美の壺 「光と風の物語 窓」

「テーマはアリの生活」という造園家・齊藤太一さんの巨大な窓には、50種類の植物による圧巻の光景!▽吉村順三が軽井沢に設計した、自然を愛でる広い窓▽巨匠フランク・ロイド・ライトの美意識が詰まった、さまざまな窓のデザイン▽まるで宇宙船?!「ふきだし」をモチーフにした図書館の窓▽ローマのパンテオンから鎌倉の寺まで…「丸窓」の魅力とは?!▽武者小路千家・千宗屋さんが語る茶室の窓の役割<File548>

初回放送日: 2022年11月12日

美の壺 これまでのエピソード | 風流

美の壺 「光と風の物語 窓」

光や風を誘い込み家の中と外をつなぐ窓。窓辺には人が自然と集まり様々な物語が生まれます。こちらは思わず中を覗き込みたくなる印象的な形の窓。そう近代建築の巨匠フランクロイドライトは、趣向を凝らした様々なデザインの窓を住宅に取り入れました。洋の東西を問わず、祈りの場を象徴的に照らす丸い窓。茶室の窓は光を調整することで陰から陽へと茶事の流れを演出します。よいしょそれぞれの窓が彩る豊かな空間。今日はめくるめく窓の世界へご案内します。

景色

東京世田谷区の住宅地に建つ一軒家。中に入ると、鬱蒼とした木々が迫り来る大迫力の景色が広がります。高さ3.5メートル、リビング一面に広がる巨大な窓がこの家の主役です。この家の主は造園家・斉藤太一さん。建築家の種剛さんと共に、試行錯誤しながらこの窓を設計しました。

「この部屋のテーマは『蟻の生活』や『縄文の生活』といったプリミティブなものです。生態系を断面的に見られる窓にしたかったんです。人間は常に自然を見下ろすような高い位置にいると思いがちですが、実は自然の方が偉大で、見上げる立場にあるべきだと考えました。そこで、床を少し下げた設計にしたんです。」

家の床部分は地面より1メートルほど掘り下げられており、そのため、目線が地面に近くなる構造になっています。これにより、地面を歩く蟻や木を這う虫、頭上で鳴く鳥など、森の中で自然を見上げるような体験ができるデザインとなっています。

「従来の住宅街では、隣家との距離が2~3メートル程度の狭い空間が普通です。しかし、僕が目指したのは、庭ではなく、新しい形の自然を創り出すこと。僕はそれを『新自然』と呼んでいます。」

建物の外には、幅約2メートルの敷地があり、そこには周辺地域に元々生息する植物を調べ、さらにそれらと相性の良い種を加えた合計50種類以上の植物を植え込みました。造園家として理想を追求した結果、一面の緑が広がり、窓から自然の迫力が溢れ出しています。

「窓と内部空間の関係には、心地よい空間を作るための極意があると思います。建築を考えるということは、窓を考えることと同じだと僕は思います。」

今日最初のツボは理想の眺めを求めて

長野県軽井沢町。閑静な別荘地の中に、ひときわ目を引く山荘があります。全長35メートルの二階建てで、細長い建物が庭をくの字型に囲んでいます。中に入ると、横に長く伸びる窓があり、外の景色を一望でき、気持ちの良い空間が広がっています。

この家を建てたのは、洋画家の脇田和で、彼は戦後を代表する建築家・吉村順三に設計を依頼しました。脇田の要望は、絵のモチーフとなる動植物を観察できる環境を作ってほしいというものでした。

吉村順三が出した答えのひとつが、この窓です。屋根から伸びる軒の長さを景色に合わせて緻密に計算し、窓から見える風景を美しく見せる工夫を施しました。当時、この窓の向こうには一面の森が広がっており、軒が森へ向けた画家のまなざしを作り出していました。

現在、この別荘は息子の脇田和さんが受け継いでいます。「父は鳥を描くために鶏を飼っていました。時には鶏が外に飛び出すこともありましたが、大きな窓があるので、その様子を見て『きれいだね』なんて喜んでいたんです。窓がまるで絵の枠のように、外の風景を美しく切り取ってくれるんです。」

この建物は、当初こぶしの木を囲むように設計されました。窓から木にとまる鳥がよく見えるよう、吉村の心遣いが感じられます。「窓は外の景色を額縁のように切り取り、絵そのものが窓とも言えるでしょう。」と脇田さんは語ります。

さらに、この山荘の窓は、雨戸や障子はもちろん、ガラス戸までもがすべて戸袋に収納できるように設計されています。窓を全開にすると、外と中の境界を感じさせない開放感が生まれ、自然と一体となるような空間が広がります。

自然を愛した画家の窓には、今日も心地よい風が吹き込んでいます。

近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライトがこだわり抜いた窓を見ることができる場所があります。それは、大正13年に兵庫県芦屋市に建てられた建物で、建築当初の姿が残る国内唯一のライトによる住居建築です。

