イッピン「千年受け継ぐ 優美な木工~京都・京指物~」

イッピン「千年受け継ぐ 優美な木工~京都・京指物~」

京都。観光客をもてなす「木のぐい飲み」が人気だ。凜とした円柱形に、美しい木目。日本酒を注ぐと、ふわりと杉の香りが立ち上る。木と木を巧みに差し合わせた木製品は「京指物」と呼ばれ、その歴史は平安時代にさかのぼる。伝統の茶道具に隠された、粋なデザインの秘密。桐箱のフタに、多種多様な木片から花模様を描くワザも紹介。技術と美意識を受け継ぎ、挑戦を続ける職人たちに、安田美沙子が迫る。

【リポーター】安田美沙子,【語り】平野義和

放送:2019年2月5日

イッピン「千年受け継ぐ 優美な木工~京都・京指物~」

木のぐい飲みの作者、近藤太一さんです。「桶の技術を使って作ったぐい飲みです」

実は近藤さん、桶を専門に作る桶職人。

一口に桶といっても、風呂桶から料理を運ぶ岡持ち、

手桶まで種類は様々。

その技を現代の暮らしに落とし込んだのがこのぐい呑みなんです。

材料は奈良の吉野杉。木目が美しく江戸時代から酒樽などに用いられてきました。

「このぐい飲みは吉野杉を使って作ってるんですけども、その吉野杉の木の香りっていうのは日本酒にとくにあうので」

早速作り方を見せていただきます。まずはパーツ作り。

吉野杉を丸みのついたかまで割るとアーチ状の短冊に。

これを組み合わせて円にしていくのですが、

この部分の角度が揃っていないと水が漏れたり強度が下がったりしてしまいます。そのためかんなで緻密に整えていきます。

「正直を押すといいます。正直者の正直。横の角度を正確に合わせないときれいな円にならない。ですから正直にやらないと正確な桶ができないよっていいます」

作業に使うのがこの正直型。桶のサイズに合わせて手作りした定規です。少し削っては型に当て正確な角度に調整していきます。

「これまだ正確に合ってないので、丸見えは合ってますけども隙間があるでしょ。角度があってないから光が漏れるのは分かりますか。紙一枚の隙間でもあるとダメなんです」

八枚から十枚を組み合わせ、綺麗な円に。

接着剤でしっかり固定し、一晩乾燥させたら。パーツのつなぎ目を削って美しく仕上げていきます。

目指す厚みがこちら。飲み口から底にかけて緩やかに厚みを変えています。直接口が当たる飲み口は柔らかに薄く。底は分厚くすることで強度を持たせています。ここからが腕の見せ所。桶職人ならではのたくさんの工具を使って正確に削っていきます。「桶用のカンナなので丸みがある」

外側を削る通称外カンナ。土台に丸みがありカーブが削れる仕組み。

今度は内側。さっきと逆むき。膨らんだカーブがついた内カンナを使います。

10分ほど削るとご覧の通り。美しい曲線が浮かび上がりました。

理想の形を目指して駆使したのは7種類ものカンナ。「たくさんのカンナを使い分けるんですけど、仕事場でも壁にいっぱいかけてあります。きちんと数えたことはないですけど三百くらい」

桶の大きさや角度に合わせて無数のカンナを使い分ける桶職人。先輩から譲り受けたり、古道具屋を回ったりして様々なカンナを集めているんです。

「削りたいと思ったら道具を改造して、仕事に合うように改造して使えるようにして使って行く」

再びぐい飲みづくり。丸く切った底板をはめていく作業です。専用の小さなかんなでサイズを調整。はめ方にもコツがあります。

取り出したのは鉄の棒。

底板を力強く擦り始めました。「鉄の棒で擦ることで木をへこませる。これを木殺しって言うんです」

実は杉の木。繊維に空洞が多くスポンジのような構造をしています。圧力を加えることでこの空洞がギュッと圧縮され、板がわずかに縮むのです。ちなみにこの空洞。完成後水につけると元通りに膨らみ底板がピッタリと密着します。木の特性を活かした昔ながらの知恵。

お見事キレイにハマりました。最後に補強のため、たがをはめたら。「美しいですね」「角度合わせる仕事のことを正直いって言ったんですけども。また正直にやるって言うのはすごく大事なことだと思いますね。正確に手を抜かないで」

