日本の正月に欠かせない雑煮。土地土地の産物を取り込み、具も汁もさまざま。そこには新しい一年を幸せに過ごしたいという人々の願いが。室町時代の武士が食べていたのは、「敵をのす」を意味する「結びのし」など縁起のよい具を煮込んだ雑煮。奈良県山添村では、神聖な火と水で、昔ながらの雑煮を作る。料理研究家の鈴木登紀子さんは、故郷の2種類の雑煮を披露。ハレの日にふさわしい、雑煮用の器も紹介する。
【出演】草刈正雄,【語り】木村多江
放送:2019年1月3日
美の壺 「新年を祝う 雑煮」
日本のお正月に欠かせないのが雑煮。新年を祝っていただく餅を入れた汁物です。土地土地の産物を取り込み、具材も汁も様々。雑煮は郷土の縮図。その数数万に及ぶとも言われます。そこには新しい一年を幸せに過ごしたいという人々の願いがあります。晴れの日にふさわしい特別な器でいただきます。一口食べれば心も体も改まる。今日は雑煮の魅力に迫ります。
餅
昔の人はどんな雑煮を食べていたのでしょう。室町から江戸時代まで宮中に餅を納めていた京都の和菓子店。ここに宮中行事に使われた御用品を表した絵巻が残されています。神に捧げるための御鏡餅。紅白の丸もちの上に薄い餅が重ねられています。これと同じ丸餅が宮中の雑煮に使われたと、この店では伝えられています。「今はお雑煮というと汁物を考えるんですけれどもお汁の内像にですね」。材料は赤い菱餅と白い花びら餅、味噌、そしてごぼうの煮物。まず手のひらに花びら餅を広げ菱餅を重ねます。味噌とごぼうをのせて出来上がり。正月には宮中で働く女官や公家に振る舞われ、くるっと丸めてその場で食べたり、持ち帰ったりしたと言います。「お鏡餅に持ってるものと同じものを下々の者も身分の高い人も低い人も同じようにいただくということはそれなりに神様の頂き物皆で分かち合うというそういう意味があったのかもしれませんね」。伝承料理研究家の奥村彪生さん。武士は宮中とは違う雑煮を食べていたと言います。室町時代の武士の雑煮の具材です。「それぞれ意味がありまして、栗、勝栗は敵に勝つ。結びのしは敵をのす。アワビは不老長寿」高齢者になっても戦う武士らしい縁起をかついだ海と山の幸。そして真打ちはここでも餅。「鏡餅の分身。餅には年神様が宿っている。もう一つは魂。神様の魂が宿っている」。今日一つ目の壺は神とともに餅をいただく。
奈良県山添村。昔ながらの雑煮作りの風習が根強く残る地域です。農家の中山勝功さんと容子。12月28日。雑煮の支度は餅作りから始まります。二人で食べるにはかなりの量。神棚や仏壇に供えるためたくさん作るのだとか。「神様には月の数。12とうるう年は13。三日月とで仏さんには五個」。大晦日具材の下準備を始めます。全て自分たちの畑でとれたもの。里芋の親芋。頭芋と呼ばれます。人の頭に立つようにと願いを込めて使うのだとか。年が明けた午前0時過ぎ、勝功さんが地元の神社から神聖な火を持ち帰ります。これを種火として雑煮を作ります。使う水は年のはじめの水若水です。神聖な火と水で雑煮を煮ます。午前1時雑煮を食べる前にその年の恵方を向いて餅や串柿、ウラジロなどを乗せた祝い膳を神に捧げます。儀式の後餅を焼きます。それを鍋でさっと煮てお椀に。頭芋は切らずにそのまま。神への感謝と祈りを込めた雑煮の完成。膳には祝い膳と同じ餅が添えられています。雑煮の餅や頭芋はきなこにつけていただきます。末永く幸せが続きますように。夫婦二人の願いです。「今年も一年家族みんなが健康でありますようにそしてまた台風とかそんな災害のないように願って皆が無事一年が過ごせますようにと思いでお雑煮をいただきます」新しい年に願いを込めてこの土地に受け継がれてきた雑煮です。
具
東京都内の料理教室。生徒さんたちにわが家の雑煮を作ってもらいます。「大分県出身。蒲江というところですが、この辺りでは天然の鰤がポンポン取れる12月ぐらいになりますとそちらを買ってきて塩漬けにして」。「ハゼは松島湾で皆さんよく自分で釣りに行って釣ってきたら串に刺して炭火で焼くんです。焼いたものをこのように縄に結んでんぶら下げて。暮れになるとお店にもよく出てきます」。どんな雑煮になるのか楽しみですね。雑煮にと言っても色々。静岡市出身の生徒さん里芋大根小松菜の雑煮です。大分県佐伯市出身特産の鰤を使った雑煮。こちらは兵庫県姫路市。白味噌丸餅が基本だとか。名古屋市では鰹節をかけることが多いそうです。そして仙台市の生徒さんハゼがお椀から溢れんばかり。香ばしいだしが香ります。それぞれの雑煮を食べ比べてみました。当たり前だと思っていたわが家の味。他とは違う特別な味でした。今日二つ目のツボ意外と知らない隣の雑煮。
ばーばの愛称で知られる料理研究家の鈴木登紀子さん。青森県八戸の実家の雑煮を受け継いでいます。野菜の長さはおよそ3センチの短冊切りに。切った野菜をまずは下茹で。「お餅を鍋に入れますねそしてたっぷりの熱湯を回しかけますよ」青森では寒さで餅がすぐに硬くなってしまうため焼かずに茹で柔らかくしました。「ここで大根人参ごぼうを引きますよ。何のためでしょう。それはお餅がくっついて器を痛めないようにするためですよ。さあここで餅を乗せますよ」。最後は海の幸。八戸特産のいくらをたっぷりと。緑のみつばや紅白のかまぼこが添えられ彩り豊かな雑煮です。さらに鈴木家にはもう一つの雑煮があるといいます。大根の千切り。故郷ではこれをひきなと呼びます。三が日を過ぎた4日から7日まで、ひきなを使ったひきな雑煮が出されます。「3日目はお正月なのにお正月がだんだん遠のいていく。子供の頃の寂しかったのよ。食べ物も普段の方にだんだん帰る」。ひきな雑煮は雑煮はハレの正月から日常へゆっくりと戻るためのもの。味付けは普段の味噌で。具は餅と野菜、油揚げだけでさっぱりと。「区切りと言いますかねいつまでもお餅を食べ続けないというところに私いいことがあると思います。体に優しいお雑煮だと思っておりますよ」。鈴木さんが受け継いだ二つのお雑煮。どちらもふるさとの味です。
椀
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