こちらは2階の応接室。窓が多く、曇りの日でも明るい印象を与えます。様々な窓に囲まれたこの部屋で、独特の存在感を放っているのは天井近くにずらりと並んだ小窓です。この建物には天井照明がなく、小窓を通して光と風を取り入れる工夫がされています。ライトは日本家屋の欄間からヒントを得て、この小窓を設計したと考えられています。

外観を見ると、一つ一つの小窓には砕いた大谷石や菅セメントを使った装飾が施されており、ライトが当時影響を受けていたマヤ文明の遺跡を彷彿とさせる雰囲気が漂います。ライトは採光や通風の機能に留まらず、窓に様々なデザインを施していました。

2階の食堂には三角形に見える天窓がありますが、よく見ると窓自体は四角形です。この食堂の天井は三角の面で構成され、教会のような厳かな雰囲気を作り出しています。

また、3階の廊下に並ぶ窓には、ライトの「自然に溶け込む建築」という理念が反映されています。窓ガラスの装飾に施された銅板は植物の葉をモチーフにしており、その銅板には緑色の錆をあえて発生させて植物らしい質感を表現しています。西日が差し込むと、まるで木漏れ日のような柔らかな光が窓から差し込みます。

「ライトの窓は、有機的建築の一環であり、部屋の中に自然を取り込みたいという意図が感じられます。窓から見える景色、緑や風、光といった自然の要素を取り入れるという設計理念が反映されているのです。」といえるでしょう。

ライトの窓は、自然や環境と調和した有機的建築の理念に貫かれた、独特なデザインが施されています。

今日二つ目のツボは形に込められた思いを味わう

東京武蔵野市には、思わず覗き込みたくなる不思議な形の窓があります。まるで潜水艦や宇宙船のように見えるその窓があるのは、実は図書館などが入る公共施設です。

窓に誘われて館内に入ってみると、丸くくり抜かれたような空間がいくつも連なっています。それぞれの空間には壁がなく、仕切りとして楕円形の穴が設けられています。

この施設を設計した一人、比嘉武彦さんはこう語ります。「窓の形は、空間を完全に区切ることなく、お互いに共鳴し合う感じを作り出しています。外の窓と中の部屋の形が共鳴して、小さなスペースがたくさん集まった大きな施設のような印象です。人を優しく包み込む丸い形は、人の身体にしっくりくるものがあると思います。」

さらに、この窓には特別なモデルがあります。それは「吹き出し」です。それぞれの思いが浮かび上がり、まるで人々の想いが交錯する場所であるかのようです。「窓は公共性を持つ。人が語り合い、語りかけるような存在です。少し足を止めて、窓の声を感じ取ってみたくなります。」と比嘉さんは言います。

世界中の窓の研究を行っている建築史家、五十嵐太郎さんは、窓には特別な意味があると説明します。「円形の窓は日常的な四角い窓とは異なり、非日常的な存在感を持ちます。」

世界各地には、象徴的な円形の窓を持つ建築があります。例えば、古代ローマのパンテオンには、ドームの頂点に直径9メートルの円形の窓があります。この窓は、太陽の光が動くたびに内部の光景を変化させ、まるで天体が動いているかのような感覚を与えます。

日本でも寺社で丸窓が多く作られてきました。鎌倉にある明月院の「悟りの窓」は、悟りや真理、大宇宙を象徴すると言われています。この丸窓から見える景色は、まるで削ぎ落とされた情報の中にある光景が、深い集中をもたらし、悟りの境地へと導いてくれるかのようです。

最後のツボは窓が誘う心の旅

他動武者小路千家の茶室における「窓」は、非常に重要な役割を果たしています。こちらは千三がかつて設えた茶室で、東京タワーが見渡せる都心のマンションの一室です。茶室の「ちゃ出」という言葉は、古い言葉で囲いを意味します。茶室自体が世界のようなものであり、その窓は下界と外の世界、つまり日常と非日常の空間を隔てる重要な役割を担っています。窓を通して、外の時間や場所を一時的に忘れ、別世界に心を遊ばせることができるのです。最後に窓を開けると、外の景色や東京タワーが見え、日常に戻るきっかけとなります。

茶室の窓は、茶事の中でも重要な役割を果たします。例えば「正午の茶事」と呼ばれる茶会では、四時間ほどの間、すべての窓にすだれがかけられ、明るさが抑えられます。このような薄明かりの中で、解析が振る舞われ、亭主と客たちは一体感を味わいます。前半の解析が終わると、客は一旦退席し、亭主は突き上げ窓を開け、外の空気と光を取り入れます。床のしつらいが整えられ、客が再び席に着くと、亭主は外へ出て窓に掛けられたすだれを一つずつ順番に上げていきます。薄暗かった室内に光が少しずつ満ちていき、茶事の本番が始まるのです。光が差し込むことで、客は「いよいよメインの席が始まる」という高揚感を感じる演出でもあります。窓が生み出す深遠なひととき、光と影の彩りは、茶事全体の流れを象徴的に演出しています。