美の壺「 宿の朝食 」

美の壺「 宿の朝食 」

旅先の楽しみ、郷土色豊かな「宿の朝食」。米どころ新潟では、かまどで炊いたふっくらご飯、温泉でじっくり煮込んだ粥(かゆ)、そしてご飯をよりおいしく食べるためのこだわりおかずが登場!出来たて熱々にこだわる修善寺の宿では、客屋に設けた炉で仕上げるみそ汁を堪能!京都の宿に半世紀伝わる、だし巻き卵も絶品!さらに、作家・池波正太郎が愛した朝食や、おかずが24品も並ぶ沖縄の薬膳料理の朝食も紹介!

【出演】草刈正雄,【語り】木村多江

放送:2018年11月12日

美の壺「宿の朝食」

プロローグ

旅先で迎える朝。宿の朝食に期待が膨らみます。

ここは新潟県の山里にある木造三階建ての温泉宿。嵐渓荘

朝食のお供は窓からの景色。並ぶのは新鮮な食材に工夫を凝らした郷土料理です。

中でもこだわりは温泉でご飯をじっくり煮込んだかゆ。

ほんのりとした塩け。まろやかな味わいです。

「このへんは米どころでおいしいお米が摂れますし、温泉も舐めると昆布茶のような味わいがする。雑味のない旨味があるような、おかゆにいい味の温泉です。朝ごはんは宿で一番最後にお口になさるものですので、印象に残るようなお料理になったらいいなと思います」

その宿でしか味わえないもてなしの朝食。それを楽しみにする旅人が増えています。

各地の宿をめぐり自慢の朝食を味わいます。

ごはん

新潟県南魚沼市。

こに江戸時代の旧家を移築した宿があります。

龍言。食卓に並ぶのは朱色の器。地元の山菜を中心とした朝食です。

でも主役は何と言ってもご飯。

もちろん地元南魚沼産のコシヒカリです。

ふっくらとしてつやがあり甘みも格別。

ryugon

米を炊くために使うのは地下80 メートルから汲み上げた雪どけ水の伏流水。

ミネラルを豊富に含むためご飯の甘みが増すと言います。

この宿では昔ながらのかまどを使って炊いています。

強い火力で一気に炊き上げるのがコツ。

泡が吹きこぼれてきたら火を止めるサイン。

かまどが蓄えた熱でじっくりとむらします。

米粒が立っているのが上手に炊けた証拠だと言います。

最後に軽くかき混ぜ、余分な水分を逃します。

ふっくらとした極上のご飯が出来上がりました。

「お釜ですと火力の違い。火力が非常に強いので米が釜の中で対流しまして全体に行き渡る。熱が伝わりやすい。本当に美味しいお米と水で炊けば、つやつやな甘いおいしいふっくらとしたご飯が出来上がります」

今日一つ目のツボは主役のご飯をより美味しく。

新潟県十日町市。日本有数の美しい棚田が広がっています。

明治40年創業の老舗旅館。ひなの宿ちとせ

この宿ではご飯をよりおいしく食べるためのおかずにこだわっています。

地元の食材を使った煮物やそぼろ。

昔から季節ごとに食べられてきた郷土の味。

これらのおかずを出すようになってから、ご飯をおかわりする客が増えたと言います。

春に出すのはこごみやふきのとうなどの山菜と味噌を和えたもの。

食べる直前客の目の前で香ばしく焼き上げます。

炊きたてのご飯にぴったり。

暑い季節には夏野菜を細かく刻んで大根の味噌漬けと合わせます。

こうしたおかず。地元の農家の間で長年親しまれてきたものでした。

「うちも農家なんですけど、家に日帰りできないんです。山が遠いから。そのため味噌とか腐らないものを山に置くんです。味噌漬けとかきのこ。それをお昼になるとおかずにして食べました」

地元ならではのおかずを味わえるのも宿の朝食の醍醐味。炊きたての御飯を一層輝かせています。

【公式】 | 新潟県・松之山温泉 ひなの宿 ちとせ

湯気

静岡県の修善寺。1200年の歴史を誇る温泉地です。ここにも朝食が自慢の宿があります。

柳生の庄

朝。鍋が部屋に運ばれてきました。

部屋に設けられた炉で鍋を温めます。味噌汁を部屋で仕上げるのです。

出汁は鰹と昆布。味噌は地元の米味噌。

そこに入れるのは豆腐にじゃがいもいんげん。

煮立つ直前を見極めて器によそいます。

味噌の香りが部屋中に広がります。

朝食が出来上がりました。修善寺ならではの豊かな山の幸や海の幸が顔を揃えます。

部屋で仕上げるからこそ出せる湯気。この宿ならではのおもてなしです。

「お料理を味で感じ、召し上がっていただくだけじゃなく、五感で楽しんでいただきたい。感じていただきたいというのがコンセプト。品のいい湯気がたちのぼるようなのがいいのでは」今日2つ目の壺は立ち上る湯気に思いをこめて。

