美の壺 「スイーツの芸術 パフェ 」

パフェ

「起承転結」を計算しつくした「イチゴのパフェ」▽500以上のパフェを考案した気鋭のシェフが作る、ブーケのような「リンゴのパフェ」▽まるで苔むした庭!「和テイストのパフェ」▽料理研究家・大原千鶴さん行きつけの洋菓子店の「チョコパフェ」は、温かいソースで味と香りに驚きの変化が▽お酒と合わせて楽しむ「夜パフェ」の魅力とは?▽前川泰之さん扮する“パフェ好きの幽霊”の物語に涙腺崩壊?!<File538>

放送:2021年5月14日

美の壺 これまでのエピソード | 風流

美の壺 「スイーツの芸術パフェ」

日本で独自に発展してきたスイーツパフェ。今snsでモバイルと大ブームにパフェはグラスにアイスや果物クリームなどを盛り付けたもの様々な形で進化しています。まるでブーケのようなりんごのパフェ森の中の風景を模した和のパフェ。お酒と楽しむ夜カフェまでできないからデザインに至るまで令和カフェを巡る旅にご案内します。

東京目黒区のイタリアン菓子店で、シェフの藤田もとぞうさんが手がけるパフェは、多くの人に親しまれています。藤田さんはこれまで様々なパフェを考案し、パフェの製法についてまとめた著書も出しています。

藤田さんのパフェ作りは、まず設計図を使ってバランスを計算することから始まります。「全体の色合いを考えて、ちょっと濃い色を落とし込むことで安定感を出す」と藤田さんは言います。パフェの一番下にはイチゴのソースが使われており、彩りと味わいがバランスよく固められています。

この王道のデザインには理由があり、グラスの中の配置が重要です。上からしか食べられないため、お客様は素材を感じる順番を決めることができ、そこに物語性が組み込まれています。ミルフィーユで心を掴み、次にクリームブリュレの甘みとイチゴジェラートの酸味を楽しんでもらいます。ボンジーアパイで食感を展示し、最後にイチゴのソースで余韻を残します。

グラスの中にはラズベリーのソースにイチゴを加え、主役の印象が残るようにわずかに塩味を効かせたパイ生地が使われています。これにより、食感と味に変化を出しています。さらに、グラスのふちにはライムの果汁を忍ばせ、爽やかな香りと酸味でイチゴやクリームブリュレを軽やかに食べ進めてもらいます。

ミルフィーユの脇にはイチゴ味のチョコフレークが添えられており、期待感を高めています。藤田さんのパフェは、見た目も味も繊細で、まさにパフェの芸術作品です。

一つ目のツボは「クラスに込めた物語」

東京渋谷のカフェで、レーザーカッターでアクリル板を使った装飾を手がけるのは、パフェ専門のパティシエ、戸籍智子さんです。彼女は約二ヶ月に一度、新作パフェを発表しており、予約だけで売り切れてしまうほどの人気ぶりです。

今回のパフェでは、底の浅い軽やかなデザインのグラスを使用します。メレンゲを使ったアプローチが特徴で、メレンゲは丸い穴に材料を乗せ、へらで伸ばして焼きます。これが今回のカフェで最も重要なポイントです。

グラスには、中国茶とラズベリーを組み合わせた層を作り、酸味のある果実とほのかな甘みのあるお茶が調和します。その上にメレンゲで蓋をすることで、パフェの物語性が生まれます。メレンゲを使うことで味わいと気分が変わり、物語のイメージが広がると考えられています。

「満開になった桜を見上げたときの、昼間に光が溢れるような感覚」をパフェで表現し、食べ終わったときには充足感を感じてもらえるように工夫しています。作り手の思いが詰まったカフェならではの世界が広がっています。カフェと呼ばれるスイーツは、日本ならではのものです。記録に残る最初期のパフェは、明治26年の六明館での晩餐会に出されたデザートとされています。しかし、これは生クリームなどを凍らせたフランスの伝統菓子「パルフェ」であったと考えられています。その後、アメリカから伝わったサンデーなどの影響を受け、パフェとして進化していきました。昭和初期のフルーツパーラーのメニューには、すでに今の姿に近いパフェが登場しており、人々の憧れのデザートとして多様な進化を遂げています。

東京世田谷区には、パフェを専門に出すお店があります。その店では、まるでバラの花束のようにりんごを薄くスライスし、花のように仕立てた目にも美しいパフェが提供されています。手掛けたのは、パフェを専門に作り続けてきた森熊さんです。これまでに考案したパフェは500以上で、前例にとらわれない独創的なデザインで注目を集めています。

森さんにとって、パフェは「一瞬の美しさ」を表現するために、どれだけの技術を盛り込めるかが最も重要なポイントです。りんごは程よい硬さで加工しやすく、富士赤ワインとシロップで見込みを過ぎると加工しにくくなるため、程よい硬さを見極めて火を止め、凍らせます。スライスすることでシャリシャリとした食感を残しつつ、扱いやすくなります。りんごを一枚ずつ巻き足していくことで、一瞬の美しさをリアルに表現しています。

