美の壺「磨きぬかれた都風情 京野菜 」

美の壺「磨きぬかれた都風情 京野菜 」

<File:424>今や全国各地で食される人気の食材「京野菜」。そのルーツは京都以外の土地から持ち込まれたものが多く、各地の野菜の種と栽培技術が集まる京都だからこそ、根付き進化してきたと言われる。なぜこれほど人々を引きつける食べ物になったのか?伝統の京野菜を守り伝える農家や、京野菜を使った家庭料理、料亭の京野菜料理など、京野菜を愛(め)でる生産者や料理人を訪ね、京野菜に秘められた美と物語を堪能する。

【出演】草刈正雄 パンテル・ステファン 高橋英一 大原千鶴 高橋拓児 【語り】木村多江

放送:2018年9月22日

美の壺「磨きぬかれた都風情 京野菜」

昔から京料理を彩ってきた食材といえば京野菜です。みやこのごちそうに欠かせない旬の野菜の数々。賀茂茄子の田楽に伏見唐辛子の焼き浸し。400年続く老舗料亭にとっても旬の京野菜は腕がなる魅惑の素材です。 山々に囲まれた京都盆地。野菜が育つのに適した地形と言われます。川や地下水などの豊かな水。みやこ故堆肥も豊富で土の栄養分にも事欠きませんでした。絶好環境で育まれた京野菜。しかしそのルーツは意外にも京都で生まれた京野菜はありません。外から持ち込まれた野菜は京都で独自に進化してきました。今宵は千年の都で育まれてきた京野菜の美を堪能します。

個性

7月25日。東山の獅子が谷にあるお寺が一年で最も賑わう日。その主役は溢れかえるこのかぼちゃ。形がユニーク。ゴツゴツしたひょうたん型です。江戸時代旅人が津軽から種を持ち帰り鹿ケ谷で育てたところ偶然 瓢箪型に。本堂に飾ってかぼちゃ供養を始めます。かぼちゃを振る舞えば人々が病気にならない。220年前この寺の住職がそう告げを聞いて以来無病息災を願う行事として受け継がれてきました。 縁起物の獅子谷かぼちゃ。京都の地に根を下ろし長い歳月を超えて超えて愛され続けてきました。

一つ目のツボは風土と京都人が育んだ無二の個性。

まんまるでふくよか。夏の京野菜の顔。賀茂茄子です。ぎゅっと詰まった肉質。しっかりした甘みと歯ごたえが特徴です。江戸初期の京都の記録によると茄子の風味は円大なものには及ばないとあります。丸くて大きく味が絶品この夏こそ賀茂茄子のことだと考えられています。一説によると紀州藩から上賀茂神社に奉納された丸いナスをここで栽培するうちにこってり大きくなったのだとか。以来この茄子は地元の農家で大切に守られてきました。 水杭の肥料食い。美味しさを見出す一方で虫や病気に弱く手間がかかる伝統野菜。毎日選別して間引く必要もあります。「改良ということをすると今まで持ってた生地が変わってしまうので、品種改良ということはあんまりできない」 品種はそのまま人の技術を磨く。地道な努力に支えられた伝統の味です。 京野菜にはまだ歴史の浅いものもあります。昭和初期から栽培している鷹峯唐辛子です。京都で栽培されるうちに甘く肉厚でみずみずしくなったと言われます。料理人には直に見て選んでもらっています。 作る人と使う人の互いの信頼が京野菜を輝かせています。

京都では特別な日には京野菜を海の幸など遠くで取れるものと一緒に料理して食べる。出会いものと呼ばれる伝統の組み合わせ方です。高橋さんが最初に取り出したのは賀茂茄子。半分に切ったものを 170°であげて中身をとろけるような食感にします。それを炭火で炙ると吸い込んだ油が中に染み渡り水分が飛んで旨味を凝縮させるといいます。合わせるのはエビとウニ。出汁は海老の頭を炭火で炙ってとりました。「油で揚げるというのは茄子の色がとても美しく華やかに生えてくるわけだと思います」塩を振るだけ。素材の苦味をいかします。「この時期に美味しくなるアワビの肝とよくあうわけです」アワビの肝に卵黄と出汁を加えてまろやかにしたタレ。ふたつの苦味が絡み合います。出会いが引き出す京野菜の魅力。汲めども尽きぬ味わいです。

京都・大原の朝市。一般客からプロの料理人まで新鮮な野菜を求めてやってきます。京都に住むフランス人シェフ・ステファン・パンテラさん。フレンチと京野菜の融合。そのワクワクする試みと一緒になった17年。九条ネギをりんごのピクルスに合わせたり、カブにバニラとレモンのバターソースをかけたりと、斬新な料理を数多く生み出しました。この日は新作に挑戦。挟んでいるのは鯖のぬか漬け・へしこです。賀茂茄子に濃厚なへしこを加えパンチのある料理にしていきます。「天ぷらの生地に入れて揚げるんです。揚げながら中のものを蒸す。ものすごくへしこの香りがじわっと賀茂茄子に入ります」揚げた後さらに火を通して香ばしく仕上げます。子羊のローストに添えていただきます。メインの肉に負けない京野菜の存在感です。「フランスのソースの作り方は濃いものが多い。野菜に力がないと負けてしまう。京野菜が持つ強みです」

今から200年前。江戸時代のあの絵師も野菜を描いていました。伊藤若冲作「過疎涅槃図」です。世にも珍しい野菜の仏画。亡くなった釈迦に見立てられた大根。およそ90の野菜と果物が取り囲んでいます。賀茂茄子に鹿ヶ谷かぼちゃ伏見唐辛子聖護院かぶなど今に伝わる野菜がたくさん。しかし中には時代と共に消えてしまった野菜もあります。例えばこの東寺まくわ。ウリの一種で明治頃に作られなくなりました。絶滅した京野菜。それを再興させようとする人がいます。「京都の東寺まくわの血をのこしています。非常に大切な食べ物かなと思ってます」矢沢さんは新しい京野菜の開発責任者京都滋賀産官学で進めるプロジェクト。病気に強く生産者が作りやすい品種を作り出すそうすることで京都の農業をより盛り立てることはできないか。20年掛けて開発に成功した新種第一号の京てまり。甘くフルーティーな味わいのトマトです。こちらは葉唐辛子の京唐菜。夏場に不足しがちな葉物野菜として期待されています。新しいものを生み出して伝統に重ねる100年後200年後の未来を見据えた挑戦です。

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