京都祇園を流れる川の畔。一件の小さな宿があります。

料理旅館白梅

川の流れを愛でながらいただく朝食。

焼き魚や揚げ出し豆腐など昔ながらの家庭の朝ごはんです。

一番人気はだし巻き卵。出しがじゅわっと染み出します。

「お客さんが朝食の場に付いてからその時点で巻く。そこにこだわって。巻く時はなるべく半熟になるように心がけてふわふわな感じを出すように巻いてます」

使うのは京都の亀岡で放し飼いで育てられた鶏の卵。

鮮やかな黄色が食欲を誘います。

出汁は独自にブレンドした鰹節と北海道の利尻昆布から取ります。

熱が伝わりやすい銅製の卵焼き器を使って焼き上げます。

気泡を潰してなめらかにするのがコツ。

卵がまだ柔らかいうちに巻いていきます。

だし巻き卵の味を長年守り伝えてきた人がいます。

この宿で働いて57年になる大村和子さん。

今も板前たちに指導しています。

「もうちょっと塩分とお砂糖とを足して。朝は素人の家庭の味が皆様に好まれる。もうちょっと板場さんよか朝の濃いめの味がええと思います」

だし巻き卵を一番美味しく味わってもらうため、この宿では湯気が出ているうちに出すことにこだわります。

「湯気が上がったお料理というのは相手のことを考えて気持ちの表れ愛情の表れやと思うんです。お客様のことを思う。家族のことを思う。相手のことを思う。美味しいもん食べてほしい。今日も1日ほっこりしてほしいっていう気持ちが湯気の意味やと思うんです」

東京御茶ノ水。作家たちに愛されたホテルがあります。

山の上ホテル。川端康成や三島由紀夫など執筆に追われた作家たちが滞在していました。

時代小説の大家・池波正太郎もその一人。

食通だった池波はこのホテルの朝食がお気に入りでした。

焼き魚や玉子焼き。青菜のおひたしなど13品。今も昔と同じようなメニュー。

小鉢をたくさん並べた朝食は当時新しい出し方でした。池波はこの朝食を独自にアレンジして楽しみました。

例えば少量の納豆へ大根おろしを混ぜ合わせたり

月見芋をのせれば芋納豆になる。食べる人が好きなように色々と楽しめるのだ」(池波正太郎の銀座日記)

この朝食に感激した池波。料理長に手紙を送りました。

そこにはこんな感想も。

「それにしてもよく小さな器があれだけ揃っていましたね。これは皆、永年にわたるあなたの丹精の賜物であると思います」

それぞれの料理をそれぞれの器に厨房には数多くの器が集められていました。

当時料理長だった近藤文夫さんです。

「小鉢を取っておいて使っていました。色んな種類があるから見ていてお客さんも楽しかったんじゃないですかね。僕らのときはうつわはも一つの食べ物だと思っているから、だからきっと池波先生もそう思ってたと思うんです」

今日3つ目の壺は、朝食の器を楽しむ、味わう。

沖縄県那覇市。ここにも器にこだわった朝食があります。

わずか5部屋の小さなホテル。沖縄第一ホテル

テーブルにずらりと並べられた料理なんと24品。

沖縄の食材を活かした薬膳料理です。

タンパク質豊富なゆし豆腐を使ったスープ。

サクナと呼ばれる野菜のサラダ。咳止めの効果があると言われています。

これらの料理に彩りを添えるのが地元沖縄で作られた器の数々。

緑の野菜に合う鮮やかなブルーの陶器。独自に配合した釉薬が爽やかな印象を与えてくれます。

赤絵と呼ばれる陶器。

17世紀に中国から沖縄に伝わった柄を現代風にアレンジしています。

那覇市の壺屋という地域で作られてきた壷屋焼。

沖縄の海に住む魚をモチーフにしています。

このホテルの創業者島袋芳子さんです。このスタイルの朝食を50年以上続けてきました。

「沖縄らしいものをというのが、外国などに言って気づいたのです。何回も取り替えたり窯元をあちこち歩いて使ってみて」

島袋さんのお気に入りが琉球ガラス。野菜のおひたしなどに合わせます。

フルーツをのせているのは黄色い琉球ガラス。黄色の素は何とカレー粉だそう。

この日島袋さんは朝食用の器を注文するため琉球ガラスの工房を訪ねました。

琉球ガラス作家の稲嶺盛吉さんです。

沖縄の海に着想を得て数々の作品を生み出しています。

「グリーンでしょだからグリーンのサクナを入れようと思って。陶器とかいろいろなものに並べてもじゃまにならないんです。ドンピシャで入るんですよねだからお客様喜んで。そしててひねりの作ったもんじゃなくてこうやこういうのがまた面白い」

食材だけでなく器までとことんこだわった沖縄の宿の朝食。

訪れる人への歓迎の気持ちで彩られています。

取材先

NHK『美の壺』で“宿の朝食”に紹介されました/越後長野温泉 嵐渓荘のブログ – 宿泊予約は<じゃらん>

新潟の温泉旅館 秘湯一軒宿 越後長野温泉「嵐渓荘」Rankeiso

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