イッピン 「津軽の色を閉じ込めて~青森 ガラス製品~」

キラキラと様々な色の粒が散らばるガラスの器。漁網につける浮玉(うきだま)製造に始まった青森のガラス製品は手作りならではの魅力を持っている。その現場を佐藤藍子さんがリサーチ。津軽のねぶた祭をイメージしたという盃(さかずき)やまん丸の一輪挿し。さらにリンゴの形をしたペンダントを作るガラス作家も登場。リンゴの中に花が咲いている!津軽の厳しくも豊かな自然と素朴な人々の感性がはぐくんだガラス製品の世界に迫る

【リポーター】佐藤藍子,【語り】平野義和

放送:2018年11月20日

イッピン 「津軽の色を閉じ込めて~青森 ガラス製品~」

プロローグ

ガラスでできた杯。

底の方に様々な色の粒。見ていると心がウキウキしてくる色彩の乱舞はある祭りをヒントにしました。

青森のねぶたです。今青森では彩り豊かなガラス製品が作られています。

こちらは手のひらサイズの一輪挿し。丸いフォルムが可愛いと女性に大人気なんです。そしてもう一つ青森といえばりんご。

りんごをかたどったペンダントです。「光が当たるとでまた見え方が変わるんですよ」

中に見えるのは花びら。鮮やかな色彩で心が浮き立ってくる青森県津軽地方のガラス製品。その魅力に迫ります。

ガラス製品の街

本州の北の玄関口青森市。

訪れたのは青森市内のセレクトショップ。

「ねぷた祭をガラスで表現しています」

「外と内とで手触りが違う」

この盃をつくる工場を尋ねました。

工場長の中川洋之さん。

「主原料はこの3つの材料。60%以上は珪砂という砂です」

こちらが一般的なガラスの原料。

「溶かすと透明なガラスにはなるんですけども、色ガラスを作るためには色々な化合物が必要になります。これがうちで使ってるレシピになります。うち独自のレシピなので配合はお見せできません」

色ガラスの一つ金赤。この工場で独自に開発した鮮やかな赤です。作り方を特別に拝見。

担当するのは工藤一怒さん。まずは15種類もの材料をレシピ通りに調合していきます。ひとつずつ 正確に。わずか1グラムでも間違えると求めている鮮やかな赤は出せません。

板ガラスの原料。これが赤いガラスに。

溶解炉の中は1500度。

6時間後ドロドロに溶けた色ガラスを掻き出します。これを16時間かけて冷ますと。深い赤になりました。粉砕機にかけ小さな粒にします。

先ほどより明るい色になりました。この段階ではまだ粒の大きさがまちまちです。職人がふるいにかけ4種類の大きさに粒を揃えます。

こうして作られる色ガラスは100種類以上。色ガラスの組み合わせで様々なイメージを作り出すことができます。

こちらは四季のシリーズ左から春夏秋冬。ねぶたの杯の場合こ九色のガラスを使います。金赤もありました。

全ての色を同じ量を入れて後はゆっくりと丁寧にブレンド。透明なガラスにどのようにちりばめていくのでしょうか。溶解炉の前です。

透明なガラスを十分に熱してその上に色ガラスを付けていきます。

再び加熱すると色ガラスの粒が溶け透明なガラスと馴染んで行きます。

それを金型の中へ。金型を高速で回転させます。

みるみる盃の形に。スピン成形と呼ばれる技法です。「遠心力で一気に上げて」ポイントはこの水。

温度を一六度に保った水を金型の周りに流していたんです。金型は水で冷やされ、金型に接する外柄が急激に冷えて縮んで行きます。

この冷えじわと呼ばれるを凹凸が手に持った時しっくり手に馴染む感触を産んでいたんです。

1日に一千個以上作られるねぶたの杯。ひとつひとつが厳しい品質チェックを受けます。手で触って違和感はないか。高さを測って歪んでいないか。全体のおよそ2割がここではじかれてしまいます。「目に見えない泡とかも外で触ると結構出ている」色の散らばり方もチェック。これは赤い色が盃の上の方に付いているので NG。こちらは口の形がいびつ。ほんの2~3 mm 波打っているだけですが市場には出しません。冬は白一色に閉ざされる雪国。だからこそ色の美しさに敏感でありたい。青森の人々の思いが盃に込められています。