丁寧な道具選びと手仕事から生まれ美しいフォルム・杉の香りとともに職人の思いまで漂ってくる贅沢な一品です。

京指物千年の歴史

京都で指物が作られ始めたのは平安時代。

特徴は木の質感を生かした優美なデザイン。

木を巧みに指し合わせ、家具や桶、小物まで様々な製品を生み出してきました。

その美しい姿はあの源氏物語絵巻にも。豪華な家具や物入れ、繊細な技は宮廷文化の中で発展していきました。

そんな京指物の代名詞の一つが茶道具。茶碗などを入れる桐箱の無駄のない美しさ。簡素さを尊ぶ茶道の世界で愛されたのです。

その技術を受け継ぐのが森久杜志さん。箱作り専門の職人です。

「桐の場合は柔らかいんで寄ったら女性的というかは優しい感じですそれでまあ上品さが出てるんじゃないかと」

桐箱作り伝統の技を拝見。

まず板の端にのみを入れ、丁寧に削り落としていきます。凹凸を組み合わせて立体に。

木を木に差し込む指物の語源とも言われます。

釘として使うのも木。金属は一切使いません。

「釘などの金具を使うとそこが錆びて腐食して木を痛めたりするのでかえってその木で作るほうが丈夫長持ちする」箱の形に組み立ててからが桐箱職人の本領発揮。

蓋に天盛りという丸みを施していきます。

蓋の上から2ミリのところにラインを引くと、

かんなで勢いよく削り始めました。

そして今度は撫でるように。天盛りは職人によって形が違ういわばトレードマーク。森さんが目指す形は。「てっぺんを頂点にして丸く仕上げていくことによって触った感じでほんわりとなるように仕上げていきます」

理想の丸みを求め、何度も触り心地を確認します。

30分後。優しいカーブが。知る人ぞ知る密やかな粋。

完成した天盛りに平らな板を乗せると両端がかすかに浮いています。

その幅はわずか2ミリ。

「奥ゆかしい。触って初めて丸みがわかるっていう。丸い底心で丸くする柔らかくするっていうかそういう雰囲気があると思う人の心まで丸くなったらいいみたいな」

時を超え愛され続ける京都の桐箱。釘を使わず仕上げた。柔らかい風合いから職人の矜持がのぞく逸品です。

精緻な技が咲かせる木工の花

いま女性たちの間で可愛いと評判の桐箱があります。 華やかな模様ですがよく見ると花びらや葉の全てが木を組み合わせて作ってあります。優雅な模様は流れるように側面まで。一体どんな人が作ったんでしょうか。小谷純子さん。木に彫刻や装飾を施す職人です。その作品は多岐に渡ります。今にも動き出しそうな龍の彫刻。こうした迫力ある作品にも定評がありますが、近年人気があるのは弁当の桐箱のアレンジ。蓮に捕まるカエルや水面の波紋まで全て木で表現しています。中でも代表作があの花模様の桐箱。材料はファイルの中に。家具や建築の仕上げに使われる薄くスライスした木なんです。木の裏には髪を刃って補強してあります。そのわずか0.5ミリ。極薄のシートを使うのには理由があるそうです。早速作り方を拝見しましょう。まずは花びらの模様を切り出します。続いてき茎。デザインに合わせて選んだのはそれぞれ色あいが異なる四種類。霧箱の下に下絵を乗せ、直接パーツをおいて位置を確認。大きさに合わせて輪郭線彫っていきます。小さなノミで木のシートと同じ0.5ミリ分だけを彫り下げていきます。接着剤をつけて固定。今度は花弁。「気が遠くなりますね」さらに驚きの技が。草木が生き生きと見えるよう側面まで模様彫っていくんです。薄い材を使うのはパーツを箱のカーブにぴったりさせるためでした。接着剤が乾くまでテープでしっかりと留めておきます。15時間かけてパーツ70個が全て入りました。最後に金でアクセントを付けて完成。「改めて見るとこんな風に生まれ変わるんだって別のものになるんだって言うのすごい感じました」「伝統工芸品て高いとか使うのが怖いとか思われるんで普段使ってもらえるもの普段使いのものを作りたいと思います」伝統の桐箱をモダンに生まれ変わらせた可憐な木の花。京指物に新たな風を吹かせる逸品です。

京都木工芸協同組合  Kyoto Wood Craft Cooperative Association – 投稿

桶屋近藤 – 投稿

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