美の壺「セーター」

2022.10.27更新

「繊維の宝石」とうたわれるカシミヤセーターの“ふんわり感”の秘密とは！？宮城・気仙沼で作られる、予約2年待ちという手編みセーターが登場！極上のあったかセーターを生み出す編み手の技には、港町ならではの意外なルーツが。傷ついたセーターをかわいく直せるテクニックも紹介。アランセーター、フェアアイルセーターなど、伝統的なセーターの柄に込められた先人たちの知恵や思いをひもとく。＜File435＞

【出演】草刈正雄,ファッションエディター・スタイリスト…大草直子,【語り】木村多江

放送：2019年2月10日

美の壺「セーター」

プロローグ

寒い時期に大活躍するファッションアイテムセーター。色や素材そして形までバリエーション豊か。おしゃれで暖かく、その上動きやすいセーターは冬のファッションの王様です。住タイリストの大草直子さん。セーターは選び方次第で印象が大きく変わる魔法のアイテムだと言います。「女性の体にすごく柔らかく寄り添ってくれるので、その着ている女性のイメージがすごく柔らかくて温かい人に見えるんですよ。それも好きで来ています」。オランダではセーターを使ってこんなパフォーマンスが。町の人々が独創的なデザインのセーターを着て歌い踊るフラッシュモブ。60年かけて550着ものセーターを編んだロースベースさんの活動をたたえたものでした。暖かく奥深いセーターの世界。今日はたっぷりご紹介します。

柄

立体的に浮き上がった模様がなんとも美しい。糸の彫刻とも呼ばれ根強い人気を誇るアランセーターです。アランセーターはアイルランドの西に位置するアラン諸島が発祥。男の子の晴れ着として編まれてきました。やがてその独特な柄が注目され世界中で愛されるようになったのです。こちらはイギリスで広くは生まれてきたガンジーセーターです。元は漁師の仕事着。漁に出る夫や息子のために家族が心を込めて編んでいました。安全や豊漁を祈る縁起の良い模様が散りばめられています。首回りは防寒の為ハイネックに。脇の下にはひし形のマチ。動きやすいように工夫された先人の知恵です。イギリスの北、シェトランド諸島の特産品として生まれたのがフェアアイルセーターです。土地が貧しく作物が育ちにくい島ではセーターは貴重な収入源。カラフルな柄は少しでも目を引くための工夫だったと言います。伝統的なデザインにはそのセーターが生まれた土地の歴史や人々の思いが編み込まれているのです。「今の時代って、そこそこ安価にもでセーターも買えることもできるんですけども、やはり伝統ニットなのあの昔の先人の思いではないですけども、その一目一目編むときに、人が編んでるので多少目が揃ってなくてもやはり思いはそこに入れますよね。なのでそこが手編みのセーターの原点じゃないかなあと思いますね」。今日最初の壺はひと目ひと目に編み込まれる思い。

宮城県気仙沼市。ここに究極の着心地と言われ注目を浴びるセーターがあります。それがこの色とりどりのセーター。地元の女性達が全て手編みで仕上げています。一番人気はオーダーメイドのカーディガン。全国から注文が殺到し、今頼んでも出来上がりまで2年以上かかるそうです。人気の理由は手編みならではの温かさと着心地。人の手で優しく編んだセーターは暖かな空気をたっぷりと蓄え、着るたびに体に馴染んでいくのだそうです。この会社が設立されたのは5年前。東日本大震災の復興を支援するプロジェクトが始まりでした。社長の御手洗瑞子さん。気仙沼の人々が誇りを持って続けられる仕事は何か。模索する中で浮かび上がってきたのが編み物でした。「気仙沼に来ていろんな人に話を聞く中で、編み物だったら私たちたくさんしたのっていう話を伺って、そこには確かに根っこがある。それを仕事にしてくのは自分たちとしてもとても納得がいくというお気持ちを気仙沼の多くの人が思ってくださってそれで気仙沼で編み物の会社ということになりました」。気仙沼は日本有数の遠洋漁業の基地。今のようなハイテクの防寒具がなかった時代。手編みのセーターは漁師を冬の海の寒さから守る大事な仕事着でした。緻密で確かな編み物の技術が自然と育まれ受け継がれていたのです。「私たちは編んで着せられるのが普通だと思っていたから。買ってセーターを着たことは小さいときはなかった」。男たちの命を守ってきた手編みの技。このセーターのこだわりはそれだけではありません。ほんに数ミリ違うだけでもほどいて編みなおし。注文主の希望のサイズにぴったりと仕上げるのです。「ちゃんと編んで届けないと」。この日出来上がったセーターを客が受け取りに来ることになりました。「身長が192センチの方です。大きい服がなかなかないので欲しいということで、気に入っていただけると」。