受け継がれる津軽のガラスづくり

戦後青森であるガラス製品が盛んに作られ始めました。定置網などの漁業に欠かせない浮き玉です。その高い品質で全国生産の6割以上を占めたことも。しかし合成樹脂の浮き玉が登場すると需要は急速にしぼんで行きます。ガラス職人たちは生き残りのために花瓶や食器を手がけるようになります。新しい技法やデザインを取り入れ、魅力的な製品を次々と開発してきました。この丸い形をした一輪挿しもその一つ。手がけるのは職人の館山美沙さんです。溶解炉から溶けたガラスを巻き取り、青と白の色の粒をつけます。熱を加え色ガラスをなじませたら、引き伸ばして円錐形に。その上に透明なガラスを巻きつけて色ガラスを挟み込みます。溶解炉の中で回転させると赤く熱したガラスの中にめじれ模様が見えてきました。そしてクライマックス。特殊な道具を使います。まずは先の尖ったほうで穴を開けます。まっすぐ真ん中に刺すこと。今度は濡れた新聞紙の側を差し込みます。するとガラスの中に空洞が。もう一度見てみましょう。濡れた新聞紙を刺すと空洞が広がっていきます。これがピンブローという技法。もう一度刺すと、さらに空洞が広がってガラス全体もまんまるに。新聞紙を刺す前と後でこんなに違っています。何が起こったのでしょう。濡れた新聞紙が高温のガラスに触れた瞬間。新聞紙の水分が蒸発。その力でガラスを押し広げていたんです。蒸気の力で美しい丸みを作り出すこの技法。加減一つ誤ると失敗です。「ピンを差しすぎたりすると穴が開くことがあるんです。技術と勘で丸にします」職人の繊細な技が生み出した丸い形。流れるような色模様は青森の空や海のように爽やかです。
ガラスが果物に。炎のマジック。
週末の青森市内。クラフトワークのイベント会場です。手作りの工芸品にひかれて多くの人が詰めかけます。一際賑わっているのがこちらのブース。青森市生まれのガラス作家小林宏さんです。子どもの頃ガラスの美しさに魅せられこの道を志しました。小林さんの自信作がこちら。りんごのペンダントです。「光の当たり具合で全然違う表情になりますよね」りんごの中に何か見えます。不思議ペンダント。小林さんの工房で作り方を見せてもらうことに。小林さんの技法はバーナーワークと呼ばれるもの。酸素バーナーでガラス管を焼き切ります。炎の温度は千度以上。息を吹き込みペンダントの土台を作ります。「表面に金と銀の膜を付けます」金と銀の欠片を用意して。まず金を加熱したガラスの棒につけます。棒に付けた金を炎の力で飛ばしてペンダントの土台に吹き付けます。「うっすらと赤い色が付着しました」続いて銀の方も。金の上に銀が乗ることで黄色味を帯びました。金は赤。銀は青を発色する性質を持っています。二つが重なると黄色になるのです。これから不思議な花びら模様に取り掛かります。「透明ガラスを表面に点打ちしていきます」土台の上に透明なガラスをイボのように付けていきます。その数およそ50個。大きさや間隔が揃っていないと綺麗な形になりません。バーナーの炎でさらに熱し続けます。「点打ちした部分を焼き縮めていきます」イボのような突起に変化が起こり始めました。「点打ちした点が内側に入っていっています。これが花びらです」バーナーで熱せられた点は柔らかくなり、中で対流が起こります。イボのような突起も滞留によって引き込まれ内側に移動していくのです。ガラスを再び熱していくと丸くなってきました。ついにはりんごの形に。熱せられることで対流が起き、徐々に丸い形になっていきます。内側に入った突起も対流の力で引っ張られ、根本は一転に集まるのです。お皿のような形がりんごに変わっていくのです。最後に取っ手をつけて完成です。炎を操りりんごの中に咲かせた花。ガラスだからこそ生み出せた美しさです。最後にあるものを見せてくれました。「失敗したものを隠しています。失敗の中に発見があったりシます。もっと追求していきたいと思います」青森という風土の色と形。それをガラスで表現したいと技を磨く職人たちの姿がありました。

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