花弁と花弁の間隔に空気をはらむようにすることで、見た目の美しさを保ちながら、溶けにくくしています。間を詰めすぎると花の形が崩れてしまうため、適度な隙間を保つことが大切です。森さんは、花のような形を目指しつつも、あくまで美味しい食べ物であることが最も重要だと考えています。

パフェには、ジュレ、パンナコッタ、オレンジ、ブランデーのアイスがリンゴに寄り添い、一体となった美味しさを提供しています。

りんごは皆さんが知っている、どこにでもあるものですが、その中でどこまで知っているか、どこが違うのかを探求するのが好きです。これは、新たな世界を生み出すための一つの手段だと感じています。

例えば、「落ちた小枝に苔に覆われた岩、そして朝露」という自然の風景を細密に表現したパフェがあります。これは季節の言葉からインスパイアされており、例えば5月の風景が形作られていく様子が見えます。朝靄や森の中の風景を再現し、雨の降った後の粉土の香りや新緑の香りを取り入れています。日本人にしか作れない洋菓子として、オリジナリティを追求しています。

このパフェには、あんこ入りの抹茶わらび餅に砕いた抹茶クッキーをまぶし、苔むした岩のように仕立てています。棒のパンナコッタの上に置き、明るい緑のクッキーで覆い、クロモジの香りを効かせたジュレを加えます。ほうれん草とりんごのシャーベットでグラデーションを作り、中心には抹茶の苦味とあんこの甘さ、さらに緑の香りやゴボウの土の風味が緻密に組み合わされています。

パフェの仕上げには、冷たい緑茶にドライアイスを入れ、グラスに注ぐと霧が立ちこめます。これにより、新緑の風景が完成し、緑茶が食感の異なる素材を結びつけ、全体にまとまりをもたらします。

食べていただいた方が「ああ、これが言っていたことか」と感じていただけるよう、五感で楽しんでいただきたいと考えています。自分の思いと食べていただく方の感覚が結びつくことで、その魅力がさらに増すのではないかと思います。

カフェはこれからも進化を続けます。

京都市中京区にある料理研究家、大原千鶴さんがよく足を運ぶ洋菓子店があります。町家を改修したこのお店では、カウンター席でケーキやパフェが提供されています。お店を照らすのはショコラティエの垣本晃宏さんです。垣本さんはチョコレートの国際大会で日本予選に優勝した実力者で、そのパフェは特に注目です。

このパフェには、奄美の抑えたチョコレートクリームをはじめ、10種類の素材が重ねられています。クリームの下にはチョコレートのカステラがあり、その上にアイスクリームが層を成しています。合わせるのは、グレープフルーツを煮詰めた温かいソースです。このソースがチョコレートのさまざまな魅力を引き出します。

パフェの姿は非常に美しく、ソースがかかると溶けていく様子が楽しめます。景色が変わっていく過程や、溢れないかというドキドキ感もあります。チョコレートの冷たい部分と、温かいソースの部分が混ざり合い、香りと味が口の中で広がります。

温かいソースが入ることで、チョコレートの香りが引き立ち、グレープフルーツとセロリの香りと結びついて、甘みとほろ苦さの絶妙な調和が生まれます。温度の差によって、異なる口どけを楽しむことができます。フルーツの香りも感じられつつ、チョコレートの香りが際立つその層の違いが一層の美味しさを演出しています。

このパフェは、冷たい部分と温かい部分が組み合わさっており、一口ごとに違った味わいが楽しめるのが魅力です。パフェの醍醐味を存分に味わえる体験がここにはあります。

今日最後の壺は「合わせて楽しむ」

東京表参道にあるバーは、ソムリエとパティシエの夫婦が営んでいます。こちらで人気なのは、ワインとパフェの組み合わせです。夜にはお酒と合わせて楽しむパフェや、お酒の後の締めにぴったりのパフェが今人気です。

ワインに合わせるこのパフェは、旬の野菜を使い、甘すぎない味わいが特徴です。バルサミコのソース、チーズのクリーム、うすいえんどう豆、さくらんぼを使用しています。さくらんぼの香りがアルコールの揮発性によって強調され、華やかな香りが鼻から抜けます。一方、うすいえんどう豆の少し青い香りが、ワインの青い香りと一緒に相乗効果を生み出し、非常に食べやすい味わいに変わります。

パフェもワインも、ラインの選び方によってより美味しくなります。白ワインには、グレープフルーツやライム、柑橘系の香りが特徴的なものが多く、赤ワインにはベリーの香りがするものがあります。パフェには、それぞれの香りにマッチするワインが用意されています。

例えば、マスカルポーネのアイスに甘みの強い品種のみかんを添え、炙ったチーズケーキを乗せたパフェがあります。パルメザンチーズをふりかけることで、程よい甘みと塩味が加わります。このパフェに合わせるワインは、柑橘とほのかにバターの香りがするカリフォルニア・ナパバレーのシャルドネです。チーズとワインの香りが心地よく広がります。

お酒を飲んでゆっくりと楽しむ感覚を味わえるこのスタイルで、豊かな時間をお過ごしいただけると思います。ワインとパフェが溶け合い、新たな美味しさを生み出します。