。独特の質感は東京の町工場に受け継がれる技術で今も健在。弁当箱のスタンダードです。

丁寧に編み込まれた竹籠の弁当箱。竹工芸が盛んな大分で作られました。

軽やかな竹の風合いはピクニック気分を醸し出します。

竹かご弁当箱 創業明治27年、日本唯一の虎斑竹専門店。快適な「竹のある暮らし」提案!

全国の生活道具を紹介している日野明子さん。

弁当箱には他の器にはない特徴があるといいます。

「職人さんが移動する道具ですから耐久性は気にします。食卓と食器棚、洗い場を移動するだけとは違って、ぶつけたり落としたりしないかとか、持ち歩いた時気を使っている部分が多いのです」。

こんな弁当箱も。台所など水回りで重宝されてきたほうろう製の弁当箱

表面がガラス質のため油汚れを落としやすいというメリットが。こってりおいしいオムライスも安心して持ち運べます。

朱塗りの弁当箱。

蓋をあけるとおかず。

これまたあけるとご飯が。さらに蓋を逆さにして使うと味噌汁のお椀に。家で食事をするように弁当を味わえるというアイデアです。

「おかずの汁がご飯に浸透してしまって味が混ざるということを諦めないほしい。どうやって持ち歩いてどういう状態が続くことを想像力働かせて一番美味しい状態で楽しいお昼が食べられるものを選んでいただけたらと思います」

今日4つ目の壺おいしさを運ぶ。

日本で昔から使われてきた弁当箱といえば木で作られた曲物。

こちらは秋田杉の繊細な木肌の美しい大館の曲げわっぱ

長野木曽地方では名産の檜を使った曲げ物めんば。

こうした地場の木材を使った弁当箱が各地で作られてきました。

宮崎県の諸塚村。

山に囲まれた林業が盛んな地域です。ここに伝わるのは地元の杉や檜を使っためんぱ。

山仕事をする人たちの弁当箱として主にご飯を詰めるために使われてきました。めんぱは木を熟知する村の人々によって受け継がれています。

長年林業に携わってきた甲斐安正さんもその一人。材料は地元産の檜一年かけて乾燥させたものを熱湯に浸し柔らかくします。そして自家製の型を使ってあげていきます。冷めて固くならないうちに素早く形を整えるのがコツ。

丸めた板をつなぎとめるのに使うのも地元の木材。かば桜の皮で縫っていきます。硬くて丈夫なことで知られるかば桜の皮。

NHK「美の壺スペシャル版」日本のお弁当 : うつわの連絡帖

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